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売布
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売布、と書いて、めふ、と読む。
そこに全国的に珍しい公設民営方式の、宝塚唯一の映画館がある。
見逃した人気の映画を遅れて観れたり、いい意味でマイナーな映画を観れる特別なところ。
すみれ「途中で寝てたでしょ」
るる「悪い。すまんかった」
二人はシアターの入り口前にあるカフェでドリンクを頼んで、ガーデンテラスにて感想を語り合おうとしていた。
天気は生憎の曇り空だが、季節は春から夏へと歩んでいるので寒くはない。
すみれ「おさかなヘブン。いい映画でした」
るる「おい。こいつの魚への異常なこだわりなんやねん」
ほっけ「故郷の埼玉県が海なし県だからではないか?」
すみれ「失礼な!違います!」
るる「じゃあ何でまた、こんな昔の映画を観よう思ったんや」
すみれ「来年、歌劇でやる予定だからだよ」
るる「マジか」
すみれ「こりゃ行くしないっしょ」
るる「歌劇のチケットは取るの難しいぞ」
すみれ「きっと何とかなるよ」
ほっけ「わしが必ず何とかしてみせよう」
ひめ「私も、惜しみ無く協力します」
るる「いらんことせんでええて」
すみれ「一緒に行く気ないんだ」
るる「ない!」
すみれ「ふーん。寝ちゃったお詫びはしないんだ」
るる「は?せっこ、ずるい女や」
すみれ「じゃあ感想を聞かせてよ」
るる「魚達がクジラさんに丸飲みされたところは傑作やった」
すみれ「冒頭じゃん。しかも感想が残酷」
るる「確か、クジラさんのお腹ん中に今まで食べられた魚達が作った都市があったやろ」
すみれ「そう。クジラさんのお腹の中でも楽しんで生きていこうと決めて、ミュージカルの町が出来たんだよ」
るる「おとなしく消化されろや」
すみれ「うわーつまんない大人」
るる「せや。大人やから子供向け映画は退屈なんや」
すみれ「大人でも面白かったもん」
るる「分かった。家で見直す」
すみれ「あーあ、もったいない。映画館だからこその臨場感があったのに。だから、わざわざここに観に来たのに」
るる「いや劇場めちゃめちゃ小さくて狭かったやん。臨場感も何も」
すみれ「あーりーまーしーた」
るる「あったわ。クジラさんの迫力ヤバかった。音楽の緊迫感も凄かった」
すみれ「でしょ」
るる「最後の方は起きてたで。みんなの盛り上がりがクジラさんに伝わって、主人公達が潮吹きで脱出するところ」
すみれ「お、いいところ。バックの月が綺麗で印象的なワンシーンだったね」
るる「でも、あえて中に残る魚達もおったな。何でやろ」
すみれ「それは例えば、故郷で生きたい人と、移住先で生きたい人の違いみたいなものじゃない?」
るる「なるほどな」
すみれ「そっか!だからタイトルがおさかなヘブンなんだ!」
るる「どうゆうことやねん」
すみれ「本人が幸せだと思うなら、どこだって天国なんだよ!」
るる「あーそういうベタな」
すみれ「うわー冷めてる」
るる「私は共感できへんな」
すみれ「何でよ」
るる「私にとっては、中も外もどこでも地獄やからや」
すみれ「私とは、やっぱり正反対だね」
るる「人間そんなもんやろ」
すみれ「なんかごめんね。無理矢理、映画に付き合わせて」
るる「いつものことや。今さら気にすんな」
すみれ「でも、自分の気持ちを押し付けたり、それで相手に嫌な思いをしてほしくないから」
るる「嫌な思いはしてへんよ。ほんまに嫌やったら来てへん。心配すんな」
すみれ「そう。なら良かったけど」
ほっけ「菫は小説を執筆するときも、常にその想いで挑んでおったな」
すみれ「うん。気持ちは大切にしたいから」
るる「ええ子ちゃんやな。そら、敵いっぱい作るわ」
すみれ「えー、いい子なのが原因なの?実は私が勝手だったってこと?」
るる「かもな。お前が良かれと思ってやってたことが、相手にとっては気に食わんかったかも知れん」
すみれ「人の気持ちって難しいなあ。正解が分かんないや」
るる「誰もそうや。だからこそ面白いんとちゃうの?」
すみれ「うーん。かもね」
薄日が雲海から溢れて俯いていた花が顔を上げる。
菫は席を立って、るるの手を強く引いた。
すみれ「もう一回観よう!」
るる「すまん無理。それは迷惑や」
すみれ「えーじゃあ、売布神社に散歩に行きますか」
るるは拒否の意志を示すように菫の手を、さっと振り払う。
るる「宝塚は寺と神社ばっかりやな」
すみれ「そだよ。売布神社の神様は衣、食、財の」
るる「住ちゃうんかい」
すみれ「しっ。そしてだよ」
るる「はよ」
すみれ「縁結びの神様でもあるのです」
るる「きっしょ」
すみれ「罰当たるよ!」
るる「お前のことや。何を願いに行くつもりやねん」
すみれ「るるちゃんとの縁結びの固結び」
るる「ほらみろひくわー」
すみれ「ちょうちょ結びがいい?」
るる「しょうもないこと言うな。人の気持ち考えろ。あほ」
すみれ「そこにいる龍神様はパワースポットらしいから、しっかりあやかろうね」
るる「お前こそ罰当たるぞ。そんな強欲やったら」
すみれ「当たんないよーだ。私は、るるちゃんみたいに悪いこと考えないもん」
菫は強引にるるの手を引いて立ち上がらせた。
そしてしおらしく、るるの胸に両手を置いておでこを当てる。
すみれ「るるちゃんの為に……行くんだからね」
間を置いて、るるは菫を突き飛ばすとズカズカと歩き出した。
その背中を菫は嬉しそうに追いかけて飛びつく。
直後にお腹を突いた肘は痛くない。
そこに全国的に珍しい公設民営方式の、宝塚唯一の映画館がある。
見逃した人気の映画を遅れて観れたり、いい意味でマイナーな映画を観れる特別なところ。
すみれ「途中で寝てたでしょ」
るる「悪い。すまんかった」
二人はシアターの入り口前にあるカフェでドリンクを頼んで、ガーデンテラスにて感想を語り合おうとしていた。
天気は生憎の曇り空だが、季節は春から夏へと歩んでいるので寒くはない。
すみれ「おさかなヘブン。いい映画でした」
るる「おい。こいつの魚への異常なこだわりなんやねん」
ほっけ「故郷の埼玉県が海なし県だからではないか?」
すみれ「失礼な!違います!」
るる「じゃあ何でまた、こんな昔の映画を観よう思ったんや」
すみれ「来年、歌劇でやる予定だからだよ」
るる「マジか」
すみれ「こりゃ行くしないっしょ」
るる「歌劇のチケットは取るの難しいぞ」
すみれ「きっと何とかなるよ」
ほっけ「わしが必ず何とかしてみせよう」
ひめ「私も、惜しみ無く協力します」
るる「いらんことせんでええて」
すみれ「一緒に行く気ないんだ」
るる「ない!」
すみれ「ふーん。寝ちゃったお詫びはしないんだ」
るる「は?せっこ、ずるい女や」
すみれ「じゃあ感想を聞かせてよ」
るる「魚達がクジラさんに丸飲みされたところは傑作やった」
すみれ「冒頭じゃん。しかも感想が残酷」
るる「確か、クジラさんのお腹ん中に今まで食べられた魚達が作った都市があったやろ」
すみれ「そう。クジラさんのお腹の中でも楽しんで生きていこうと決めて、ミュージカルの町が出来たんだよ」
るる「おとなしく消化されろや」
すみれ「うわーつまんない大人」
るる「せや。大人やから子供向け映画は退屈なんや」
すみれ「大人でも面白かったもん」
るる「分かった。家で見直す」
すみれ「あーあ、もったいない。映画館だからこその臨場感があったのに。だから、わざわざここに観に来たのに」
るる「いや劇場めちゃめちゃ小さくて狭かったやん。臨場感も何も」
すみれ「あーりーまーしーた」
るる「あったわ。クジラさんの迫力ヤバかった。音楽の緊迫感も凄かった」
すみれ「でしょ」
るる「最後の方は起きてたで。みんなの盛り上がりがクジラさんに伝わって、主人公達が潮吹きで脱出するところ」
すみれ「お、いいところ。バックの月が綺麗で印象的なワンシーンだったね」
るる「でも、あえて中に残る魚達もおったな。何でやろ」
すみれ「それは例えば、故郷で生きたい人と、移住先で生きたい人の違いみたいなものじゃない?」
るる「なるほどな」
すみれ「そっか!だからタイトルがおさかなヘブンなんだ!」
るる「どうゆうことやねん」
すみれ「本人が幸せだと思うなら、どこだって天国なんだよ!」
るる「あーそういうベタな」
すみれ「うわー冷めてる」
るる「私は共感できへんな」
すみれ「何でよ」
るる「私にとっては、中も外もどこでも地獄やからや」
すみれ「私とは、やっぱり正反対だね」
るる「人間そんなもんやろ」
すみれ「なんかごめんね。無理矢理、映画に付き合わせて」
るる「いつものことや。今さら気にすんな」
すみれ「でも、自分の気持ちを押し付けたり、それで相手に嫌な思いをしてほしくないから」
るる「嫌な思いはしてへんよ。ほんまに嫌やったら来てへん。心配すんな」
すみれ「そう。なら良かったけど」
ほっけ「菫は小説を執筆するときも、常にその想いで挑んでおったな」
すみれ「うん。気持ちは大切にしたいから」
るる「ええ子ちゃんやな。そら、敵いっぱい作るわ」
すみれ「えー、いい子なのが原因なの?実は私が勝手だったってこと?」
るる「かもな。お前が良かれと思ってやってたことが、相手にとっては気に食わんかったかも知れん」
すみれ「人の気持ちって難しいなあ。正解が分かんないや」
るる「誰もそうや。だからこそ面白いんとちゃうの?」
すみれ「うーん。かもね」
薄日が雲海から溢れて俯いていた花が顔を上げる。
菫は席を立って、るるの手を強く引いた。
すみれ「もう一回観よう!」
るる「すまん無理。それは迷惑や」
すみれ「えーじゃあ、売布神社に散歩に行きますか」
るるは拒否の意志を示すように菫の手を、さっと振り払う。
るる「宝塚は寺と神社ばっかりやな」
すみれ「そだよ。売布神社の神様は衣、食、財の」
るる「住ちゃうんかい」
すみれ「しっ。そしてだよ」
るる「はよ」
すみれ「縁結びの神様でもあるのです」
るる「きっしょ」
すみれ「罰当たるよ!」
るる「お前のことや。何を願いに行くつもりやねん」
すみれ「るるちゃんとの縁結びの固結び」
るる「ほらみろひくわー」
すみれ「ちょうちょ結びがいい?」
るる「しょうもないこと言うな。人の気持ち考えろ。あほ」
すみれ「そこにいる龍神様はパワースポットらしいから、しっかりあやかろうね」
るる「お前こそ罰当たるぞ。そんな強欲やったら」
すみれ「当たんないよーだ。私は、るるちゃんみたいに悪いこと考えないもん」
菫は強引にるるの手を引いて立ち上がらせた。
そしてしおらしく、るるの胸に両手を置いておでこを当てる。
すみれ「るるちゃんの為に……行くんだからね」
間を置いて、るるは菫を突き飛ばすとズカズカと歩き出した。
その背中を菫は嬉しそうに追いかけて飛びつく。
直後にお腹を突いた肘は痛くない。
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