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宝塚ファミリーランド
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すみれ「先にどっち行く?」
るる「お前が決めてええ」
すみれ「じゃあ動物園に、や待てよ。先に乗り物に。うーん」
るる「ほっけ、何かアドバイスしたれや」
ほっけ「午前十時十六分をお知らせ致します」
るる「おちょくっとんか?」
ひめ「ここから近いですし、目的のホワイトライオンを先にご覧になっては?」
すみれ「そうだね。じゃ、ホワイトライオンさんから」
ここ宝塚にあるファミリーランドは動物園と植物園、そして遊園地が一体になっている。
入ってすぐに動物達が迎えてくれ、左に動物園、右に遊園地がある。
すみれ「よし。急流滑りだ」
るる「おい。ホワイトライオンそこおるぞ」
すみれ「これに乗ろうよー」
るる「見てみ。ずぶ濡れなるで」
すみれ「別にいいじゃん」
るる「一発目にびちょびちょになって歩き回るつもりか?」
すみれ「じゃあ帰りね」
るる「それでええ」
ちょいと歩く。
ホワイトライオンは右側に、向かい合ってホワイトタイガーが展示されていた。
人々が寄り集まってその美しさに目を奪われている。
小柄な菫はその中に潜り込んだ。
るるがふと見上げると、大歓迎の記念に、有名な漫画家の作品に登場するホワイトライオンの子供が描かれた横断幕が飾られていた。
すみれ「人いっぱいだね」
るる「見たなら行くぞ」
すみれ「もう!?」
るる「うん。もうええやろ」
すみれ「ワクワクしないの?」
るる「まあまあやな」
すみれ「るるちゃんは、ホワイトライオンさんとホワイトタイガーさん、どっちが好き?」
るる「虎さんやな」
すみれ「私はどっちも」
るる「何やねんそれ腹立つわ」
それから動物園を満喫して、お昼を食べてから遊園地を楽しむことにした。
すみれ「帰りにもう一回ヒヨコさんもふもふしない?」
るる「しない」
すみれ「ええー」
はじめにジェットコースターに乗ることに菫が決めた。
なのに、人の列が前に進むたび、彼女はソワソワと落ち着きをなくしていく。
ついには魂の抜けた様である。
すみれ「ファミリーランドは冬にスケートが出来るんだって」
るる「何やびびっとんけ」
すみれ「昔は宝塚映像の、おっきい映画スタジオがあったんだって」
るる「恐いんやったらやめとけよ」
すみれ「恐くないもん!」
やがてビークルの真ん中に収まると、菫はとうとうだんまりでピクリとも動かなくなった。
顔色が真っ青なのを見て、るるは呆れて溜め息を吐く。
るる「手え握ったろか?」
すみれ「ふみゃあ!」
るる「動き出しただけや」
すみれ「ワクワクするね」
るる「嘘つけ。私の手が今にも握り潰されそうやぞ」
すみれ「ごめん……ねえー!!」
ジェットコースターの名に恥じぬ本気のスピードでビークルが遊園地の上空を駆け巡る。
菫の悲鳴は最後まで絶えることがなかった。
すみれ「あはは!楽しかったね!」
るる「楽しないわ!」
すみれ「どうしてー。スリル満点で良かったじゃん」
るる「お前の握力がゴリラやったからや」
すみれ「むう。失礼な」
続けて、るるの忠告も聞かずに菫はオバケ屋敷に突入して、またもや悲鳴をあげることになった。
そして、るるは手だけでなく腕にもダメージを負うことになった。
るる「あーもう嫌や!」
すみれ「ごめんね」
るる「お前とおったら体ボロボロのバッキバキになるわ」
すみれ「でも……楽しいでしょ?」
るる「全然。あ、あれ乗ろうや」
クレイジーダック。
丸いゴムボートに乗って激流を楽しむアトラクションである。
通路を進んだ先の乗り場は丸い木の床で出来ていて、それはゆっくりと回転していた。
それよりもゴムボートはもっと激しく回転した。
二人は目が回るほど、気ままな激流に右に左に弄ばれた。
すみれ「まさにクレイジーだったね」
るる「濡れるとは思わんかった」
すみれ「見て分かるでしょ」
るる「まええわ」
すみれ「次はー」
途中で植物園を挟み、次から次へとアトラクションを忙しく巡る。
いつも不機嫌なるるも少し上機嫌になっていた。
るる「思ったんやけど」
すみれ「何?」
るる「レベル低ない?」
すみれ「また文句言う」
るる「いや、優しい子供向けのアトラクション多いなて」
すみれ「それは、ファミリー、ランドだからじゃない?」
るる「あーそういうことか」
すみれ「知らないけど」
るる「知らんのかい。そこは調べてへんのかい」
すみれ「ま、楽しけりゃ何でもいいじゃん」
るる「まあ、せやな」
日が沈みかける頃に二人はメリーゴーラウンドに乗った。
るるは嫌がったけど菫が背中を押して強引に乗せた。
馬ではなく屋根のない馬車に並んで座った。
るる「これは流石にないわ。恥ずかしい」
すみれ「私達、小柄で見た目が子供みたいだから誰も気にしないと思うよ」
るる「それ自分で言ってて虚しないんか」
すみれ「それより次は観覧車ね」
るる「もう帰ろうや」
すみれ「まだ急流滑りも残ってるよ」
るる「えーしんどい」
すみれ「それが楽しいんだよ。くたくたに遊び疲れるのがね」
るる「ないわー」
すみれ「私ね。遊園地に来るのは久し振りなんだ。小学生の時に家族でランドに行ったっきりで」
るる「東京言うて千葉のランドな」
すみれ「泊まり掛けで行ったんだよ」
るる「私も同じ、最後は小学生の頃やな。ランドに泊まり掛けで行ったわ」
すみれ「ユーエスジェーじゃないの?」
るる「あー、高二ん時に友達とユニバ行ったな」
すみれ「ユーエスジェーじゃないの?」
るる「ユニバな。ま、別に何でもええ」
すみれ「ふーん。そっか」
るる「お前ずっと、ぼっちやったんか」
すみれ「まーね。控えめな性格だから」
るる「どこがやねん。犬より元気で人懐っこいやないか」
すみれ「昔はそれで嫌なことがあったんだよ」
るる「ははーん。ウザがられたんやろ」
すみれ「まーそういう感じ?」
るる「いまは気にせんでええ」
すみれ「うん。あんがと」
るる「やっぱ気にして。いつもウザくてしゃーないから」
すみれ「次、くるくる回るカップに乗ろうよ」
るる「それだけは嫌や乗りたくない」
くるくる回るカップとくるくる回る観覧車を乗り継いで、いよいよ最後に急流滑りに乗った。
すみれ「お猿さんの展示を後ろから見られるんだ、おもしろーい」
るる「呑気に言うとる場合か。もうそろそろ落ちるぞ」
すみれ「じゃあ……手、繋ごう?」
菫は頬をほんのり染めて上目遣いで言う。
るるは差し出された手を叩いて断った。
るる「潔く落ちろ」
るるに意地悪された菫はビニールカバーを独り占めして、そのせいでるるは水を大袈裟に被り、口喧嘩になって、帰り道は菫がるるの影を追う形で歩くことになった。
宝塚南口の駅前まで来て、いよいよ菫は勇気を出して影に呼び掛けてみた。
すみれ「るるちゃん」
るる「なんや」
すみれ「また、来ようね」
返事はなかったけれど、影は並んだ。
信号が赤になって立ち止まる。
菫は少しだけ身を寄せた。
るる「南口の近くに桜の名所があるんやっけ」
すみれ「桜のトンネルね。地元の人でも知らない人が多い知る人ぞ知る宝塚南口の春の名所だよ」
るる「それを何で他所者のお前が知っとんねん」
すみれ「宝塚のこと調べてた時に偶然に」
るる「夜が綺麗なんやろ」
すみれ「うん。ちょうど日が暮れるね」
るる「帰ろ」
すみれ「えー!そこは行く流れじゃないの!」
るるの歩くスピードが突然に速くなる。
菫は慌てて追いついて、るるの腕を掴んだ。
るる「置いてくで」
すみれ「ほんと意地悪なんだから」
レンガ造りの交番の赤い瓦屋根。
その舞台で天使がラッパを吹いてくるっと回った。
るる「お前が決めてええ」
すみれ「じゃあ動物園に、や待てよ。先に乗り物に。うーん」
るる「ほっけ、何かアドバイスしたれや」
ほっけ「午前十時十六分をお知らせ致します」
るる「おちょくっとんか?」
ひめ「ここから近いですし、目的のホワイトライオンを先にご覧になっては?」
すみれ「そうだね。じゃ、ホワイトライオンさんから」
ここ宝塚にあるファミリーランドは動物園と植物園、そして遊園地が一体になっている。
入ってすぐに動物達が迎えてくれ、左に動物園、右に遊園地がある。
すみれ「よし。急流滑りだ」
るる「おい。ホワイトライオンそこおるぞ」
すみれ「これに乗ろうよー」
るる「見てみ。ずぶ濡れなるで」
すみれ「別にいいじゃん」
るる「一発目にびちょびちょになって歩き回るつもりか?」
すみれ「じゃあ帰りね」
るる「それでええ」
ちょいと歩く。
ホワイトライオンは右側に、向かい合ってホワイトタイガーが展示されていた。
人々が寄り集まってその美しさに目を奪われている。
小柄な菫はその中に潜り込んだ。
るるがふと見上げると、大歓迎の記念に、有名な漫画家の作品に登場するホワイトライオンの子供が描かれた横断幕が飾られていた。
すみれ「人いっぱいだね」
るる「見たなら行くぞ」
すみれ「もう!?」
るる「うん。もうええやろ」
すみれ「ワクワクしないの?」
るる「まあまあやな」
すみれ「るるちゃんは、ホワイトライオンさんとホワイトタイガーさん、どっちが好き?」
るる「虎さんやな」
すみれ「私はどっちも」
るる「何やねんそれ腹立つわ」
それから動物園を満喫して、お昼を食べてから遊園地を楽しむことにした。
すみれ「帰りにもう一回ヒヨコさんもふもふしない?」
るる「しない」
すみれ「ええー」
はじめにジェットコースターに乗ることに菫が決めた。
なのに、人の列が前に進むたび、彼女はソワソワと落ち着きをなくしていく。
ついには魂の抜けた様である。
すみれ「ファミリーランドは冬にスケートが出来るんだって」
るる「何やびびっとんけ」
すみれ「昔は宝塚映像の、おっきい映画スタジオがあったんだって」
るる「恐いんやったらやめとけよ」
すみれ「恐くないもん!」
やがてビークルの真ん中に収まると、菫はとうとうだんまりでピクリとも動かなくなった。
顔色が真っ青なのを見て、るるは呆れて溜め息を吐く。
るる「手え握ったろか?」
すみれ「ふみゃあ!」
るる「動き出しただけや」
すみれ「ワクワクするね」
るる「嘘つけ。私の手が今にも握り潰されそうやぞ」
すみれ「ごめん……ねえー!!」
ジェットコースターの名に恥じぬ本気のスピードでビークルが遊園地の上空を駆け巡る。
菫の悲鳴は最後まで絶えることがなかった。
すみれ「あはは!楽しかったね!」
るる「楽しないわ!」
すみれ「どうしてー。スリル満点で良かったじゃん」
るる「お前の握力がゴリラやったからや」
すみれ「むう。失礼な」
続けて、るるの忠告も聞かずに菫はオバケ屋敷に突入して、またもや悲鳴をあげることになった。
そして、るるは手だけでなく腕にもダメージを負うことになった。
るる「あーもう嫌や!」
すみれ「ごめんね」
るる「お前とおったら体ボロボロのバッキバキになるわ」
すみれ「でも……楽しいでしょ?」
るる「全然。あ、あれ乗ろうや」
クレイジーダック。
丸いゴムボートに乗って激流を楽しむアトラクションである。
通路を進んだ先の乗り場は丸い木の床で出来ていて、それはゆっくりと回転していた。
それよりもゴムボートはもっと激しく回転した。
二人は目が回るほど、気ままな激流に右に左に弄ばれた。
すみれ「まさにクレイジーだったね」
るる「濡れるとは思わんかった」
すみれ「見て分かるでしょ」
るる「まええわ」
すみれ「次はー」
途中で植物園を挟み、次から次へとアトラクションを忙しく巡る。
いつも不機嫌なるるも少し上機嫌になっていた。
るる「思ったんやけど」
すみれ「何?」
るる「レベル低ない?」
すみれ「また文句言う」
るる「いや、優しい子供向けのアトラクション多いなて」
すみれ「それは、ファミリー、ランドだからじゃない?」
るる「あーそういうことか」
すみれ「知らないけど」
るる「知らんのかい。そこは調べてへんのかい」
すみれ「ま、楽しけりゃ何でもいいじゃん」
るる「まあ、せやな」
日が沈みかける頃に二人はメリーゴーラウンドに乗った。
るるは嫌がったけど菫が背中を押して強引に乗せた。
馬ではなく屋根のない馬車に並んで座った。
るる「これは流石にないわ。恥ずかしい」
すみれ「私達、小柄で見た目が子供みたいだから誰も気にしないと思うよ」
るる「それ自分で言ってて虚しないんか」
すみれ「それより次は観覧車ね」
るる「もう帰ろうや」
すみれ「まだ急流滑りも残ってるよ」
るる「えーしんどい」
すみれ「それが楽しいんだよ。くたくたに遊び疲れるのがね」
るる「ないわー」
すみれ「私ね。遊園地に来るのは久し振りなんだ。小学生の時に家族でランドに行ったっきりで」
るる「東京言うて千葉のランドな」
すみれ「泊まり掛けで行ったんだよ」
るる「私も同じ、最後は小学生の頃やな。ランドに泊まり掛けで行ったわ」
すみれ「ユーエスジェーじゃないの?」
るる「あー、高二ん時に友達とユニバ行ったな」
すみれ「ユーエスジェーじゃないの?」
るる「ユニバな。ま、別に何でもええ」
すみれ「ふーん。そっか」
るる「お前ずっと、ぼっちやったんか」
すみれ「まーね。控えめな性格だから」
るる「どこがやねん。犬より元気で人懐っこいやないか」
すみれ「昔はそれで嫌なことがあったんだよ」
るる「ははーん。ウザがられたんやろ」
すみれ「まーそういう感じ?」
るる「いまは気にせんでええ」
すみれ「うん。あんがと」
るる「やっぱ気にして。いつもウザくてしゃーないから」
すみれ「次、くるくる回るカップに乗ろうよ」
るる「それだけは嫌や乗りたくない」
くるくる回るカップとくるくる回る観覧車を乗り継いで、いよいよ最後に急流滑りに乗った。
すみれ「お猿さんの展示を後ろから見られるんだ、おもしろーい」
るる「呑気に言うとる場合か。もうそろそろ落ちるぞ」
すみれ「じゃあ……手、繋ごう?」
菫は頬をほんのり染めて上目遣いで言う。
るるは差し出された手を叩いて断った。
るる「潔く落ちろ」
るるに意地悪された菫はビニールカバーを独り占めして、そのせいでるるは水を大袈裟に被り、口喧嘩になって、帰り道は菫がるるの影を追う形で歩くことになった。
宝塚南口の駅前まで来て、いよいよ菫は勇気を出して影に呼び掛けてみた。
すみれ「るるちゃん」
るる「なんや」
すみれ「また、来ようね」
返事はなかったけれど、影は並んだ。
信号が赤になって立ち止まる。
菫は少しだけ身を寄せた。
るる「南口の近くに桜の名所があるんやっけ」
すみれ「桜のトンネルね。地元の人でも知らない人が多い知る人ぞ知る宝塚南口の春の名所だよ」
るる「それを何で他所者のお前が知っとんねん」
すみれ「宝塚のこと調べてた時に偶然に」
るる「夜が綺麗なんやろ」
すみれ「うん。ちょうど日が暮れるね」
るる「帰ろ」
すみれ「えー!そこは行く流れじゃないの!」
るるの歩くスピードが突然に速くなる。
菫は慌てて追いついて、るるの腕を掴んだ。
るる「置いてくで」
すみれ「ほんと意地悪なんだから」
レンガ造りの交番の赤い瓦屋根。
その舞台で天使がラッパを吹いてくるっと回った。
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