すみれの花笑む春

旭ガ丘ひつじ

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さんぽ

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あれから一週間が経過した。
今日は日曜日、天晴れお出かけ日和。

すみれ「今日こそお出掛けしよう」

るる「嫌やて昨日も言うたやろ」

すみれ「何でよー」

菫はゲームをして遊ぶ彼女の体を大きく揺すって抗議する。
彼女はそれに対してわざとらしく強く舌打ちして、さらにねちっこい発音で拒絶を示す。

るる「ほんっまひつっこいやっちゃなあ」

すみれ「しつこくないもん。るるちゃんすぐ怒鳴って怖いから、ちゃんと間を置いて提案してるよ」

るる「よう本人前にしてそれ言うたな。じぶん案外、度胸あるやろ」

すみれ「えへへーそっかなー」

るる「褒めてへんわ、あほ」

すみれ「宝塚はね。春が一番きれいなんだよ」

るる「どこもそうや」

すみれ「あちこちにお花が咲いて桜の見所なんて全部だよ」

るる「どこもそうや」

すみれ「すぐそこだからー行こうよー」

るる「うっとうしいからええかげんにせえ!揺するな!子供みたいに駄々こねるな!」

すみれ「今日はお弁当も作ったのに」

るる「家で食やいい」

すみれ「外がいい」

るる「ベランダ出ろ」

すみれ「むうー」

るる「ほっぺ膨らましたり、ほんまガキやな」

ほっけ「成人しても悪事を重ねるお前さんが他人に言えることか?他人に世話してもらってまるで赤ん坊みたいじゃぞ」

るる「なんやとこら魚面ババア」

ほっけ「誰が魚面ババアじゃ!よく見ろ!」

すみれ「そうだよ全然違うから!ほっけさんは白髪さらふわジト目のじゃロリロリババアという完璧な存在なんだから!」

るる「日本語しゃべれや。早口でオタク用語並べてきしょいねん」

ほっけ「小娘ー!」

るる「あーるっさい」

ほっけ「嫌なら出て行け!」

るる「お前がな」

ほっけ「こいつー……!」

すみれ「ほっけさん、もう怒らなくていいよ」

ほっけ「ん、すまぬ。菫は揉め事が嫌いじゃったの」

すみれ「性格悪い人は他人の話なんて聞かないから何言ってもどうしようもないよ」

るる「ちょ待てこらおい」

すみれ「ねえ。本当に行かないの?」

るる「だから行かへんて昨日から何べんも言うてるやろ」

すみれ「天気いいよ。陽に当たらないと不健康になるよ」

るる「なるわけないやろ」

すみれ「はあ……桜の下でお団子食べたかったなあ」

るる「は?」

すみれ「この季節だけお団子屋さん?お茶屋さん?がオープンするの。そこでお団子を買って桜の下で食べたいなーとは思うんだけど、一人だから恥ずかしくて去年は諦めちゃった」

るる「……しゃあないな」

すみれ「ん?」

るる「行くぞ」

すみれ「行くの?」

るる「花より団子や。うまい団子食わせろよ」

すみれ「……うん!!」

ぽかぽか陽気のもと二人は並んで歩き、歌劇場へ続く花道へとやって来た。
花を見に来た恋人、歌劇を観に来たマダム、遊園地に遊びに来た家族など色々の彩りで賑わっていた。
一本道には商店が並び、その名の通り端から端まで花が咲き溢れている。
二人はお洒落な歩道橋に上がって、陽光を受けて淡く輝く桜を見渡す。

すみれ「きれいだねー」

るる「せやな」

すみれ「ん?」

るる「なに?」

すみれ「んー?」

菫は目を擦って再確認する。
るるの肩にデフォルメされたキャラクターのアバターが乗っている。
ティアラを頭に飾り白いドレスを纏った桃色の髪のお姫様。

るる「だから何やねん」

すみれ「るるちゃんの肩にアバターが乗ってるよ」

るる「私のアバターや。うるさいほっけの相手させようと思ってな」

ほっけ「誰がうるさいじゃ」

ほっけさんは菫の頭に現れた。

るる「出たな妖怪山姥」

ほっけ「小娘ー!」

るる「姫。うるさいから相手したって」

ひめ「分かりました」

お姫様は上品に可愛らしく跳ねて、すみれの肩に跳び移った。

ひめ「失礼します」

すみれ「うん。いいよ」

ほっけ「小娘と違って礼儀正しい姫様じゃ」

すみれ「私にオタクとか言って、るるちゃんもこういうの好きなんじゃん」

るる「一緒にすな。姫は子供の時に、おかんが私の面倒見させるために作ったアバターや」

るるは階段を乱暴に下りる。
菫は上機嫌に後に続いた。

すみれ「へえ。じゃあ、長い付き合いなんだ」

るる「せやな」

ひめ「留衣ちゃんがお世話になっております」

すみれ「いえいえどういたしまして」

るる「姫、余計なこと言うな」

ひめ「ごめんなさい」

るる「ち、さっきからみんなジロジロ見よるな」

るるは周囲にガンを飛ばして愚痴る。
威圧された人々は不快な顔をして、二人から距離を取って通り過ぎていく。

るる「帰るぞ」

すみれ「だめだよ!まだお団子食べてないでしょ」

るる「ジロジロ見られて気分悪い」

すみれ「そ、それは……」

ほっけ「お前さんが悪人だからじゃ」

るる「はん、いちいち言われんでも分かっとるわ。だから大人しく帰ったる言うとんねん」

すみれ「私は気にしないよ」

るる「お前のことは知らん」

すみれ「るるちゃんも気にしないで」

るる「はあ……そう言われてもやな」

すみれ「ほらよく見てよ。上にも下にも、綺麗なお花がたくさん咲いてるよ」

るる「それが何やねん」

すみれ「人の目なんか気にしないで。せっかくだから綺麗なお花を楽しもう、ね」

るる「お前はポジティブなやっちゃな。でも私はお前とは違うねん」

すみれ「分かってるよ」

るる「それに私は現実主義なんや。お前みたいな夢見る乙女とは訳ちゃう」

すみれ「難しいこと考えるね。私は、ただ嫌なことは気にしないで楽しもうって言ってるの」

るる「楽しくない」

すみれ「じゃ、楽しませてあげる」

菫はるるの手を引いて歩き出す。
るるが振りほどこうとしても絶対に離しはしない。

るる「離せや恥ずかしい」

すみれ「やだ。逃げるかも知れないもん」

るる「逃げへんから」

すみれ「だーめ。お団子のところまでは繋ぎます」

るる「おいほっけ。こいつは昔から頑固なんか」

ほっけ「さあの」

すみれ「ほっけさんと出会ったのは高校生の時だよ」

るる「親がアバターを側に置いてくれんかったタイプか」

すみれ「というか……私が自分で断った」

菫は困った顔を俯いて隠した。
言いたくない過去があることくらい、るるも簡単に察した。

るる「お前が可哀想な奴やっていうのは何となく分かった」

すみれ「む、失礼な」

るる「おい終わったぞ。花のみち」

すみれ「そうだね」

るる「それより団子は?」

すみれ「もっと向こうだよ」

るる「このあほ。先言えや」

すみれ「帰さないから」

るるは横断歩道の向こうにある有名漫画家の記念館を見つめる。
エントランス前にある火の鳥の銅像が力強く翼を広げている。

るる「翼がほしい」

そのぼやきに菫はくすっと笑う。

すみれ「るるちゃんもボケるんだね。さすが関西人」

るる「みんながそうや思うなよ。舐めとんか、ばかにしよんかどっちや」

すみれ「怒らないで。そんなつもりはないから」

るる「お前は余所者か」

すみれ「うん。埼玉から来ました」

るる「ふーん。私も同じや」

すみれ「え!埼玉出身!?」

るる「あほ。私は大阪出身」

すみれ「そうなんだ。じゃあ、こうして宝塚で出会ったのは運命だね」

るる「きっしょ。次そんなん言うたらしばくからな」

すみれ「恐いこと言わないでよう……」
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