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❁チシャノラプンツェルはお姫様

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これは後日談ではなく、どたばたお泊まり会より、いつかのお話。
みんなでチトの家に集まって、今回はお勉強会。

チシャノというキャラクターは、グリム童話の『ラプンツェル』より生まれました。
ちなみにラプンツェルとは、チシャノという葉っぱのことです。


ฅ•ﻌ•ฅ


幼い頃より、チシャノラプンツェルの記憶に両親はおりませんでした。
微かな記憶のなかで、義理の母であるシュトレインという魔女は言いました。

「お前は捨て子で、それを嘆いた私が拾ってやったんだよ」 

チシャノは茨で守られた高い塔の上で、シュトレインと二人で暮らしています。
外に出るときは、いつもシュトレインが一緒で、彼女が一人になるのは、シュトレインが出掛けている間だけでした。

家には数少ない本がありました。
けれど、どれも様々な言語で書かれていて、それを読むことはとても難しいことでした。
なのでチシャノは、毎日毎日退屈していました。

外に出ることはいけません。
それが決まりでした。

「外には狼よりも恐ろしい人間で溢れているからね」

お前を守る為だから、どうか分かっておくれ。
そう言われてはチシャノも決まりを破るわけにはいきません。

そうしてしばらく、退屈が塔よりも高く積み上がったある日のことです。
一人の王子様が白馬に乗って現れました。
王子様が白馬に乗っているのです、どきどき。
チシャノは一目で、運命の相手だと確信しました。

二人にとって、僅かでも共に過ごした時間は、恋が愛に変わるのに十分でした。
それから二人は楽しい逢瀬を重ねます。

王子様は、いつだってチシャノのたどたどしい言動を笑顔で受け答え、季節が一巡りした頃に、共に外の世界へ飛び出すことを提案しました。
ところがそこへ、にわかにシュトレインが物陰より現れます。

シュトレインは王子様の弁解を聞くこともなく、恐ろしい呪文を唱え、王子様を言い知れない不安の沼に沈めると、高い塔の上から容赦なく突き落としました。
王子様は刺さった茨の痛みに悶絶し、悲痛の果てに馬を背負って去ってしまいました。

チシャノはさめざめと泣きました。
こんなにも辛い思いをしたのは初めてのことでした。
まるで、彼女の胸にも茨が刺さったようでした。

シュトレインはこの一件で反省したと、茨をほとんど取り除きましたが、それでもチシャノへの過保護は日に日に増しました。
ついには彼女が塔から出ることを禁じてしまいます。

こうして。
いよいよ耐えられなくなったチシャノは、月もない夜に逃げだします。
そして、さ迷いながら辿り着いた町でチトと出会い……。

チト「で、現在は自由なわけよね?」

チシャノ「だね。森のこともよく分かったよ」

カナリィ「私、王子様の事が気になります」

ロリニア「それって、とても心配で、それは好きだからで、だから是非会いたいってことで、つまり嫁ぎに行くってことだ」びっくりん

チシャノ「そっか」

チト「いや、どうしてそうなるのよ」じとー

カナリィ「あはは、ただ心配なだけですよ」

チシャノ「きっと大丈夫だね」

カナリィ「わかるのですか?」

チシャノ「王子様はとっても優しいんだね。みんなが王子様を大好きだってね、話してたしね、私には分かるんだよ」

カナリィ「王子様のこと、本当に、心より愛しているんですね」

チシャノ「ん……」てれてれ

ロリニア「会いに行けば?」

チシャノ「いいの。王子様はみんなの王子様だからね」

チト「あなたはいい子ちゃんね」

チシャノ「ん!」にこっ!

チト「はんっ。もったな……たんまりと財産があるのに……」ぶつぶつ

チシャノ「さ、そろそろ勉強しようね」

チシャノがそう言って、一冊の本を机に置くと同時に、チトはすっと椅子から立ち上がりました。

チト「私、オヤツ作るから適当にやって」

ロリニア「サボる気だ」じー

チト「ち、ちげえし!」

カナリィ「チト、お勉強もお菓子作りも一緒にしましょう」

チト「やだし」

カナリィ「教養は大切ですよ!」

カナリィの可愛らしくもムッとした顔を見て、チトは大きな溜め息を一つすると、わざとらしくげんなりしました。

チト「あーもうはいはい、分かりましたよ」

カナリィ「さ、まずはこのメルヘンを読みましょうか」

チト「メルヘンなんてクソくらえ!」

カナリィ「チト!」

チシャノ「メルヘンはいいよ!」

チト「そーですねー」てけとー

ロリニア「塔の上のお姫様だってさ」ぺら

カナリィ「あら、そのお話は気になりますね」むむっ 

チシャノ「ね」むむー

チト「くぁ……」ねむー

ロリニア先生による要約。

ロリニア「これって塔の上に閉じ込められた少女がいて、そこに勇敢な少年が現れて、その二人が悪い魔女を愛でやっつけたってことで、二人は森の生き物たちから祝福されて、それから王子様とお姫様になって、塔はお城になりましたって話だから、つまり、愛は大事で大切だってことだ」ずばりん

カナリィ「そういうことですね!ロリニア偉いです!」

ロリニア「そうなんだ」てれてれ

チシャノ「この言葉、お、オケツ?」

カナリィ「違います。花束と読むのですよ」くすくす

ロリニア「はっはっはっ!オケツだってさ!」けらけら

チト「もう……うるちゃい」ねむねむ

カナリィ「まあチトったら」

チシャノ「お勉強は終わりにして、オヤツにするんだね」

チシャノはチトを起こさないよう、静かに本を閉じて言いました。

チト「すぅ……すぅ……」

チシャノ「チトちゃんは寝かせてあげよう。ロリニアちゃんと、カナリィちゃんと三人で作ろうね」

カナリィ「はい、そうしましょう」

ロリニア「ねーねーチシャノー」

チシャノ「ん?」

ロリニア「君はお姫様になりたかったんだろう」

チシャノ「んー」

ロリニア「ワタクシは思う。王子様はここにいないけれど、チシャノはお姫様だ」

チシャノ「ん?」

カナリィ「そうですね。チシャノがお姫様であれば、きっといつか、また運命の王子様に出会えますよ」

チシャノ「そっか」

ロリニア「メルヘンのようにだ!」

チト「メルヘンなんてクソくらえ!!」ばしっ!

ロリニア「痛い!なにするんだ!」

チト「あ、ごめん。ふあーあ」ねむすぎー

ロリニア「チトはワタクシのことが嫌いなんだ。あ、ああ……!」ぷるぷる

チシャノ「そんなことないんだね」

チト「ね」

ロリニア「適当だあああああ!!」がんがん!

チシャノ「よしよし」なでなで

カナリィ「こんなに優しくて、やっぱりチシャノこそお姫様です」ふふっ

ロリニア「あー落ち着く」のほほん

チシャノ「んふふ、もう一人じゃないんだね」ぎゅ

ロリニアを柔らかく抱き締めるチシャノの表情は、幸せに満ちていましたとさ。
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