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都合のいいハッピーエンドなんてクソくらえ!

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カフェ「下に逃げるよ!」

二人は荷物を持ち、煙を掻き分けて、階段を急いで降りました。

ココ「うわっ!」

すると、一階はすでに火の海となっていました。

ココ「けほっけほっ!」

チト「すごい煙と熱……あちっ!」

戸口に移動しようにも、書物や棚が燃え、それが炎の壁となって立ちはだかり進むことができません。

カフェ「えげつないことを!」

ココ「こほっ、苦しい……」

チト「クソったれ!」

また、煙は黒く染まりはじめ、より視界を遮ろうとします。

カフェ「……仕様のない!」

カフェがおまじないを唱えると、炎と煙が左右に避けて、戸口まで道が出来上がりました。

カフェ「いい?外には待ち伏せがいるはず。絶対に立ち止まっちゃ駄目よ」

チト「けほっこほっ!」

カフェ「チト!」

チト「大丈夫。ココ、行けるね」

ココ「うん、もちろんさ」

二人は、力を振り絞って外へ飛び出しました。
外では、町の人達が、兵士達と激しく争っていました。

店長「いかぱすたあ!」

チト「構わず先に行けって……でも!」

おばん「二人には手を出ぐあああ!」

チト「おばさん!」

おばん「……この程度、かすり傷よ!」

店長とおばさんは、必死に兵士を掴んで離しません。
それに町の人の方が数多く、今のところは優勢です。

なので、それを見て安心したチトは、荷車を隠していた藁を払うと、荷車にココとカフェを乗せて、とにかく一心不乱に駆け出しました。

チト「はっ……はっ……」

カフェ「おまじないを」

チト「いい!自分の力で何とかする!」

やがて奥深い森に到着したチトは、力なく歩き、前屈みになりながら荷車を引きます。

カフェ「チト」

チト「…………」

いつからか降りだした雨の中、言葉を話すことなく、鉛のように重い足で、それでも荷車を引き続けます。
カフェがおまじないをかけようとすると、それは必ず制止しました。

カフェ「どうして頼らないの!」

チト「私は守るって決めたの。自分の力で、必ずココを守るって決めたの……」

チトは、それからもずっと、休むことも眠ることもなく歩き続けました。

朝が来て、ようやく雨が止んだ頃。
朝靄が包む湖畔に荷車を止めると、チトはココの頬に手を添えて、一言、声を掛けました。

チト「帰ろうね。必ず」

ココは、カフェが掛けた布にくるまれ、どうやら眠っているようです。
それを見て、またすぐに歩き出しました。
震える足で、前に前に。

チト「急がなきゃ……」

やがて夜になり、チトは深く暗い森の中で、ついに倒れてしまいました。

カフェ「チト!」とと!

チト「…………」

カフェ「しっかりなさい!」ゆさゆさ

チト「うるさい……」むすっ

チトが弱っていることが、カフェにはハッキリと分かりました。

カフェ「今、おまじないをかけてあげるからね」

チト「よして」

カフェ「こんな時にまで!どうして!」

チト「都合のいいハッピーエンドなんてクソくらえ」

カフェ「もう!あんたってば!」

チト「ただ、ココは助けてあげて」

カフェ「あんたも一緒よ」

チト「私はいいの」

カフェ「どっちか片方が死ぬなんて、あたしは嫌だ!」

チト「もう二度とかけないって言ったよね?」

カフェ「それはそうだけど、今そんなこと」

チト「あの日に決めたの。これからは、自分の力で何とかしていこうって」

カフェ「あんた……」

チト「でも……でも……!」ぐすっ

カフェ「…………」

チト「助けて……カフェ!」

チトは涙を流して、助けを乞いました。

カフェ「そうやって、最初から頼りなさいよ」なみだぬぐい

チト「やだし……」

カフェ「まったく、呆れるぐらい強情な子だね」

チト「うるさい!やっぱ助けるな!」

カフェ「はあ……」

チト「本当は羨ましかったの」ぐすっ

カフェ「え?」

チト「メルヘンの登場人物が、都合のいいハッピーエンドが」ぐしぐし

カフェ「そう」

チト「私も、メルヘンのように楽しく幸せになりたかった」

カフェはチトの胸に、そっと、頭を乗せました。
聞こえる小さな鼓動が、カフェの胸を強く締めつけます。

チト「だからね。お菓子の家を見つけて、魔女に出会った時は嬉しかったの。おまじないを見た時、私も使いたいと思った」

カフェ「うんうん」

チト「でも……」

カフェ「でも?」

チト「どうせ使えないだろうと思ったから、あなたを利用してやろうと考えた」

カフェ「ちょっと、あんたねえ……」

チト「いひひ!」くすくす

カフェ「こうしちゃる」ぺちぺち

チト「……ねえ、教えて」

カフェ「ん?」

チト「あなたの本当の名前は何?」

マーゴ「マーゴフェレーナ。マーゴよ」

チト「マーゴさん」

マーゴ「なあに?」

チト「私達を助けてください」

マーゴ「ええ。お安い御用よ」

チト「ありがとう!」にこっ!

マーゴ「!」

チト「みんなが魔女のことを忘れて、あなたが幸せになることを、私は何より願うわ」

マーゴ「チト……チト!」ぎゅ

チト「なあに?」ぎゅ

マーゴ「あたしからも、ありがとう!」

その言葉と同時に地面から、マーゴの想いと同じ、優しい光が溢れ出しました。
それは青い満月を目指して、蝶のようにひらひらと舞い上がりました。

マーゴ「あんた達のおかげで、あたしは、大切なものを取り戻した」

チト「大切なもの?」

マーゴ「人を想う気持ちよ」

チト「人を、想う気持ち……」

マーゴ「そう。あんたがココを愛するような、ココがあんたを慕うような。優しくて温かい、宝物のように大切なもの」

チト「それはあなたが、私達を助けてくれたり、守ってくれた、その想いも同じね」

マーゴ「もちろん。だってあたし、あんた達のこと、大好きなんだもの」

チト「私も大好き!取り戻せて、よかったね」

マーゴ「ええ。そのお礼として、あんた達を幸せにしてあげる」

チト「やった」

マーゴ「美味しいご馳走に囲まれて、かけがえのない人達と一緒に、楽しく一生を過ごせますようにってね」にこっ

チト「あら、ずいぶんと優しくなったのね」

マーゴ「あら、そういうあんたこそ」

二人は、仲良く一緒に笑いました。

マーゴ「さあ!一緒に唱えましょう!」

チト「うん!一緒に!」

そして口を揃えて、想いを重ねて、願いを込めて、幸せのおまじないを唱えます。


「グリムグリムゴボウノササガキカイパンイッチョウ」


そしたら。
満天の星が瞬き、満ちる温かな光が、ふわっと三人を抱きましたとさ。

めでたしめでたし!
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