31 / 37
都合のいいハッピーエンドなんてクソくらえ!
しおりを挟む
カフェ「下に逃げるよ!」
二人は荷物を持ち、煙を掻き分けて、階段を急いで降りました。
ココ「うわっ!」
すると、一階はすでに火の海となっていました。
ココ「けほっけほっ!」
チト「すごい煙と熱……あちっ!」
戸口に移動しようにも、書物や棚が燃え、それが炎の壁となって立ちはだかり進むことができません。
カフェ「えげつないことを!」
ココ「こほっ、苦しい……」
チト「クソったれ!」
また、煙は黒く染まりはじめ、より視界を遮ろうとします。
カフェ「……仕様のない!」
カフェがおまじないを唱えると、炎と煙が左右に避けて、戸口まで道が出来上がりました。
カフェ「いい?外には待ち伏せがいるはず。絶対に立ち止まっちゃ駄目よ」
チト「けほっこほっ!」
カフェ「チト!」
チト「大丈夫。ココ、行けるね」
ココ「うん、もちろんさ」
二人は、力を振り絞って外へ飛び出しました。
外では、町の人達が、兵士達と激しく争っていました。
店長「いかぱすたあ!」
チト「構わず先に行けって……でも!」
おばん「二人には手を出ぐあああ!」
チト「おばさん!」
おばん「……この程度、かすり傷よ!」
店長とおばさんは、必死に兵士を掴んで離しません。
それに町の人の方が数多く、今のところは優勢です。
なので、それを見て安心したチトは、荷車を隠していた藁を払うと、荷車にココとカフェを乗せて、とにかく一心不乱に駆け出しました。
チト「はっ……はっ……」
カフェ「おまじないを」
チト「いい!自分の力で何とかする!」
やがて奥深い森に到着したチトは、力なく歩き、前屈みになりながら荷車を引きます。
カフェ「チト」
チト「…………」
いつからか降りだした雨の中、言葉を話すことなく、鉛のように重い足で、それでも荷車を引き続けます。
カフェがおまじないをかけようとすると、それは必ず制止しました。
カフェ「どうして頼らないの!」
チト「私は守るって決めたの。自分の力で、必ずココを守るって決めたの……」
チトは、それからもずっと、休むことも眠ることもなく歩き続けました。
朝が来て、ようやく雨が止んだ頃。
朝靄が包む湖畔に荷車を止めると、チトはココの頬に手を添えて、一言、声を掛けました。
チト「帰ろうね。必ず」
ココは、カフェが掛けた布にくるまれ、どうやら眠っているようです。
それを見て、またすぐに歩き出しました。
震える足で、前に前に。
チト「急がなきゃ……」
やがて夜になり、チトは深く暗い森の中で、ついに倒れてしまいました。
カフェ「チト!」とと!
チト「…………」
カフェ「しっかりなさい!」ゆさゆさ
チト「うるさい……」むすっ
チトが弱っていることが、カフェにはハッキリと分かりました。
カフェ「今、おまじないをかけてあげるからね」
チト「よして」
カフェ「こんな時にまで!どうして!」
チト「都合のいいハッピーエンドなんてクソくらえ」
カフェ「もう!あんたってば!」
チト「ただ、ココは助けてあげて」
カフェ「あんたも一緒よ」
チト「私はいいの」
カフェ「どっちか片方が死ぬなんて、あたしは嫌だ!」
チト「もう二度とかけないって言ったよね?」
カフェ「それはそうだけど、今そんなこと」
チト「あの日に決めたの。これからは、自分の力で何とかしていこうって」
カフェ「あんた……」
チト「でも……でも……!」ぐすっ
カフェ「…………」
チト「助けて……カフェ!」
チトは涙を流して、助けを乞いました。
カフェ「そうやって、最初から頼りなさいよ」なみだぬぐい
チト「やだし……」
カフェ「まったく、呆れるぐらい強情な子だね」
チト「うるさい!やっぱ助けるな!」
カフェ「はあ……」
チト「本当は羨ましかったの」ぐすっ
カフェ「え?」
チト「メルヘンの登場人物が、都合のいいハッピーエンドが」ぐしぐし
カフェ「そう」
チト「私も、メルヘンのように楽しく幸せになりたかった」
カフェはチトの胸に、そっと、頭を乗せました。
聞こえる小さな鼓動が、カフェの胸を強く締めつけます。
チト「だからね。お菓子の家を見つけて、魔女に出会った時は嬉しかったの。おまじないを見た時、私も使いたいと思った」
カフェ「うんうん」
チト「でも……」
カフェ「でも?」
チト「どうせ使えないだろうと思ったから、あなたを利用してやろうと考えた」
カフェ「ちょっと、あんたねえ……」
チト「いひひ!」くすくす
カフェ「こうしちゃる」ぺちぺち
チト「……ねえ、教えて」
カフェ「ん?」
チト「あなたの本当の名前は何?」
マーゴ「マーゴフェレーナ。マーゴよ」
チト「マーゴさん」
マーゴ「なあに?」
チト「私達を助けてください」
マーゴ「ええ。お安い御用よ」
チト「ありがとう!」にこっ!
マーゴ「!」
チト「みんなが魔女のことを忘れて、あなたが幸せになることを、私は何より願うわ」
マーゴ「チト……チト!」ぎゅ
チト「なあに?」ぎゅ
マーゴ「あたしからも、ありがとう!」
その言葉と同時に地面から、マーゴの想いと同じ、優しい光が溢れ出しました。
それは青い満月を目指して、蝶のようにひらひらと舞い上がりました。
マーゴ「あんた達のおかげで、あたしは、大切なものを取り戻した」
チト「大切なもの?」
マーゴ「人を想う気持ちよ」
チト「人を、想う気持ち……」
マーゴ「そう。あんたがココを愛するような、ココがあんたを慕うような。優しくて温かい、宝物のように大切なもの」
チト「それはあなたが、私達を助けてくれたり、守ってくれた、その想いも同じね」
マーゴ「もちろん。だってあたし、あんた達のこと、大好きなんだもの」
チト「私も大好き!取り戻せて、よかったね」
マーゴ「ええ。そのお礼として、あんた達を幸せにしてあげる」
チト「やった」
マーゴ「美味しいご馳走に囲まれて、かけがえのない人達と一緒に、楽しく一生を過ごせますようにってね」にこっ
チト「あら、ずいぶんと優しくなったのね」
マーゴ「あら、そういうあんたこそ」
二人は、仲良く一緒に笑いました。
マーゴ「さあ!一緒に唱えましょう!」
チト「うん!一緒に!」
そして口を揃えて、想いを重ねて、願いを込めて、幸せのおまじないを唱えます。
「グリムグリムゴボウノササガキカイパンイッチョウ」
そしたら。
満天の星が瞬き、満ちる温かな光が、ふわっと三人を抱きましたとさ。
めでたしめでたし!
二人は荷物を持ち、煙を掻き分けて、階段を急いで降りました。
ココ「うわっ!」
すると、一階はすでに火の海となっていました。
ココ「けほっけほっ!」
チト「すごい煙と熱……あちっ!」
戸口に移動しようにも、書物や棚が燃え、それが炎の壁となって立ちはだかり進むことができません。
カフェ「えげつないことを!」
ココ「こほっ、苦しい……」
チト「クソったれ!」
また、煙は黒く染まりはじめ、より視界を遮ろうとします。
カフェ「……仕様のない!」
カフェがおまじないを唱えると、炎と煙が左右に避けて、戸口まで道が出来上がりました。
カフェ「いい?外には待ち伏せがいるはず。絶対に立ち止まっちゃ駄目よ」
チト「けほっこほっ!」
カフェ「チト!」
チト「大丈夫。ココ、行けるね」
ココ「うん、もちろんさ」
二人は、力を振り絞って外へ飛び出しました。
外では、町の人達が、兵士達と激しく争っていました。
店長「いかぱすたあ!」
チト「構わず先に行けって……でも!」
おばん「二人には手を出ぐあああ!」
チト「おばさん!」
おばん「……この程度、かすり傷よ!」
店長とおばさんは、必死に兵士を掴んで離しません。
それに町の人の方が数多く、今のところは優勢です。
なので、それを見て安心したチトは、荷車を隠していた藁を払うと、荷車にココとカフェを乗せて、とにかく一心不乱に駆け出しました。
チト「はっ……はっ……」
カフェ「おまじないを」
チト「いい!自分の力で何とかする!」
やがて奥深い森に到着したチトは、力なく歩き、前屈みになりながら荷車を引きます。
カフェ「チト」
チト「…………」
いつからか降りだした雨の中、言葉を話すことなく、鉛のように重い足で、それでも荷車を引き続けます。
カフェがおまじないをかけようとすると、それは必ず制止しました。
カフェ「どうして頼らないの!」
チト「私は守るって決めたの。自分の力で、必ずココを守るって決めたの……」
チトは、それからもずっと、休むことも眠ることもなく歩き続けました。
朝が来て、ようやく雨が止んだ頃。
朝靄が包む湖畔に荷車を止めると、チトはココの頬に手を添えて、一言、声を掛けました。
チト「帰ろうね。必ず」
ココは、カフェが掛けた布にくるまれ、どうやら眠っているようです。
それを見て、またすぐに歩き出しました。
震える足で、前に前に。
チト「急がなきゃ……」
やがて夜になり、チトは深く暗い森の中で、ついに倒れてしまいました。
カフェ「チト!」とと!
チト「…………」
カフェ「しっかりなさい!」ゆさゆさ
チト「うるさい……」むすっ
チトが弱っていることが、カフェにはハッキリと分かりました。
カフェ「今、おまじないをかけてあげるからね」
チト「よして」
カフェ「こんな時にまで!どうして!」
チト「都合のいいハッピーエンドなんてクソくらえ」
カフェ「もう!あんたってば!」
チト「ただ、ココは助けてあげて」
カフェ「あんたも一緒よ」
チト「私はいいの」
カフェ「どっちか片方が死ぬなんて、あたしは嫌だ!」
チト「もう二度とかけないって言ったよね?」
カフェ「それはそうだけど、今そんなこと」
チト「あの日に決めたの。これからは、自分の力で何とかしていこうって」
カフェ「あんた……」
チト「でも……でも……!」ぐすっ
カフェ「…………」
チト「助けて……カフェ!」
チトは涙を流して、助けを乞いました。
カフェ「そうやって、最初から頼りなさいよ」なみだぬぐい
チト「やだし……」
カフェ「まったく、呆れるぐらい強情な子だね」
チト「うるさい!やっぱ助けるな!」
カフェ「はあ……」
チト「本当は羨ましかったの」ぐすっ
カフェ「え?」
チト「メルヘンの登場人物が、都合のいいハッピーエンドが」ぐしぐし
カフェ「そう」
チト「私も、メルヘンのように楽しく幸せになりたかった」
カフェはチトの胸に、そっと、頭を乗せました。
聞こえる小さな鼓動が、カフェの胸を強く締めつけます。
チト「だからね。お菓子の家を見つけて、魔女に出会った時は嬉しかったの。おまじないを見た時、私も使いたいと思った」
カフェ「うんうん」
チト「でも……」
カフェ「でも?」
チト「どうせ使えないだろうと思ったから、あなたを利用してやろうと考えた」
カフェ「ちょっと、あんたねえ……」
チト「いひひ!」くすくす
カフェ「こうしちゃる」ぺちぺち
チト「……ねえ、教えて」
カフェ「ん?」
チト「あなたの本当の名前は何?」
マーゴ「マーゴフェレーナ。マーゴよ」
チト「マーゴさん」
マーゴ「なあに?」
チト「私達を助けてください」
マーゴ「ええ。お安い御用よ」
チト「ありがとう!」にこっ!
マーゴ「!」
チト「みんなが魔女のことを忘れて、あなたが幸せになることを、私は何より願うわ」
マーゴ「チト……チト!」ぎゅ
チト「なあに?」ぎゅ
マーゴ「あたしからも、ありがとう!」
その言葉と同時に地面から、マーゴの想いと同じ、優しい光が溢れ出しました。
それは青い満月を目指して、蝶のようにひらひらと舞い上がりました。
マーゴ「あんた達のおかげで、あたしは、大切なものを取り戻した」
チト「大切なもの?」
マーゴ「人を想う気持ちよ」
チト「人を、想う気持ち……」
マーゴ「そう。あんたがココを愛するような、ココがあんたを慕うような。優しくて温かい、宝物のように大切なもの」
チト「それはあなたが、私達を助けてくれたり、守ってくれた、その想いも同じね」
マーゴ「もちろん。だってあたし、あんた達のこと、大好きなんだもの」
チト「私も大好き!取り戻せて、よかったね」
マーゴ「ええ。そのお礼として、あんた達を幸せにしてあげる」
チト「やった」
マーゴ「美味しいご馳走に囲まれて、かけがえのない人達と一緒に、楽しく一生を過ごせますようにってね」にこっ
チト「あら、ずいぶんと優しくなったのね」
マーゴ「あら、そういうあんたこそ」
二人は、仲良く一緒に笑いました。
マーゴ「さあ!一緒に唱えましょう!」
チト「うん!一緒に!」
そして口を揃えて、想いを重ねて、願いを込めて、幸せのおまじないを唱えます。
「グリムグリムゴボウノササガキカイパンイッチョウ」
そしたら。
満天の星が瞬き、満ちる温かな光が、ふわっと三人を抱きましたとさ。
めでたしめでたし!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる