メルヘンなんてクソくらえ!

旭ガ丘ひつじ

文字の大きさ
上 下
25 / 37

世の中は都合良くできちゃいねえんだよ!

しおりを挟む
チトが町から出ると、後ろから次々に兵士達が姿を現しました。

チト「監視なんて付けなくても、逃げないし」ぶーぶー

不満を口にするチトの前に立って、騎士が淡々と言います。

騎士「行くか」

チト「その馬に乗せてちょうだい」

騎士「それは何故か」

チト「私、子供なわけ。すぐに疲れて歩けなくなるわ。それは、あなた達にとって、とても困ることでしょう」

騎士「こいつは、我以外の人間を乗せないのだが、果たして貴様は乗れるか」

チト「ぐずぐずしてないで、ほら行くよ」

チトは馬にまたがって、そう言いました。

騎士「乗れたか……」

チトの後ろに騎士がまたがり、それを先頭に、一行は列をなして進みます。

チト「どれくらいかかるの?」

騎士「おおよそ、五日ほどか」

チト「うわあ……。よく、わざわざ五日もかけて、ここまで来たね」

騎士「我々は、忠誠を誓って王の命に従っており、いつ死のうとも、それは変わらぬものか」

チト「かーかーかーかー、お前はカラスか」

騎士「それはどうか」

チト「そうなの。だから、かまどで焼かれて焼鳥になれ」

騎士「またいつか」

チト「ちっ」

長い間、一行は休むことなく進み、起伏のまばらな広い森の中へとやって来ました。
それから月明かりが照らす頃になって、ようやく腰を下ろしました。

チト「飯」

騎士「食いたいか」

チト「もちろん。人権くらい大切にしなさいよ、騎士なんだし」

騎士「そろそろ飯にするか!いいか!」

騎士が、そう大声で呼び掛けると、兵士達はせっせと支度を始めました。

チト「今夜の食事は?」

騎士「今残っているは、エンドウ豆と麦か」

チト「何で町で調達しなかったのよ」

騎士「何か、豆の粥は嫌か」

チト「そういうことじゃなくて……ほら豪勢に……。まいいわ、我慢してあげる」

食事の支度が済むと、チトは、粥を口に入れる度に文句を口から出して、結局、粥を三杯も平らげました。

チト「じゃ、私は木の上にいるから」

騎士「何故か」

チト「いやらしいオオカミさんに囲まれちゃあ、可愛い羊さんは、安心して眠れないじゃないの」

騎士「そうなのか。ならいいが、逃げたらどうなるか」

チト「はいはい、逃げませんよ」

チトはそう言った後、スルスルと木の上に登り、カフェに静かに話しかけました。

チト「早く猫になって」

カフェ「どうしたか」

チト「あいつの真似するな」いら

カフェ「で、何用よ。勝手に道連れにしといて」

チト「おまじないをかけなさい」

カフェ「やだし」

チト「私だって、本当はやだし」

カフェ「そうなの?」

チト「都合のいいおまじないなんて、本当は大嫌いよ。でもね、私は町へ帰らなくちゃいけないの」

カフェ「ココが待」

チト「私としたことが。おばさんから、賃金を貰い損ねたわ」

カフェ「…………」じとー

チト「さ。奴等を折檻する為に、おまじないをかけなさい」

カフェ「絶対やだし。何度も同じことを言わせるんじゃないよ」

チト「はいでた!また説教する気!」

騎士「どうしたかー!」ずざあっ!

カフェ「にゃーん」

騎士「何か、猫と話しているのか」すたすた

チト「おまじないを使うと、何が起きるって言うのよ」

カフェ「こういうことよ」

チト「は?」

カフェ「あんたが魔女に関わっていて、おまじないを使える。そんな話を誰かが王様の耳に入れたんでしょう。だからこうして、あんたを捕らえに来たのよ」

チト「わざわざ五日もかけたり、いちいち町の大人を拐ってまで?」

カフェ「ええ、全て計画された事でしょう。それに、これから先もきっと、繰り返し来るでしょうね」

チト「来るなら来なさい。その度に、何度だって返り討ちにしてやるわ」

カフェ「今は利用する為に親切にしてくれているけれど、見限られたら、それこそ国を挙げて殺されるわよ」

チト「それは、魔女狩りのことね」

カフェ「!」

チト「火炙りにされるのよね」

カフェ「そう……そうよ。生きたまま杭に縛られて燃やされるの!誰も助けてはくれないのよ!!」

チト「しっー!」

カフェ「そんなことはさせない……」

チト「え?」

カフェ「あんたも、ココも死なせやしない」

チト「カフェ……?」

カフェ「いい?今回限りよ。あたしはこの先、おまじないを、もう二度とあんたにかけない」

カフェは強い眼差しで語り、続けて言いました。

カフェ「あたしが、あんたが嫌うメルヘンのような、ハッピーエンドに導いてあげる」

チト「調子に乗らないで。そんなの死んでもごめんよ」

カフェ「チト」

チト「私はね、ご都合主義なメルヘンが大嫌い。世の中をなめすぎだし、現実を見てみろっての。どんなに努力しても奇跡なんて起こらないし!神様も助けてやくれないし!メルヘンなんてクソくらえ!!」

カフェ「しっー!」

騎士「何事かーーー!」ずざしゃあ!

チト「てめえのせいでイラついんてだよこっちは!うっとおしい!ストレス溜まるから離れてろ!!」

騎士「お、怒っているか。ならそうするか……みんないいかー……」とぼとぼ

チト「でもね……ただひとつだけ。共感出来ることがあるわ」

カフェ「それは何?」

チト「悪には情けも容赦もいらない。残酷で無惨凄惨な罰を受けて想像を絶する痛みに悶えて絶望を味わって死んだら地獄へ真っ直ぐ堕ちて一生苦しめクソ野郎。ってとこ」

カフェ「あんた、メルヘンをかなり読んだわね」

チト「小さい頃にね。それしか娯楽がなかったし、それに、ココによく読んであげてたし」

カフェ「そう」かたぽん

チト「何よそのカタポン。ここから突き落とすよ」

カフェ「今、そんなことをしている場合かしら」

チト「作戦会議よ」

カフェ「ええ、そうしましょう」

それから、皆が寝静まった真夜中。

チト「私には戦う力も、現実を変える力もないのが、本当に悔やしい」

カフェ「そう悲観しない、あんたはよくやっているわ。それにおまじないは、今日で最後だから我慢なさい」

チト「最後……になるといいけど」

カフェ「さあ、かけるよ」

カフェは唱えます。
グリムグリムゴボウノササガキカイパンイッチョウ。
無駄に長いおまじないを。

チト「お?」ぴょこん

そうしたら。
チトに猫耳と猫尻尾が生え、爪も少し伸びました。

カフェ「これであんたは、猫の能力を得たはずよ」

チト「不思議、暗闇なのによく見えるわ」しっぽふいふい

カフェ「猫だからね」

チト「でも、これはいらない」ぷちっ

カフェ「ちょっと!尻尾はバランスを取るために大事なのよ!」

チト「それを早く言いなさいよ」ぺた

カフェ「あと、これも」はいにゃ

カフェは、木の枝を一本、シダのしゅもく杖に変えて渡しました。

チト「こんなので、鉄砲や槍に勝てると思うわけ?」

カフェ「シダの木は、鉄の木と呼ばれるくらい堅いのよ。鉄砲の方は頑張って避けなさい」

チト「ちぇ。やっぱり役立たずね」

カフェ「今なんて?」いら

チト「たくさん頭のあるドラゴンを出しなさいよ」ほらほら

カフェ「そんなの出せるか!」しゃー!

チト「はあ……仕方ない。これで殺るしかないなら、これで殺るか」

チトはそう言って、しゅもく杖を握り締めました。

カフェ「殺す気?」

チト「あなたと一緒にしないで」

カフェ「そう」

チト「いい?遅れないでよ」

カフェ「ふんっ。そっちこそしくじらないでよ」

二人は、一度笑顔を交わすと。
同時に飛び降りましたとさ。

戦え!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

Little Red Riding Hood

闇狐
ファンタジー
彼のグリム童話、赤ずきんのストーリーを360度塗り替える!? 新感覚、ちょっぴりダークサイドな赤ずきんの物語です。 #Black fairy tale #赤ずきん

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...