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喜べや瓶詰め川流し!

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うだるような暑さのある日。
カフェ・プリンセスに訪れる客も、暑さのせいでまばらでした。

チト「ミルクお待たせ」こと

おばん「ん?これ、あまり冷えてないわね」

チト「川に入れても、この暑さだし」

おばん「そう」

チト「というか。川に入れた飲み物を盗む輩がいるから、飲み物よりも私達がヒエヒエよ」

おばん「ぶふぅん!」ふきだし

チト「うわっ!きったねっ!」びくっ

おばん「チトちゃんったらお上手」ふきふき

チト「鼻から牛乳が垂れてる」どんびき

店長「あきすての」こと

チト「このパン。サービスだってよ」

おばん「ぶふうん!」ふきだし

チト「何でいちいち噴き出すのよ!」びくっ

おばん「いつもありがとう、店長」ふきふき

店長「かしつねほ」

チト「え?ミルクを三、四本取ってくればいいのね」

店長「さちぬへも」

チト「それと、先に粉屋に行ってカフェ粉ね。はいはい」

おばん「チトちゃん、すごく働き者ね」

チト「金を貰ってるし。当然よ」

おばん「家の方はどう?」

チト「綺麗にしたし、住み心地も悪くないわ」

おばん「そう、それはなによりだわ」

店長「いかにぎり」

おばん「気をつけて。ですって」

チト「はい。行ってきます」

チトは表に出ると、太陽に向かって思いっきり舌打ちをして、川沿いにある水車小屋に向かいました。
その水車小屋が粉屋で、水車を使って、粉や豆を挽いているのです。

チト「あっちいなちきしょう……」

チトは小石を拾うと、太陽に向かって思いっきり投げつけました。

チト「ん?」

その時、ふと。
チトは、あるものを見つけました。

チト「小瓶?」

川辺の草に引っ掛かっていた小瓶を拾ってみると、中に何やら入っています。
さっそく蓋を開けてみると、それが勢いよく飛び出しました。

チト「!?」

それは太陽を隠すほど大きくなり。
その見た目は、まるでモヤのような、煙のような、雲のような、何とも表現し難い容姿です。

おばけ「俺は」

チト「助かる。ちょうど良い日陰になった」

おばけ「あの、少しは驚いてもらえるかな」

チト「何よ。こっちは急いでるの」あしぱたた

おばけ「俺はオバケだ」

チト「で?」ためいき

おばけ「オバケにだって、礼くらい出来るんだけどなあ」ちら

チト「なら金銀財宝よこせ」

おばけ「よし、それじゃあ礼として。君の首をへし折ることにしよう」

チト「ほーん」

おばけ「え?なにその反応」

チト「その体でどうやるの?」

おばけ「何とでもできるさ!」

チト「じゃあ、その大きな体で、この小瓶へ入れる?」

おばけ「おばけには容易いことよ」

おばけが小瓶に入ったところで、チトは、これでもかと固く蓋を締めました。
そしてそれを。

チト「さようなら」

腕を何度か回して、川に放り捨てようとしたところ、おばけが怒り猛り叫びました。

おばけ「騙した図った!君は最低だな!!」

チト「お前がそれを言うか」

おばけ「わかったわかった。今度こそ確かに礼をするよ」

チト「信用するとでも?」

おばけ「ほら、金の指輪だよ」ちらりんこ

チトは、小瓶を地面に叩きつけて割りました。

おばけ「よし!これで自由だ!」

チト「さっさと謝礼をよこせ」ほらほら

チトは金の指輪に、銀貨、そして銅の手鏡を貰いました。

チト「これら、価値あるのよね?」

おばけ「金の指輪は、母さんの遺品だ。売ってくれて構わないよ」

チト「いや返す。遺品とか生理的に無理だし」ぽい

おばけ「そうかい。次に、その銀貨は、星の欠片を混ぜて作った特別な銀貨で、星の銀貨っていうんだ。しかし、特に価値はない!」

チト「なら、ただのゴミじゃない」

おばけ「特別って言ったろう。その星の銀貨は、魔男や魔女の証なのさ」

チト「は?」

おばけ「俺は、実は魔男でね。元仲間達を裏切ったら、その元仲間達によって、こんな姿にされたんだ」

チト「で、瓶詰め」

魔男「そう。窮屈で退屈で仕方なかったよ……」

チト「ざまあみろよ……あれ?そういえばあなた、太陽の下でも平気なわけ?」

おばけ「それは、どういうことだい?」

チト「家に魔女がいるんだけど、日中は懐中時計の姿で、夜は猫の姿になれるの」

おばけ「ほほう。それはきっと、そういう誓いで、おまじないをかけたからだろうな」

チト「夜は自由になれるって?」

おばけ「そうそう」

チト「ふーん」

おばけ「じゃ、最後に手鏡の説明をしていいかな?」

チト「はやくして」

おばけ「世界で一番、可愛い女の子が映るよ!」

チト「ちいっ!全部ガラクタじゃねえか!」

おばけ「あとは……おお。あいつらから盗んだ、三つの宝石があったよ!」ぽい

チト「ちっちゃ。しかも傷ありじゃないの」

おばけ「死に物狂いで逃げてたから仕方ないさ」

チト「あのさ」

おばけ「それではお嬢さん。お陰様で、俺はこれから自由に生きるよ」

チト「あなた、もうスケスケよ」

おばけ「え」すっー…

チト「瓶から出たら死ぬ。そういう誓いだったんじゃないの?」

おばけ「あいつら!ちくしょう!!」すっー

チト「瓶割っちゃったし、しゃあないね」はんっ

おばけ「俺は!俺はこれから自由に生きるんだ……!」

チト「自由ね。それこそ、おばけよ」はんっ

おばけは、じっとりと空に溶けました。

チト「あっちいなちきしょう……」

その夜、チトが帰宅すると。
ココが駆け足で迎えてくれました。

ココ「おかえり!」

チト「ただいま、遅くなってごめんね。て、それ何よ」

ココ「カフェが、ミオソティスで押し花を作ったんだ!」

チト「きっきっきっ!毛が挟まりすぎでしょう!」けらけら

ココ「ふふっ!仕方ないよ、猫だもの!」

チト「というかあなた。それ貰って嬉しいわけ?」

ココ「え?」

チト「あなたを食べようと一ヶ月鳥かごに閉じ込めた、悪い魔女、が作ったものよ」

ココ「んー、でも……」

チト「かまどに放っておきなさい」

ココ「そうだ、チトのもあるよ!」はい

チト「…………」

ココ「カフェが一生懸命に作ったんだよ!木枠とかは、僕も手伝ったけれど」

カフェ「かまどに放りなさい。どうせ、毛だらけの失敗作だから」とと

チト「やめておくわ」

カフェ「あらどうして?」

チト「花が可哀想だから」

カフェ「そう」

ココ「二人とも、もう少し素直になったら?」

チト「お姉ちゃんは、いつも素直ですよ」ほっぺつねー

ココ「うーやめてー」いたた

チト「そうそう。ココにお土産があるよ」はい

ココ「何これ!すごく綺麗!」きらきら

カフェ「星の銀貨!それどこで手に入れたの!」

チト「呪われた魔男の遺品よ。銅の手鏡も貰ったけど、そっちは宝石と一緒に売ったわ」

カフェ「それこそ、かまどに入れなさい」

ココ「どうして?」

カフェ「きっと、何か災いが起こるわよ」

ココ「ハシバミの枝があるから平気さ!」

チト「拾ってきたあれね。意味あるといいね」

ココ「僕は信じてるよ!」

チト「なら、誰かに盗られないよう、キャラウェイのお守りと一緒に大事にしまっておきなさい」

ココ「はーい!」

カフェ「…………」じっー

チト「ねえ」

カフェ「ん、何?」

チト「どうして、魔男や魔女と呼ばれるわけ?」

カフェ「おまじないは悪魔から授かった力……と思われていたから、だと思うわ」

チト「それを使うから、て。ずいぶんと安直な名前ね」

カフェ「そうね。それよりも、はやく夕飯にしましょう」

チト「お前に食わすものは骨もねえ」

カフェ「ケチなチトで、ケチトちゃん」

チト「今なんて?」いら

カフェ「にゃん?」くびかしげ

チト「こっのババア!」

カフェ「今日こそ、捕まえてごらんなさい」たたっ

チト「ああ!覚悟しやがれ!」たたっ

ココ「ふふっ」くすくす

二人の喧嘩を、微笑ましく思うココなのでした。

続け!
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