16 / 37
頭ん中にクソでも詰めとけ!
しおりを挟む
チシャノと別れて一時間。
ようやくチトは、なだらかな山の麓にある隣村へと到着しました。
チト「畑と家畜ばっかりね」
ロリニア「見ーなーいー顔だー!」
チト「うるさいなあ。急に何よ、遠くから叫びやがって」
ロリニア「だーれーだーれーだーれーだー!」
チト「最っ高にイカれたもてなしね」
とーおーく、にいたイカれた少女は、腕をこれでもかと大きく振り、かなり大股なのにそれなりの走力で、チトの所へ、ぎょっという間に駆け寄りました。
チト「あっち向いて帰れ!」
ロリニア「帰れ?それって、キミは危険を知らせに来たってことで、それは敵が攻めてきたってことで、それも凄い数ってことで、とにかくヤバイってことで、もうこの世の終わりだってことで、つまり諦めろってことなんだ!」がくぶる
チト「うん。そういうこと」てけとー
ロリニア「あああ!神様!ワタクシ達が一体何をしたというのでしょうかあ!」しくしく
チト「うわあ……。さっさとお使い済ませて帰ろ」どんびき
ロリニア「キミ!どこへ行こうというのだ!」ぐすっ
チト「…………」むーし
ロリニア「…………」つかみ
チト「離せっ!」ばしっ!
ロリニア「ワタクシはロリニアエルゼ。みんなはロリニアって呼ぶのだけれど、それって、長いってことで、呼びにくいってことで、短くしようってことで、でも面倒ってことで、だから適当に区切るってことで、つまりみんなはワタクシのことが嫌いってことだあ!うわあああ!」ぜつぼー!
チト「怖い恐い怖い恐い!」びくっ!
ロリニア「ああ……」くらり
チト「ちょっと」
ロリニア「…………」へたり
チト「何なんだこいつは……」
チトはこの時に初めて、得体の知れない恐怖に、背後から心臓を一突きされました。
チト「綺麗な顔して、残念なことに、頭の中は空っぽなのね。もったない」
ロリニア「え?頭の中が空っぽ?」むくっ
チト「だから」
ロリニア「それって、中にあった脳が無くなったってことで、そのうち何も考えられなくなるってことで、楽しい想い出も思い出せなくなるってことで、みんなのことが分からなくなるってことで、つまりはいずれワタクシ自身がこの世から無くなるってことだ……あ、ああ!」ぶるる!
チト「だから、頭ん中にクソでも詰めとけ!!」
ロリニア「!」
チト「はあー……」ためいき
ロリニア「そうだ!それなら安心だ!」にっこるん!
チト「お?」
ばあや「そうやって、きちんと答えを明示してあげれば、ロリニアは落ち着くのよ」
チト「ちょうど良かったわ。おばあさん、この人知ってる?」すっ
チトは貰ったメモを、お婆さんに見せました。
ばあや「ああ、モッコルさんね」
チト「いや違う」
ばあや「そのメモに書いてある名前は、六年前の名前よ」
チト「はい?」
ばあや「センドリーヌさんは、気まぐれに名前を変える変わり者でねえ。でも、この村に鍛冶屋は四つしかないから、きっと迷うことはないわ」
チト「で、そのなんたらどーたらさんはどこよ」
ばあや「賢いロリニアや。お客様を案内してあげてちょうだい」
チト「それは」
ロリニア「それって、仕事が忙しいからってことで、でも本当の理由は疲れるってことで、だからワタクシに押し付けるってことで、つまりモルザレル婆さんはワタクシのことを疎ましく思っているんだ。あ、あはは……そうだったんだあああ!」がくがく
ばあや「それは違うよ。婆さんはロリニアのことを愛しているわ」
ロリニア「そうなんだ!あー良かったー!」にっこるん!
ばあや「それじゃあね。仲良く気を付けて行ってらっしゃい」
チト「やだし!ちょっと待ちなさい!」
お婆さんは、見る者を震え上がらせるような獣に似た動きで、せかせかと畑へ戻りました。
チト「この村どうなってんのよ。早く帰りたい……」ずーん
ロリニア「それって」
チト「えーと、小腹が空いたのよ」
ロリニア「なんだ!ならこれあげる!」はい!
チト「いちごじゃない!持ってるだけ全部よこしなさい!」きらきら
チトは、ロリニアが持ついちごを全て巻き上げると、それにむしゃぶりつきながら、紆余曲折を経て、へとへとになりながらも、何とか目的地に辿り着きました。
ヤンバルクイナ「わしはヤンバルクイナ」
チト「とっととよこせ!」
ミンチョ「わしはミンチョ。少し待ってなさい」すたすた
チト「いちいち名前を変えるな」いらいら
ロリニア「それって、気を付けてるから名前を変えてるってことで、それは誰かに狙われてるってことで、推理するに常に監視されてるってことで、今も近くにいるってことで、つまり後ろにいるんだ」ひや…
チト「わっ!!」
ロリニア「やーん……」くるくるぱたり
チト「そのまま寝てなさい」
ロリニア「そうだ!死んだふりをすれば安心だ!」はっ!
チト「そうだそうだー」
ロリニア「…………」
ニグリスタ「わしはニグリスタ」
チト「これ代金。はいさようなら」
チトは風よりも速く鍛冶屋を出ると、空を見上げ、大きく深呼吸をしました。
チト「この村。明日にでも滅びますように」さわやか
ロリニア「それって」
チト「そう、私は魔女よ」
ロリニア「それって、おまじないを唱えたってことで、もうそれは宿命ってことで、決して逃れられないってことで、明日にでもこの村が滅ぶってことで、つまりこの村も飢饉や天災に見舞われるってことだあ!あああああ!!」ぴょんぴょん!
チトは。
絶望に捕らわれ、狂気の檻に囚われて、死への恐怖という拷問を受けては、不安によって痛ましく泣き叫ぶロリニアを愉快に放置して、晴れやかな気持ちで帰路に着きました。
チト「もう、あの村には二度と行かないから」
おじん「やっぱりそうなるか」
チト「この私を、知ってて行かせたね?」ぎろり
逃げるおじんの背中に燃える夕日を投げつけ、チトは家に帰ると、すやすやと可愛い顔で眠る、愛する弟の頬にキスをしましたとさ。
カフェ「賃金は前払いで、部品の代金と一緒に貰ったのね」
チト「たまには、お小遣いをあげましょう」
カフェ「嫌みね」
チト「いちごなんだけど」すっ
カフェ「あむっ!」
チト「ちょっと!待てぐらい覚えなさいよ!」
カフェ「あたし猫だもん」ぺろり
チト「…………」すっ
カフェ「ちょーだい」てまねき
チト「お手」ほら
カフェ「…………」じっ
チト「…………」じっー
カフェ「くうっ……!」ぽふ
続け!
ようやくチトは、なだらかな山の麓にある隣村へと到着しました。
チト「畑と家畜ばっかりね」
ロリニア「見ーなーいー顔だー!」
チト「うるさいなあ。急に何よ、遠くから叫びやがって」
ロリニア「だーれーだーれーだーれーだー!」
チト「最っ高にイカれたもてなしね」
とーおーく、にいたイカれた少女は、腕をこれでもかと大きく振り、かなり大股なのにそれなりの走力で、チトの所へ、ぎょっという間に駆け寄りました。
チト「あっち向いて帰れ!」
ロリニア「帰れ?それって、キミは危険を知らせに来たってことで、それは敵が攻めてきたってことで、それも凄い数ってことで、とにかくヤバイってことで、もうこの世の終わりだってことで、つまり諦めろってことなんだ!」がくぶる
チト「うん。そういうこと」てけとー
ロリニア「あああ!神様!ワタクシ達が一体何をしたというのでしょうかあ!」しくしく
チト「うわあ……。さっさとお使い済ませて帰ろ」どんびき
ロリニア「キミ!どこへ行こうというのだ!」ぐすっ
チト「…………」むーし
ロリニア「…………」つかみ
チト「離せっ!」ばしっ!
ロリニア「ワタクシはロリニアエルゼ。みんなはロリニアって呼ぶのだけれど、それって、長いってことで、呼びにくいってことで、短くしようってことで、でも面倒ってことで、だから適当に区切るってことで、つまりみんなはワタクシのことが嫌いってことだあ!うわあああ!」ぜつぼー!
チト「怖い恐い怖い恐い!」びくっ!
ロリニア「ああ……」くらり
チト「ちょっと」
ロリニア「…………」へたり
チト「何なんだこいつは……」
チトはこの時に初めて、得体の知れない恐怖に、背後から心臓を一突きされました。
チト「綺麗な顔して、残念なことに、頭の中は空っぽなのね。もったない」
ロリニア「え?頭の中が空っぽ?」むくっ
チト「だから」
ロリニア「それって、中にあった脳が無くなったってことで、そのうち何も考えられなくなるってことで、楽しい想い出も思い出せなくなるってことで、みんなのことが分からなくなるってことで、つまりはいずれワタクシ自身がこの世から無くなるってことだ……あ、ああ!」ぶるる!
チト「だから、頭ん中にクソでも詰めとけ!!」
ロリニア「!」
チト「はあー……」ためいき
ロリニア「そうだ!それなら安心だ!」にっこるん!
チト「お?」
ばあや「そうやって、きちんと答えを明示してあげれば、ロリニアは落ち着くのよ」
チト「ちょうど良かったわ。おばあさん、この人知ってる?」すっ
チトは貰ったメモを、お婆さんに見せました。
ばあや「ああ、モッコルさんね」
チト「いや違う」
ばあや「そのメモに書いてある名前は、六年前の名前よ」
チト「はい?」
ばあや「センドリーヌさんは、気まぐれに名前を変える変わり者でねえ。でも、この村に鍛冶屋は四つしかないから、きっと迷うことはないわ」
チト「で、そのなんたらどーたらさんはどこよ」
ばあや「賢いロリニアや。お客様を案内してあげてちょうだい」
チト「それは」
ロリニア「それって、仕事が忙しいからってことで、でも本当の理由は疲れるってことで、だからワタクシに押し付けるってことで、つまりモルザレル婆さんはワタクシのことを疎ましく思っているんだ。あ、あはは……そうだったんだあああ!」がくがく
ばあや「それは違うよ。婆さんはロリニアのことを愛しているわ」
ロリニア「そうなんだ!あー良かったー!」にっこるん!
ばあや「それじゃあね。仲良く気を付けて行ってらっしゃい」
チト「やだし!ちょっと待ちなさい!」
お婆さんは、見る者を震え上がらせるような獣に似た動きで、せかせかと畑へ戻りました。
チト「この村どうなってんのよ。早く帰りたい……」ずーん
ロリニア「それって」
チト「えーと、小腹が空いたのよ」
ロリニア「なんだ!ならこれあげる!」はい!
チト「いちごじゃない!持ってるだけ全部よこしなさい!」きらきら
チトは、ロリニアが持ついちごを全て巻き上げると、それにむしゃぶりつきながら、紆余曲折を経て、へとへとになりながらも、何とか目的地に辿り着きました。
ヤンバルクイナ「わしはヤンバルクイナ」
チト「とっととよこせ!」
ミンチョ「わしはミンチョ。少し待ってなさい」すたすた
チト「いちいち名前を変えるな」いらいら
ロリニア「それって、気を付けてるから名前を変えてるってことで、それは誰かに狙われてるってことで、推理するに常に監視されてるってことで、今も近くにいるってことで、つまり後ろにいるんだ」ひや…
チト「わっ!!」
ロリニア「やーん……」くるくるぱたり
チト「そのまま寝てなさい」
ロリニア「そうだ!死んだふりをすれば安心だ!」はっ!
チト「そうだそうだー」
ロリニア「…………」
ニグリスタ「わしはニグリスタ」
チト「これ代金。はいさようなら」
チトは風よりも速く鍛冶屋を出ると、空を見上げ、大きく深呼吸をしました。
チト「この村。明日にでも滅びますように」さわやか
ロリニア「それって」
チト「そう、私は魔女よ」
ロリニア「それって、おまじないを唱えたってことで、もうそれは宿命ってことで、決して逃れられないってことで、明日にでもこの村が滅ぶってことで、つまりこの村も飢饉や天災に見舞われるってことだあ!あああああ!!」ぴょんぴょん!
チトは。
絶望に捕らわれ、狂気の檻に囚われて、死への恐怖という拷問を受けては、不安によって痛ましく泣き叫ぶロリニアを愉快に放置して、晴れやかな気持ちで帰路に着きました。
チト「もう、あの村には二度と行かないから」
おじん「やっぱりそうなるか」
チト「この私を、知ってて行かせたね?」ぎろり
逃げるおじんの背中に燃える夕日を投げつけ、チトは家に帰ると、すやすやと可愛い顔で眠る、愛する弟の頬にキスをしましたとさ。
カフェ「賃金は前払いで、部品の代金と一緒に貰ったのね」
チト「たまには、お小遣いをあげましょう」
カフェ「嫌みね」
チト「いちごなんだけど」すっ
カフェ「あむっ!」
チト「ちょっと!待てぐらい覚えなさいよ!」
カフェ「あたし猫だもん」ぺろり
チト「…………」すっ
カフェ「ちょーだい」てまねき
チト「お手」ほら
カフェ「…………」じっ
チト「…………」じっー
カフェ「くうっ……!」ぽふ
続け!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる