モンスタートリマー雲雀丘花屋敷

旭ガ丘ひつじ

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十四話 異世界ならモテモテ!?妖精チートで熟女ハーレム!

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百日紅を従えて正解だった。
実習を終えて人気爆発。
列車の中で僕と百日紅は熟女達から質問攻めにあった。
熱気と色気にクラクラする勢いで迫られた。
だが残念なことに、列車は早くも初めのドームへ戻り、そこから徒歩で宿泊するホテルへと案内された。
客など一人もいないので貸し切り状態だ。
珍しくアーチを描く四階建ての建物の内装は、和を感じる造りになっていた。
ガラス窓の向こうの中庭は日本庭園にどこか似ている。
僕達は、最上階にそれぞれ立派な部屋をもらった。
フローリングのリビングと畳の寝室、広くはないが二部屋ある作りで、僕の部屋は窓から秋を飾った町を一望することが出来た。
ああ、熟女とロマンチックを分かち合いたい。

「やったあ!畳やー!畳すきー!」

百日紅は羽を外すと、びっくりするくらい絶叫して、羽目まで外して畳の上で転がりはしゃぐ。
僕はそれに構うことなくリビングにあるソファーに倒れた。

「お前は逆瀬川ちゃんのところで寝ろよ」

「何で?」

「せっかくだからパジャマパーティーしてこいよ」

僕は頑張って紗綾香さんを誘って初めて大人の夜を過ごすんだ。
ということで百日紅は邪魔。

「まろちゃんをここに呼んで三人でパジャマパーティーしたらいいやん」

「逆瀬川ちゃんはまだ未成年だ。ちょっとは考えて言え」

「そっか。そやね」

「まったく」

情けない。
一瞬ドキッとしてしまった。

「川大くんは、何で逆瀬川ちゃんって呼ぶん?名字はよそよそしない?」

「よそよそしくない。呼び方なんて何でもいいだろう」

「女の子が苦手なん?」

「もう喋らないで。そのまま逆瀬川ちゃんの部屋にでもどこへでも行って」

「さっきから何で酷いこと言うん」

「疲れてるんだ」

「温泉あるで」

「何?」

僕は飛び起きて百日紅を見た。
懐かしい死体が畳の上に転がっていた。

「先生がご飯の前に入っとき言うてたやん」

「そうだったな」

混浴はあるだろうか。
その期待は瞬く間に潰えた。
十分後の僕はおじさん達に囲まれていた。
壁に囲まれた温泉はおじさん達のせいか窮屈に感じる。

「川大くんがモンスターをとても愛していることを知れて、僕は嬉しいです」

三郎さんの距離が近いのはきっと気のせいだろうけど、僕は少しだけ離れた。

「三郎さんほどじゃないよ。僕は涙まで流せない」

「いやはや、お恥ずかしい姿を皆さんにお見せしてしまいました。人とゴーレムの歴史を学んでいたら、段々と胸が熱くなって、それで堪えきれなくなって」

今日の三郎さんはよく喋る。
お花畑で、みんなでお昼を食べている時は静かなのに。
講習の日はいつも、おじさん達がお花畑で食事して、熟女達が教室で食事している。
こちらを見下ろす逆瀬川ちゃんを見上げて何度も心のなかで逆だろうとつっこんだ。
しかし、とうとう教室から熟女を見下ろす日は訪れなかった。

「恥ずかしがることはない。あんたの様な人こそトリマーにふさわしい。な、みんな」

清荒神えにしさん。
オールバックに堀の深い映画俳優さんみたいなイケメンだ。
僕が恋敵として最も警戒している人物である。
彼は男にも女にも軟派に話し掛けるタイプだ。
彼女はいないとか言うけど、とても信じられない。
とは言え、熟女から彼氏情報を聞き出してくれたことだけは感謝している。
現在、愛を求めているのは四人。
緑ヶ丘恵さん水戸岡芽さん九頭龍りんさん、そして愛姫紗綾香さん、おまけに逆瀬川ちゃん。
彼氏とラブラブが五人。
さつま緑さん茨城美浦さん園田真知さん伊和志津さん、つごもりすずめさん。
ご結婚されているのが三人。
寿司さん上浮穴郡久万高原蝶さちさんファイナルクライマックスヨシコさん。

「どうなされた川大殿。何やらお悩みの様子じゃ」

こしかたゆくすえさんは相変わらず面白い言葉遣いをする。
失礼だけど、のっぺり顔まで面白く見えてきた。
僕は笑いを堪えているのを誤魔化そうと両手を縁に広げて天を仰いだ。
そして、素直に答えた。

「悩みなんてないよ」

「女だろう」

えにしさんが余計なことを言う。
すると突然、花屋敷さんが勢いよく立ち上がった。

「私に何でも相談してくれと言ったじゃないか!」

「熱くならないで。見たくないもの見えてるし座って」

「すまない」

彼は根っからのお人好しだ。
一番安心するし頼れるけど、熱心過ぎるのが玉に瑕かな。
玉……でかかったなあ。

「で、好きなのは誰だ?逆瀬川ちゃんか?百日紅さんか?」

「えにしさん。分かっていて、そういう冗談を言うのは本当に良くない」

「みなさん!彼はモンスターを愛しているのです!」

「いや違う。あれはそういう意味で言ったんじゃない」

「となれば、先生方のどなたになろうか」

「そっちゃそだけど本気じゃない」

「川大くんは、歳上の女性が好みということかな?」

「花屋敷さんの言う通り。そうだよ、歳上好き」

「で、誰だ?」

「だからえにしさん!わざわざ皆の前で言うわけないだろう!もう放っておいて!」

「あれまあ。これは一本、怒らせ申した」

「俺は力になってやろうと思ってるだけなんだがね。前に、こいつが恋愛相談をしてきたことがあるから」

「いちいち言うなよ!」

「悪かった。怒ると体に悪いぞ」

この世界の人達の常識だ。
彼らにとって怒りや憎しみは寿命を縮めるほどの猛毒である。
僕は毒を以て毒を制すことも必要だと考えているが、いつか僕も彼らと同じに考えるようになるのだろうか。

「そうだ川大くん。後で私の部屋で飲み会をしようと思っているんだがどうだい?」

「宴じゃ。一献傾けようぞ」

「ごめん。飲めないからパス」

みんなそれっきり、僕に関することは何もきいてこなかった。
でも最後に背中の洗いっこをした。
楽しいと言うよりも、お父さんの背中を洗っているみたいで何とも言い難い気持ちになった。
百日紅と洗いっこする方がよっぽどマシだ。
したことないけど。

「これ、私のご飯?」

「そう。こっちを食べて」

風呂上がりにお座敷に集まって夕食タイム。
修学旅行みたいでちょっと楽しい。
だが残念、ああ心が痛むほど可哀想なことに、妖精は食事をしないというのが常識で百日紅のご飯は用意されていない。

「食べていいの?」

「当たり前だろう。半分、分けてやるよ」

そこで僕が百日紅に食事を分けてやり、然り気無く熟女へ男気アピールする。
成功すれば、紗綾香さんを部屋へ誘いやすくなるはずだ。
しかしどうやってどのタイミングで誘ったものか。

「川大くんの分が減っちゃう」

「みずくさい。今さら気にするな」

担任の美魔女先生が気付いて立ち上がろうとする。
僕は心配ありませんと手で制した。

「妖精は食事いらんから気にせんでいいんよ」

うるさいな。黙って食えよ。
と、いつもみたいには言わない。
男らしさを見せる絶好のチャンスタイム。
いやフィーバータイムなのだ。

「箸がないだろう。ほら、今日は食べさせてやる」

「あーん」

「やっぱりやめた」

「どっちやねん」

「先に自分で食べて。モンブラン用にフォークあるし」

危なかった。
あまり親しい様子を見せると却って逆効果になるかも知れない。
二人はラブラブだから私なんかが好きになって二人の邪魔しちゃ駄目だよね、というパターンになりかねない。
いや待てよ。
ズルいわ私も川大くんとラブラブになりたい負けてられない。
という嫉妬から恋が燃えるパターンもあるかも知れない。

「あーむ」

「美味しい?」

「うん。ありがとう!」

やられた。隣の逆瀬川ちゃんがやらかした。
知らないのかな。
他人の家の猫に餌をあげちゃダメなんだぞ。

「逆瀬川ちゃん。気持ちだけで十分だよ」

僕は、やんわりと断りをいれて百日紅と食事を分かち合った。
結果、腹が減って仕方ない。
栗ご飯も山菜の天麩羅も美味しかったなあ。
湯上がりレディはセクシーだったなあ。

「あけてー」

お泊まりのことを今朝に思い出したのでオヤツを持ってきていない。
空腹から逃れようと自販機で缶ジュースを三本も買って飲み干してしまった。
ライフポイントが無駄に減って体力も回復しない。
その上ヘタレで孤独だ。
毒にも種類があるらしい。
体力がジワジワ減っていく。

「あけてーやー」

この町には、それぞれに使命を持つ熱心な人達が暮らしている。
不便なここで暮らしているのは、それほどこの町が気に入っているのだろう。
この町には店がない。
ホテルも必要時にだけ清掃して物資を補充して開放される。
彼らが必要とする物資は週に二回だけ、地下鉄を使って山の麓の町から運ばれてくる。
列車版移動販売というやつだ。
だから自由に食料を調達することは出来ない。
となれば仕方ない。やれ飲み会に行ってやるか。
おじさんウィズさけフィーチャリングおつまみ。
希望の歌が聴こえる。

「百日紅やで。川大くんおらんの?」

「何だよ。いま開けるから待ってて」

あー怠い。
何しに戻ってきたんだ。

「……あ」

僕の好きな人だ。
百日紅ではない。

「みて!秋地方特産の果物をたくさん貰ってきたよ!」

「絶対おいしいよ。みんなで食べよう」

逆瀬川ちゃんでも、水戸さんでもない。

「お腹、空いてるでしょう?」

「あららー。あんた予定も空いてるみたいだねー」

寿さんでも、つごもりさんでもない。

「もし良かったら、入っていいかな?」

愛姫紗綾香さん。

「もちろん喜んで!」

君だ。

「はよ開けて」

「もう少しだけ待って。さっと部屋を片付けるから」

「それやったら私も手伝うわ」

「やめて恥ずかしい」

「何を今さら恥ずかしがることあんの。家ではいつも」

「ああー!もういいって!」

僕達のやり取りを見て紗綾香さんは楽しそうに微笑する。

「二人とも仲良しさんだね」

その笑顔だけで体力がみるみる回復していく。
もりもり元気が湧いてきた。
僕はドアを閉めて、あっという間に部屋を片付けてみせた。
夕食での作戦は大成功。
一人の天使と四人の女神を招いて地獄は天国へ早変わり。
パジャマパーティーとは無理でも、夜遅くまで楽しい時間を過ごすことが出来た。
この時にリリコンで撮った記念写真は印刷して、いまでも自室に大切に飾っている。
他の写真に紛れてこっそり飾ってある。
僕の隣に写る彼女は、いつまでも特別な人であり続ける。
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