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五話 モンスタートリマー専門学校へ
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モンスタートリマー専門学校は隣町にあり、町にありふれた木を模したものでなく、目立つ格式高い装いの駅からモノレールに乗って行く。
モノレールは町の外に広がる樹海の上をのんびり走り抜ける。
眼下の森には、それほど恐ろしい生き物はいないのだろう。
乗客の誰もが穏やかな表情をしてリラックスしている。
隣町も巨大な切り株の上に築かれていた。
ただ違いはあって、水路が町を巡っていることがこの町の特徴だった。
あちこちに噴水や彫刻も見られ芸術点が高い。
いつか百日紅を連れてきてやったら喜ぶだろうなと思ってやった。
実のところ僕は今、とてもウキウキしている。
熟女が毒を抜いて完治してくれたおかげだ。
というのも数日前のこと。
例の資料は、興味がなくすっ飛ばそうとした社会問題の項に少子高齢化の文字を見つけたのだ。
この世界の少子高齢化は深刻で、それを解決しようと昔から異世界人を招いているらしい。
何らかの現象で現世を離れた人間を繋ぎ止めてこちらへ召喚しているという。
しかし残念なことに、こちらも少子高齢化している。
この世界の少子高齢化問題が未だに解決していないのは、無数の世界もそれに直面しているからかも知れない。
あるいは現実逃避しないほど平和になったから?
ともあれ、熟女好きの僕は少子高齢化を望むし喜ぶ。
少子高齢化を覚醒した神による人類パラダイス計画とさえ考えている。
幼稚な発想なのは百から億まで承知だ。
「あれ?間違えたかな?」
さて、僕はロープウェイを二つ乗り継いでモンスタートリマー専門学校があるはずの場所までやって来たのだが、思わず声に出すほど、それはイメージとかけ離れていた。
それは、僕が暮らしている町でも行ったことがない切り株の端に位置していた。
左右に廃屋と見紛いそうな工場や作業場の並ぶ道路の突き当たりにノスタルジックな三階建ての大きな屋敷があった。
それが校舎だった。
モンスターに関する専門学校というのだから、もっと華やかさというかファンタジー感があるものと想像していた。
ガッカリも恐れることもなく校門から庭園へと足を踏み入れる。
そこには僕と同じくスーツ姿の人々がさ迷っていたので、ここが目的地だと確信して一安心する。
しかし同時に、異世界にやって来て初めての孤独を心臓が圧迫されるほど実感した。
家族がいなくても寂しくない。
百日紅がいなくても寂しくない。
入学式くらい何ともないさとネクタイを絞め直して、挙動不審にならないよう気を付けながら歩を早めた。
ところで記憶が少し飛んだ。
「あの」
突然、若すぎる綺麗な少女に声をかけられて意識を取り戻した。
僕は木造校舎内に幾つもある教室の一つにいた。
何の素材かは知らないが白い長テーブルに二つずつ一本足の椅子があり、僕は最奥の樹海を一望出来る窓際に座って、身を潜めながら元いた世界を遠くに見ていた。
ところで声をかけられた。
「隣に座ってもいいですか?」
若い少女の笑みを含んだ困り顔。
ロリコンならキュンとなってキョドっていただろう。
僕は大人らしく冷静に返事をする。
「へえ。どぅーぞ」
「ありがとうございます!」
彼女が喜んで僕なんかの隣に座るのも仕方ない。
教室にいるのは、おじさんおばさん、若いのは僕と彼女だけ。
一見したところ公民館に来たかと勘違いするだろう。
しかし僕にとっては楽園だ。
現状をあらためて確認して満足する。
ロリコンは三十歳くらいで死期を迎えて緩やかにくたばっていくが、熟女好きはそこからスーパーモテ期を迎える。
僕の本当の青春時代が今まさに始まろうとしている。
「あの」
なぜこの子は僕に話しかけてしまうのか。
真面目に学園生活について考えているというのに。
僕は腕を組んで、彼女のさらけ出されたオデコを見つめて黙って考える。
「ごめんなさい。話しかけない方が良かったですか?」
僕は素直に頭を振った。
視線をギュインと下げると彼女の潤いリップから笑みが零れ落ちていた。
このままではイジめているみたいで可哀想なので、もう一人の僕、闇川大に彼女とのデュエルを任せることにする。
「構わない。なぜ謝るんだ」
「異世界から来た人に、あまり話しかけてはいけないと学校で教わったので」
「そんな教育があるのか?」
「驚かせたり怖がらせたり、時には困らせてしまうからです。だから、笑顔で会釈して、相手が話しかけやすいように心掛けています」
なるほど、そういうことだったのか。
異世界人の会釈は僕に対するリスペクトではなく思い遣りだったわけだ。
思い上がりが恥ずかしい。
「気にするな。敬語だって必要ない。若いのは俺達だけだから気軽に話してくれていい」
僕は彼女のオデコに向かって伝えた。
ぐんとオデコが遠ざかって上にきた目が僕の目と合ってしまった。
この透き通った瞳。柔らかな笑顔。
彼女は凄く純粋な子なんだろうな。
百日紅と違って卑しくないんだ。
優しくしてあげよう。
「それじゃあ、まずは自己紹介するね!」
「お、おう」
彼女の笑顔がパッと満開になる。
闇川大が逃げてしまうほど表情が明るい。
女の子にここまで無邪気に話しかけられたのは初めてで、正直戸惑いを隠せない。
年下と会話をしたのも初めてだ。
年下、なのかな?
「私は逆瀬川まろって言うの。よろしく」
「僕は田野山川大。よろしく」
「私はまだ十五才で子供なの。だから、川大くんも気軽に話してね」
さかせがわちゃんは年下だった。
分かってはいたがそこまで年下だったとは、びっくり予想外だ。
スケベな気持ちなく全身を見てみると彼女だけスーツではなく学校の制服らしきものを着ていた。
「え、あ、その十五才で専門学校に通えるの?」
「うん、特別にね。私は子供だけど賢いのよ」
「そうなんだ」
「小学生の時からみんなに褒めてもらって」
彼女は楽しそうに自分のことを話す。
大人としてプライバシー問題について注意しといてやった方がいいだろうか。
「それでね。モンスタートリマーになりたくて、この学校を選んだの」
「モンスタートリマーは子供でもなれるの?」
「なれるからここにいるのよ」
彼女は両手で口もとを覆い上品に笑う。
それから一息ついて、モンスタートリマーについて親切に教えてくれた。
モンスタートリマーとは、必要とする地域で代々受け継がれている専門職らしい。
しかし少子高齢化の影響を受けて人が減ってしまったので、思い切って外部の者に手伝ってもらおうと決めた。
それがたった数年前のことで、若い子からの関心どころか、残念ながら認知度もまだまだ低いらしい。
そういう理由で、宝の地図でも見つけたように資格と職を求めた大人達が集まる珍事になっている。
「審査が緩い現在こそチャンスということか」
「子供でもなれるからって簡単じゃないと思うよ」
「分かってる。それでも後戻りできないから、とにかくやってみるしかない」
百日紅にも飯を食わせてやらなければならないので仕事は大事だ。
人が少ないというから給料が気になる。
後でネットで調べてみよう。
というか、事前に調べることを怠っていたのは良くなかった。
これからずっと十五才の少女を頼るというのは嫌だ。
アルバイト先で女子高生にこき使われた日々を思い出す。
さらに憎い記憶まで蘇る。
幼女は僕の宝物を破壊して女児は僕にパンチして女子中学生は僕を無視して女子高生は僕へ暴言を吐いた。
これだからロリは。
「川大くん。資格が取れるように頑張ろうね!」
苦手だったんだ。
「うん。頑張ろう」
学園生活は彼女のおかげで楽しく過ごせそうだ。
彼女がクラスメイトの熟女と僕を自然に縁結びしてくれるはずだ。
ざっと見渡したところ好みの熟女しかいない。
熟れ初めが多く成長に期待出来る。
しかも男より割合が多い。
男は僕を含めて五人。
女は彼女を含めて十三人。
もしこの教室ごと無人島にワープするような事態があれば間違いなく、熟女を巡ったバトルロワイアルが瞬く間に幕を開ける。
僕は負けないぞ。
熟女と資格を同時に取ってみせる。
と、この様に、あの頃の僕こそ誰より百日紅より真にモンスターだった。
六十を越えた校長先生も狙っていたし、五十超えた担任の美魔女先生も狙っていた。
間もなく教室に入ってきた担任の美魔女先生は、ウェーブのかかったポニーテールがお風呂上がりみたいに艶やかで、ラインの美しいナイスバディの色気ムンムンボンバーだった。
色っぽい声に興奮を抑えながらこれからのことについてのアレコレを真面目に聞く。
目の前に座る恰幅がいい男に美魔女を遮られて若干イラつきながらも集中した。
メモだってした。
隣に座る逆瀬川ちゃんも目の前に座る大の男が邪魔で、いい匂いが漂うほど僕の方へ席を寄せて二人のおじさんの間から懸命に先生を注目していた。
この距離感を勘違いされたら困るな、と余計な心配をしているうちに話は終わり、これで解散となった。
「またね!」
逆瀬川ちゃんは会話もなく僕の後ろをちょこちょこついて歩いて、なぜか校門のところで別れを告げた。
よく分からない見送りだけど嬉しいなんて思わないこともない。
僕がワイパーみたいに手を振るのに対して、彼女はフロントガラスを拭くガソリンスタンドの店員のように大きく手を振ってくれた。
こういうのも悪くないな。
という思いが過ったけど「またね」は今日のところは控えておいた。
「君は確か同じクラスの」
帰りのモノレールに乗って、うとうとしている時に今度は男に声をかけられた。
相手は僕の前の席に座っていた恰幅のいい男だった。
僕が異世界人でも構わず軽い調子で話しかけてきた。
彼にとって僕はもうクラスメイトだからだろうか。
「私は雲雀丘花屋敷という。よろしく」
ひばりがおかはなやしき?は?
まるで地名みたいな人名のおっさんは僕と同じ町に住んでいると声を控えめにして話す。
第一印象は、身なりは整っているけど厚かましい山男だと思った。
まさか彼が僕の憧れになるとは、この時は夢にも思わなかった。
男に対してほとんど興味ないし仕方ない。
彼は困った時は頼ってくれとメモ用紙に連絡先を書いて渡してきた。
僕に恋してるのかと疑うほどグイグイくる。
続けて語り出した彼の身の上話は夕陽に焼けて溶けた。
特別なことはなかったし、彼に配慮して紹介はしない。
プライバシーの問題というやつだ。
ただ、最後に聞いた彼の夢はちゃんと紹介しておく。
七種すべてのモンスタートリマーになって世界を救う。
僕の片目が覚めた。
モノレールは町の外に広がる樹海の上をのんびり走り抜ける。
眼下の森には、それほど恐ろしい生き物はいないのだろう。
乗客の誰もが穏やかな表情をしてリラックスしている。
隣町も巨大な切り株の上に築かれていた。
ただ違いはあって、水路が町を巡っていることがこの町の特徴だった。
あちこちに噴水や彫刻も見られ芸術点が高い。
いつか百日紅を連れてきてやったら喜ぶだろうなと思ってやった。
実のところ僕は今、とてもウキウキしている。
熟女が毒を抜いて完治してくれたおかげだ。
というのも数日前のこと。
例の資料は、興味がなくすっ飛ばそうとした社会問題の項に少子高齢化の文字を見つけたのだ。
この世界の少子高齢化は深刻で、それを解決しようと昔から異世界人を招いているらしい。
何らかの現象で現世を離れた人間を繋ぎ止めてこちらへ召喚しているという。
しかし残念なことに、こちらも少子高齢化している。
この世界の少子高齢化問題が未だに解決していないのは、無数の世界もそれに直面しているからかも知れない。
あるいは現実逃避しないほど平和になったから?
ともあれ、熟女好きの僕は少子高齢化を望むし喜ぶ。
少子高齢化を覚醒した神による人類パラダイス計画とさえ考えている。
幼稚な発想なのは百から億まで承知だ。
「あれ?間違えたかな?」
さて、僕はロープウェイを二つ乗り継いでモンスタートリマー専門学校があるはずの場所までやって来たのだが、思わず声に出すほど、それはイメージとかけ離れていた。
それは、僕が暮らしている町でも行ったことがない切り株の端に位置していた。
左右に廃屋と見紛いそうな工場や作業場の並ぶ道路の突き当たりにノスタルジックな三階建ての大きな屋敷があった。
それが校舎だった。
モンスターに関する専門学校というのだから、もっと華やかさというかファンタジー感があるものと想像していた。
ガッカリも恐れることもなく校門から庭園へと足を踏み入れる。
そこには僕と同じくスーツ姿の人々がさ迷っていたので、ここが目的地だと確信して一安心する。
しかし同時に、異世界にやって来て初めての孤独を心臓が圧迫されるほど実感した。
家族がいなくても寂しくない。
百日紅がいなくても寂しくない。
入学式くらい何ともないさとネクタイを絞め直して、挙動不審にならないよう気を付けながら歩を早めた。
ところで記憶が少し飛んだ。
「あの」
突然、若すぎる綺麗な少女に声をかけられて意識を取り戻した。
僕は木造校舎内に幾つもある教室の一つにいた。
何の素材かは知らないが白い長テーブルに二つずつ一本足の椅子があり、僕は最奥の樹海を一望出来る窓際に座って、身を潜めながら元いた世界を遠くに見ていた。
ところで声をかけられた。
「隣に座ってもいいですか?」
若い少女の笑みを含んだ困り顔。
ロリコンならキュンとなってキョドっていただろう。
僕は大人らしく冷静に返事をする。
「へえ。どぅーぞ」
「ありがとうございます!」
彼女が喜んで僕なんかの隣に座るのも仕方ない。
教室にいるのは、おじさんおばさん、若いのは僕と彼女だけ。
一見したところ公民館に来たかと勘違いするだろう。
しかし僕にとっては楽園だ。
現状をあらためて確認して満足する。
ロリコンは三十歳くらいで死期を迎えて緩やかにくたばっていくが、熟女好きはそこからスーパーモテ期を迎える。
僕の本当の青春時代が今まさに始まろうとしている。
「あの」
なぜこの子は僕に話しかけてしまうのか。
真面目に学園生活について考えているというのに。
僕は腕を組んで、彼女のさらけ出されたオデコを見つめて黙って考える。
「ごめんなさい。話しかけない方が良かったですか?」
僕は素直に頭を振った。
視線をギュインと下げると彼女の潤いリップから笑みが零れ落ちていた。
このままではイジめているみたいで可哀想なので、もう一人の僕、闇川大に彼女とのデュエルを任せることにする。
「構わない。なぜ謝るんだ」
「異世界から来た人に、あまり話しかけてはいけないと学校で教わったので」
「そんな教育があるのか?」
「驚かせたり怖がらせたり、時には困らせてしまうからです。だから、笑顔で会釈して、相手が話しかけやすいように心掛けています」
なるほど、そういうことだったのか。
異世界人の会釈は僕に対するリスペクトではなく思い遣りだったわけだ。
思い上がりが恥ずかしい。
「気にするな。敬語だって必要ない。若いのは俺達だけだから気軽に話してくれていい」
僕は彼女のオデコに向かって伝えた。
ぐんとオデコが遠ざかって上にきた目が僕の目と合ってしまった。
この透き通った瞳。柔らかな笑顔。
彼女は凄く純粋な子なんだろうな。
百日紅と違って卑しくないんだ。
優しくしてあげよう。
「それじゃあ、まずは自己紹介するね!」
「お、おう」
彼女の笑顔がパッと満開になる。
闇川大が逃げてしまうほど表情が明るい。
女の子にここまで無邪気に話しかけられたのは初めてで、正直戸惑いを隠せない。
年下と会話をしたのも初めてだ。
年下、なのかな?
「私は逆瀬川まろって言うの。よろしく」
「僕は田野山川大。よろしく」
「私はまだ十五才で子供なの。だから、川大くんも気軽に話してね」
さかせがわちゃんは年下だった。
分かってはいたがそこまで年下だったとは、びっくり予想外だ。
スケベな気持ちなく全身を見てみると彼女だけスーツではなく学校の制服らしきものを着ていた。
「え、あ、その十五才で専門学校に通えるの?」
「うん、特別にね。私は子供だけど賢いのよ」
「そうなんだ」
「小学生の時からみんなに褒めてもらって」
彼女は楽しそうに自分のことを話す。
大人としてプライバシー問題について注意しといてやった方がいいだろうか。
「それでね。モンスタートリマーになりたくて、この学校を選んだの」
「モンスタートリマーは子供でもなれるの?」
「なれるからここにいるのよ」
彼女は両手で口もとを覆い上品に笑う。
それから一息ついて、モンスタートリマーについて親切に教えてくれた。
モンスタートリマーとは、必要とする地域で代々受け継がれている専門職らしい。
しかし少子高齢化の影響を受けて人が減ってしまったので、思い切って外部の者に手伝ってもらおうと決めた。
それがたった数年前のことで、若い子からの関心どころか、残念ながら認知度もまだまだ低いらしい。
そういう理由で、宝の地図でも見つけたように資格と職を求めた大人達が集まる珍事になっている。
「審査が緩い現在こそチャンスということか」
「子供でもなれるからって簡単じゃないと思うよ」
「分かってる。それでも後戻りできないから、とにかくやってみるしかない」
百日紅にも飯を食わせてやらなければならないので仕事は大事だ。
人が少ないというから給料が気になる。
後でネットで調べてみよう。
というか、事前に調べることを怠っていたのは良くなかった。
これからずっと十五才の少女を頼るというのは嫌だ。
アルバイト先で女子高生にこき使われた日々を思い出す。
さらに憎い記憶まで蘇る。
幼女は僕の宝物を破壊して女児は僕にパンチして女子中学生は僕を無視して女子高生は僕へ暴言を吐いた。
これだからロリは。
「川大くん。資格が取れるように頑張ろうね!」
苦手だったんだ。
「うん。頑張ろう」
学園生活は彼女のおかげで楽しく過ごせそうだ。
彼女がクラスメイトの熟女と僕を自然に縁結びしてくれるはずだ。
ざっと見渡したところ好みの熟女しかいない。
熟れ初めが多く成長に期待出来る。
しかも男より割合が多い。
男は僕を含めて五人。
女は彼女を含めて十三人。
もしこの教室ごと無人島にワープするような事態があれば間違いなく、熟女を巡ったバトルロワイアルが瞬く間に幕を開ける。
僕は負けないぞ。
熟女と資格を同時に取ってみせる。
と、この様に、あの頃の僕こそ誰より百日紅より真にモンスターだった。
六十を越えた校長先生も狙っていたし、五十超えた担任の美魔女先生も狙っていた。
間もなく教室に入ってきた担任の美魔女先生は、ウェーブのかかったポニーテールがお風呂上がりみたいに艶やかで、ラインの美しいナイスバディの色気ムンムンボンバーだった。
色っぽい声に興奮を抑えながらこれからのことについてのアレコレを真面目に聞く。
目の前に座る恰幅がいい男に美魔女を遮られて若干イラつきながらも集中した。
メモだってした。
隣に座る逆瀬川ちゃんも目の前に座る大の男が邪魔で、いい匂いが漂うほど僕の方へ席を寄せて二人のおじさんの間から懸命に先生を注目していた。
この距離感を勘違いされたら困るな、と余計な心配をしているうちに話は終わり、これで解散となった。
「またね!」
逆瀬川ちゃんは会話もなく僕の後ろをちょこちょこついて歩いて、なぜか校門のところで別れを告げた。
よく分からない見送りだけど嬉しいなんて思わないこともない。
僕がワイパーみたいに手を振るのに対して、彼女はフロントガラスを拭くガソリンスタンドの店員のように大きく手を振ってくれた。
こういうのも悪くないな。
という思いが過ったけど「またね」は今日のところは控えておいた。
「君は確か同じクラスの」
帰りのモノレールに乗って、うとうとしている時に今度は男に声をかけられた。
相手は僕の前の席に座っていた恰幅のいい男だった。
僕が異世界人でも構わず軽い調子で話しかけてきた。
彼にとって僕はもうクラスメイトだからだろうか。
「私は雲雀丘花屋敷という。よろしく」
ひばりがおかはなやしき?は?
まるで地名みたいな人名のおっさんは僕と同じ町に住んでいると声を控えめにして話す。
第一印象は、身なりは整っているけど厚かましい山男だと思った。
まさか彼が僕の憧れになるとは、この時は夢にも思わなかった。
男に対してほとんど興味ないし仕方ない。
彼は困った時は頼ってくれとメモ用紙に連絡先を書いて渡してきた。
僕に恋してるのかと疑うほどグイグイくる。
続けて語り出した彼の身の上話は夕陽に焼けて溶けた。
特別なことはなかったし、彼に配慮して紹介はしない。
プライバシーの問題というやつだ。
ただ、最後に聞いた彼の夢はちゃんと紹介しておく。
七種すべてのモンスタートリマーになって世界を救う。
僕の片目が覚めた。
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