幼女襲来!トキメキの彼方で愛ズッキュン!!

旭ガ丘ひつじ

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ヨウジョVSタマランテ

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幕間☆幼女の夏休み

『キャンプベース侵略編』

祝詞池のある珠禰宜山。
その麓、浜辺からすぐのところにあるキャンプ場。
普段は人で賑わうそのキャンプ場も、幼女が訪ればさらに賑わった。
青々とした山が草笛を吹いて、側にある観光施設でイルカ達が歌う、そんな幻聴を信じるほどに幼女達は浮かれていた。

メカヨウジョ「海を眺めながら食べる海鮮丼は最高です」もむもむ

ヨウジョ「ハモっておいしいね!」にこっ

コスプレイヤ「ふぇ……」びくっ

ヨウジョ「どうしたの?」

ケモナ「足元を見てみるわん」

ヨウジョ「アリさんがいっぱいだよぅ……」ぷるぷる

ケモナ「ご飯粒を落としたから集まってきたんだわん。アリは目印を残すから、どんどん仲間が集まってくるよ」

ヨウジョ「助けて……」ぷるぷる

メカヨウジョ「アリさんを踏まないように離れましょう。ほら、手を貸します」

ヨウジョ「うん」おそるおそる

コスプレイヤ「待って置いてかないで」びくっ

ケモナ「わん!わんわんわん!」

コスプレイヤ「意味ないよう」ぷるぷる

メカヨウジョ「そっちにもアリさんが。ということは、こっちは囮でしたか。恐るべしアリさん」ぐぬぬ

ケモナ「関係ないと思うよ」

ヨウジョ「しあやちゃん、おてて」ほら

ケモナ「わん」ひょこ

ヨウジョ「お手じゃないよ。おてて、貸してって言ったの」

ケモナ「つい、うっかりわん」しっぽふりふり

コスプレイヤ「わんわん、どいて!はやく助けて!」

メカヨウジョ「後ろにアリさんはいませんよ」

コスプレイヤ「あ、本当だ」にげっ

ヨウジョ「ふー。良かったね」

コスプレイヤ「うん!」

『イルカを弄び散らし倒す』

キャンプ場の側にはイルカと触れ合える人気観光施設、海豚のリゾートがある。
海の一部を区切って作られた自然のプールで、イルカ達は人と遊ぶのをいつも心待ちにしている。
そこへ今日は幼女達が襲来。
バーベキューを前にイルカを弄んで腹をスカスカにしてやる計画だ。

コスプレイヤ「怖い……」ぷるぷる

海へ入ろうと桃色ウィッグだけは外さない、こだわりが強い魔法幼女コスプレイヤ。
彼女は、円らな瞳で大量の海草をくわえた海豚という怪物を前にして、弄ぶ度胸と夜の食欲を同時に失った。
イルカはわざとらしく海草をコスプレイヤにくれてやったが、彼女は海面を漂うそれを触れないよう注意しながら必死に遠ざけた。

コスプレイヤ「はあ……」

メカヨウジョ「ほら。ロボットの私でもライフジャケットがあれば浮きます」ぷかー

コスプレイヤ「深いのも怖いけど、イルカさんも怖いの」

ヨウジョ「怖くないよ。イルカさんはワカメを食べるから」

コスプレイヤ「?」

メカヨウジョ「お父さんが手を引いてくれます。ゆっくりと慣れましょう」

コスプレイヤ「わわ……」ぷかー

ヨウジョ「お父さん大丈夫だよ。一人で泳げるから」ぷかぷか

コスプレイヤ「お父さん!私も一人で泳げるよ!うん、大丈夫!」ぷかぷか

メカヨウジョ「よくできました。上手です」ぱちぱち

イルカ「ホゲー」すいー

ヨウジョ「私のお父さんの言う通りにすれば心配ないからね」

メカヨウジョ「とても素敵なトレーナーさんです」

コスプレイヤ「わかった。イルカさん、お腹に乗るね」よいせ

イルカ「ホゲー」すいー

コスプレイヤ「きゃあー!」

イルカ「ホゲー」すいー

コスプレイヤ「楽しいー!」

ヨウジョ「おかえり」

コスプレイヤ「ありがとうイルカさん」なでなで

ヨウジョ「私はイルカさんの左に掴まるね」

メカヨウジョ「じゃあ、私は右を」

イルカ「ホゲー」すいー

ヨウジョ「はやーい!」

イルカ「ホゲー」すいー

メカヨウジョ「気持ちいい!」

コスプレイヤ「イルカさん偉いね、て、なでなでしてあげて」

ヨウジョ「偉いね。ありがとう」なでなで

メカヨウジョ「ふむ。これは、まるで水洗いした茄子のような手触りです」

ヨウジョ「食べられるかな」

コスプレイヤ「!?」

ケモナ「昔は食べてたよ」

コスプレイヤ「!?」

『星飾りの映画鑑賞会』

バーベキューの後、ケモナが立体映像を星空に投影して、幼女達は原っぱに寝転がっての映画鑑賞と洒落込む。
来場者プレゼントに虫除けアロマが用意されているので安心して鑑賞できた。
そのいい香りと去年の冬に公開されたばかりの劇場版、桜坂の福山ちゃんと青い春、を堪能した幼女達は恍惚な笑みで未来の青春との出会いを楽しみにした。

ヨウジョ「おもしろかった!」ぱちぱち

メカヨウジョ「野外鑑賞もいいものですね」

コスプレイヤ「あ!蛍!」みて

メカヨウジョ「きれい……」ぽー

ケモナ「映像の明かりに誘われて、山から飛んできたみたいだわん」

ヨウジョ「でも、こっちに来ないよ」

ケモナ「虫除けしてるから」

ヨウジョ「がおー!」とてとて

コスプレイヤ「私も!」たたっ

ケモナ「わん!」

ヨウジョ「わっ!びっくり」

ケモナ「蛍は弱い生き物だから追いかけたりしたら可哀想だよ」

ヨウジョ「そうなんだ。ごめんね蛍さん」

メカヨウジョ「あ、しあやちゃん」

コスプレイヤ「なに?」

ヨウジョ「しっー」

メカヨウジョ「ケモナ。私の視界を投影してください」

ケモナ「おまかせわん!」

コスプレイヤ「私の頭の上に蛍さんが!」

メカヨウジョ「記念写真を撮りましょう」

コスプレイヤ「お願いします」てれ

メカヨウジョ「かしゃ」

ヨウジョ「撮ったの?」

メカヨウジョ「現像します」うぃー

ヨウジョ「すごーい。口から写真が出てきた」

メカヨウジョ「どうぞ」

コスプレイヤ「すごいね、ことほちゃん」

ヨウジョ「他に何が出てきますか」

ケモナ「ケモナも出てくるよ」にゅるー

コスプレイヤ「ふぇ……」

ヨウジョ「それは気持ち悪いって」

ケモナ「くぅーん……」しゅん…

『プライベートビーチ占領編』

崖の上に建てられたリゾートマンション、ここには今、人ひとり住んでいない。
幼女大行進による人口減少の深刻な影響はもちろんこの国、この島にもあるのだ。
そのマンションから道なりに下っていくと僅かなプライベートビーチがある。
リゾートマンションもプライベートビーチも幼女達の支配下に置かれた。
日焼け止めも塗って、桃色ウィッグもしっかり留めて、体操も渋々やった。
これで準備はよろし。
さあ、今日も思う存分に楽しむぞ。

コスプレイヤ「カニさん!カニさんいたよ!」

ヨウジョ「え!どこ!」

メカヨウジョ「岩の近くは危ないから戻りましょう」

ヨウジョ「カニさん捕って!ロボットなら出来るよね!」

メカヨウジョ「そう言われても、カニさんはすっかり岩の下に潜ってしまいました」

ヨウジョ「じゃあ、この岩をどかそう」

メカヨウジョ「無理です」

ケモナ「わんわん!こっちだわん!」たたっ

コスプレイヤ「まてまてー!」ぱちゃぱちゃ

ヨウジョ「いいなあ!私もまぜて!」ぱちゃぱちゃ

メカヨウジョ「ナイスアシストです。ケモナ」

ケモナ「わんわん!わんわんわん!」たたっ

メカヨウジョ「獲物……じゃなくて新しいカニさんを見つけたんですね」

ケモナ「ここ掘れわんわん!」

ヨウジョ「わかった!」ほりほり

ケモナ「ハサミに気を付けてね」

コスプレイヤ「わっ!出てきたよ、危ないよ」

ケモナ「ハサミを持ち上げて威嚇しているわん!これは危険よ!」

ヨウジョ「がおー!」

コスプレイヤ「がおー」

ケモナ「がんばれわんわん!」しっぽふりふり

メカヨウジョ「それ」ひょい

ヨウジョ「ことほちゃん、すごーい!」ぱちぱち

メカヨウジョ「はいどうぞ」

コスプレイヤ「やあー!」にげっ

メカヨウジョ「あれ?」

ヨウジョ「逃がしてあげよう」

メカヨウジョ「そうですね」

ヨウジョ「……ん?カニさんのことだよ」

メカヨウジョ「あ、そっちでしたか」

ヨウジョ「ばいばいカニさん」

カニ「ほなまたな」とことこ

『星よ幼女は見ているぞ』

以前、すずりちゃんと激闘を広げたアスレチックのある大きな公園。
住宅街の中に突如として現れるその公園をさらに上がると、星を眺めるための展望台が置かれた広場がある。
そこへ夜遅く、幼女達は両親に連れられて特別なお出掛けだ。

メカヨウジョ「じゃーん。お手製の天体望遠鏡です」

ヨウジョ「これで星が見えるの?」

メカヨウジョ「もちろん。私達でも手に持って扱えるよう小型化しましたが、性能は劣らず完璧です」えへん

ヨウジョ「よくわからない」

メカヨウジョ「ですよね」

コスプレイヤ「お母さん見て!綺麗だよ!」

ヨウジョ「私も綺麗な星を見つけてお母さんに見せてあげよう」よーし

ケモナ「ことほにも星は見えてる?」

メカヨウジョ「ウサギさんも見えていますよ。視界を共有しましょう」

コスプレイヤ「ウサギさん!ウサギさんて言った!?」

ヨウジョ「どこ!」

メカヨウジョ「お月様にいます。探してみてください」

ヨウジョ「どっちが先に見つけるか競争ね」

コスプレイヤ「わかった!」

ケモナ「あーあ、本気にしているわん。ケモナ達ロボットと違って人間だから」

メカヨウジョ「違いはありません。人間もロボットも、どちらも夢を見ます」

ケモナ「その情報はないわん!」

コスプレイヤ「いた!いたよ!」

ケモナ「ええ!」びっくり

ヨウジョ「本当だ、手を振ってるね」

メカヨウジョ「そんなまさか……え。あの影は一体?」

ヨウジョ「あれウサギさんじゃないの」

ケモナ「いるわけないわん。きっとオバケよ」

ヨウジョ「やだ!」ふい

コスプレイヤ「私も星見ない!」ふい

メカヨウジョ「……ケモナ」

ケモナ「くぅーんくぅーん」

メカヨウジョ「もう。誤魔化さないでください」ぷくー

『流しそうめんを逃がさない』

ヨウジョの居城。
ごく一般的な二階建ての木造家屋で、その前には広めの庭がある。
幼女達はある日群がって、そこで素麺を流してやろうという算段をした。
三日めには目処が付いて、さっそく実行する。

メカヨウジョ「じゃーん。そうめん流し機を作って持ってきました」

ヨウジョ「おじさん達はもう帰るの?」

メカヨウジョ「夏祭りの準備がありますので」

ヨウジョ「夏祭り」ぴくっ

メカヨウジョ「あ、いけない。まだ内緒でした」

ヨウジョ「きゃあー!」ズシンドシン!

メカヨウジョ「暴れないでください」

ヨウジョ「やったあ!」ドタンバタン!

メカヨウジョ「ガオー!」

ヨウジョ「!?」

メカヨウジョ「ガオー!!」

ヨウジョ「がおー!!」

コスプレイヤ「くるくるして何してるの?」

コスプレイヤの居城もまた似たような造りで、ここから斜め向かいにある。
彼女は今日も魔法幼女に変身して、流される素麺をすすって頂こうと召喚に応じた。

ヨウジョ「あ、しあやちゃん。いらっしゃいませ」ぺこ

コスプレイヤ「こんにちは」ぺこ

ケモナ「わん!」

コスプレイヤ「ケモナちゃんもこんにちは」なでなで

ケモナ「こんにちわん!」しっぽふりふり

メカヨウジョ「さて、ご両親を呼んでさっそく始めましょう」

シャアアアアア!!

メカヨウジョ「いい勢いです」

シャアアアアア!!

コスプレイヤ「ふぇ……はやいよぅ」

ヨウジョ「取れた」

コスプレイヤ「すごいね」ぱちぱち

ヨウジョ「こうして取るんだよ」すいー

コスプレイヤ「うん」

シャアアアアア!!

コスプレイヤ「あ」すかっ

ヨウジョ「はいどうぞ」

コスプレイヤ「ありがとう」

メカヨウジョ「むむ……中々やりますね。これは負けられません」

ケモナ「こんなことで張り合わなくてもいいわん」

メカヨウジョ「いえ、今度こそ負けられません。勢いを増して畳み掛けるような連続攻撃で攻めます」

ケモナ「根に持つタイプね」

ビシャアアアアア!!

コスプレイヤ「きゃ!」

ヨウジョ「二つとも取れたよ」ほら

コスプレイヤ「ええ!」

ビシャアアアアア!!

ヨウジョ「楽しいね。はいどうぞ」

コスプレイヤ「うん。ありがとう」

メカヨウジョ「待ち伏せて一気取りとはやりますね。おのれ最強の幼女……!」ぐぬぬ

ケモナ「どっちも変わらないわん」

『験を担いでてんてこ舞い』

満月の夜。
幼女達は浴衣を装備して河川敷に集った。
人はいない、これから戦場となるここは幼女達の貸し切りとなっている。

ヨウジョ「貸し切りって何?」

メカヨウジョ「予定されている明日を前に、今夜は特別に私達だけということです」

ヨウジョ「そうなんだ」

ここは海に面した、温泉で有名な子獅子小市。
子獅子小市は海側に都会的な町があって、その反対側、山に囲まれるように田舎村がある。
幼女達は田舎に近く、人の消えた波里町に住んでいる。
ところで、子獅子小市の中心を山から海にかけて一本の河が貫いている。
毎年、その河川敷で行われるのが梅雨明け祭だ。
今年の梅雨を感謝して祝い、また来年の梅雨を祈願する、この市で最大規模のお祭りである。
しかし今宵は、幼女達の為に催された特別なお祭り、その名も梅雨明け幼女日焼け祭。
会場いっぱいに響き渡る力強い太鼓と穏やかな笛の音のハーモニーが不思議な高揚感を与える。
幼女達は家族と手を繋いで楽しい夜に期待した。

コスプレイヤ「とりあえず、ぐるっと回ろう」

ヨウジョ「そうだね!お母さんお父さん、行こう!」

コスプレイヤ「じゃあ、後でね」

ヨウジョ「またね!」

メカヨウジョ「またね」

ヨウジョとコスプレイヤは、それぞれ反対方向に家族と仲良く歩いて行った。
その間でメカヨウジョだけが、ぽつん、と取り残された。

メカヨウジョ「……さて。私はどうしましょう」

ケモナ「ケモナがいるよ」

メカヨウジョ「そうでした。ごめんなさい」

相棒「俺もいる」すっ

メカヨウジョ「どうしてあなたが」びっくり

主人公「僕もいる」すっ

メカヨウジョ「主人公まで」まさか

ミス「私もいます」すっ

メカヨウジョ「みんな……!」かんどー

相棒「全部無料なんだ。さあ、飲み食いしまくろう」

ミス「あなたのお酒は用意してありませんので悪しからず」

相棒「すぐそういうことする」がっかり

メカヨウジョ「あの、お祭りを盛り上げてくれるみなさんは平気なんですか。一応妙な格好をしていますけど」

主人公「ああやって、お面を被って視野が制限されているから平気だ」

ケモナ「出店の方が一人、また一人と倒れたわん」

主人公「なに!」

ケモナ「手元が見えないから外したらやられました、だって」

相棒「こんな楽しい日にまで!どうしてだ!うおおお!」

ミス「仕方ありません。私は救急テントへ向かいます。あなた達は先回りして出店の見張りをお願いします。ケモナちゃんは二人に、監視カメラを使って御両家の動向を伝えてください」

ケモナ「アニメイツ!だわん!」ビシッ

相棒「ごめんな。ことほちゃん」なでなで

メカヨウジョ「頭を撫でて平気なんですか」

相棒「…………」ずしゃあ

主人公「阿呆おじさん……!」くっ

ミス「本当に阿呆ですね」呆れた

メカヨウジョ「私が膝枕して、ここで一緒に待っています」

主人公「それはやめておこう。目が覚めたら天国だ」

メカヨウジョ「では、どうしましょう」

主人公「このまま寝かせておこう」すたすた

ミス「ええ。人も来ませんしそうしましょう」すたすた

メカヨウジョ「あなたは嫌われているんですね」つんつん

ケモナ「そんなことないと思うわん。二人だって本当は助けたいの。でも、おじさんという重い荷物を運べば時間をロスしちゃう。だから、言い訳をして相棒をここに残したのよ」

メカヨウジョ「なるほど」

ケモナ「多分」

さて。
そんなこんなで、幼女達は七月から八月にかけてあちこちで暴れ乱れた。
とにかく家でも外でも思う存分遊んだ。
しかし八月に入ると、仕事と幼女の板挟みに両親もさすがに疲れてミイラのようにひからび、続く猛暑に幼女も大人しくなり、セミだけがまだまだ元気だった。

ミス「ことほちゃん。アルバムを買ってきたよ」

メカヨウジョ「ありがとうございます」

ミス「たくさん撮ってもらった写真をここに好きなように飾りなさい。貼って剥がせるタイプを買ってきたからね」

メカヨウジョ「はい」

相棒「ことほちゃんいる?」ひょこ

メカヨウジョ「女の子の部屋に入るときはノックしてください」じとー

博士が使っていた研究室は現在、可愛くお洒落に飾られてメカヨウジョの巣となっているのだ。

主人公「ははは!まったく、常識だろう」かたぽん

相棒「なんだお前も出掛けていたのか。その袋は、もしかしてニャオンに行ったのか」

主人公「そういうあなたも。いやあ、似てる人を見かけたと思ったら」

ミス「馬鹿みたいですね」

相棒「何か言いました?」

ミス「いいえ。それより、何を買ってきたのでしょう」

主人公「僕はアルバム作りにと、シールをいくつか選んで買ってきました。はいどうぞ」

メカヨウジョ「わあ、ありがとうございます」

相棒「奇遇だな。俺もだ」はい

メカヨウジョ「ありがとうございます」ぺこ

主人公「しかし、いっぱい遊んだな」

相棒「おかげ様で俺達も夏休みをもらえて良かった」

ミス「驚くことに、毎日のトレーニングだけは欠かさず行っていましたね」

相棒「当たり前です。いい大人ですから」むきっ

メカヨウジョ「いい筋肉です」ぶらさがり

相棒「トキメキするからやめて」

主人公「ことほちゃん。来年は、島のみんなと楽しもう」

メカヨウジョ「島のみんなとですか」

相棒「それから島を出て、国からも出て海外旅行なんてのもありだ」

メカヨウジョ「おお……!」きらきら

相棒「目のライトが物理的に眩しい……!」

ミス「それを実現するためには今年中に何とかしなければなりません」

主人公「本部にも尽力するよう改めて強くお願いしました。信じて、こちらはこちらで頑張りましょう」

ミス「まあ、本部に連絡を。それは気を引き締めねばなりません」

相棒「プレッシャーをかけてくれたな。荷が重い」

主人公「それは、ことほちゃんが背中をよじ登っているからだ」

相棒「何してるの!こら、悪戯はいい加減にやめなさい!」どきどき

主人公「ことほちゃん、相棒にはいつも容赦ないな」

ミス「いい遊び相手が出来て良かったです。お互いに良い影響を与えることでしょう」

ケモナ「わおーん!幼女強襲幼女強襲!」

主人公「幼女の教習?免許制になったんですか」

ミス「そんなわけありません。前触れなく攻めてきたということでしょう」

主人公「何だって!」

ミス「状況の説明をお願いします」

ケモナ「一機のプライベートジェット機がマッハのスピードで瑞穂の国に接近中だわん。あと十五分以内には瑞穂の領空に進入するよ」

相棒「ここに空港はないよな」

主人公「とすれば幼女の爆撃!だが何の目的で!」

ミス「ケモナ。わんだふるリサーチを実行してください」

説明しよう。
わんだふるリサーチとは、ケモナが人工知能を駆使して必要な情報を世界中から収集することである。
これは基地のコンピュータに多大な負荷をかけて機能を制限するため、緊急時にしか使用することが許されない。

ミス「本部も焦っているみたいです。報告のメールから敬語が抜けています」

主人公「本当だ。て、海外の支部が一つ壊滅しているじゃないですか!」

ミス「原因は、ラブ注入によるフードラブと書いてあります」

相棒「は?」

主人公「ことほちゃん肩車してもらったの。あらよかったね」

メカヨウジョ「はい」にこっ

相棒「この腕を見ろ。俺は今、洗濯バサミを全ての指に挟んで耐えているんだ」

主人公「それで、フードラブとは何でしょう」

ミス「幼女が飲食物に萌を注入することによって引き起こされる中毒的なトキメキのことです」

主人公「言葉を聞くだけで食欲が失せる。具体的にはどうなるんですか」

ミス「幼女が君臨する飲食店と、そこで提供される萌え立ての料理が頭から四六時中離れず恋い焦がれることになります」

相棒「一言で例えるなら、遠距離恋愛ですね」

ミス「グッド例え。花丸をあげましょう」

メカヨウジョ「口紅で頬に書いてあげます」ぬりぬり

相棒「口紅はオモチャじゃありません!」

ミス「それ私のなんですけど」

主人公「ちょっといいかな。ことほちゃん」

メカヨウジョ「はい。何ですか」

主人公「君は僕らに何度も手料理を振る舞った。しかし、僕らにはそのような症状はない」

メカヨウジョ「私はいつも機械的に問題なく調理して、十分に満足できる普遍的な料理を提供しています」

相棒「良かった……愛は込められていないんだな」

メカヨウジョ「もちろん込めていますよ」ぐりぐり

相棒「ごめん!怒らないで!」いてて

主人公「とすれば、違いは何だ」

主人公は腕を組んで深く考えてみた。
だが思い当たることは何もなく、おろしポン酢のようにさっぱりだ。
ミスリーダーがその様子を見て、重い口をやむを得ず開く。

ミス「実は、フードラブは世界唯一の、限定的な地域で起こる異例の症状なんです」

主人公「世界唯一」

ミス「ええ。公になっていないトップシークレットなのですが、この状況では仕方ありません。話しましょう」

主人公「いいんですか。まずいんじゃあ」

ミス「構いません。私には相応の地位と権力があります」

主人公「ミスリーダー。あなたは一体何者なんですか」

ミス「ただの努力家、でしょうか。心配しなくとも裏切ったりなんてしません」にこっ

主人公「それは疑い無く信じています」

ミス「ありがとう。では話を続けます」

主人公「はい」

ミス「まず、あなた達は世界的権威を誇るタマランチ・デ・コンパニオン、そのグループのトップであるタマランチ会長をご存知でしょうか」

主人公「まったく存じません」

相棒「同じく」

ミス「安価で美味しい料理がお腹いっぱい食べられる大衆レストランを世界で最も多く展開する飲食グループとして有名なんですが、ほら、日本ではメシドキというレストランが有名です」

主人公「ああ、子供の頃からお世話になっているチェーンレストランの」

相棒「世界中の名物料理が食べられるから楽しみだった」

主人公「目移りするよな」

相棒「確か、この島にもありましたね」

ミス「はい。町の方に行けば」

主人公「打ち上げはそこにしましょう」

ミス「浮かれている場合ですか」

主人公「ごめんなさい」

ミス「はっ!まさか目的地はそこ……!」

ケモナ「検索が終わったわん!」

ミス「目的地は町内にあるメシドキッですか」

ケモナ「ううん。町内への侵攻はひとまず心配しなくていいわん」

ミス「良かった」ほっ

ケモナ「はじめに、タマランチ会長はここ数ヶ月、すずりちゃんについて、ネットやインタビューでちょくちょく発言しているわん。それが最近、しあやちゃんの来訪のニュースを見て、それから……」ちら

メカヨウジョ「幼女パンデミックですね」

ケモナ「うん。それをキッカケに、この島に、すずりちゃんにより注目したみたいだわん。いちど娘と会わせたい、て一昨日のブログに書き込んでる」

相棒「それがどれだけ危険なことかも知らずに。これは無責任な発言と行動だ」

主人公「待ってくれ。娘を同じ年頃の子に会わせてやりたい。もし孤独な幼女を持つ親なら、その願望は察するに余りある」

相棒「そう言われても、俺は親じゃないから分からない」

ミス「もし、ことほちゃんが孤独なら、あなたはどうしたいと考えますか」

相棒「一緒に遊んであげたい、美味しいものをたくさん食べさせたい、寄り添って優しく寝かせたい、友達を作ってやりたい……これがその思いか!」

主人公「何となくでもわかったか」

相棒「何となくわかった」

ミス「タマランチ会長の娘は孤独な幼女です」

主人公「やっぱり」

ミス「レストランタマランチ、その本店の最奥、そこにある秘密の厨房で料理にラブ注入している。これが先ほど途中まで話したトップシークレットです」

主人公「ラブ注入とは?」

ミス「タマランチ会長がメイド喫茶のメイドさんに感化されて教えた、幼女の仕上げです」

主人公「つまり」

メカヨウジョが、よいしょ、と相棒の肩から降りた。
彼は今から行われようとする恐怖の実験を察した。
それも自分が実験体に選ばれることは見て間違いない。

相棒「ちょっと待て。ほら、肩に戻ろう」

メカヨウジョ「萌え萌えきゅんきゅん!」

メカヨウジョは手でハートを作って、愛くるしい動作でラブを注入した。
瞬間、相棒は目を伏せ、トキメキに備えて体を硬直させた。
しかし何も起こらない。

相棒「あれ……?」

主人公「動作だけでこの威力か」がくっ

ミス「はあ……はあ……。あなたは、目を伏せて正解でした」がくっ

相棒「え、そんなに可愛かったですか」

メカヨウジョ「もう一度やりましょう」

相棒「いやいい。それより、何も起こりませんよ」

ミス「ラブ注入は飲食物にしか効果がありません。今行われたのは、その動作に過ぎません」

ケモナ「科学的に考えて理解出来ないけど、それでも彼女は料理にラブ注入が出来るみたいわん」

相棒「まあ、とにかく、彼女の作った料理には要注意ということは理解した」

ケモナ「彼女の料理に対する熱意と愛情は本物だわん。わざわざ養子になって、タマランチの姓を襲名するほどよ」

主人公「そんな馬鹿な話はない!幼女が自分から養子になることを選ぶなどあり得ない!」

ケモナ「離乳食を終えて、初めて外食をした時に弟子になることを志願したそうだわん。それから去年、両親を交えて相談を重ねて、会長からタマランチの姓を貰って本格的に料理と向き合い始めたわん。急なのは小学校の受験を控えてるからみたい」

主人公「お受験まで考えての本気……!」

相棒「料理を専門とした小学校なんてあるのか」

ケモナ「わん」

相棒「これは今までになく手強いな」

主人公「ああ、膝が笑ってる」がくがく

相棒「それは、ことほちゃんの魅力のせいだろう」

ケモナ「たった今、幼女の瑞穂領空への侵入を確認!わわ、これはびっくりわん!」

相棒「どうした」

ケモナ「プライベートジェットが減速後に旋回飛行。間もなく一枚のパラシュートの降下が、待機してる特務員によって視認されたわん!」

ミス「主人公の恐れたことが現実になりました」

主人公「無差別的な幼女の爆撃。そのポイントはどこになる」

ケモナ「……にゃおん」

主人公「!」

ケモナ「ニャオンの屋上が近いわん」

ミス「ケモナちゃん、ニャオンへ緊急連絡!」

ケモナ「アニメイツ!だわん!」

ミス「外への避難は間に合いません。避難プランを竹から梅に移行、可及的速やかに身近な店舗へ自主避難を勧告。シャッターを降ろして閉じ籠るように」

ケモナ「わんわん!」

ミス「特務員には屋上で何とか侵攻を食い止めるよう伝えてください。彼らは労いという手段で支部を壊滅させ、無理矢理にこちらへ攻めてきました。無理のない出来る範囲での対応で構いません」

ケモナ「緊急通達、わんわんわん!」

ミス「二人は幼女を必ず確保して、とりあえずニューホテル淡慈へ移送してください」

主人公「アニメイツ!」

ミス「相手の人数は二人になるでしょう。タマランチ会長が幼女を連れているはず。念のため、彼が反撃に出る可能性も留意して慎重に行動してください」

相棒「アニメイツ!」

ミス「今より幼女のコードネームをタマランテとします」

相棒「タマランチじゃなくて?」

ミス「その名で呼べば会長も振り向きますので」

主人公「ややこしいが、それでいこう」

ミス「タマランテの確保と人質の救助。あなた達に任せます」

相棒「任されました!」

主人公「行ってきます!」

ケモナ「ニャオンの屋上への降下を確認したわん」

ミス「何とか間に合わせてください!」

ケモナ「そうは言っても……連絡がきたわん」

ミス「どなたからですか」

ケモナ「ニャオン責任者からの緊急連絡だわん」

ミス「繋げて。もしもし聞こえますでしょうか」

責任者「はなし聞いて職員連れてすぐに屋上の鍵を閉めたんやけどな、こらあかんわ」

ミス「どうなさいました」

責任者「怪獣でもやってきたんか。なんや、ものっそい勢いでドアがガンガン殴られるよる。職員もビビってあかんわ」

ケモナ「ミスリーダー、撮影された降下の様子を見てわん」

ミス「タマランチ会長の前にタマランテがいますね」

ケモナ「ズームイン!」

ミス「あれは……タマランチ会長が脇に抱えている白いのは何でしょう」

ケモナ「多分、冷凍マグロかな」

責任者「なんや、どないしたんや。もしもし聞こえますかー」

ミス「逃げて」

責任者「なんて?」

ミス「みなさんはやく逃げてください!」

責任者「うわあ!!」

ミス「どうしました!」

責任者「あかーん!みんな逃げるんや!」

スピーカーから激しい乱暴の音と悲鳴が聞こえてきた。
ミスリーダーは俯いて悔しさに歯を食い縛る。

ケモナ「ミスリーダー」

ミス「連絡を切って」

会長「待てい」

ミス「その声は」

会長「んん、ミスリーダー。瑞穂の国のもてなしは随分と乱暴になったね」

ミス「ご無沙汰しております、タマランチ会長。それは大変失礼致しました」

会長「わたしはね。ただ娘の友好を目的にここへ来た。それが、まるで間違いだと弾圧するような対応を君ら紅白はとる」

ミス「それは理由があってのことです」

会長「んん、わたしは彼らの抑圧的な思考が昔から好かない。幼女の隔離、あの日から滲み出る邪悪は世界をすっかり汚してしまった」

ミス「そんなことはありません」

会長「あるね。幼女も人だ。人を思い遣るつもりなら、何より優先して幼女を思い遣るべきだ」

ミス「思い遣って努力しています。それはあなたも昔からよくご存知でしょう」

会長「もちろん。だから、わたしは君らに惜しみ無い協力をしている。盟友である照葉野財閥に免じて、わたしは堪えているんだ」

ミス「堪えて、我慢できなくなったから強硬手段を取ったわけですか」

タマランチ会長は文字通り、ぴーちくぱーちく笑う。

会長「それは考えすぎだ。とにかく、まずは、ここから幼女の解放を始める」

ミス「どうやってなさるおつもりでしょう」

会長「うちの娘、モモルディカの料理を食べてもキュン死に至ることはない。君らがラブ注入と呼ぶ仕上げを幼女達に教えて、メイド喫茶発祥の地であるここ瑞穂から世界にラブレボリューションを発信するのだ。どうだね友好的だろう」

ミス「あなたは立派な篤志家です。しかし、その考えは決して友好的ではなく、あなたが忌み嫌う抑圧的で独善的なものです」

会長「果たしてそうだろうかね。モモルディカの料理を食べれば、君もわたしの素晴らしい見識をきっと理解するはずだ」

タマランテ「私の料理は世界一ですの。みんなメロメロになってハッピーエンドよ」

ミス「くっ!甘すぎないビターな声と、チョコチップを散らすようなつたないお嬢様言葉だけでこの魅力!」

会長「んん、決めた。初めに旧友である君に挨拶へ伺おう。君が贈ってくれたこの国の習わし、暑中見舞で住所は分かっている」

ミス「しまった……!」

会長「んん、そうかそうか。モモルディカが是非、君らに敬愛を込めた残暑見舞を贈りたいらしい。喜んで受け取ってくれたまえ」

タマランテ「楽しみになさってね!私の残暑見舞は刺激的よ!」

特務員「あーっと!幼女と会長がいた!そこを動かないでください!」

会長「んん、今度はこちらが彼らを手厚くもてなしてあげよう。ではミスリーダー。未来ランデブー」

未来で会おうと茶化して一方的に連絡が切られ、騒がしかったオペレーションルームは水を打ったように静まった。
セミも空気を読んでか鳴くのを止めた。
ふと、思い出しようにメカヨウジョがきく。

メカヨウジョ「知り合いなんですか」

ミス「幼女大行進の少し後、私が義勇隊のメンバーとして活動していた頃にお世話になった人です」

主人公「ミスリーダー聞こえますか」

ミス「ええ。どうぞ」

主人公「だいたいの話はケモナちゃんから聞きました」

相棒「主人公の運転する車がもうすぐニャオンに着きます。ここで決着つけて、支部へ向かわせはしません」

ミス「まるで博士のように、彼は昔とは人が変わってしまったみたいです。それこそ理性を失った狂暴なゾンビみたいです。本当に気を付けてください」

相棒「ショッピングモールにゾンビか」

主人公「最高のシチュエーションだ」

ミス「冗談じゃありません!」

主人公「ご存知ないんですか。ショッピングモールを訪れた主人公がゾンビに負けることはありません」

ケモナ「でも、相棒がゾンビに食べられる可能性が松だわん」

相棒「ケモナちゃん、それは言わない約束だ。縁起でもないこと言わないでくれ」

ケモナ「ごめんなさい」しっぽふりふり

メカヨウジョ「私も援護に向かいます」

主人公「君は僕らの内緒幼女だ。タマランチ会長にも知られていないはず。もしもは起こさないつもりだけれど、僕らが万が一にやられた時はタマランテと遊んでやってくれ」

メカヨウジョ「分かりました。オモチャを準備して待機します」

ケモナ「ケモナも遊ぶわん!」しっぽふりふり

主人公「二人とも頼んだ」

その時、これから起こる戦いの激しさを暗示するかのように雷鳴が轟いた。

相棒「青天の霹靂だ」

主人公「ああ。嵐が来るな」

ニャオンの入り口前へ車を停めて、二人は店内へ突入した。

主人公「屋上は左右どっちだ」

ニャオンは弓なりの建物の中央に入り口を構え、左右に商店をズラッと並べている。
一階には左奥にスーパーニャオンがあり、その他は飲食店や雑貨屋が多い。
その全ての店にシャッターが降りていてどれが何の店か判断はできない。
とにかく、平日だったことが幸いして、無事に避難が完了していることは確認した。
普段は人で賑わうショッピングモールの華やかさもショッキングな出来事に怯えて息を潜めている。
ただ、お洒落なピアノジャズだけが変わらず店内に流れていた。
それが二人の張り詰めた気を丁度よくほぐしてくれた。

ミス「右です。エレベーターは止めていますので、エスカレーターを利用して降りてくるはずです」

相棒「こっちから迎え撃つか」

主人公「ここで待っていても仕方ない。そうしよう」

ミス「正面からぶつかるつもりですか」

相棒「俺達、男ですから」

早足にしばらく歩いて端に着いた。
エスカレーターを見上げるも人影は見当たらない。
まさか、わざわざ反対側へ移動したのかと考えたが、上から物音が聞こえたのでこちらでいいことが分かった。
エスカレーターに足を乗せた二人は天国へ誘われる。
一階、二階、三階、最後に四階へ上がった。

相棒「いないな」

主人公「このエスカレーターを上がれば屋上、屋外駐車場のはずだ」

相棒「うーん。トイレかな」

主人公「待て。この上は自動ドアだ」

相棒「うーん?」

主人公「タマランチ会長は、わざわざ鍵を閉めたドアをぶち破って侵入した」

相棒「……職員用通路か!」

主人公「やられた!」

そこから階下を見下ろすと、タマランテらしき幼女がブロンドのポニーテールを揺らして大きく手を振っているのが見えた。

相棒「タマランテ発見!裏をかかれました!急いで追跡します!」

主人公「待て!」

相棒「何だ」

主人公「タマランテが動かない。それに一人だ」

会長「んん、君は賢いね」

二人が声のする方へ振り向くと、身を屈めた渋く老いた巨人が舞い降りてきた。

会長「飛び掛かって始末するつもりだったが、褒美にもてなそう」

巨人がエスカレーターから降りて体を直立させる。
ゆうに四㍍はあろうかという巨体を二人は間抜けな顔で見上げるしかなかった。
その肩には三百㌔級の巨大な冷凍マグロを抱えている。
高そうなスーツにはマグロの霜が溶けて染みがポツポツと出来ていた。
白い肌、髪も髭もない、鉤鼻、目は光のない黒豆、口は小さい。
相棒はその顔を見て一羽の猛禽類を思い浮かべた。

相棒「メンフクロウの化け物だ……」ゾゾッ

主人公「ばか、会長に失礼だ」しっ

胸には四ツ星の刻まれた巨大なバッジがこれ見よがしについている。
彼がタマランチ会長であることの証だ。
タマランチ会長はおむもろに首を九十度横に傾けた。
相棒が小さく悲鳴をあげる。

会長「ぴーちくぱーちく。わたしが怖いですか、よく言われます」

相棒が防衛本能から幼女捕獲用のマジックハンドをリュックを降ろして取り出し、ためらいなくタマランチ会長へ向けた。

主人公「よせ落ち着け。それ以上、失礼を重ねるな」

相棒「感じないのか、全身に突き刺さるこの殺気を」

主人公「全然」

会長「そちらは勘が良いみたいだね」

相棒「さっき始末するって言いましたね」

相棒がタマランチ会長の細い首をアームで締めた。

相棒「やられる前にやるしかない!」

主人公「あちゃーやらかした」

会長「ガパオ!」くわっ

目を見開いた会長がアームを掴んで引き剥がす。
そして、肘と膝で挟んで砕いた。

相棒「な……!」

会長「オモチャでは、幼女をたぶらかすことは出来ても、わたしを倒すことは出来ません」

会長は破壊したアームを踏みにじりながらそう言って、終わりにニヤッと笑った。
その笑みは勝利の余裕ではなく、奇襲の合図だと気付いた時には既に遅く、小さな手が相棒の腰を掴んでいた。

相棒「タマランテ!」どきっ!

タマランテ「掴まえましてよ」にこっ

相棒「海外幼女はまた違った魅力で美しや……」がくっ

眩き天使の微笑みに、相棒の全身は骨を抜かれてふにゃふにゃになった。
そのふやけた体に冷凍マグロが叩き付けられる。
それは主人公の口から警告が出るよりも早かった。

主人公「相棒ー!!」

吹き飛んだ相棒は雷鳴に似た音を立てシャッターにめり込んだ。

相棒「かはっ……!」

会長「んん、悪いね。君達に邪魔されると困るんだ」

主人公「あなたは僕達がここへ来ることを知っていて待ち伏せたのですか」

タマランテ「もち!」うぃんく

タマランテが跳ねるように相棒へ駆け寄る。
相棒は必死に体を動かして逃げようとするが、しっかりめり込んでしまって逃れられない。

相棒「何をする気だ。よせよせよせ」

タマランテ「怖がらなくてもよくってよ。挨拶するだけですの」

相棒「かっわいいなあ」でれでれ

主人公「ヨウジョコスプレイヤケモナメカヨウジョ!」

相棒「え?」

主人公「僕達が守るべき誇りを思い出すんだ!こんなところで負けて、彼女達を泣かせてそれでいいのか!」

主人公はマジックハンドでタマランテを掴まえて離さない。
すごい力で引っ張られるが、それでも踏ん張って持ちこたえる。

タマランテ「離してくださいまし。挨拶するだけのことよ」

主人公「離さない。君が……可愛いから」どきどき

主人公もトキメキはじめていた。
幼女との接近戦は精神力がゴマを擦るみたいに削られ、いつだって短期決戦が望まれる。
鍛練を重ねて強くなったといっても、新鮮な刺激には慣れが必要だ。
また、タマランテの魅力は時計の針を指で回すように悪戯だったのでなおさらだった。

会長「見苦しい」

降り下ろされた冷凍マグロがアームを容易に砕く。
主人公は瞬間、暴れ狂うオポッサムのオモチャをタマランテの足元へ投げてやった。

タマランテ「きゃあ!」びくっ

会長「いい加減よさないか!」

会長は叫んで、可哀想にもオポッサムを強引に引きちぎった。
千六百八十円もしたオポッサム君はあっという間にリサイクル品になってしまった。

会長「何をしようと、わたし達を止めることは不可能だ」ぽい

主人公「そんなことはない」

会長「んん、君らは何のために戦っているんだね」

主人公「幼女を見守り、世界を救うためです」

会長「そう言うのならば、モモルディカのこともきちんと見守ってやりたまえ」

主人公「それは……」

会長「トルティーヤ!」

隙をついて、冷凍マグロが主人公の腰にフルスイングで叩き付けられた。

主人公「ぐべはあ!」

相棒「主人公!」

主人公は相棒の手前に転がって、腰の痛みに悶えた。
肉屋の親父との戦い以来、彼は腰に気を付けていたのに不意にそこをやられ、完全に意気消沈してしまった。

主人公「食べ物をそんな風に扱うんじゃない」

ごもっともである。
しかし今の会長には、キリンの耳に恋愛相談、という瑞穂の諺そのままに届かない。

タマランテ「ビッグダディは変わりましたの。すぐ怒って食べ物でお仕置きしたり、わたしのため、わたしのため、て皆を叱るようになりましたの」

主人公「タマランテちゃん?」

タマランテ「ごめんあそばせ。お願いしますから言うことを聞いてくださいまし」

タマランテは言って、主人公の頬に自身の頬を当てた。

相棒「チークキッス!」

海外特有の頬と頬を合わせる親愛の礼である。
主人公は、柔軟なもちもちほっぺを当てられた右頬をひきつらせ半笑いになって固まった。

タマランテ「よろしくて?」にこっ

主人公「ふぉい」

主人公はすっかり魅了されて気を失った。
こんなに可愛らしい挨拶を交わされては当然のことである。

タマランテ「あなたもよろしくて」

相棒「最後に俺からも言わせてほしい」

タマランテ「何でしょう」

タマランテが傾けた小さな耳に気を取られて萌え尽きないよう目を伏せて話す。

相棒「君達が今から向かおうとしているところには、俺にとってかけがえのない人達がいる。君がそこに行けば、お互いにとって悲しいことになる」

タマランテ「まあ、それは困りますこと」

相棒「だろう。俺達が、なんとか会長を正気に戻す。そのための準備をするから、今日はニューホテル淡慈で休んでほしい。目の前には海もあって、温泉もあっていいところだ」

タマランテ「温泉!温泉には興味がありましたの!」きらきら

相棒「顔が近い!離れて!」ふい

タマランテ「失礼あそばせ」にこっ

相棒「会長!一時休戦を願います!」

会長「なあにい?」

会長は顔をほぼ逆さまにして鋭く睨んだ。
相棒は尿漏れを最小限に留めて、それでももう一度お願いした。

タマランテ「モモルディカからもお願いします。長旅でへとへとになりましたの」ふにゃー

会長「んん、それは可哀想だ。ホテルへ急ごう」

タマランテ「そうしましょう!」

相棒「会長、車を使ってください。店の前に停めてあります」

会長は相棒に指示されて主人公から鍵をもぎ取った。
そしてタマランテが相棒の左頬へ別れのチークキッスをして、彼の意識もそこで途切れた。

相棒「はっ!」

目が覚めると病院ではなく、ミスリーダーの部屋にいた。
クーラーがほどよく効いていて心地良い。
二人はシワ一つない布団に寝かされ、親切に動物柄のタオルケットも掛けられていた。
水滴の残る窓の外はすっかり茜色で、ひぐらしの鳴き声が昼間の熱を冷ましている。

相棒「病院じゃないのか」

ミス「いつも集中治療室では、逆に休めないでしょう」

相棒「はい。助かります」

主人公「ほげっ……!」

相棒が隣へ目を遣ると、主人公がメカヨウジョの完璧な整体マッサージを受けていた。

メカヨウジョ「腰は治せても、トキメキによる筋肉の麻痺は治せません」ぐぐっ

メカヨウジョの言葉に相棒は気付いた。
爪先から頭まで左半分が痺れることに。
それを察して、枕元に座るミスリーダーが慰める。

ミス「チークキッスはとんでもないトキメキだったようですね」

相棒「職員と特務員も同じようにやられましたか」

ミス「いいえ。彼らは無理矢理に手作りクッキーを食べさせられていました」

相棒「フードラブ……」

ミス「会長とお話しして、明日、ニューホテル淡路にて幼女のお料理会を催すことが決まりました」

相棒「ずばり、フードバトルですね」

主人公「しかし、相手はプロ幼女だ」

相棒「こっちが束になってかかっても不利だな」

主人公「対策はどうしましょう」

ミス「私は、萌をもって萌を制する考えです」

主人公「それはつまり、ヨウジョ達にラブ注入させるということですか」

ミス「ええ」

相棒「余計にややこしいことになるのでは?」

ミス「以前、ヨウジョとコスプレイヤが邂逅した時、互いの魅力が衝突して弾けたのを覚えていますね」

主人公「はい。ああ、なるほど。その理屈で萌と萌をぶつけてトキメキを体外へ発散させようというわけですね」

相棒「それは不確かで危険な賭けになります」

ミス「だからこそ、前もって私自身で試します」

相棒「自身で試すって」

相棒の言葉を遮るように、にわかにミスリーダーは立ち上がった。

ミス「あなた達はこのまま、ここで休んで構いません。私は今夜、ことほちゃんの部屋で寝泊まりさせてもらいます」

それだけ言って、背を向け玄関へと歩き出した。

主人公「ちょっと待ってください!まさか明日はミスリーダーが前線で戦うおつもりですか!」

ミス「その覚悟です」

主人公「あなたを失えば、ボクたちはもう戦えない」

相棒「それに今から試すって、失敗したらそれこそ問題になります」

ミス「必ず成功させて明日に挑みます。大丈夫、安心してください」

ミスリーダーは最後に振り向いて、自信に満ちた、いや勝ち誇った顔で言い切った。

ミス「私の魅力が幼女に負けたことはありません」

玄関の戸口がそっと開いて閉じられた。
二人はその静かな余韻のなか、ミスリーダーの幼女に勝る魅力について考えてみた。

相棒「ミスリーダーの幼女に勝る魅力とは?」

主人公「若いけれど、大人びてセクシービューティーなところかな」

相棒「年下相手に、この浮気者」

主人公「あなたは意地悪だな」ムッ

相棒「とは言え俺も同意する、が、うん、好みとはちょっと違うかな」

メカヨウジョ「報告しておきます」じとー

相棒「しっー!言っちゃだめだぞ!」

主人公「本人のいないところで悪口を言うからだ」

相棒「悪口じゃない」

その折、ミスリーダーはヨウジョ邸を目指してママチャリをこいでいた。
空は紫苑色に変わりはじめ、吹く風も優しい。
それでも、ミスリーダーの汗は止まらなかった。
気温のせいではなく、幼女の手料理をご馳走になることを想像して汗が吹き出していた。
二人が倒れてしばらく、ミスリーダーはヨウジョとコスプレイヤ、それぞれの幼女邸へ電話を掛けた。
今夜、現在の状況についての説明を兼ねて、食事をご馳走になりたいと頼んだ。
すずり、しあや。
両名の手料理を頂きたいと頼み申した。
両家は急でワガママにも図々しくもとれる申し出を快く承諾してくれた。

ミス「清里家に、七種家はもういらっしゃるかしら」

ミスリーダーは魅力に備えて、白いワンピースという攻撃装備と、ガスマスクを防御装備に着用して訪れた。
チャイムを受けて出迎えてくれたヨウジョの母は腰を抜かして絶叫したが、彼女が名乗ると、この失礼無礼も笑って許してくれた。
彼女はその好意に甘えて装備を着用したままお邪魔する。
奥が台所になるのだろう、そこから顔を覗かせる幼女達は突然やって来た来訪者の姿に、歯茎が見えるくらい白い歯を剥き出しにして驚いていた。
ヨウジョ母が声を掛けて、玄関脇にあるリビングに彼女を案内する。
彼女は幼女がいないことを確認してマスクを外し、まず、揃ったご両家に丁寧に深々と挨拶を済ませた。
それから、支度が済むまでどうぞ遠慮なく寛いでください、と言われたので、マスクを被り直して流木のようにカーペットの上に寝転がった。
一度、ヨウジョが興味本意で様子を見に来たが、やっぱり歯茎が見えるくらい白い歯を剥き出しにして逃げるように立ち去った。

コスプレイヤ「お待たせ……」ひょこ

ミス「…………」

コスプレイヤ「やっぱり怖いよぅ!」にげっ

支度が済んだようだ。
リビングにご馳走が次々と運ばれてきた。
ミスリーダーは正座して運び終わるのを待った。
そして仕方なくガスマスクを外した。
さすがに食事に困るためである。

ヨウジョ「この写真の人。おじさんの友達だよね」

ヨウジョは以前に手渡したクチャクチャの写真三枚からミスリーダーのものを指した。
空腹の影響か、その人差し指が実に美味しそうに見えた気がする。

ミス「はじめまして。おじさんの友達です」

ヨウジョ「はじめまして」ぺこ

ミス「偉いね。きちんと挨拶出来てもう可愛くて仕方ない」ときとき

ヨウジョ「え?」

ミスリーダーは画面越しではなく、こうして初めて対面してみて、瑞穂最強の幼女の魅力の凄まじさを強烈に体感した。
おじさん二人は日々この魅力に耐え、自由気ままな行動に翻弄されながらも懸命に戦っている。
幼女との戦いにおける苦労は経験からよく知っていたが、今までにない圧倒的な魅力に身も心も震わされ、彼らは本物のエリートだと感心して、心の中で深く労い感謝した。

ミス「皆さんはどうぞ食事をなさってください。私は食事の前に、今日の出来事、そして明日の計画をどうしても語らなければなりません」

ミスリーダーはタマランテ襲来による詳しい被害報告は避けて、また、幼女達に配慮して、とにかくメロメロになるようなことがあって、それが明日にはこの島全域に及ぶ可能性があることを伝えた。
幼女達は笑って聞いていたが、御両親達は箸を置いて口の中の食物をモクモクと、一口あたりの希望咀嚼回数三十回を大きく上回る二百七十四回もモグモグしている。

ミス「さて、ここで二人にお願いがあります」

ヨウジョ「タコの唐揚げどうぞ」ちょこ

ミス「あはあん!ありがとう!」どきどき

ヨウジョ「お姉さんもはやくお食べ」にこっ

ミス「はい。もう少しお話ししたら頂きます」にやにや

コスプレイヤ「あの。お願いて、なんですか」

ミス「明日、遊びに来た女の子とお料理して、お友達になってほしいの」なでなで

ヨウジョ「またお友達が増えるの!」

ミス「あなたが頑張ればね」

ヨウジョ「やった!がんばる!ね!」わくわく

コスプレイヤ「うん!」うきうき

ヨウジョ「お料理を頑張ったらいいの?」

ミス「ええ」

ヨウジョ「私、今日もお料理したよ」

ミス「お手伝いよく出来ました。その調子で明日もお願いします」

ヨウジョ「はーい!」

一通り話し終えたところでミスリーダーは持ってきた風呂敷をほどいた。
何が出てくるのかと期待に集まってきた幼女を制止して重箱を開ける。
すると重箱は玉手箱のように白煙を吐いた。
ホテルマンが命懸けで届けてくれたタマランテよりの残暑見舞い。
手作りのハニープディングが重箱いっぱいに詰まっていた。
上蓋に仕掛けがあってドライアイスが仕込まれているらしく、プディングはキンキンの冷え冷えだ。
ミスリーダーはさっそく、付属していた純金のスプーンで豪快に一口食らった。

ミス「んぐっ!」ドクン!

タマランテが込めた愛がとろけて血管に染みて全身へ巡って。
そのトキメキに、手がビクンと跳ねるように大袈裟に反応して、ついスプーンをテーブルの上に落としてしまった。
ヨウジョがすかさずそれを拾い。

ミス「あ!」

という間にプディングを口にしてしまった。
この当然ともいえる奇襲をミスリーダーは予想していなかった。
まさか食事を終えていないのにデザートに食いつくとは、兄も弟も姉も妹も子供もいないミスリーダーには予想出来なかった。

ミス「うっぷす!」

ブオンと風が唸ったような気がした。
萌と萌がヨウジョの宇宙でぶつかってジャイアントインパクトみたいに弾けた。
テーブルと一緒に食事がニ㌢跳ねて、ご両親達はひっくり返り、電灯はチカチカした。
幼女達はパチクリして呆気にとられている。
魅力の衝突には劣るが、萌の衝突も十分に危険なことが分かった。
しかし、これが幼女自身による直接的な反応ではなく、第三者による間接的な反応ならどうなるだろう。
生命の瀕死に反して精神が高揚した。

ミス「すずりちゃん、しあやちゃん。あなた達の手料理はどれ?」

コスプレイヤ「おにににがすずりちゃん。玉子焼きと、お味噌汁が私です」

ミスリーダーはヨウジョの手に触れないよううまくスプーンを取り返して隠し、箸に持替えて上手に焼けた玉子焼き、その種は、だし巻き玉子を摘まんだ。
両親に事前に動画を送ってお願いしたラブ注入。
それが成功しているかは食べてみないとハッキリしないが、コスプレイヤという魔法幼女が愛を込めれば疑いは自然となくなる。

ミス「いただきます」

いざ、実食。

ミス「はあん……」

しょっぱめな味付けの玉子焼き。
その旨味は甘いプリンの後に食べたことでより際立った。
そして二つの味が調和するのと同じに、萌もそうして命に活力を注いだ。

ミス「幼女を前にしてもトキメキが安定している。それに、恋い焦がれる思いも落ち着いた」

実験は成功した。
タマランテの萌に他の幼女の萌を合わせれば、トキメキゾンビを人間に戻せることが分かった。
希望を見出だしガッツポーズを取る彼女の隣で、蜜の香りに誘われた二匹の蝶がデザートをガッツガッツと貪る。
その度にテーブルも食事も両親も跳ねたが、ミスリーダーは地蔵の様相で全く動じなかった。
それほどまでに効き目は抜群だった。

ミス「ごっつぁんです!」

ミスリーダーは夢中になってテーブルの上の食事を一人で片付けてしまった。
コスプレイヤの玉子焼きと味噌汁は濃い目の味付けがおにぎりを渇望させた。
ヨウジョの作ったおにぎりはただ握っただけでなく、ヨウジョに焼かれた鮭や、ヨウジョに揉まれたオカカ、ヨウジョにすり潰されたゴマ、等バリエーション豊富でどれも美味だった。
そのため、箸も口も止まらなかったのだ。

ミス「すみません。一人で平らげてしまって」

ミスリーダーは謝罪して献上寿司をすぐに頼んだ。
幼女達はすっかりプディングを食べ終えたのに喜んではしゃいだ。

ミス「以上で報告を終わります」

ミスリーダーは上機嫌に調子よく帰宅して、意気揚々と二人に吉報を伝えた。

主人公「楽しいお食事会になりましたね」

相棒「何より成功して良かった」

主人公「幼女自身が他人の萌を摂取すれば爆発するけれど、第三者が双方を摂取すると調和する。これが覚醒遺伝子の研究に役立てばな」

ミス「キュン死にした人を蘇生する手段としては最適かも知れません。本部に提案してみます」

主人公「それは是非お願いします!」

相棒「とにかくこれで、トキメキゾンビは何とかなりそうですね」

ミス「はい。取り急ぎ壊滅した支部にも知らせて、海外の幼女達に協力を仰ぎ、たくさんお料理してもらいましょう」

主人公「それで、明日の予定はどうなっているんですか」

ミス「お料理での交遊。それだけです」

主人公「フードバトルじゃないなら、問題は何もなさそうですね」

ミス「問題はあります」

主人公「え?」

ミス「モモルディカ・チャランティア・タマランチ、五才。彼女は自身が世界最年少のプロ料理人と自負しています」

主人公「自信があるのはいいことです」

ミス「それだけならいいんですけど、それ相応にプライドも高いそうです。もしそれが何かの拍子に砕けたり、気に障って癇癪に繋がるようなことになれば大問題です」

主人公「ヨウジョとコスプレイヤは幸いなことに癇癪を起こしていない。もしかしたら、癇癪は一番に危惧すべき幼女難問かも知れない」

ミス「ええ。実際に過去、私は癇癪を起こした幼女を相手にしてズタボロになったことがあります。その時、まるでカマイタチのような、だだっこ真空波が放たれました」

相棒「だだっこ真空波……!」

ミス「愛とは真逆、分かりやすく言えば攻撃になりますので、相手をワガママ放題に傷つけるのです」

主人公「僕達は幼女を愛してきたけれど、また、幼女も僕らを愛してくれている。だから無事で済んでいるということですか」

ミス「そうですね」

主人公「だだっ子真空波か……」

ミス「他人の子を愛し、愛されることは非常に難しいことです」

相棒「コスプレイヤが魔法少女に憧れていなかったらヤバかったかもな」

主人公「僕らは運が良かったんだ」

相棒「ああ。ありがとう二人とも、こんなおじさん達を愛してくれて」

主人公「その言葉は警察が駆け込んできそうだから止めておこう」

相棒「考え方が悪い。別にやましいことは」

警察「失礼する!警察だ!」

相棒「逮捕は勘弁してください!」土下座

警察「は?」

相棒「あ、あの時の警察官だ。お久しぶりでーす」

警察「どうも」

ミス「夜遅くにレディーの部屋へ押し掛けてきて何事ですか」

警察「町をゾンビがうろついています。特務員に聞けば、あなた方が特に詳しいそうで。いやしかし、申し訳ない」ぺこ

ミス「事情は分かりました。顔を上げてください」

相棒「メンフクロウは夜行性だからな、気を付けるべきだった」

主人公「外見は似ているかも知れないけれど、タマランチ会長は確かに人間だ」

ミス「こほん。それで、詳しい状況は?」

警察「パニックで何も分かっていません」

ミス「んー……」

警察「あ、そうだ。このチラシをご覧下さい」

ミス「世界的権威タマランチ会長プレゼンツ本マグロ大解体ディナーショー。はあ、やられました」

主人公「いつの間に!」

相棒「ホテルは無人。親子水入らずの時間をと監視もつけなかったから、これは鮮やかにしてやられたな」

ミス「そのディナーショーに参加した人達が、今、幼女の作る甘い夜食を求めてさ迷っているということでしょう」

主人公「なら、直にニューホテル淡慈に向かうのではないでしょうか」

ミス「そうみて間違いないでしょう。ケモナちゃん!」

ケモナ「くぅーん……眠いよぅ……」

警察「なにこのこえかわいい」ときとき

ミス「ごめんなさい。すずりちゃんを呼んでもらえるかな」

ケモナ「はあーい。くぁ……」

主人公「まさか今から大量にお夜食を作らせるつもりですか!」

ミス「ことほちゃんには申し訳ないけれど、そうする他ありません」

メカヨウジョ「残念ですが力になれません」ひょこ

警察「ぐはっ!」ずしゃあ

ミス「ことほちゃん。それはどういうこと?」

メカヨウジョ「私は真に似せて作られた紛い物。ラブ注入は出来ません」つんつん

ミス「あなたは本物。世界で唯一の幼女、ことほちゃんですよ」

メカヨウジョ「お気持ちは嬉しいです。でも、本当に無理なんです」

相棒「どうしてだ。ほら、警察は君の魅力にイチコロだ」

メカヨウジョ「魅力はあっても、それを注入出来ないのです。先ほど試しにと、お二人にラブ注入した食事をもてなしてみたけれどダメでした」

ことほちゃんは、それ以上は黙ってショボくれてしまった。

相棒「よく頑張った。俺はその姿にトキメキだ」なでなで

メカヨウジョ「ありがとう」ぎゅ

相棒「離れなさい、キュン死にしちゃうから」どきどき

メカヨウジョ「だっこ」

相棒「可愛いくてたまらなくてしてやりたいけどまだ無理だ。ごめん」どっきどっき

ミス「うらやまちい……」指咬

メカヨウジョ「だっこ」

ミス「やった」ひょい

メカヨウジョ「重いですか」ズシ

ミス「ぜ、ぜんぜん」ときとき

主人公「あのう。どうします」

ミス「明日に備えて寝ましょう」

主人公「ふぇ?」きょとん

ミス「彼らは夜食を食べれば落ち着いて、そのままホテルで休むことでしょう。タマランチ会長に世話を焼かせて疲労を与えることができます。町の人達には申し訳ないですけど、我々にとっては幸運と言えます」

主人公「なるほど」

ミス「あなた達は明日、見学に来ますか」

主人公「いえ。モニター越しで結構です」

ミス「分かりました。それでは、お休みなさい」

相棒「この警察官はどうしますか」

メカヨウジョ「バイタルがキュン死にまで至っていません。明日には目を覚ますでしょう」

相棒「じゃあ、おやすみ」

ミス「ことほちゃん。おやすみのちゅーは?」

メカヨウジョ「ちゅー」

相棒「おっかないこと教えないでください。メカヨウジョを、オヤジキラーマシーンに改造するおつもりですか」おこ

ミス「ダメだって。こわいねえ」

メカヨウジョ「では、また今度」

相棒「あ……うんそだね」

メカヨウジョ「お休みなさい」

相棒「おやすみ」

主人公「甘えるほどなつかれたな。独り身としてはタマランチ会長だろう」かたぽん

相棒「まったくタマランテ」

主人公「この戦いが終わったら、婚活を頑張って結婚して家庭を持つといい」

相棒「死亡フラグっぽいから遠慮する」

主人公「あなたは死ぬ男じゃないだろう」

相棒「放っておいてくれ。独りが楽なんだ」

主人公「気持ちは分かるが……そうか」

相棒「さあ、歯磨いて糞して寝よう」

ケモナ「ケモナも歯磨いて糞して寝ていい?」

主人公「糞はやめておきなさい。ありがとう、もう寝ていいよ。おやすみ」

ケモナ「おやすみー」

相棒「あ、待って。明日ケモナちゃんはどうするの」

ケモナ「お手伝いするよー」

相棒「そうか。ケモナちゃんもがんばれ!」

ケモナ「わおーん!」

遠吠えの響く町で、ゾンビが躍り狂う夜が誰知らぬ間に更けていく。
ゾンビは規則正しく列になって、それは遠くホテルまで続いた。
深く眠るタマランテもそれを知らない。
ままにやがて、夜が明けて朝がきた。
タマランテが目を覚まして朝食を取る時、ホテルが宮殿となっていることに初めて気付いた。
食の女神としてチヤホヤされるのは快感だった。
相手がゾンビでも彼女は良い心持ちだった。
お昼前に幼女がやって来てお料理会が催される。
どんな味で驚かせて敬わせてやろうか、その妄想だけで堪らないといった表情をした。
彼女の向かいに座る会長も同じく楽しみにしていた。
預かった大切な義理の娘が、時を待たずして世界制覇することを夢想してむせた。
タマランテがそれを見てクスリと笑うと、会長はドキリとして笑いを返した。

ミス「おはようございます」

一方、ミスリーダーが食材を積んだトリプルキャビンのトラックに乗って幼女邸へお迎えに上がる。
今日は懐かしい戦闘服を着て気持ちを引き締めた。
それは現在の紅白の戦闘服のモデルになった、義勇隊のマークが取り付けられたポロシャツだ。
これからタマランチ会長に会いに行くのに、あえてポロシャツとダメージジーンズというラフな格好を選んだ。
これは奴に見せつけ思い出させるためだ。

ミス「じいじ、ばあば。お世話になりました」

十年前、瑞穂の国の最南端にある注連島。
ミスリーダーは両親とキュン死に別れしてから祖父母と幼女から隠れて細々と暮らしていた。
彼女はある日、少女の年頃らしいストレスへの反抗から、義勇隊に参加して幼女と戦う覚悟を決めて島から飛び出す。
この時、紅白という組織はまだ小さなもので、各地域の義勇隊と連携して戦っていた。
彼女は飛行機で東の都に降り立った。
キャリーバック一つで真っ直ぐに義勇隊の本部に突撃した。
まだ未成年だった彼女を、義勇隊は来るもの拒まずで面倒見てやると受け入れてくれた。
数年後、彼女は人の少ない淡慈島へ派遣されることになった。
そこは村民を解放出来たものの、まだ多くの幼女を解放できずに激戦区として指定されたままの危険な場所だった。
若い彼女なら活路を見出だせるかもしれないと、期待のホープとして送り込まれた。
が、その初陣は悔しく惨敗となった。
謎に包まれた正体不明の幼女、お菊さんのけしかける幼女達は誰も魅力を増して硬派な戦士達をトキメキさせた。

ミス「はあ……」

義勇隊は町に支部を構えている。
赤いポストに身を預けて落ち込む彼女のもとへ一人のお偉いさんが訪ねて来た。

会長「もし、そこの君、紅白の支部はどこだね」

ミス「紅白ならもっと村に近いところにいます」

会長「んん、あのような危険な最前線に」

ミス「義勇隊と違って紅白は世界で唯一認められ、使命感の強い組織になりましたから」

会長「君はどうしてこちら側にいる」

ミス「それは……紅白は荷が重いと思ったからです」

会長「義勇隊はどうだろう」

ミス「重いというより正直言って辛いです」

会長「では、どちらも同じだね」

ミス「え?」

会長「義勇隊と紅白は連携して戦っているが、まだまだだ。心が一つになっていない。それはきっと目的が違うからだろうね」

ミス「目的ですか」

会長「義勇隊は幼女を守ること、紅白は世界を救うことを優先して考えている」

ミス「はあ、そうなんですか」

会長「これが一つになれば素晴らしいと、わたしは思う」

ミス「そうですね」

会長「んん、自己紹介が遅れたね。わたしはタマランチ会長だ」

ミス「え!世界各地で食料の配給をしているあのタマランチグループの!」

会長「そう。その視察に来た」

ミス「あ、えっと、すぐに責任者を呼んできます!」

会長「いいよ。わたしは君と話がしたい」

ミス「私とですか?」

会長「君のような若い娘さんは今までに一度も見たことがないからね」

ミス「ナンパならごめんなさい」ぺこ

会長「ぴーちくぱーちく!」けらけら

ミス「は?」

会長「確かに君は妻にしたいほど美しい。でも、もっと美しいのは心だ」

ミス「心」

会長「そう。大人になるにつれ、年を重ねれば重ねるほど心は汚れるものだ。ほとんどの人はその汚れを落としながら、何とか思いやりを保って生きている」

ミス「へえ」

会長「この戦いにももちろん、お金やら何やら私利私欲が絡むことはあってね。でも、君はお金なんかが目的じゃないだろう」

ミス「当然です。私の目的は幼女に対する復讐です」

会長「ほう。復讐」

ミス「でもそれは、幼女が怖くて逃げて、色々と我慢していたせいでしょう。実際に幼女と会ってみたら愛おしくて仕方ありませんでした」

会長「それだ」

ミス「はい?」

会長「幼女との戦いにおいて、最も大切なのは愛だよ」

ミス「ん、まあ愛がなければ児童虐待になるでしょうし」

会長「そういう話ではない。愛をぶつけるのではなく、愛を返すのだ」

ミス「愛を返す……そっか」

会長「わたしは昔、幼い娘を飢えでなくした。もっと愛を返して接してやればよかったと後悔している。ずっと怒鳴ってばかりだった。稼ぎの悪いのは、わたしなのにね」

ミス「会長……」

会長「わたしはそれから、飯を食っても人を食うな、それを信条として生きている」

ミス「飢えすぎて人を食べたんですか!」

会長「ぴーちくぱーちく!のんのん、もっと相手を思いやりましょうということだ」

ミス「ああ、びっくりした」

会長「では、またね。楽しい話が出来て良かった」

ミス「あ、はい」

会長「今度また会うとき、まだ蕾の君が美しい花を咲かせていることを願うよ」

ミス「会長……きもっ」さぶさぶ

タマランテ会長の背中を見送りながらそう呟いたけれど、ミスリーダーは会長の話を思い返して頑張ろうと思った。
彼女の任務は、お菊さんに乗っ取られた村の完全解放。
その任務は必死に頑張っても難しく、防衛に徹して一年があっという間に過ぎた。
しかしその戦いのなかで成果を得た。
研鑽を積み、彼女は成人して、ぶりっ子を身につけた。
それは強力な武器となって、一人、また一人と幼女を捕獲することに成功する。
そうして幼女達は次々と島外へ隔離されていった。
彼女の目覚ましい活躍を見た義勇隊のメンバー達はいつからか彼女をミスリーダーと呼び、淡慈支部のヘッドとして認めた。
それから一月、季節は秋、彼女は最後の幼女と相対する。

美海「やあだやあだ!もっと遊びたい!」

ここの幼女達は、お菊さんが紅白に要求した食事と玩具と、そして彼女の教育を満足に受け、そのうえ自由に生きていた。
それはもはや野生にかえったのではないかと感じるくらい奔放に育った。
つまり、非情にワガママだった。

美海「もっと遊ぶの!」

畦道の真ん中で美海ちゃんが愚図ると、去年、幼女達がせっせと田植えしてようやく実った稲穂があちこちで飛翔した。
パラパラと米の雨の降るなか、ミスリーダーは他のメンバーの安否を確認する。
周囲を見渡すと、潜んでいたメンバー達が泥塗れで喘いでいた。

ミス「これは、両親の声も届かなそうね」

幼女達は両親の声を聞くと大人しく従う場合が多い。
ところが、まったくそうでない幼女もいる。
両親と忘却の彼方ではぐれて夢現で生きる幼女もいるのだ。
ミスリーダーはこの一年の間にそれを知って、そんな可哀想なことがあってはならないと愛をより眩しく輝かせた。
だからこの様な状況でも、決して挫けることはなかった。

ミス「ねえ見て見て!お姉さんのこのおっきなリボン見て!ウサギさんみたいで可愛いでしょう!ぴょんぴょん、ほら可愛いね!ウサちゃんだぴょん!」

ミスリーダーは必殺の、ぶりっ子で攻めてみた。
ウサギさんを幼稚に真似て、ぴょんぴょんこ跳ねてみる。
そうすることで、ほとんどの幼女がドン引きして落ち着いてくれた。

美海「可愛いくなあい!どうして邪魔するの!邪魔しないでえ!!」

美海ちゃんが大声を上げた瞬間、今でにない特殊な出来事が起こった。
これこそ、だだっ子真空波である。
鋭い風の刃によってミスリーダーのお気に入りジーンズはズタボロになった。
膝が擦り傷を負ってしまう。
彼女は痛みに思わず膝をつきそうになったが、バイ菌が入るのを恐れて何とか耐えた。

ミス「これはあまりに攻撃的……そうか」

美海「邪魔しないで!意地悪しないで!」

また、だだっ子真空波が放たれる。
しかしミスリーダーは彼女を受け入れることで、それをそよ風に変えてみせた。

美海「何笑ってるの?」

ミス「あなたのことが可愛いなと思って」

美海「分かんない」

ミス「あなたがどうしたいか、お姉さんに教えて。もし遊びたいなら遊んであげるし、お父さんお母さんに会いたければ送ってあげる」

美海「……本当?」

ミス「うん。何でもしてあげる」

ミスリーダーはどんなワガママも聞き入れて愛を返すことを決めた。
あの日にタマランチ会長が言った、飯を食っても人を食うな、という信条。
そこから、子供が相手だからと大人らしく子供に接してあげるだけでなく、時には子供と対等の立場になって話を親身に聞いてあげることも大事なんだとやっと気付いた。

美海「じゃあ、一緒に遊んでくれる?」

ミス「喜んで!」

それからミスリーダーは美海ちゃんと日が暮れるまでたくさん遊んで、たくさんお話しした。
もしかしたら、たった一人残って、とても寂しい思いをしていたのかも知れない。
心を通じて、美海ちゃんの様々な思いを知った気がした。

美海「お姉さん、ばいばい!ありがとう!」

美海ちゃんは紅白に引き取られ、間もなく町で待機していた両親と再会することになった。
この戦いは最も美しい戦いと称賛され、後に義勇隊と紅白を繋ぐ虹の架け橋となる。

会長「お疲れ様でした」ぱちぱち

支部に戻ると、タマランチ会長がご馳走を用意して待ってくれていた。
そこには懐かしい、ミスリーダーの故郷の郷土料理もあった。
彼は淡慈の幼女が最後の一人になったと聞いて、すぐにここへ飛んで来て、それからミスリーダーの努力を見守っていたらしい。

会長「ボロボロだね」

ミス「でも、私の愛には傷ひとつありません」

会長「んん、綺麗な花が咲いたようだ」にこっ

ミス「会長はこれからも各地で支援を続けられるんですよね」

会長「それが私に出来る愛の返し方だからね」

ミス「会長は料理人だから、私と違ってたくさんの愛を受けてこられたんですね」

会長「そうじゃない。愛を返されたんだ」

ミス「あ、そっか。愛を込めて料理を作って、食べた人が愛を返してくれたんだ」

会長「んん、嬉しいことです」

ミス「そっかー」にこにこ

会長「さあ、ご覧なさい。皆がお祝いしたくてウズウズしているよ」

ミス「取りあえず着替えてきます」

会長「その前にミスリーダー。瑞穂の国を観光したいのだが、どこかいいところはあるかね」

ミス「私の故郷、て言いたいけれど、愛のあるメイド喫茶なんてどうでしょう」

会長「んん、メイド喫茶。話には聞いて興味があった。調べてみよう」

タマランチ会長はミスリーダーがお着替えしている間、熱心にメイド喫茶を調べた。
居ても立ってもいられなくて、明日には愛のさらなる探求に発つらしい。
食事会は、遥かなる愛の探求者を祭り上げて大いに盛り上がった。
それから月日は流れ、翌年の春に、会長からメイドさんとの写真がたくさん届いた。
それを見て、覚えていないけど多分感化された彼女は紅白に身を移し、愛の守護者としてさらなる躍進を遂げた。
義勇隊もいつか解散、彼女に憧れて多くのメンバーが自主的に紅白へ移籍して、結局は統合されるような形になった。
そうした懐かしい過去を思い出しながら待つこと数分、準備を終えた幼女達が朝から元気よくドタドタとトラックに乗り込んだ。

ヨウジョ「おはようございます!」

コスプレイヤ「おはようございます」ぺこ

ミス「おはよう」にこっ

二人はトラックに乗ると、さっそくメカヨウジョと友好的に戯れた。
ミスリーダーは二人にシートベルトを締めるよう促して、トップギアでトラックを走らせる。
二人は初めて乗るトラックに浮かれてシートベルトが千切れんばかりにはしゃいだ。

ケモナ「ミスリーダー、気を付けてわん。ホテルはゾンビだらけよ」

ミス「了解」

一時間近く車を走らせて、ようやく崖の上のホテルに近付く。
道路に溢れるゾンビがもう近くだよと教えてくれる。
スピードを落として彼らを避けながら何とかホテルに到着するなりゾンビがワッと群がってきた。
彼らは低く唸りながら激しく車体を叩いて萌を要求してくる。

ヨウジョ「怖い人がいっぱい……」びくびく

コスプレイヤ「怖いよぅ……」びくびく

メカヨウジョ「大丈夫ですよ」なでなで

ミス「みんな、しっかり掴まって」

ミスリーダーがクラクションを鳴らすと、ゾンビは一瞬驚いて散り散りになった。
その隙に急発進して玄関をぶち破る。
そのまま食堂に向けて前進して、最後にドリフトでゴールイン。
これはトラックがゾンビの侵入を防ぐ妙案だ。
食堂側のドアから一行が降りると、タマランテが両手を広げて歓迎した。

タマランテ「ふぇ……」

歓迎しようと思っていたが可哀想なことに、扉を壁を破壊したトラックのドリフトにすっかり怯えてしまったようだ。
体を硬直させて涙目でプルプルしている。
それでも涙を一滴も落とさないのは彼女のプライドがそうさせているのだろうか。

ヨウジョ「あなたがモモちゃんですか」

タマランテ「はじめまして、モモルディカ・チャランティア・タマランチよ」

タマランテは声を震わせながらも答えた。

コスプレイヤ「はじめまして。七種しあやです」もじもじ

タマランテ「それはコスプレですの?」

コスプレイヤ「そうよ!魔法少女マジカバカカっていうアニメに登」

タマランテ「どうでもいいですの」

コスプレイヤ「!」がーん

タマランテ「あなたお名前は?」

ヨウジョ「清里すずりです。よろしくね」

ヨウジョが近付いて握手を求めると、彼女はその手を叩いて払った。

タマランテ「私は自分が認めた人としか仲良くしませんの」つん

ヨウジョ「どうして?」

タマランテ「どうしてもよ!」

ヨウジョ「お友達になりましょう」

タマランテ「では、私を満足させる料理をお作りになって」

ヨウジョ「お料理したらお友達になってくれるんだね」

コスプレイヤ「じゃあ、頑張ろう」

ヨウジョ「うん」

タマランテ「そこのあなたはどうなさって?」

メカヨウジョ「お手伝いします」

タマランテ「あなたは?」

ミス「私はそのつもりはありません」

タマランテ「あっそう」

ミス「でしたが、一品、作らせて頂きます」

タマランテ「では、お料理なさるのね」

ミス「ええ。会長あなたにね!」ビシッ

会長「んん、楽しみにしましょう」どどっ

奥から突然に現れ、こちらへ走ってきた巨人にヨウジョ達は後退りしたが、モモちゃんのお父さんだと説明すると、苦笑いを浮かべてミスリーダーの後ろに隠れた。

会長「ぴーちくぱーちく。わたしが怖いですか、よく言われます」

ヨウジョ「がおー!」

会長「ふぉぉぉお!!」

ヨウジョ「ふぇ……」びくっ

タマランテ「まあ、情けないこと。私なんて昔、この曲がったお鼻を、えいと摘まんでやりましたよ」

ヨウジョ「すごーい」ぱちぱち

タマランテ「ふふん!」どやっ

タマランテは、さっそく手前味噌を振る舞った。
これは彼女の魅力を引き立たせるほんの一つのスパイスに過ぎない。
ミスリーダーは気を引き締めてキッチンへ向かった。
ヨウジョ達がエプロンを着け終わる頃、タマランチ会長もトラックから食材を運び終えた。

会長「君はわたしに何をご馳走してくれるんだ」

ミス「故郷の味。あなたへ、過去に頂いた愛をお返しします」

会長「愛……」とくん

ミス「会長。あなたを愛でお救いします」

会長「んん、テラスで海を眺めて楽しみに待っている」

会長がキッチンから出て行くと、タマランテが嬉々として仕切りはじめた。

タマランテ「準備はよろしくて。お互いに美味しい料理を作りましょう」

ヨウジョ「はーい!」

タマランテ「まあ、味は私に劣るでしょうけど、楽しみにはします」

ヨウジョ「私は、おにぎりを作るね」

メカヨウジョ「お手伝いします」

コスプレイヤ「玉子焼きは任せて!」

ケモナ「サポートはケモナにお任せわん!」

タマランテの言葉を聞かずして、さっそく調理をはじめる幼女隊。
その仲睦まじい様子を見て、タマランテは複雑な表情で頬を膨らませた。

ミス「素直じゃないの可愛いな……」とくん

タマランテ「何か言いまして」

ミス「私がお手伝いしましょうか」ときとき

タマランテ「結構よ。私はプロなの」ぷい

ミス「そう。頑張ってね」

胸を張るタマランテに塩を送ると、彼女はそれを、アッカンベーと突き返した。

タマランテ「どうせ、みんな私にメロメロになってよ」

料理は順調に進んだ。
タマランテは野菜をリズムよく刻み、手際よく下準備して、それらをシーチキンと一緒にさっと炒めた。
ミスリーダーはその鮮やかなテクニックだけでなく、彼女が選んだ食材にも驚いた。
彼女のよく知る馴染みの郷土野菜、ゴーヤを使っているのだ。
それも自分と同じく、作ろうとしているのはゴーヤチャンプルーに違いない。
ただ異なるのは、苦味を取るための下茹でを行わず、さらに豆腐ではなくシーチキンを使っていることだ。

タマランテ「あら、あなたもゴーヤチャンプルーがお好きですの」

ミス「ええ。そう言うあなたも好きなの?」

タマランテ「もち。私の大好物ですの」

ミス「でも、ゴーヤは苦いでしょう」

タマランテ「それがいいのです。初めて食べたあの日を忘れられません」ぺろり

どうやら、タマランチ会長が振る舞ったゴーヤチャンプルーが彼女を料理家の道へ歩ませたらしい。
ミスリーダーは嬉しかった。

タマランテ「何をニヤニヤしていますの。ずいぶんと余裕がおありですこと」

ミス「もち。私はあなたより二十年はゴーヤチャンプルーを作っているから」

タマランテ「ふん、二十年なんて関係なくってよ。大事なのは調理技術、大切なのは愛ですの」

タマランチ会長の教えは立派だ。
良いことを教わっている。
これなら、彼女の作る料理は美味しくて当然だろう。

タマランテ「おや、お友達の方は下手っぴのようね」くすくす

ミスリーダーは幼女達を信じて全てを任せていた。
といっても気にはなる。
ゴーヤチャンプルーは完成したので、様子を見てみることにした。
幼女達は怪我をしないようプラスチックの調理器具を用いて、一通り下準備を終えたところだった。
もう心配いらないほど、彼女達は協力してしっかり調理していた。

タマランテ「まだですの。これでは私の料理が冷めてしまってよ」

そこへ、暇をもて余したタマランテが冷ややかな茶々を入れに来た。

ヨウジョ「オカカおにぎり作ってるの」

タマランテ「オカカを作るのに時間がかかりましたの。まあ呑気なお手々ですこと」

ヨウジョ「はい」

タマランテ「ちょっと、それはよろしくなくてよ」

ヨウジョは手作りオカカを素手で一摘まみしてタマランチの口元へ差し出した。

ヨウジョ「あーんして」

タマランテ「嫌です。はしたない」ぷい 

ヨウジョ「あーんして!」

タマランテ「いやむっ……!」

ヨウジョは嫌がるタマランテの口に小さな指ごとオカカを押し込んだ。
口を開いたことでヨウジョに攻撃の隙を与えてしまった。
タマランテは汚れや味を目をグルグルさせて気にしながらも、絶対に吐くまいと口に手を当てて悶えた。

ヨウジョ「ご飯もどうぞ」

さらに切り込んだ肉薄攻撃。
手を押し退けて口へ無理矢理ご飯を突っ込もうとする。
料理のプロに意地でも食わせて評価を貰いたいらしい。
タマランテを壁に追い詰めるほど強引に攻め続けた。
メカヨウジョはそれを、ピーマン押し合い事件を思い出して哀れみの眼差しで見つめている。

タマランテ「分かりました!あ、あーむ!」

タマランテは逆襲にヨウジョの拳を食らってやった。
対してヨウジョは面食らう。

ヨウジョ「美味しい?」

タマランテ「んーん……」

ヨウジョ「オカカのことだよ」

タマランテ「オカカは、ん、醤油が濃く、えほ、また甘味も強くとにかく雑に感じました」

ヨウジョ「だって、ことほちゃん」

メカヨウジョ「完璧な配分だと思ったんですが」

タマランテ「よろしくて。配分は食材によって変わりますの。一般家庭で多く使われる荒節の鰹は薫りが強いので調味料を多く入れると薫りを台無しにしてしまいます。それと、瑞穂の西南地域で好まれる薄口醤油を使いましたね。それが塩辛い原因です。薄口醤油は塩分が多め、使うなら濃口醤油を使うこと。瑞穂の人なら鰹節や醤油の種類くらい当たり前に覚えておいてくださいまし」

ヨウジョ「だって、ことほちゃん」

メカヨウジョ「すずりちゃんも、ちゃんと覚えておいてくださいまし」

ヨウジョ「わかったまし。モモちゃんありがとう」

タマランテ「その、ご飯にお塩はもう振りましたの?」ちら

ヨウジョ「今からだよ」すっ

タマランテ「おやめなさい!余計にしょっぱくなってよ!」ひょい

ヨウジョ「お塩取られちゃった。おにぎり作るときにいるのに」

タマランテ「今日はいりま、どうしてお泣きになるの」あわあわ

ヨウジョ「泣いてないもん」ぐすっ

メカヨウジョ「モモちゃんは意地悪しているのではないんですよ」

ヨウジョ「お母さんはお塩振りなさいって教えてくれたんだよ。でもね、ダメって言うの」くすん

タマランテ「お母さんは正しいです。けれど、このしょっぱいオカカに、しょっぱいご飯を合わせたらどうなって?」

ヨウジョ「わかんない!」

タマランテ「もっとしょっぱくなってしまいます。ですから、えーと」おろおろ

ここでミスリーダーがヨウジョを優しく抱いてやる。
そして、髪をゆっくり撫でて慰めてあげた。

ミス「モモちゃんがもっと美味しくする方法を教えてくれるって。それを覚えて帰って、お母さんに美味しいおにぎりを作って驚かせてあげましょう」

ヨウジョ「教えてくれるの?」

タマランテ「えっ!」

ミス「教えてくれるよね」にこっ

タマランテ「どうして私がそんなこと」

ヨウジョ「ほら、またダメって」

タマランテ「ダメとは言ってませんの。もう仕方ありませんこと。分かりました」

タマランテはゴーヤを噛み潰したように苦い顔をすると思ったが、どこか嬉しそうな顔をして一から調理方法を丁寧に教え始めた。
興味をそそられたコスプレイヤが加わって、塩辛い雰囲気はまろやかになった。

タマランテ「よろしくて。おにぎりを握るコツはラブ注入になります」

ヨウジョ「知ってる!萌え萌えきゅんきゅんでしょう」

コスプレイヤ「愛の魔法なら得意よ!」

タマランテ「ええ。こうして、萌え萌えきゅんきゅん!」

タマランテは可愛らしい動作でおにぎりを三角に握る。
愛は、もりもりぎゅっぎゅっと込められた。
ミスリーダーは米粒になって愛に押し潰されたいと思った。
しかし、幼女達が米粒を押し潰さないようふんわりと握っているのを見て、今度は具になって愛に包まれたいと思い直した。
幼女達は並んでラブ注入を続ける。
その光景が陽炎のように揺らめいて、その声が祭囃子のように響いた。
メカヨウジョに手を握られて正気になる。
ミスリーダーは幸福に浸かって、いつの間にか漬け物みたいにシオシオになっていたことに気付いた。
ふとキッチンを見渡せば、全ての調理が終わっていた。

メカヨウジョ「大丈夫ですか?」

ケモナ「わんわんわんわんわんわん!」

ミス「平気よ。二人ともありがとう」

タマランテ「ずっと気になっていましたが、その、へんちくりんのワンコは何ですの」

ケモナ「へんちくりんじゃなくて、ケモナだわん!」

コスプレイヤ「わんわんもお友達なの」

ケモナ「わんわんじゃなくて、ケモナだわん!」

タマランテ「キッチンに動物はいけませんことよ」

ケモナ「ケモナはホログラムだからセーフだわん」

タマランテ「ホログラム?」

ヨウジョ「ほら見て。透き通るの、面白いでしょう」すかすか

タマランテ「どうなっていますの。て、虫までいてよ!」しっしっ

ケモナ「その虫はロボットで、そこからケモナが投影されているわん」

タマランテ「ごめんあそばせ。さっぱり訳がわかりません」

ミス「まあ、細かいことは気にしないで。ケモナちゃんともお友達になってあげてね」

タマランテ「まだ誰も友達とは認めませんの。ビッグダディを助けてくれたら、考えてあげてもよくってよ」

タマランテはゴニョゴニョ言いながら、温めなおしたゴーヤチャンプルーを皿に移してテラスへ運んだ。
ミスリーダーもヨウジョ達の手料理をサービスワゴンに乗せて後に続いた。

会長「揃ったね。では、さっそくお食事会を始めよう」

いただきます。
元気な挨拶でお食事会は幕を開けた。
会長はまずヨウジョの握ったおにぎりを食べて、次にコスプレイヤの作った味噌汁をすすった。
それから最後にコスプレイヤの焼いた玉子焼きを頬張った。

タマランテ「まあまあのお味でしょう」

会長「そうだね」

会長はナプキンで丁寧に口を拭いてから、優しい目で幼女達を見遣った。
その瞳は慈愛で潤んでいた。

会長「でも、確かに愛がある。そうだろう」

タマランテ「悔しくなんてないけれど、上出来な愛があってよ」

会長「真心を込めるのに、おにぎりは最適だ。これはミスリーダー、君の作戦だね」

ミス「はい。それから、瑞穂の代表料理でもありますから最高のもてなしと考えました」

会長「んん、さすが君だ」

ミス「会長。正気を取り戻したようですね」

会長「懐かしい格好だね。似合っているよ」

タマランテ「ねえ、どういうこと!もし戻りまして!」

会長「心配かけたね。もう落ち着いた」

タマランテ「きゃあ!やった!」むぎゅー

会長「よしよし」なでなで

タマランテ「うふふ!」

ヨウジョ「どういうこと?」

メカヨウジョ「美味しいものを食べて仲直りしたんですよ」

ヨウジョ「良かったね!」にこっ

タマランテ「うん!」にこっ

コスプレイヤ「ねえ、モモちゃんのお料理苦いね」

タマランテ「ゴーヤは苦くて当然ですの」

ヨウジョ「ピーマンみたいで好きじゃない」

タマランテ「まあ、なんてこと!」

コスプレイヤ「そんなこと言っちゃダメだよ。一生懸命作ったんだから」

メカヨウジョ「マヨネーズの甘味がベストマッチです」

ヨウジョ「そうだね。ピーマンよりは美味しいよ」

タマランテ「今度ピーマンをたらふくご馳走して差しあげます」きっ

ヨウジョ「いらない」

タマランテ「何ですって!」

ヨウジョ「がおー!」

タマランテ「きゃおー!」

ミス「ふふっ」くすくす

ヨウジョ「ねえねえ、モモちゃんが意地悪ばっかりするの」

ミス「頑張ってピーマン食べてみよう。モモちゃんなら、きっと美味しく料理してくれるから」

タマランテ「もち!今度はゴーヤもピーマンも美味しくしてご馳走します!」どやっ

ヨウジョ「だからいらないってば」

タマランテ「まあまあ、あなたってば。もう絶対に友達になってあげませんの」ぷい

ヨウジョ「どうしてそういうこと言うの」

タマランテ「それはあなたが」

コスプレイヤ「喧嘩はそこまでよ!愛が涙を流していつか心が枯れてしまったら、マヌーケに体を乗っ取られちゃうよ!」

タマランテ「何の話?」

ヨウジョ「魔法少女マジカバカカだよ。大好きだから」

タマランテ「どうでもいいですの」

コスプレイヤ「どうでもよくなーい!」

コスプレイヤが魔法少女への想いを熱くしてタマランテに火を吹くように説明する。
タマランテは適当な相槌を打ちながらミディアムレアで耳を傾けた。

ミス「ケモナちゃん、外の様子はどう?」

ケモナ「ゾンビが昼食を求めて活発になっているわん」

ミス「やっぱり。ことほちゃん、食事を終えたら、また皆で料理をお願い出来るかな」

メカヨウジョ「任せてください」

ミス「一口サイズの簡単なものでいいからお願いね」

メカヨウジョ「はい」

会長「何となく覚えている。モモルディカの料理を食べて、わたしのように豹変した人達のことだね」

ミス「ご安心ください。今朝より、あなたの故郷でも順調に対処が進んでいます」

会長「んん、うちのマネージメントにほしい敏腕だ」

ミス「もったいないお言葉です」

会長「どれ、料理の腕の方はどうかな」

ミス「食べる前に覚悟して下さい」

会長「ん?」

ミス「私の魅力が幼女に負けたことはありません」にや

会長「面白い。真に匹敵するものかこの舌でよく味わってみよう」にや

ミス「……お味の方はどうでしょう」

会長「好き」

ミス「は?」

会長「君のことが好きだ」にいっ

メカヨウジョ「ラブ注入成功ですね」ひそ

ミス「冗談のつもりだったのに嘘でしょう……」

会長「辛抱たまらん。どうか君のラブ注入をわしに見せてくれたまえ」

ミス「萌え萌えきゅんきゅん!うまうまにゃんにゃん!」

ミスリーダーの渾身のラブ注入は幼女達を一瞬にしてドン引きさせた。
会長一人だけが鼻血を垂らして目をビキビキに血走らせた。

ミス「治るかな?」ひそ

メカヨウジョ「わかりません」ひそ

そこへ助けがやって来る。
静かな空気を引き裂いて、一機のプライベートジェットが上空をやかましく通り過ぎた。

ミス「何事!」

タマランテ「あ!きっとお姉さんよ!」

ミス「お姉さん?」

遠くに降下するパラシュートが見えた。
あれがタマランテのお姉さんらしい。

会長「わたしの実娘だ。心配して、会いに来てくれたんだろう」

ミス「昔、飢えでなくしたという娘さんですか」

会長「んん。妻が一緒に連れて出て行って、それからずっと母方の実家で暮らしていた」

ケモナ「再婚のニュースはないわん」

会長「離婚していないからね。わたしが忙しい身ゆえに二人は愛に飢えてしまい、妻が実家に帰って、それ以来ずっと別れて暮らしていたんだ。でも、よく会っていたよ」

ミス「へえ」

会長「娘も結婚して、現在は二人の息子を育てる母親だ。大変なのにわざわざ会いに来てくれるなんて愛だね。んん、嬉しい」

タマランテ「良かったね、ビッグダディ」ぽふぽふ

その後、娘さんはゾンビの群れの中に落ちて、現場は大混乱になった。
黄昏時になってようやく幼女救出隊が出動。
愛のこもった野菜スティックを握り締めて次々とゾンビを正気に戻し、木の上で怯える娘さんも無事に救出された。
その活動で一致団結した幼女達は絆を深めて、タマランテがやっと友達になってくれた。
そしてその夜、彼女達はホテル最上階にあるスウィートルームのベランダから、海に咲く綺麗な花火を寄り添って楽しむのだった。

主人公「今日、花火大会だったんだな。ちょうどいいタイミングだ」

相棒「遠いけど、ここから見る花火も綺麗だ」

ミス「そうですね」

一方で、大人達も七輪を囲んで花火を楽しんでいた。
村は町より高いところにあるので、花火は小さくても最高の景色が臨めた。

主人公「お疲れ様ですミスリーダー。さ、飲んで飲んで」

ミス「ありがとうございます」

相棒「俺も梅酒でいいから酒をくれ」

主人公「ノンアルのビールで我慢しろ」はい

相棒「それじゃあ物足りない」

ミス「はあ、しょうがないですね」すくっ

相棒「お?」

ミス「萌え萌えきゅんきゅん!うまうまにゃんにゃん!」

相棒「……俺、ちょっと好きになったかも」ぽっ

ミス「ふっ、私の魅力はまだまだ健在のようです」どやっ

真顔の主人公の傍らで炭がクシャミして火の粉を吐いた。
上等な肉が焦げて黒煙を上げる。
もったいないなあと思った。
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