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幼女VS機械幼女
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世界で唯一、支配がなく自由が生きるジーランディアという島がある。
ジーランディアは世界の英知が集う島で、人類が手を取り合って未来を創造する夢の島である。
そこで初めに創られたのが、ジーランディア航空宇宙局だ。
人類の新時代への旅はここから始まった。
さて、現在より過去へ遡ること二十二年前。
一人の男が自宅の庭で青空を仰いでいた。
オパンティヌス「もう届かない夢だね」
そこへ、一人の男が現れる。
彼の友人であるロリコップ・ジュニアだ。
ロリコップ「やあ、オパンティヌス」
オパンティヌス「おかえりロリコップ」
オパンティヌスは寡黙な男だ。
それだけ言って、また、空を仰いだ。
ロリコップ「宇宙はやっぱり良い。今度こそ二人で行こう」
ロリコップは宇宙飛行士だ。
年齢制限により宇宙飛行士として、もう宇宙へ行くことは出来ないが、それでも二人の夢は諦めていなかった。
彼らは学生の頃、満天の星を眺めて誓った。
ロリコップ「一緒に宇宙へ行って、地球へたくさんの流れ星を降らせよう」
オパンティヌス「あの頃のわしはロマンチストだった。だが、今はただのサイエンティストだ」
ロリコップ「工学者を辞めたのか」
オパンティヌス「天才だって荷の重さには参る。だから一つ捨てただけさ」
ロリコップ「惜しいことをした。君のお陰で宇宙から眺める地球は綺麗なのに」
オパンティヌスは宇宙も含めて自然を愛していた。
なので、いわゆるエコに熱心だった。
車からロケットまで、他にも様々、あらゆる物が彼の手で浄化された。
それはまた、人の心まで。
ロリコップ「地球から眺める宇宙は変わらず綺麗かな」
オパンティヌスは答えなかった。
もう何年も夜空を見上げていない。
ロリコップ「いつ始める」
オパンティヌス「なに?」
ロリコップ「ロケット作りだよ、二人乗りの」
オパンティヌスは呆れてチェアーに座ってシットと愚痴った。
ロリコップ「民間ロケットなら翔べる。そうだろう」
オパンティヌス「過去に失敗した」
ロリコップ「だから改めて、お前はロケット工学をよく学び、俺はロケットの操縦をよく学んだ。遅くなったが機は熟した。そう思わないかな」
オパンティヌス「だめだ」
ロリコップ「なぜだ!」
オパンティヌスは知り合いから、瑞穂の国で大学教授にならないかと誘われていた。
彼はそれを迷いなく受けた。
いつから夢に怯えて逃げていた。
ロリコップ「大学の教授だって?なぜ受けた!私は努力してずっとこの日を待っていたんだぞ!世界最高の技術を身につけた宇宙飛行士がお前のもとへ帰ってきた!夢を叶えるために!なのになぜだ!答えろオパンティヌス・ボーイ!」
オパンティヌス「もういいんだ」
オパンティヌスはそれだけ言って家に閉じこもった。
そして、枕を濡らして泣き叫んだ。
本当は行きたくて仕方なかった。
でも、この老いた体で宇宙へ行くのが怖かった。
失敗して命を友を全てをこの世界から無くしてしまうのが怖かった。
何より高所恐怖症だった。
オパンティヌス「高いところが怖いっ!!」
ロリコップ「高所恐怖症が理由か」
オパンティヌス「ロリコップ!帰ってなかったのか!」
ロリコップ「学生の頃に趣味で作ったロケットが墜ちたのがトラウマになったんだったな」
オパンティヌス「その話はやめろ」
ロリコップ「世界最高峰の山より高いところから墜ちたんだ。無理もない」
オパンティヌス「やめろ」
ロリコップ「そして、その事件をキッカケにジーランディアの住民にならないかと誘われ、ここで俺達はそれぞれの道を歩むことになった」
オパンティヌス「やめてくれ」
ロリコップ「支配がなく自由が生きる島といっても、人間性を守るために幾らかルールはある。君はそれを破ってまで宇宙飛行士の男子寮に侵入して窓に糞尿を塗りたくったことがあったな。あれには驚いたよ」
オパンティヌス「関係ない話はやめろ」
ロリコップ「あの頃はお互い若かったから仕方ない。好きな女を取り合う男はいつの時代でもそんなものだ」
オパンティヌス「やめろって」
ロリコップ「まあ、結局、二人ともフラれたんだがな」ははは!
オパンティヌス「もういいだろう!」
ロリコップ「すまない。話が脱糞いや脱線した」
オパンティヌス「お前はそうして、あれから何十年もわしを見下す」
ロリコップ「そうだ。俺が初めて宇宙に翔び立つ日にお前は最高の糞をくれたっけな」
オパンティヌス「なに?」
ロリコップ「一人だけズルい。糞くらえ。そう叫んだろう、よりにもよってテレビの生放送の最中に」
オパンティヌス「ああ、あったな。だからもうやめろと言っているだろう。人の話を聞いているのか」
ロリコップ「宇宙ステーションで一年は持ついい土産になった」
オパンティヌス「何回も聞いた。だからやめろ」
ロリコップ「どうだ。面白い話だったろう」
オパンティヌス「馬鹿にしているのか」
ロリコップ「今日は何だか気分がいい。最後にもう一つ話をして帰ろう」
オパンティヌス「女子寮に侵入してウンコとチンコの大冒険を描いたことか。くだらん話はもうやめだ」
ロリコップ「あれ、やっぱりお前の仕業だったんだな。へえ」
オパンティヌス「違う。記憶違いだ」
ロリコップ「落ち着け、いいか落ち着くんだ」
オパンティヌス「落ち着いている。さっさと嫌みを言い終われ糞野郎」
ロリコップ「最後に俺と翔んだ宇宙飛行士は高所恐怖症だった」
オパンティヌス「……なに?」
ロリコップ「じゃあな。また連絡をくれ、俺はこのジーランディアでお前を待っている」
ロリコップはそう言って、呆気にとられたオパンティヌスを置いて帰宅した。
それから連絡を取り合うことも、彼に見送られることもなく、オパンティヌスは瑞穂の国へ渡った。
そこで、人生最大の危機が訪れる。
オパンティヌス「ぐぬふう……!」どきどき
時は二千年、世界で起こった未曾有の大災。
ふぇぇぇん現象と幼女大行進だ。
オパンティヌス「これは現実か、現実なのか」どきどき
都会の大通り、その傍らの歩道を占拠して、幼女達が整列して大行進。
彼女達が通り過ぎれば多くの人がトキメキした。
オパンティヌス「こんな時に電話だと?一体誰だ、くそっ!しもしも!」
ロリコップ「しもし、もしもし。繋がって良かった」
オパンティヌス「ロリコップ!今、とんでもないことが瑞穂の国で起こっている」
ロリコップ「分かっている。これは世界規模の大災だ」
オパンティヌス「世界規模……まさか!」
ロリコップ「緊急事態だ。私は急いでそちらへ向かう」
オパンティヌス「この状況でこっちへ来るだと!何のために!」
ロリコップ「人類を。世界を救うためだ」
彼は有言実行。
その言葉通り、瑞穂の国で紅白という組織を立ち上げて世界を人類を救ってみせた。
ロリコップ「やあ、オパンティヌス」
オパンティヌス「おかえりロリコップ」
数年後。
瑞穂の国、東の都、桜宮にある紅白本部。
そこのカフェで、長年変わらぬ挨拶を交わして二人は落ち合う。
オパンティヌス「幼女の隔離に忙しいみたいだな」
ロリコップ「そっちこそ。巨大冷蔵庫の建造中に、よく時間が取れたな」
オパンティヌス「わしは設計をしただけさ」
ロリコップ「ところで今日はどうした」
オパンティヌス「聞けなかったことがたくさんある」
ロリコップ「何が知りたい。答えられることなら答えよう」
オパンティヌス「それはつまり、答えられないこともある。そういうことだな」
ロリコップ「参ったな。お前を相手にすると口下手になるらしい」
オパンティヌス「くだらんジョークは無しだ。知っての通り、わしは寡黙な男だ。長話は好かない」
ロリコップ「なら丁度いい。俺が話せることはまだ少ない」
オパンティヌス「どういう意味だ」
ロリコップ「ひとつ、国家機密幼女と指定された特別な幼女達がいる」
オパンティヌス「国家機密幼女?」
ロリコップ「世界各国に僅かにいる。もちろん、この瑞穂の国にもだ」
オパンティヌス「それはどういった幼女だ」
ロリコップ「幼女色々だが、基本的には魅力が強い幼女で、覚醒遺伝子の研究に協力してもらっている。しかし……」
ロリコップは声を潜めて言う。
ロリコップ「瑞穂の国だけは特別だ。実は後に、君に任せようと考えている」
オパンティヌス「今、任せればいいだろう。焦れったいのも好かん」
ロリコップ「それであの日、告白の返事を返さない彼女に一日中付きまとったのか」
オパンティヌス「お前はわしが嫌いなんだろう。そうだろう」
ロリコップ「失礼、話を戻そう。とにかくだ、まだまだ準備が整っていない。それに瑞穂の国家機密幼女は手強い」
オパンティヌス「幼女が手強いだ?確かに抗えぬ魅力はあるが、他はそこらにいる子供となんら変わらんだろう」
ロリコップ「言ったろう。特別だと」
オパンティヌス「もったいぶるな」
ロリコップ「信じられないだろうがよく聞け。瑞穂の国家機密幼女は神に等しい幼女の始祖だ」
オパンティヌス「ははは……笑えん」
ロリコップ「恐ろしいことに、彼女は幼術を扱う」
オパンティヌス「幼術?」
ロリコップ「簡単に言えば、魅力を自在に利用して人を惑わせたり操ることが出来る」
オパンティヌス「ははは……呆れた」
ロリコップ「もっと呆れさせてやる。彼女の魅力にトキメキ、千人余りの人間が操られていた」
オパンティヌス「ふーん」
ロリコップ「隔離地域を探していたある日のことだ。まるでゾンビが蔓延るような村を見つけた。そこを支配していたのが瑞穂の国家機密幼女だった。我々は何とか交渉して村を解放したが、彼女から情報を得るには至らなかった。どれだけ崇め奉っても無駄だった」
オパンティヌス「よく分からない」
ロリコップ「機が熟せば分かる。その時は頼んだ、お前だからこそ頼む」
オパンティヌス「興味はある。いいだろう。その時が来たら引き受けよう」
ロリコップ「ありがとう。それじゃあ最後に一つ」
オパンティヌス「もうネタ切れか」
ロリコップ「そう言うな。これはとっておきのロマンがある」
オパンティヌス「聞かせて」
ロリコップ「俺は宇宙で幼女を見た」ひそ
オパンティヌス「!」
ロリコップ「この話はまた今度にしよう。彼女は最後の希望だから」
ロリコップは数年前と同じく、呆気にとられたオパンティヌスと、今度はコーヒー代も置いて仕事に戻った。
それから二人は会うことはなかった。
オパンティヌス「お前がキュン死にするほど魅力的な幼女をわしに任せるだと。とんでもない遺言を残したな。まったく、最後までお前は糞野郎だ」
さらに時は過ぎて現在、二千二十年。
博士として紅白淡慈支部に派遣されたオパンティヌスは、ドローンと人工知能を使って幼女の観察と研究を行っていた。
それからロリコップのもう一つの頼みをきいて国家機密幼女にも会ってはみたが、想像以上の幼女で今なお交渉に苦戦している。
瑞穂最強の幼女を研究すること。
国家機密幼女から有益な情報を得ること。
その最後には彼に代わって世界と人類を確かに救う。
この課せられた絶対的な使命が、毎日のように彼を怒鳴りつけ責めたてた。
締め付ける胸の苦しさは幼女の魅力によるものではなかった。
オパンティヌス「ダメだ!成果が出ない、何も変わらない、また時間だけが無駄に過ぎていく!」
今年、オパンティヌスは喜寿を迎える。
七十七という年齢は夢の限界をけたたましく頭に響かせた。
オパンティヌス「あああああ!!」
そんなある日、オパンティヌスは数十年ぶりにブリブリ脱糞した。
寝る間を惜しんで研究に努めた体が徒労を猛烈に吐き出した。
虚しくも汚れた部屋を一人で黙々と掃除していると、彼の中で絶望がどんどん膨らんだ。
それが、ふと、パンッと弾けたのは梅雨の時期になってからだった。
主人公「この蕎麦、薫りがいいですね」
ミス「しあやちゃんの御両親が贈ってくださいました。日頃のお礼だそうです」
主人公「ありがたい。しかし、イケイケのパリピなのに要所要所しっかりされていますよね」
相棒「幼女幼女?」ぽけー
ミス「失礼ですよ。彼らは娘を持って親となったのです。親と子が共に成長する、その可能性はあなたが身をもってよくご存知でしょう」
主人公「そういうカラクリか。よし今度、改めて直接お礼をしよう。親同士で話もしてみたい」
ミス「いいですね。きっと有意義な時間になるでしょう」
相棒「お遊戯の時間?」ぽけー
ミス「また溢してます。しっかりしてください。まだ介護される歳じゃありませんでしょう」ふきふき
相棒「だっこ?してして」ぽけー
ミス「困りましたね」うーん
主人公「そろそろハッキリ申し上げます。ミスリーダー、あなたのせいです」
ミス「私ですか」びっくり
主人公「相棒のミニフォンの設定を、すずりちゃんから、しあやちゃんへと変えましたね」
ミス「なるほど、それが原因でしたか。愛のムチになると思ったのですが、少しばかり厳かったようです。反省します」
主人公「じゃあ、設定を変えてあげてください」
ミス「いえ変えません。これくらい乗り越えないと、これからもずっと、あなたが単独で戦い続けることになります。それはこちらとしても戦力不足で困ります」
主人公「でも、もう二週間はこの様です」
相棒「蕎麦はフォークで食べると美味しいんだって」ちゅるちゅる
主人公「ほら、すっかり阿呆おじさんになってしまいました」
ミス「はあ……何か手はないでしょうか」
主人公「いや、だから」
ここで突然、室内に緊急警報が鳴り響く。
相棒は真っ先にテーブルの下に隠れた。
主人公「梅雨の時期は、雨でお出かけの頻度が少ないはず」
ミス「雨が強くなるから今日は家で遊ぶと、さっき連絡がありました。これは妙ですね」
主人公「また、突然のお出掛けでしょうか」
ミス「とにかく確認します。ケツ、聞こえますかケツ」
人工知能ケツは沈黙している。
ミス「オペレーションルームで直接確認しましょう」
主人公「アニメイツ!」
一階のオペレーションルームへ急行する。
部屋は暗く、回転する警報灯の明かりが不気味に恐怖を煽る。
ミス「電気がついていない……どうして」
主人公「おいケツ!おーいケツ!ケツやーい!」
ミス「コンピューターも反応ありません」
主人公「電気系統がやられている?雷でしょうか」
ミス「まさかあり得ません。光も音もないし、二階は停電してませんでしょう」
主人公「そうだ。博士はまた徹夜して研究ですか」
ミス「訪ねてください。私はコンピュータを引き続き起動してみます」
主人公はオペレーションルームの左奥にある研究室の扉の前に立った。
ここは誰であろうと立ち入り禁止の場所である。
それを守って、ドアを叩いて呼びかけた。
主人公「博士!そこにいますか博士ー!」
五分、リズムよく続けても反応がない。
主人公はやむを得ず突撃することにした。
主人公「緊急時です!失礼します!」
もぬけの殻だった。
機材もほとんど残っていない。
慌てて夜逃げでもしたかのように、幾らかの機材や部品が散らかっているだけだった。
主人公「あれれ、おっかしいぞ」うーん
ミス「あら、誰もいませんね。それにこの部屋の有り様は何事でしょう」
主人公「誘拐……!」
ミス「だとしたら、なぜ機械までないのでしょうか」
主人公「ですよね」
ミス「この施設の異常からして、考えられるのは裏切りしかありません」
主人公「そこまで言い切らなくとも」
ミス「他に理由が思い当たりますか」
主人公「幼女がまた増えるのを恐れて夜逃げしたとか。この異常は、嫌がらせかな」
ミス「んー……ありよりのなしですね」
主人公「ありよりのなしですか……」
相棒「ミスリーダーのお言葉のまま。これは裏切りだ」
主人公「相棒!」びっくり
ミス「良かった。正気を取り戻したのですね」
相棒「良くないです。ミスリーダーのせいで、ここ二週間の記憶が曖昧です」
ミス「それは、あなたの根性が足りないせいです」
相棒「根性論なんて、おじさんでも時代遅れに思います。そもそも幼女の魅力に根性で耐えられるなら誰も苦労しません」
ミス「なら、根性以外で耐えられるようになってください。私はこれでも、あなたのためを思ってしたんです」
相棒「ああ言えばこう言う。申し訳ないですけど、ありがた迷惑ですそれ」
ミス「そう……ですか……ごめんなさい」しゅん…
相棒「え、あ、いやそこまで落ち込まなくても」
主人公「ちょっとこい」ぐいー
相棒「なんだ。俺を責める気か」おとと
主人公「いいか!ミスリーダーはここ二週間、ずっとお前の世話を甲斐甲斐しくしていたんだ!家事にトイレも風呂までだ!それに、公園を散歩したり、パチンコに連れて行ってみたり、寝るときには子守唄を歌ってあげたり、精神面もきちんと考えていた!」ひそひそ
相棒「夢じゃなかったのか……!」
主人公「責任感が強い人なんだ。本当に、お前と、これからの為を思ってしたことなんだ。どうか許してあげてくれ」かたぽん
相棒「いやダメだ」
主人公「馬鹿を言え!」
相棒「いてえ!洗濯バサミで腕を挟むな!それどこから出した!」
主人公「キュン死に対策に、いつもポケットに入れてあるんだ」
相棒「へえ、いい案だ」なるほど
主人公「だろう」どやっ
相棒「て、そんなことはどうでもいい」
相棒は部屋の隅っこで背中を向けて涙をこらえるミスリーダーのもとへズカズカと歩む。
そして、肩を思いっきり掴んで振り向かせた。
相棒「お世話かけました!!」
全力の最敬礼は頭突きという形で失敗した。
ミスリーダーのデコを撫でて謝罪に移る。
相棒「あなたのお心遣いを軽んじ、また、踏みにじってしまったことを男としても部下としても深くお詫びします」
ミス「そこまでかしこまらなくても結構です。あなたの言葉は正しい」
相棒「いえ、何であれ俺は男らしく応えるべきでした。遅れまして、今度こそ、あなたの誇れる部下になれるよう邁進することをここに誓います」
ミス「まあ……!」きらきら
主人公「ふっ、まったく見せつけてくれる。負けられないな」
主人公は好敵手に拍手を贈った。
相棒はそれにガッツポーズを返した。
相棒「さて、ミスリーダー。現在マジの緊急事態です」
ミス「そうでした!裏切りは間違いないと言うのですか!」
相棒「世界規模で、こんな動画がばらまかれました」
相棒は腕時計から立体映像を投影する。
動画はロケットのカウントダウンから始まった。
主人公「なんだこのキャラクターは」どきっ
カウントダウンが終わりロケットが宇宙へ到達すると、画面端からひょっこりと犬のようなキャラクターが顔を出した。
相棒「ケモ娘だ。この胸のトキメキからして、博士が犬に幼女を足して作ったんだろう。二次元でもこの魅力、さすがとしか言えない」
ケモナ「こんにちわん!はじめまして、私はケモナっていうの。ケモナは今日、博士に頼まれて、みんなに愛を届けるよ」
相棒はここで一時停止して、映像を最小にした。
主人公「おい、よく見えない」
相棒「これでいい。ここからは危険だ」
ミス「何が危険なんですか」
相棒「この動画にはサブリミナルが仕込まれています」
ミス「何でしたかそれ。聞いたことはあります」
相棒「チラッチラッと幼女が一瞬映るように仕込まれているんです。意識の最下層に直接届くので、普通に見るより魅力は印象的です。現に朧気だった俺の意識が生きようともがいたほどです」
ミス「では、この警報は」
相棒「博士からの宣戦布告。そして、世界中で幼女パンデミックが起こったことの報せです」
主人公「幼女パンデミック?」
相棒「世界中で幼女の画像が大流行。テレビで緊急速報が流れるくらいだ。どこもかしこもトキメキ地獄になっている」
主人公「すずりちゃんを利用するなんて許されない!これは人権と肖像権の侵害だ!」
相棒「サブリミナル幼女は、すずりちゃんじゃない」
主人公「なら、しあやちゃんか」
相棒「いや、白い髪の、すずりちゃんによく似た幼女だ」
相棒は動画をいったん避けて、一枚の画像を表示した。
もちろん小さくして。
主人公「トキメキする!」ときとき
相棒「ここまで真に似せてヨウジョを再現するとは、博士は邪神だ」ときとき
ミス「再現?」ときとき
相棒「彼女はきっとアンドロイドです。そうとしか考えられません」
主人公「つまり……」
ミス「メカヨウジョ」
メカヨウジョ「ガオー!」
咆哮、三人揃って反射的に振り向く。
間もなくためらいもなくドアを抜けてオペレーションルームへ飛び込むと、幼女の影を遠くに見つけた。
相棒「博士がわざわざ送り込んできたな」
主人公「何のために」
相棒「決まっているだろう。俺達が邪魔なんだ。彼女のモデルとなった、すずりちゃんをよく知る人間だから」
主人公「博士……どうしてだ!」
相棒「それは見つけ出して聞くしかない」
メカヨウジョ「ガオー」とたとた
ミス「二人とも、私に任せて装備を持って逃げなさい」
主人公「ミスリーダー、何を言います。ここで戦います」
ミス「勝ち目はあるの?」
主人公「自信は、ほどほどに」
ミス「相手の正体はよく分かりません。何が有効で撃退出来るのかさっぱりです」
主人公「しかし」
ミス「だからこそよく考えて下さい。命を賭けるときは、必ず勝てると信じた瞬間に賭けてください」
相棒「……行こう」
主人公「ミスリーダーも一緒に行きましょう」
ミス「ありがとう。そのお言葉で十分です」
ミスリーダーは笑って、影に向き直った。
それからクラウチングスタートで爆走。
チーターの如く距離を一瞬で縮めた。
影は目前に立ちはだかるミスリーダーを見上げても動じない。
対してミスリーダーはトキメキして悶えている。
主人公「見てられない」
そう言って助けに向かおうとする主人公の腕を、相棒は掴んで引き留める。
そのまま右奥のミーティングルームへと強引に連れて行った。
主人公「おい!」
相棒は主人公に壁ドンして、目を捉えて真面目に言う。
相棒「ミスリーダーのあの覚悟を見ただろう。次は俺達が覚悟を見せる番だ」
主人公「キュン死にするかも知れない!僕はもう目の前で誰かがキュン死にするのを見たくはない!」
相棒「俺もだ!」
相棒も過去に、幼女大行進の後に残されたキュン死にした人々の散らかるのをたくさん見ている。
そして今日もまた。
相棒「世間がいう児童を守るネット義賊組織、チャイルドシート。それが壊滅状態になった」
主人公「え?」
相棒「博士の狙いはそれもあったんだろう。まんまとやられた。俺は、大切な仲間を多く失った!」
相棒はそれきり黙って、二人はミーティングルームとトレーニングルームを抜けて、非常口から外へ出た。
雨の中走って、階段を駆け足で上がり、それぞれ自室でメカヨウジョが侵攻する前に準備を整える。
支給された戦闘服を着て、博士が作った装備品の入った重いリュックを背負った。
主人公「雨が強くなってきたな」
と、雨音の中にノイズがあるのを聞いた。
遅れてチャイムが鳴った。
主人公「早いな」
ピンポーン。
主人公「二階からなら飛び降りても平気だろうか」
ピンポーンピンポーン。
主人公「いや、腰が痛そうだ」
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。
主人公「うあああ!やめろおおおおお!!」
ドン!
主人公「ひっ」びくっ
ドンドンドン!
主人公「鍵は開いている!来るならこい!」
ピタリとドアノックが止んで、ドアノブがゆっくりと回転する。
主人公は息を飲んで、まぶたをこすってから目を凝らした。
ドアがゆっくりとゆっくりと開いていく。
隙間から弱々しい日光が玄関へと差し込んだ。
それを影が遮り、ドアに色白の小さな手が掛かった。
キィ……と音を立てて隙間が広がると、それに合わせて大きな雨音がまず部屋へ入ってきた、直後。
主人公「ふぇ……」
くりくりした目がキョロリとこちらを覗いた。
主人公「ああ……ああ……」どきどき!
恐怖がトキメキを助長する。
心臓は爆発寸前まで収縮を繰り返して肺は呼吸を忘れて萎縮する。
恐怖から逃れようと焦点もぶれてきた。
相棒「メカヨウジョちゃん!こっちだ!」
相棒の声をきっかけに主人公はハッと正気を取り戻して生き返る。
メカヨウジョが撤退するのが、ドアが閉まるまでの一瞬なんとなく確認できた。
相棒「大丈夫か!」
勢いよくドアを開けて、やたらとでかいサングラスをかけた相棒が姿を見せる。
ちょっと笑って気が楽になった。
相棒「このサングラスは博士が幼女視認によるトキメキを抑える効果があるって用意してくれたものだ。お前も持っているだろう」
主人公はリュックからやたらとでかいサングラスを取り出して装着した。
天気が悪いのもあって視界はより暗くなったが、これなら幼女を直視しても戦えそうだ。
主人公「しかし、どうやって撃退した」
相棒「これだ」
相棒が得意気に見せたのはピーマンの食品サンプルだった。
それは形から触り心地まで精巧に出来ていて、ヘタにあるスイッチを押せばピーマンの臭いが辺りに拡散する仕組みになっている。
主人公「ピーマン臭い。凄まじい威力だ」
相棒「これで分かった。メカヨウジョはヨウジョの弱点も完璧に再現している」
主人公「なぜ、わざわざ弱点を残した」
相棒「それも魅力だからだろう」
主人公「弱点があるのが魅力的?」
相棒「アニメキャラクターで例えると分かりやすい。アニメキャラクターは人気を得るために、完璧な設定にするんじゃなくて欠点を一つでも与えることが多いんだ。賢いのにドジだとか、運動が得意だけれど料理が苦手とかな」
主人公「なるほど。うちの妻がそうだ」
相棒「こんな時に自慢はよせ」
主人公「ごめん。別に自慢したわけじゃない」
相棒「いやいい。こっちも別に僻んだわけじゃない」
主人公「それより!ミスリーダー!」
思い出して、顔を見合わせた二人は慌てて階下に降りる。
その途中、メカヨウジョがウサギさんの雨合羽を着て退避しているのが見えた。
有難い好機にオペレーションルームへ急ぐ。
主人公「ミスリーダー!」
ミスリーダーは部屋の真ん中で、惚けた顔して横たわっていた。
とてもトキメキして意識がギリギリのところにあるのが、水溜まりとなったヨダレから分かった。
ミス「逃げなさいと言ったのに……」
主人公「メカヨウジョは相棒が撃退しました。もう平気です」
ミス「一体どうやって?」
相棒「メカヨウジョにも弱点がありました。それと、皮肉にも博士の装備が役に立ちました」
ミス「では、引き続きメカヨウジョと交戦して、博士の居所を探ってください」
相棒「アニメイツ」
主人公「あのう。この施設は、やっぱりもう使えないですよね」
ミス「ええ。ケモナちゃんに乗っ取られました。あのケモ娘のキャラクターです」
主人公「ケモナ……ちゃん!」
相棒「挟み撃ちにされたわけですね」
ミス「二人は私の周りを楽しそうに駆けっこしました」
相棒「ひどい仕打ちだ!そんなの可愛いに決まっている!博士の卑怯もの!見損なった!」
相棒は床を何度も叩いて悔しがった。
尊敬する博士が、ミスリーダーをこんなひどい目に合わせ、大好きな幼女と二次元を私的に利用したのが許せなかった。
主人公は隣で相棒の苦しみを理解して、歯を食い縛り拳を痛いほど握り締めた。
ミス「私は救急車を呼んで病院へ行きます。二人はまず、メカヨウジョを探してください」
主人公「どうかご無事で」
ミス「あなた達も。健闘を祈ります」
二人はミスリーダーを残して外出する。
雨が滝のように降っていて、ビニール傘をさすと自然によるドラム演奏が始まった。
相棒「気を紛らわそう」
相棒はドラムに合わせて口笛を吹き、ふざけて調子よく踊り出した。
相棒「憎しみじゃ何も変えられない」
主人公「当然だ」
相棒もおじさん。いい大人だった。
そこは、ちゃんと理解している。
相棒「こんな時だからこそ笑って世界を救ってやろう」
主人公「ああ」
相棒「博士に愛のムチを打ってやろう」
主人公「ああ!」
相棒「それで、どこ行く?」
主人公「ああ……」
相棒「この格好で町に出るのはよくないよな。一応、秘密裏に活動している身だから」
主人公「ああ」
相棒「よし、パチンコ行くか」
主人公「ああ?」
相棒「変なおっちゃんがたむろしてるだけだから問題ない」
主人公「嫌だ。僕は好かない」
相棒「文句言ってられる状況か」
主人公「しかしだ」
相棒「金は気にしなくていい。肩の力を抜くことを理由に少し遊ぼう」
主人公「ハマってしまったらどうなる。僕は家庭を持つ身だ」
相棒「それは自分で何とかしろ」
主人公「何よりタバコ臭いのが困る。これから幼女に会おうというのにマナー違反だ」
相棒「安心しろ。俺が買い取って禁煙にしたパチンコ店だから」
主人公「馬鹿じゃないか!」
相棒「買い取ってしまえば遊び放題。さらに金も入る。どうだ素晴らしいだろう」
主人公「あなたは変わり者だ」
相棒「変わり者はお前達の方だ。我慢したって窮屈なだけだ。人生は一日一日、今一瞬、心のままに行動しなきゃ楽しくない」
主人公「金持ちだから、そういう無責任なことが言えるんだ」
相棒「文句なら資本主義に言え」
主人公「やめておこう。世の中、金が全てじゃないと僕は思うから」
相棒「そうそう。金持ちだとかそうじゃないとか関係ない。大切なのはそれぞれの生き方だ」
主人公「現在の時代は資源主義でもある。心が生み出す愛という資源、その価値が全てに勝ることも必ずあるだろう」
相棒「いい歳して臭いこと言うな。そういうのは幼女みたいな若い世代が言うものだ」
主人公「別に大人が言ったって構わないと思うがな」
相棒「資源主義って確か、三十年以上前にオパンティヌス・ボーイとかいう天才が、革命的エコロジーを爆発的に世界に広めたのがきっかけだっけ」
主人公「そう。オパンティヌスのおかげで、人類は自然と向き合い、資源を大切にするように考え直したんだ」
相棒「オパンティヌスは偉人だな」
主人公「そうだな」
相棒「ん?オパンティヌス……?」
主人公「オパンティヌス」
相棒「オパンティヌス、て、どこかで聞いたことあるな」
主人公「愉快な名前だ」
相棒「それは、外国の名前だから感覚が違って仕方ない」
主人公「そう言えば、博士の名前もオパンティヌスだったな」
相棒「え?」
主人公「え?そうだろう」
相棒「偶然の同名だな」
主人公「ミニフォンでちょっと調べてみよう」
相棒「ハッキングされていないか」
主人公「大丈夫みたいだ。あ」
相棒「あーこれは同一人物だな」
主人公「へえ」
相棒「全部納得いった」
主人公「僕達は勝てるだろうか。相手は歴史的偉人だ」
相棒「勝つしかない」
主人公「そうだな……よし決めた。今回の戦いのテーマは愛だ」
相棒「作戦名、愛は池球を救う」
主人公「それでいこう」
相棒「アニメイツ」
いざ、決意新たに入店。
主人公は相棒に並んで席についた。
パチンコは簡単に見えて奥が深かった。
相棒「ミスリーダーからメールだ」
主人公「近況報告を下さい」
相棒「三万勝ってます」ぽち
主人公「あーあ。後で怒られる」
相棒「後のお楽しみだ。人生、楽しみは多い方がいい」
主人公「やっぱりあなたは変わっているよ」
相棒「お、ヨウジョとコスプレイヤの両親から連絡があったらしい」
主人公「なに!協力せよだと!」
相棒「きっと、しあやちゃんが言い出しっぺだな。世界の危機を知って魔法幼女の血が騒いだんだ」
主人公「待ち合わせるにしても、肝心のメカヨウジョの居所が分からないんじゃどうしようもない」
相棒「いや、その心配はなくなった」
主人公「どういうことだ」
相棒「招待するんだ」
主人公「どうやって」
作戦、愛は池球を救う。
そのプランはこうだ。
まず、支部にラブレターを送る。
メールを検閲したケモナがそれを博士へ届け、メカヨウジョへと渡る。
主人公「それで来るかな」
相棒「望むところだろう。なにせヨウジョは宿敵だ」
主人公「来たらどうする」
おままごと。
そのテリトリーに誘い込み情報を聞き出す。
主人公「幼女に交渉は難しそうだ」
相棒「だが、これしかない」
主人公「やるしかないならやろう」
相棒「そういうことだが、おっと、当たりだ」
主人公「おお!初めての当たりだ!」
相棒「最後まで頑張れ」かたぽん
主人公「は?」
相棒「今日は俺に任せて、お前は存分に楽しめ」
主人公「冗談だろう」
相棒「本気だ。俺に任せてほしい」
主人公「世界的危機なんだ。一人でカッコつけるな」
相棒「カッコつけてない。これは二週間迷惑をかけた俺のケジメだ」
相棒はそう言って颯爽と店を出た。
主人公は彼の背中を笑顔で見送った。
任せたいと心から思ったからだ。
主人公「まったくカッコつけやがって」
主人公はこちらも負けられないと気合いを入れてパチンコと向き直った。
右端まで球を飛ばせという指示が立体的に表示されている。
それに従ってハンドルを全力で捻ると、球は勢いよく盤面を左から右へと流れた。
その球が中央の特別な穴に落ちて派手な演出が視界いっぱいに飛び出す。
主人公は目をチカチカさせて興奮した。
その戦いは夜遅くまで続いた。
相棒「待ち合わせ場所は、因縁のあるあの公園か」
思い返す。あの日も雨だった。
傘を届けようとしたが、ヨウジョがあまりに魅力的で近付けず、届けることが出来なかった。
そんな彼を助けてくれたのが主人公だ。
主人公は自身がトキメキするのも省みず、揺るぎない勇気と覚悟と信念と愛でヨウジョに傘を届けた。
彼は残念なことに、その四つ、どれも持ち合わせていなかった。
幸いにも口が達者で二人を誤魔化すことには成功した。
誤魔化しただけで、まだ嘘はついていない。
相棒がこれから成すべきことは、有言実行あるのみ。
たった今日一日だけでもやり遂げねばならない。
それくらいの良識なら持ち合わせていた。
相棒「町まで遠いな。時間もないし走ろう」
ということで走って町へ向かう相棒。
その様子を、遠くからドローンを経由して監視している者達がいた。
オパンティヌス「ふむ……」
メカヨウジョが指先から投影する立体映像を見て、オパンティヌスが顔をしかめて唸る。
オパンティヌス「主人公はなぜパチンコ店に残った。何か意図があるのか」
メカヨウジョ「分かりません」
どうでもいい疑問はさておき、幼女を娘に持つ主人公がいないことはオパンティヌスにとって有利なことだ。
ほくそ笑んで、邪魔な男が一人キュン死にするのを楽しませてもらうことにした。
メカヨウジョ「博士。どうしますか」
オパンティヌス「行って楽しんで来い」
メカヨウジョ「アニメイツ。メカヨウジョ出撃します」
オパンティヌス「さて、ヨウジョをどう泣かせよう」
オパンティヌスはヨウジョを倒すのではなく、利用するのを企んでいた。
彼女を泣かせることで、ふぇぇぇん現象を誘発できるかも知れない。
それだけ強大な魅力を持つヨウジョに博士は期待していた。
メカヨウジョがヨウジョに冷たい態度をとって心を凍てつかせ砕く。
これが作戦名、アブソリュート・ゼロ、その真の全容である。
オパンティヌス「ふははははは!」
オパンティヌスは久しく忘れていた笑いを大声で上げた。
オパンティヌス「考えなくていいじゃないか。あとはメカヨウジョが完璧にやってくれる。あの子は決して燃え尽きぬ流れ星なのだから」
オパンティヌスはキューブ型の機械を起動した。
それは複雑に開いて、旧型のパーソナルコンピュータの形に落ち着いた。
オパンティヌス「さあ、願いを叶えてくれ。わしの流れ星」
その頃。
二人の幼女が公園の屋根つき休憩所の木製ベンチに座って待ちぼうけをくらっていた。
ヨウジョ「来ないね」
コスプレイヤ「うん」
ヨウジョ「遊ぼっか」
コスプレイヤ「だめよ!マヌーケをやっつける作戦があるでしょう!」
コスプレイヤは眉を谷折りにして気合い十分だ。
世界を救えるのは自分達だけだと自信満々だった。
友達という誇りもある。
彼女は負ける気がしなかった。
相棒「おまたー!」
そこへ遅れて、お茶目に相棒が走ってくる。
でかいサングラスを掛けた顔を見てコスプレイヤは不審者だと怯えた。
コスプレイヤ「知らないおじさんだ……」びくびく
相棒「俺だ。いつものおじさんです」
第三者が聞けば間違いなく通報されるだろう挨拶を済ませて、不審者は二人の背後にある茂みに隠れた。
相棒「うわっ、つめた。ひえー濡れた」
ヨウジョ「ねえねえ、どっちのおじさんなの。どうしてサングラスを掛けているの」
相棒は目を閉じてサングラスを外した。
相棒「こっちのおじさんだ。サングラスは、君達があまりにも可愛いから掛けているんだ」
不審者らしい文句を述べて、薄目でコスプレイヤを見てみる。
桃色のウィッグはしていたが、さすがに魔法少女の服は着ていなかった。
これなら幾らかトキメキを抑えることが出来そうだ。
しかし、お揃いの花模様の雨合羽は胸をキュンとさせる。
サングラスを外すことはやはり出来ない。
コスプレイヤ「私のことを見たら、おじさんも倒れちゃうんだよね」
ふと、コスプレイヤが呟く。
彼女は自身の魅力を理解していた。
そして、トラウマを思い出していた。
コスプレイヤ「ごめんなさい……」くすん
相棒「君が謝ることはない!」
相棒は目をカッと見開いてコスプレイヤを直視した。
瞬間、一目惚れ、彼女の潤んだ瞳から迸るキラキラが彼の目を焼いて脳を焦がした。
その危険の報せを受けてトキメキする胸に偽ることなく、堂々と彼女の魅力を受け入れる。
相棒「魔法少女マジカバカカ第十九話!覚えているか!」
コスプレイヤ「世界に一つだけの愛」
相棒「それは君だ!!」
コスプレイヤ「!」
魔法少女マジカバカカ第十九話、世界に一つだけの愛。
魔法少女しあやは、みんなを幸せにするはずの魔法で大切な友達を傷つけてしまう。
これは切ないけれど、優しい愛の物語。
その日は友達の誕生日だった。
しあやは友達が最も好きな歌をプレゼントと一緒に贈った。
ところが、友達はその歌の思い出を失って間もなかった。
歌の途中で我慢できずに泣いてしまう。
しあやは戸惑った。
友達はそれでも優しかった。
しあやを責めることなく訳を話す。
友達は数年前から、馴染みの美容院のお兄さんにうんと背伸びして恋心を抱いていた。
そのお兄さんはいつも同じ歌をうたいながら髪を切る。
友達はお兄さんの歌声が大好きで、美容院に通う日を、その歌を口ずさみながら楽しみにしていた。
それがつい先日のことである。
美容院のお兄さんは交通事故で亡くなってしまった。
その報せは友達のもとへすぐに届いた。
恋心を知っていた彼の仲間達が飛んで知らせてくれたのだ。
彼からの誕生日プレゼントを持って。
本当なら今日この日、友達からお兄さんへ、いつものお礼にと彼のお気に入りの音楽ディスクとオモチャのマイクが手渡しで届けられるはずだった。
でも、それはもう叶わない。
プツッと途切れるように話終えた友達は大泣きした。
しあやは彼女を抱き締めて一緒に泣いてあげることしか出来なかった。
時間がゆっくりと過ぎた。
落ち着いた友達がしあやに言う。
相棒「ありがとう」
それからおもむろに、ノートパソコンに音楽ディスクを入れて再生した。
何年か前に母親に聞いて、自分で調べて、そうして苦労して手に入れた彼のお気に入りの歌が流れ始めた。
アップテンポだけど優しい歌、曲名は、世界に一つだけの愛。
相棒「一緒に歌って」
コスプレイヤ「いいよ」
しあやは頷いて一緒に歌った。
友達は笑っていた。
悲しみの水面に浮いていた彼との思い出は、また楽しく羽ばたいて心を巡った。
その帰り、玄関の外で友達がしあやに感謝を告げる。
相棒「ありがとう」
コスプレイヤ「ううん。今日はごめんね」
相棒「いいの。あなたは何も知らなかっただけ。それより私は、あなたのおかげで気持ちが楽になりました」
コスプレイヤ「でも……」
相棒「世界に一つだけの愛。それは、ひとりひとり、特別」
コスプレイヤ「歌詞?」
相棒「うん。歌詞だけれど、本当のことだと思うんだ。あなたにはあなたの愛がある。私はそれが好きだよ。だから、ありがとう」
コスプレイヤ「……うん!」
しあやは涙を見せないよう、すぐに振り向いて走って帰った。
友達は大好きな歌を口ずさみながら、静かに玄関の扉を閉じた。
相棒「……ぐすっ。長くなったけれど、そういう話だ」
ヨウジョ「前に、しあやちゃんと見たよ」
相棒「なんだやっぱりか。二人はすっかり仲良しさんだね」
コスプレイヤ「うん!」にこっ
相棒「コスプレイヤちゃん」
コスプレイヤ「コスプレイヤちゃん?」
相棒「ああと、しあやちゃん」
コスプレイヤ「なに?」くびかしげ
相棒「君を見て倒れた人がたくさんいるのは事実だ。でも、その時、彼らは苦しそうな顔をしていたかな」
コスプレイヤ「うーん……笑ってた」
相棒「そうだろう、彼らは苦しんでなんかないんだ。だからもう思い悩まなくていい。彼らのことは、必ず俺が助けるから」
コスプレイヤ「おじさん、それ本当!」
相棒「約束する。おじさんは大人だから任せなさい」
コスプレイヤ「はい!お願いします!」ぺこ
世界に一つだけの愛が眩しく輝いた。
コスプレイヤの心に寄生する邪悪はその光に消え去った。
子供が気負うことはない。
大人がどうにかしてやればいい。
それが大人だからこそ、大人にしか果たせない使命だ。
愛と信念は持ち合わせた。
相棒「あとは勇気と覚悟だ」きっ!
相棒の鋭い視線の先に、ウサギさんの雨合羽を着た幼女が雨を気にせず立っている。
機械幼女、襲来。
ヨウジョ「がおー!」
ヨウジョが気付いて威嚇した。
自分に真に似たメカヨウジョを前にする彼女の心境はさぞ複雑なことだろう。
相棒は隠れるのをやめて、彼女達と同じ屋根の下に腕を組んで仁王立ちした。
メカヨウジョ「お話は終わりましたか」
ヨウジョ「がおー!!」
メカヨウジョ「ガオー!!」
さすがアンドロイドだ。
その咆哮は近所迷惑どころじゃ済まないほど大きく、もしかしたら島全体を揺らしたかも知れない。
ヨウジョ「ふぇ……」
さすがにたじろぐヨウジョ。
相棒は震える手を無理矢理抑え、彼女の背中を軽く叩いて安心させて自信を取り戻させてやる。
相棒「作戦はご両親から聞いたかな」
ヨウジョ「うん!」
相棒「力を合わせて頑張ろう!」
コスプレイヤ「おー!」
メカヨウジョは三人に構わず屋根の下に侵攻。
そして雨合羽を脱いで雨粒を払うとベンチに畳んで置いた。
露になる彼女の全貌。
肩までの白いセミロング、薄い琥珀色の瞳、中心にデフォルメされた怪獣の描かれた幼女とは色違いの。
ヨウジョ「あー!特別なお洋服!」
後に調べたら、メカヨウジョが装備しているのは海外限定販売の服だった。
メカヨウジョ「博士がくれました」
メカヨウジョは表情の変化も備えていた。
どや顔で胸を張り、怪獣のイラストを強調して自慢した。
ヨウジョ「いいなー」
ヨウジョは心を揺さぶられ、つい羨んだ。
そこですかさず、コスプレイヤがフォローしてくれた。
劇場販売限定の魔法少女しあやのレジャーシートを惜しみ無く広げて、風で飛ばないよう端に荷物を置いた。
彼女が靴を脱いでそこに落ち着くのを見て、二人もそれに倣った。
これでメカヨウジョがこちらのテリトリーに入った。
相棒はベンチに座って作戦の成り行きを見守る。
ヨウジョ「おままごとしましょう」
メカヨウジョ「いいですよ」
ヨウジョ「じゃあ、あなたお名前は?」
メカヨウジョ「ことほ」
ヨウジョ「ことほちゃんはお母さんね。私はお父さん」
コスプレイヤ「えっと……」
ヨウジョ「しあやちゃんは魔法少女ね」
コスプレイヤ「え?」
ヨウジョ「しー!ほら、昨日お話したでしょう」ひそ
コスプレイヤ「あ!私が考えた、魔法都会からやって来た見習い魔法少女だね!」
ヨウジョ「うん!」
メカヨウジョ「その設定は現実的にあり得ません。お断りします」
コスプレイヤ「で、でも」
メカヨウジョ「おままごとは家庭環境を真似て独自に再現するものです。当然に一定水準以上のリアリティーが求められます」
ヨウジョ「?」
容赦ないアンドロイドだ。
この蒸し暑い夏に大寒波を呼び込んだ。
ヨウジョも場もすっかり凍りついた。
だが、メカヨウジョの幼女らしさの欠けたこの冷徹な言動は、もしかしたら勝利の扉を開く鍵になるかも知れない。
それでも気は抜けない。
やはり凍りついたゆえ、こちらのペースがボロボロと崩れてしまう可能性がある。
コスプレイヤ「おままごとだから。好きにしちゃダメ?」
メカヨウジョ「どうしてもと言うならいいでしょう。こちらもアップデートします」
ヨウジョ「いいって。よかったね」
コスプレイヤ「うん」
何とか第一波を乗り越えた。
コスプレイヤの一言で凍りついたものが溶けていく。
メカヨウジョ「おままごとファンタジア起動」
幼女を越える順能力。
アンドロイドだからこその恐ろしいポテンシャルだ。
メカヨウジョは続けてシナリオの冒頭を勝手に語り始めた。
このままではストーリーを支配されかねない。
メカヨウジョ「私達夫婦は十年目の結婚記念日にマヌーケという怪物と遭遇。その時に助けてくれたのが彼女でした。彼女は、この世界で誰かを幸せにするという魔法少女の試験に合格するために、魔法都会から一人でやって来たことを明かしました。二人は疑うこともなく彼女を受け入れて」
コスプレイヤ「待って!難しくて、おままごとにならない!」
メカヨウジョ「では、良い代案があるなら言ってください」
コスプレイヤ「まだこの世界へ来る前のお話よ。私は魔法で小さくなって、お人形さんとこの世界で暮らす練習をするの」
危機一髪。
役に入ったコスプレイヤがメカヨウジョの主導権を塵も残さず粉砕した。
メカヨウジョ「いいでしょう」
ヨウジョ「どっちも難しい……」むむ
まずい、第二波の訪れ。
ヨウジョが困惑して置いてけぼりになっている。
もし彼女がおままごとに飽きてしまえば作戦は破綻し、世界が終わるかも知れない。
コスプレイヤ「気にしなくていいよ」
ヨウジョ「気にしなくていいの?」
コスプレイヤ「私は魔法少女だけど、あなた達の娘です」
ヨウジョ「しあやちゃんは魔法少女で、私達の子供なんだね」
コスプレイヤ「そう。だからお母さん、ご飯作って」
コスプレイヤによる不意討ち。
メカヨウジョがこの痺れるような攻撃にどう対応するか相棒は注目した。
メカヨウジョ「かしこまりました」
何かが駆動する音が鳴ってしばらく、チンという音の後に彼女の口から、綺麗に包装されたハンバーガーらしきものがスッーと出てきた。
ヨウジョ「ふぇ……?」びくっ
非常事態発生。
彼女がロボットだと知らない二人は完全に面食らっている。
その衝撃をイメージするなら、大都市の真ん中に忽然と現れた未確認飛行物体が街に一本の雷を落として街を焦土にしたようなものだ。
コスプレイヤ「手品だ!すごーい!」ぱちぱち
ありがとう。
コスプレイヤはそれを手品と受け止めた。
そして吸収した衝撃を倍にして返す。
コスプレイヤ「もっと見せて!」
アンドロイドとはいえ、あの小さな体ではこれ以上の芸当は出来まい。
という油断が瞬く間に致命傷となる。
メカヨウジョ「どうぞ」
なんと、口からチュロスがスルーンと生えた。
メカヨウジョは躊躇わずその切っ先をヨウジョに向ける。
湯気が立ってホカホカしている。
ヨウジョ「食べられるの?」
メカヨウジョは先ほど製造した包みを開けて、やっぱり出てきたハンバーガーを豪快に一口、パクリと食んでみせた。
とろけたチーズが溢れて口元をトロリと垂れる。
それを、小首を傾げ余裕に満ちた表情でペロリと舌なめずりした。
相棒はドキリとした。
ヨウジョ「ありがとう」
悔しいほど完璧なプレゼンテーションだ。
ヨウジョはメカヨウジョが口から出した丸裸のチュロスを受け取ってしまった。
おままごとというメカヨウジョを閉じ込めるフィールドバリアが粉々に砕けた瞬間である。
彼女はこんなにもあっさりと、難なく、こちらが綿密に練った作戦を台無しにした。
ヨウジョ「どうぞ」
そう言ってヨウジョがわざわざ半分に折ってくれたが、コスプレイヤはチュロスを受け取らなかった。
まだ戦いは終わっていなかった。
相棒は終わったつもりでいたが、魔法少女であるコスプレイヤは世界を救う目的を忘れずなお燃え上がっていた、と信じている。
コスプレイヤ「お母さん」
メカヨウジョ「何でしょうか」
コスプレイヤ「私はピーマンの肉詰めが食べたいな」
期待通り。
ここで秘密兵器の登場だ。
コスプレイヤは作戦に従って、可愛らしいリュックからおままごとセットを取り出す。
まな板に包丁、そしてプラスチックの数々の具材に混じって、艶のある本物のピーマンが取り出された。
メカヨウジョ「ピーマン……!」びくっ
ピーマンは本物。
これはヨウジョにとっても諸刃の剣。
ヨウジョ「ピーマン……!」ぐぬぬ
お互い正反対の反応で、ピーマンを挟んで向かい合った。
メカヨウジョ「お父さんはピーマンがお嫌いでしたね」
ヨウジョ「え。そんなこと……ないよ」
メカヨウジョ「では、どうぞこのままお食べください。今夜は主食が先ほどのチュロスで、おかずが栄養満点ピーマンサラダになります」
ヨウジョ「えー!」がーん
恐ろしい子だ。
相手の気持ちをまったく考えず、自分の安全を優先して、しかも生でピーマンを食べろと強引な理由で押し付けるのだ。
ヨウジョ「生は食べられないよ」あせあせ
メカヨウジョ「ピーマンは生でも食べられます」
ヨウジョは真顔になって答えなかった。
しばらく、二人は雨音に耳を傾けて心を癒した。
ヨウジョ「そうだ。これでお腹がいっぱいなの」
メカヨウジョ「食べ残したらモッタイナイオバケが来ますよ」
やられた。
見事なカウンターにノックアウト。
こちらが第二の秘密兵器として用意していたモッタイナイオバケをメカヨウジョに奪われてしまった。
ヨウジョはひきつった笑顔でまごつく。
ヨウジョ「でも……」
メカヨウジョ「ほら、残さずお食べ」ドスッ
メカヨウジョはこの機を逃がさない。
ヨウジョから目を離さずに、素早くオモチャの包丁をピーマンに突き立て、それをヨウジョの口にグイグイと押し付けた。
その暴挙にヨウジョは口をつぐんで嫌々する。
ヨウジョ「んー!んー!」
限界を感じたヨウジョが横目でコスプレイヤに助けを求める。
彼女は友達が一方的に乱暴されるこの状況にパニックを起こしていた。
相棒は見ていられず仲裁しようかと腰を上げた。
その時だった。
ヨウジョ「や!」
ヨウジョがピーマンをはたき落とした。
メカヨウジョは目をさらに丸くして驚いた。
メカヨウジョ「ピーマンに触れた……?」
ヨウジョ「ピーマン触れるよ」すっ
状況は一変。
ヨウジョが隙を与えぬ反撃に出る。
ヨウジョ「お母さんこそお食べ」ずいっ
メカヨウジョ「やあ……!」とてん
メカヨウジョは迫るピーマンに怯えて仰向けに倒れた。
すかさず、ヨウジョが覆い被さるように四つん這いになる。
ヨウジョ「お食べ」ぐい
メカヨウジョ「んー!んー!」
女の恨みは怖いとどこかの誰かが言った。
まさしく、しかしこんなに幼い頃からあるものとは思いもよらなかった。
相棒はベンチの陰に隠れてトキメキする胸を押さえた。
コスプレイヤを励まし自身を奮い立たせて、トキメキに負けない堅牢な精神を身に付けたつもりが、その魔法はさっぱり解けてしまった。
ヨウジョ「どうして食べないの」
メカヨウジョ「ピーマンやあです」
メカヨウジョには申し訳ないが、瞳を濡らした彼女の掠れて消えてしまいそうな否定を可愛く思った相棒は、ついに萌えて気を失った。
ケモナ「そこまでだわん!」
ヨウジョ「!」
ケモナ「わん!わんわん!」
メカヨウジョのピンチにオパンティヌスが助けを送った。
蝶か蛾か、小さく美しい昆虫型のドローンからケモナが立体的に映し出されている。
ケモナ「うぅー!」がるる
ケモナは吠えて威嚇した。
が、ヨウジョは動じない。
それどころか、犬でも人でもない、どちらかといえば犬っぽい幼女に見惚れて喜んでいる。
ヨウジョ「かわいい!あなたは誰!」
ケモナ「ケモナだわん!初めまして!」ぺこ
コスプレイヤ「わあ!おりこうさん!」ぱちぱち
コスプレイヤも落ち着きを取り戻した。
ケモナにすっかり夢中になっている。
メカヨウジョ「ピーマン残したのだあれ?」
と、いつの間にか二人の背後にゆらりと構えたメカヨウジョが不気味に囁く。
ゾッとして振り返ると彼女は笑顔だった。
それでホッとしたのも束の間。
二人がケモナヘ向き直ると、そこにはモッタイナイオバケがいた。
メカヨウジョは目を閉じ、勝利を確信してさらに微笑んだ。
ヨウジョ「きゃあ!オバケ!」
コスプレイヤ「怖いよ、すずりちゃん……!」
そのモッタイナイオバケはケモナが擬態したした姿だった。
モッタイナイケモナオバケは二人の目前、三㌢まで接近した。
二人は抱き合って恐怖に耐える。
コスプレイヤはもう涙を流していた。
メカヨウジョ「ピーマン食べる?」
ケモナ「モッタイナイわーん」
ミスリーダーを追い詰めたコンビネーション抜群の挟撃。
凍てついた心にヒビが入って、ぎゅっと閉じられたヨウジョのまぶたから涙が溢れそう。
オパンティヌスが彼方から画面越しに、計画の完遂の間もないことを確信して悦に入る。
メカヨウジョ「はっ!」
その時、メカヨウジョがあることに気付いた。
モッタイナイオバケがどうしてか二体に増えている。
目をゴシゴシしてから特級レンズを通して情報を細かに分析する。
一方は立体映像でケモナの擬態であることを確認した。
しかしもう一方はオバケなのに実態を持っている。
オパンティヌス「惑わされるな!それはわしが発明したモッタイナイオバケがドローンじゃ!」
メカヨウジョの脳裏に直接オパンティヌスの声が届く。
同時に、モッタイナイオバケがドローンの情報が送られてきた。
メカヨウジョ「モッタイナイオバケがドローン。デリケートな幼児に配慮して百㌫の綿で織られた純白の柔らかい布を使用。植物由来の成分によって、虫除けの効果を備え、また、抗菌性と撥水性と通気性にも優れている。それに目と口のワッペンを縫い付けてモッタイナイオバケを濃厚に表現。次に球形ドローンの上に被せればリモートコントロールによって自在に空中を漂うモッタイナイオバケがドローンが完成する」
オパンティヌス「つまり、ケモナと同じで本物ではない。安心なさい」
メカヨウジョ「はい」
オパンティヌス「オバケなんか嘘だ。オバケは怖くない」
メカヨウジョ「オバケなんか嘘だ。オバケは怖くない」
メカヨウジョが冷徹さを取り戻して奮い立つ。
メカヨウジョ「目標を破壊します」
メカヨウジョは破壊行動を決定して手を伸ばすも、はたと動きを止めて、反射的に手を引っ込めた。
オパンティヌス「どうした」
メカヨウジョ「足があります」じー
オパンティヌス「なに?」
メカヨウジョ「きゃあー!」とたとた
ふいに、モッタイナイオバケがメカヨウジョへ迫る。
彼女は靴も履かずに雨の中へ飛び出した。
オバケ「待て!」
メカヨウジョ「来ないでください!」とたとた
オバケ「待てー!」
メカヨウジョ「やーですー!」とたとた
メカヨウジョがモッタイナイオバケに追いかけ回される地獄絵図を見て、次は私達の番だと幼女二人は乳歯をカタカタと鳴らして絶望した。
ケモナ「ケモナも追いかけっこするわん!」
元の姿に戻ったケモナが追いかけっこに参加する。
三人は輪になってクルクル駆け回る。
メカヨウジョ「助けてくださいケモナ!」
ケモナ「どうしたの?」
メカヨウジョ「オバケをどうにかしてください!」
ケモナ「体温の検知からして、あれは人間!主人公の相棒が中に入ってる可能性が松だわん!」
メカヨウジョがそれを聞いてピタッと立ち止まる。
雨に濡れる彼女は独特な魅力を放っている。
オバケ「なまらめんこいべさ……」どきどき
オバケはトキメキして再度萌えたが、彼女に風邪をひかせてはいけないという保護と愛護の精神で何とか踏みとどまった。
メカヨウジョ「ねえ、おじさん。ことほ寒いです」
メカヨウジョは、わざとらしく上目使いで可愛い子ぶり、オバケのハートをアイアンクローよろしく鷲掴みにして、トドメに抱きつくことでベアハッグよろしく絞め上げようとした。
オバケ「ごめん。まさか飛び出すだなんて考えが足りなかった」ときとき
しかし、保護者みたいに達観したオバケにはこれっぽっちくらいしか通用しなかった。
オバケが正体を現して、布をメカヨウジョに被せてあげた。
それから屋根の下に誘導して頭を拭いてやる。
あの日、主人公がヨウジョにそうしたように、相棒はメカヨウジョを愛の限りに思いやった。
メカヨウジョ「ロボットだから平気です」
相棒「俺が平気じゃない。さ、次は足だ」
ベンチにちょこんとお座りしたメカヨウジョの足についた泥を綺麗に拭き取る。
相棒は、これでよし、と笑った。
不思議なことにメカヨウジョはトキメキはにかむ。
ヨウジョ「あなたはロボットなの?」
メカヨウジョ「はい」
メカヨウジョは隠すことなく正体を明かした。
その答えに興奮したのは、意外にもコスプレイヤの方だった。
コスプレイヤ「魔法少女と同じだ!正体を隠してみんなのために頑張っているんだね!」きらきら
メカヨウジョ「いいえ。私はみんなを傷つけました」
その言葉にコスプレイヤは事件を思い出して、しょんぼりした。
そうだった。
いけないことをした彼女をやっつけて、世界を救うためにやって来たことを思い出した。
コスプレイヤ「私は魔法少女として、あなたをやっつけて世界を救おうとした」
コスプレイヤが反省を込めて語りはじめる。
コスプレイヤ「でも、それじゃあダメ。だってあなたが救われないから」
メカヨウジョ「私を救うお考えなのですか」
コスプレイヤ「誰かを幸せにするのが魔法少女。あなたも幸せにしなきゃ、私は魔法少女失格よ」
メカヨウジョ「しかし、私の行ったことは決して許されるようなことではなく、その罪は救われるべきものではありません。この体が朽ちるまで罰を受け続けなければなりません」
ケモナと人工知能を分かち合ったメカヨウジョは自身の犯した過ちの重さをちゃんと理解していた。
そのうえで認め、自分を厳しく律して罰を受けようと決めていた。
その健気な姿を痛ましく思った相棒は目を伏せた。
コスプレイヤ「大丈夫よ。このおじさんが、みんなを助けてくれる。だからもう泣かなくていいよ」
メカヨウジョはレンズを洗浄するための水を別の目的で流していた。
頬を過ぎてポタポタと落ちた。
メカヨウジョ「涙。悲しいときに流すもの」
コスプレイヤ「もう悲しくない。おじさんが助けてくれるもん」
ヨウジョがメカヨウジョの涙をハンカチで拭って、手を取った。
ヨウジョ「仲直りしましょう!」
メカヨウジョ「いいんですか」
ヨウジョ「いいよ!ケモナちゃんもこれからお友達ね」
ケモナ「わん!」しっぽふりふり
四人は輪になって手を繋いだ。
相棒は汚く咽び泣いてチンパンジーのオモチャ以上に激しく拍手を送った。
ヨウジョ「今日はもう帰ろう。ことほちゃん風邪をひいちゃうから」
メカヨウジョ「だから、私はロボットですので」
ヨウジョ「いいから!私の家でおままごとの続きをしよう!」
メカヨウジョは和やかに笑った。
メカヨウジョ「はい!」
今までとは違って温もりに満ちたいい表情だ。
それから四人は楽しく戯れながら散歩して、ヨウジョの自宅へと相棒に送り届けられた。
その帰り道の途中、博士が黒い傘をさして相棒を待っていた。
相棒「こんにちは博士。こんな雨の中お散歩ですか」
博士「うむ。一緒に寄り道でもどうだ」
相棒「お受けしたいところですが、生憎この格好でね」
博士「なら、ここで話そう」
相棒「何を話しましょう」
博士「爺さんの情けない話を聞いてくれるか」
相棒「どうぞ」
博士は息を吐いて、一言一句、慎重に話しはじめた。
博士「わしは怖かった。夢を叶えることと叶わないこと。どちらも怖いと思った」
相棒「あなたの夢は何ですか」
博士「もう爺さんなのに、おかしいことに増えて色々とある」
相棒「その一つが動画でケモナに語らせた、人類をトキメキで救う計画ですね」
博士「幸せな夢の中なら誰もが苦痛なく救われると考えた」
相棒「でも、人生は幸せなばかりじゃない」
博士「その通り。わしはそんな簡単なことを見失うほど老いてしまったようだ」
相棒「それで、今度はどうしましょう」
博士「まずは自首して罪を償おう。それが終わったら、夢をひとつひとつ叶えていこうと思う」
相棒「俺も協力します」
博士「いい。やめておきなさい」
相棒「心の弱さを隠してまで一人で努力しないでください。俺がいます。一緒に叶えましょう」
その言葉に博士は思い出す。
自分が夢と向き合うことを信じて待ってくれた友のことを。
博士「機が熟すその日まで待っていてくれるか」
相棒「はい。ただし、なるべく早くにお願いします。まずは人類を救わなくちゃならない」
博士「残念だが、全てを失った爺さんに、もう人類は救えない」
相棒「自分だけサボろうなんて俺は許しません。牢屋でもきちんと仕事はしてください」
博士「許されるならそうしよう。では失礼する」
相棒「博士!」
相棒は去ろうとする背中にクラッカーバズーカーを構えた。
相棒「行ってらっしゃい!」
放たれた色とりどりの銀紙や紙紐が博士の門出を極彩色に飾った。
博士「馬鹿者。不謹慎だぞ」
相棒「ここには誰もいません」
博士「そうだな」
相棒「行ってらっしゃい」
博士は相棒から足早に離れて一人になると、小型通信機でメカヨウジョに連絡した。
メカヨウジョ「はい博士」
博士「お前とケモナに、最後に言いたいことがある」
メカヨウジョ「最後?何ですか」
博士「わしの馬鹿に付き合わせて済まなかった」
ケモナ「気にしてないよ」
博士「いい子だケモナ。これからは、みんなのサポートをよろしく頼む」
ケモナ「アニメイツ!だわん!」
博士「ことほ。君も必要な時はみんなを助けてあげてくれ」
メカヨウジョ「分かりました」
博士「二人はまだ、わしのお願いを聞いてくれるんだな」
メカヨウジョ「はい。仲直りしましょう」
博士「え?」
メカヨウジョ「仲直りです。私達はそうやって、すずりとしあやと友達になりました」
ケモナ「博士もお友達になろう!わんわん!」
博士「ありがとう。では、今度また会えたらその時にお願いしよう」
博士は満足して一方的に通信を切った。
待っていてくれる人がいる。
仲直りしてくれる人がいる。
その日が待ち遠しくて、柄になくスキップをして交番を訪れた。
相棒「俺は博士を怒鳴って責めるべきでしたでしょうか」
着替えてすぐ、病院へミスリーダーの見舞いに行った相棒。
彼は彼女の隣に座り、窓の外で止まない雨を眺めて憂鬱にきいた。
ミス「あなたがそうしなくても、世界中の人がそうします」
相棒「なんだか悲しくてやるせない……」
ミスリーダーは彼を優しく抱き寄せた。
ミス「あなたはそれでも愛を贈りました。主人公が今回の戦いは愛がテーマだと決めましたね」
相棒「はい」
ミス「なら、あなたは立派に務めを果たしたことになります」
相棒「務め」
ミス「そうです。今日のあなたが為すべきことは怒鳴って責めることではありません。愛を贈ることでした」
相棒「これで良かったってことですか」
ミス「ええ、お疲れ様です。ご褒美に今夜は好きなだけお酒を飲んで構いません」
相棒「マジで!」
ミス「私は今日一日、入院しなければならないので残念ながらご飯の用意が出来ません。ということで、今夜は外食でお願いします」
相棒「やっほう!行って来まーす!!」
愛は池球を救う。
切なくも優しい愛の物語はハッピーエンドで終わった。
その翌朝。
メカヨウジョ「朝です。二人とも起きてください」とんとん
相棒「うひょう!」どきっ
主人公「メカヨウジョちゃん!」どきっ
居酒屋をハシゴして、そのうえ朝まで部屋で飲んで騒いでいた二人に、ミスリーダーより最高の目覚ましが届けられた。
これで目も酔いもすっかり覚めた。
頭がガンガンズキンズキンするのも、胃が吐き気を催すのも、きっとトキメキのせいだ。
相棒「サングラスをくれ……!」どきどき
主人公「君は朝日より眩しい……!」どきどき
メカヨウジョ「お断りします。私はいい訓練になるとミスリーダーが言っていました」
相棒「いや初日だから優しくして」
メカヨウジョは、相棒が反らした顔を両手で掴んで真正面に固定する。
メカヨウジョ「人と話すときは目をきちんと見てお話しましょう。ね、おじさま」
相棒「かわい……」どさっ
メカヨウジョ「大丈夫ですか」つんつん
相棒は一撃で萌え尽きた。
体がブリッジして硬直している。
主人公は、その脅威的な魅力を目の当たりにして、たまらずトイレに駆け込んで嘔吐した。
主人公「おませさん怖い……」がたがた
メカヨウジョ「大丈夫ですか」さすさす
主人公「やめて!労らないで!」
メカヨウジョ「朝は二人が食べやすいように、うどんを用意しました。ちゃんと食べてください」
主人公「お料理出来ちゃうの!」どきっ
メカヨウジョ「ロボットですから!」えへん
主人公「いつか娘に教えてやってくれないか」
メカヨウジョ「いいですよ。それより、はやく部屋を移りましょう。せっかく作ったのに冷めて伸びてしまいます」
主人公「分かった。ところで、僕より相棒が大変じゃないかな」
メカヨウジョ「彼ならケモナが何とかしてくれています」
ケモナ「わんわんわんわんわん!」
主人公「…………」ちら
ケモナ「わんわんわんわんわん!」
主人公「道端で寝ている酔っぱらいが散歩中の犬に吠えられているようにしか見えない」
メカヨウジョ「いいから行きますよ」ぐいー
主人公「離して!自分で行きまーす!」
お昼になって、やっとミスリーダーが帰宅した。
自分の部屋でクーラーをガンガンにして伸びている二人を見てガッカリする。
ミス「人の部屋で何やっているんですか」
相棒「二人をけしかけたのミスリーダーでしょう」
ミス「情けない。昨日の誓いをもうお忘れになったんですか」
相棒「誇れる部下になるってやつか。それ来月から頑張りまーす」
ミス「まったくもう。主人公、あなたもだらしないです」
主人公「スパルタは勘弁してください。歳なんです」
ミス「まだまだ元気な三十代じゃないですか」
主人公「三十代だから、子供が可愛くて仕方ないんです」
ミス「いかなる言い訳も聞きません」
主人公「本当に厳しい人だ……」とほほ
相棒「ミスリーダー。気になるんですけど、ヨウジョのご両親はメカヨウジョのことをどう思っているんですか。もしかして、島を追い出されたりしないですよね」
ミス「ご両親は生まれた命に罪も何もないと言っています。それと、娘の友達は何人でも大歓迎だそうです」
相棒「受け入れられて良かった」ほっ
主人公「博士の処遇はどうなりました」
ミス「私が便宜を図って、引き続き幼女の研究を行ってもらうことになりました」
相棒「そう言えば、幼女の研究て結局なにを目的としているんですか」
ミス「ケモナちゃん。聞こえますか」
部屋に備えられたスピーカーから、わん、と直ぐに返答があった。
ケモナがさっそく説明してくれる。
ケモナ「それは、覚醒遺伝子の完全な除去です。でも、様々な技術を用いても敵いませんでした」
主人公「ああ、遺伝子の研究だったのか」
相棒「博士は遺伝子の研究を行っていたってことか」
ケモナ「それは専門分野ではないので他にお任せしているわん!」
相棒「ん?つまりどういうことだ」
ケモナ「博士は、幼女に対抗するために性格や行動を分析して装備を作ってたわん。でも、本当のお仕事はトップシークレット。データになくてケモナもよく知らないの」
相棒「幼女の研究は対抗するために確かにしていたけれど、本当の目的、仕事が他にあるってことだな」
ケモナ「位置情報によると、博士は現在、甘菊神社にいるみたいだわん」
主人公「ここから近いな。散歩だろうか」
相棒「いいや。お上からの、神様の下で反省して修行しろって言いつけだろう」
主人公「なるほど。効き目はありそうだ」
そこへ、両手でカバンを持ったメカヨウジョがやって来た。
メカヨウジョ「お邪魔します」
主人公「えんっ!」ずっきゅん!
相棒「おんっ!」ばっきゅん!
メカヨウジョは見分けやすいよう容姿をバージョンアップさせてやって来た。
セミロングは腰までのロングヘアーになって、前髪は片側が緑のヘアピンで留められている。
主人公「おめっ!かしっ!」
相棒「息がっ!できなっ!」
ミス「かーわーうぃーうぃー!」やんやん
メカヨウジョ「私はロボットです。そこまでトキメキしないと思います」
ミス「人間は理屈じゃないの。抱っこしていい?」
メカヨウジョ「これ以上はキュン死にの恐れがあります。仕方ないから部屋に戻ります」むすっ
ミス「待って!カムバーック!」
メカヨウジョ「あ、そうだ。すずりちゃんの所へ遊びに行ってきます」ぷい
メカヨウジョはそれだけ伝えて部屋を後にした。
ケモナ「もしかして。みんなと、おままごとがしたかったの?」
美しい小さな昆虫型ドローンが飛んできて、そこから投影されたケモナが隣へ並ぶ。
メカヨウジョ「はい。でも、まだ早いようです。機が熟すその日まで待ちます」
ケモナ「待てが出来るなんて、ことほはお利口さんだわん」ぱちぱち
メカヨウジョ「私はロボットですから、何でも出来ますよ」
ケモナ「じゃあ、一人でおままごと出来ますか」
メカヨウジョ「ケモナは意外と意地悪さんですね」むすっ
ケモナ「ケモナは、わんわんだから悪戯っ子なんだわん」
メカヨウジョ「なるほど。おもしろい設定です」
ケモナ「冗談よ?」
メカヨウジョ「すごい!ケモナは冗談が言えるのですね!」
ケモナ「えへん!」
メカヨウジョ「私も冗談が言えるでしょうか」
ケモナ「ことほはケモナと双子だから言えるはずだわん」
メカヨウジョ「ケモナ、お手」
ケモナ「うぅー!」がるる
メカヨウジョ「ごめんなさい」
ケモナ「見た目が犬だから仕方ないよ。はい、お手」
メカヨウジョ「ありがとう」
ケモナ「うん」しっぽふりふり
ジーランディアは世界の英知が集う島で、人類が手を取り合って未来を創造する夢の島である。
そこで初めに創られたのが、ジーランディア航空宇宙局だ。
人類の新時代への旅はここから始まった。
さて、現在より過去へ遡ること二十二年前。
一人の男が自宅の庭で青空を仰いでいた。
オパンティヌス「もう届かない夢だね」
そこへ、一人の男が現れる。
彼の友人であるロリコップ・ジュニアだ。
ロリコップ「やあ、オパンティヌス」
オパンティヌス「おかえりロリコップ」
オパンティヌスは寡黙な男だ。
それだけ言って、また、空を仰いだ。
ロリコップ「宇宙はやっぱり良い。今度こそ二人で行こう」
ロリコップは宇宙飛行士だ。
年齢制限により宇宙飛行士として、もう宇宙へ行くことは出来ないが、それでも二人の夢は諦めていなかった。
彼らは学生の頃、満天の星を眺めて誓った。
ロリコップ「一緒に宇宙へ行って、地球へたくさんの流れ星を降らせよう」
オパンティヌス「あの頃のわしはロマンチストだった。だが、今はただのサイエンティストだ」
ロリコップ「工学者を辞めたのか」
オパンティヌス「天才だって荷の重さには参る。だから一つ捨てただけさ」
ロリコップ「惜しいことをした。君のお陰で宇宙から眺める地球は綺麗なのに」
オパンティヌスは宇宙も含めて自然を愛していた。
なので、いわゆるエコに熱心だった。
車からロケットまで、他にも様々、あらゆる物が彼の手で浄化された。
それはまた、人の心まで。
ロリコップ「地球から眺める宇宙は変わらず綺麗かな」
オパンティヌスは答えなかった。
もう何年も夜空を見上げていない。
ロリコップ「いつ始める」
オパンティヌス「なに?」
ロリコップ「ロケット作りだよ、二人乗りの」
オパンティヌスは呆れてチェアーに座ってシットと愚痴った。
ロリコップ「民間ロケットなら翔べる。そうだろう」
オパンティヌス「過去に失敗した」
ロリコップ「だから改めて、お前はロケット工学をよく学び、俺はロケットの操縦をよく学んだ。遅くなったが機は熟した。そう思わないかな」
オパンティヌス「だめだ」
ロリコップ「なぜだ!」
オパンティヌスは知り合いから、瑞穂の国で大学教授にならないかと誘われていた。
彼はそれを迷いなく受けた。
いつから夢に怯えて逃げていた。
ロリコップ「大学の教授だって?なぜ受けた!私は努力してずっとこの日を待っていたんだぞ!世界最高の技術を身につけた宇宙飛行士がお前のもとへ帰ってきた!夢を叶えるために!なのになぜだ!答えろオパンティヌス・ボーイ!」
オパンティヌス「もういいんだ」
オパンティヌスはそれだけ言って家に閉じこもった。
そして、枕を濡らして泣き叫んだ。
本当は行きたくて仕方なかった。
でも、この老いた体で宇宙へ行くのが怖かった。
失敗して命を友を全てをこの世界から無くしてしまうのが怖かった。
何より高所恐怖症だった。
オパンティヌス「高いところが怖いっ!!」
ロリコップ「高所恐怖症が理由か」
オパンティヌス「ロリコップ!帰ってなかったのか!」
ロリコップ「学生の頃に趣味で作ったロケットが墜ちたのがトラウマになったんだったな」
オパンティヌス「その話はやめろ」
ロリコップ「世界最高峰の山より高いところから墜ちたんだ。無理もない」
オパンティヌス「やめろ」
ロリコップ「そして、その事件をキッカケにジーランディアの住民にならないかと誘われ、ここで俺達はそれぞれの道を歩むことになった」
オパンティヌス「やめてくれ」
ロリコップ「支配がなく自由が生きる島といっても、人間性を守るために幾らかルールはある。君はそれを破ってまで宇宙飛行士の男子寮に侵入して窓に糞尿を塗りたくったことがあったな。あれには驚いたよ」
オパンティヌス「関係ない話はやめろ」
ロリコップ「あの頃はお互い若かったから仕方ない。好きな女を取り合う男はいつの時代でもそんなものだ」
オパンティヌス「やめろって」
ロリコップ「まあ、結局、二人ともフラれたんだがな」ははは!
オパンティヌス「もういいだろう!」
ロリコップ「すまない。話が脱糞いや脱線した」
オパンティヌス「お前はそうして、あれから何十年もわしを見下す」
ロリコップ「そうだ。俺が初めて宇宙に翔び立つ日にお前は最高の糞をくれたっけな」
オパンティヌス「なに?」
ロリコップ「一人だけズルい。糞くらえ。そう叫んだろう、よりにもよってテレビの生放送の最中に」
オパンティヌス「ああ、あったな。だからもうやめろと言っているだろう。人の話を聞いているのか」
ロリコップ「宇宙ステーションで一年は持ついい土産になった」
オパンティヌス「何回も聞いた。だからやめろ」
ロリコップ「どうだ。面白い話だったろう」
オパンティヌス「馬鹿にしているのか」
ロリコップ「今日は何だか気分がいい。最後にもう一つ話をして帰ろう」
オパンティヌス「女子寮に侵入してウンコとチンコの大冒険を描いたことか。くだらん話はもうやめだ」
ロリコップ「あれ、やっぱりお前の仕業だったんだな。へえ」
オパンティヌス「違う。記憶違いだ」
ロリコップ「落ち着け、いいか落ち着くんだ」
オパンティヌス「落ち着いている。さっさと嫌みを言い終われ糞野郎」
ロリコップ「最後に俺と翔んだ宇宙飛行士は高所恐怖症だった」
オパンティヌス「……なに?」
ロリコップ「じゃあな。また連絡をくれ、俺はこのジーランディアでお前を待っている」
ロリコップはそう言って、呆気にとられたオパンティヌスを置いて帰宅した。
それから連絡を取り合うことも、彼に見送られることもなく、オパンティヌスは瑞穂の国へ渡った。
そこで、人生最大の危機が訪れる。
オパンティヌス「ぐぬふう……!」どきどき
時は二千年、世界で起こった未曾有の大災。
ふぇぇぇん現象と幼女大行進だ。
オパンティヌス「これは現実か、現実なのか」どきどき
都会の大通り、その傍らの歩道を占拠して、幼女達が整列して大行進。
彼女達が通り過ぎれば多くの人がトキメキした。
オパンティヌス「こんな時に電話だと?一体誰だ、くそっ!しもしも!」
ロリコップ「しもし、もしもし。繋がって良かった」
オパンティヌス「ロリコップ!今、とんでもないことが瑞穂の国で起こっている」
ロリコップ「分かっている。これは世界規模の大災だ」
オパンティヌス「世界規模……まさか!」
ロリコップ「緊急事態だ。私は急いでそちらへ向かう」
オパンティヌス「この状況でこっちへ来るだと!何のために!」
ロリコップ「人類を。世界を救うためだ」
彼は有言実行。
その言葉通り、瑞穂の国で紅白という組織を立ち上げて世界を人類を救ってみせた。
ロリコップ「やあ、オパンティヌス」
オパンティヌス「おかえりロリコップ」
数年後。
瑞穂の国、東の都、桜宮にある紅白本部。
そこのカフェで、長年変わらぬ挨拶を交わして二人は落ち合う。
オパンティヌス「幼女の隔離に忙しいみたいだな」
ロリコップ「そっちこそ。巨大冷蔵庫の建造中に、よく時間が取れたな」
オパンティヌス「わしは設計をしただけさ」
ロリコップ「ところで今日はどうした」
オパンティヌス「聞けなかったことがたくさんある」
ロリコップ「何が知りたい。答えられることなら答えよう」
オパンティヌス「それはつまり、答えられないこともある。そういうことだな」
ロリコップ「参ったな。お前を相手にすると口下手になるらしい」
オパンティヌス「くだらんジョークは無しだ。知っての通り、わしは寡黙な男だ。長話は好かない」
ロリコップ「なら丁度いい。俺が話せることはまだ少ない」
オパンティヌス「どういう意味だ」
ロリコップ「ひとつ、国家機密幼女と指定された特別な幼女達がいる」
オパンティヌス「国家機密幼女?」
ロリコップ「世界各国に僅かにいる。もちろん、この瑞穂の国にもだ」
オパンティヌス「それはどういった幼女だ」
ロリコップ「幼女色々だが、基本的には魅力が強い幼女で、覚醒遺伝子の研究に協力してもらっている。しかし……」
ロリコップは声を潜めて言う。
ロリコップ「瑞穂の国だけは特別だ。実は後に、君に任せようと考えている」
オパンティヌス「今、任せればいいだろう。焦れったいのも好かん」
ロリコップ「それであの日、告白の返事を返さない彼女に一日中付きまとったのか」
オパンティヌス「お前はわしが嫌いなんだろう。そうだろう」
ロリコップ「失礼、話を戻そう。とにかくだ、まだまだ準備が整っていない。それに瑞穂の国家機密幼女は手強い」
オパンティヌス「幼女が手強いだ?確かに抗えぬ魅力はあるが、他はそこらにいる子供となんら変わらんだろう」
ロリコップ「言ったろう。特別だと」
オパンティヌス「もったいぶるな」
ロリコップ「信じられないだろうがよく聞け。瑞穂の国家機密幼女は神に等しい幼女の始祖だ」
オパンティヌス「ははは……笑えん」
ロリコップ「恐ろしいことに、彼女は幼術を扱う」
オパンティヌス「幼術?」
ロリコップ「簡単に言えば、魅力を自在に利用して人を惑わせたり操ることが出来る」
オパンティヌス「ははは……呆れた」
ロリコップ「もっと呆れさせてやる。彼女の魅力にトキメキ、千人余りの人間が操られていた」
オパンティヌス「ふーん」
ロリコップ「隔離地域を探していたある日のことだ。まるでゾンビが蔓延るような村を見つけた。そこを支配していたのが瑞穂の国家機密幼女だった。我々は何とか交渉して村を解放したが、彼女から情報を得るには至らなかった。どれだけ崇め奉っても無駄だった」
オパンティヌス「よく分からない」
ロリコップ「機が熟せば分かる。その時は頼んだ、お前だからこそ頼む」
オパンティヌス「興味はある。いいだろう。その時が来たら引き受けよう」
ロリコップ「ありがとう。それじゃあ最後に一つ」
オパンティヌス「もうネタ切れか」
ロリコップ「そう言うな。これはとっておきのロマンがある」
オパンティヌス「聞かせて」
ロリコップ「俺は宇宙で幼女を見た」ひそ
オパンティヌス「!」
ロリコップ「この話はまた今度にしよう。彼女は最後の希望だから」
ロリコップは数年前と同じく、呆気にとられたオパンティヌスと、今度はコーヒー代も置いて仕事に戻った。
それから二人は会うことはなかった。
オパンティヌス「お前がキュン死にするほど魅力的な幼女をわしに任せるだと。とんでもない遺言を残したな。まったく、最後までお前は糞野郎だ」
さらに時は過ぎて現在、二千二十年。
博士として紅白淡慈支部に派遣されたオパンティヌスは、ドローンと人工知能を使って幼女の観察と研究を行っていた。
それからロリコップのもう一つの頼みをきいて国家機密幼女にも会ってはみたが、想像以上の幼女で今なお交渉に苦戦している。
瑞穂最強の幼女を研究すること。
国家機密幼女から有益な情報を得ること。
その最後には彼に代わって世界と人類を確かに救う。
この課せられた絶対的な使命が、毎日のように彼を怒鳴りつけ責めたてた。
締め付ける胸の苦しさは幼女の魅力によるものではなかった。
オパンティヌス「ダメだ!成果が出ない、何も変わらない、また時間だけが無駄に過ぎていく!」
今年、オパンティヌスは喜寿を迎える。
七十七という年齢は夢の限界をけたたましく頭に響かせた。
オパンティヌス「あああああ!!」
そんなある日、オパンティヌスは数十年ぶりにブリブリ脱糞した。
寝る間を惜しんで研究に努めた体が徒労を猛烈に吐き出した。
虚しくも汚れた部屋を一人で黙々と掃除していると、彼の中で絶望がどんどん膨らんだ。
それが、ふと、パンッと弾けたのは梅雨の時期になってからだった。
主人公「この蕎麦、薫りがいいですね」
ミス「しあやちゃんの御両親が贈ってくださいました。日頃のお礼だそうです」
主人公「ありがたい。しかし、イケイケのパリピなのに要所要所しっかりされていますよね」
相棒「幼女幼女?」ぽけー
ミス「失礼ですよ。彼らは娘を持って親となったのです。親と子が共に成長する、その可能性はあなたが身をもってよくご存知でしょう」
主人公「そういうカラクリか。よし今度、改めて直接お礼をしよう。親同士で話もしてみたい」
ミス「いいですね。きっと有意義な時間になるでしょう」
相棒「お遊戯の時間?」ぽけー
ミス「また溢してます。しっかりしてください。まだ介護される歳じゃありませんでしょう」ふきふき
相棒「だっこ?してして」ぽけー
ミス「困りましたね」うーん
主人公「そろそろハッキリ申し上げます。ミスリーダー、あなたのせいです」
ミス「私ですか」びっくり
主人公「相棒のミニフォンの設定を、すずりちゃんから、しあやちゃんへと変えましたね」
ミス「なるほど、それが原因でしたか。愛のムチになると思ったのですが、少しばかり厳かったようです。反省します」
主人公「じゃあ、設定を変えてあげてください」
ミス「いえ変えません。これくらい乗り越えないと、これからもずっと、あなたが単独で戦い続けることになります。それはこちらとしても戦力不足で困ります」
主人公「でも、もう二週間はこの様です」
相棒「蕎麦はフォークで食べると美味しいんだって」ちゅるちゅる
主人公「ほら、すっかり阿呆おじさんになってしまいました」
ミス「はあ……何か手はないでしょうか」
主人公「いや、だから」
ここで突然、室内に緊急警報が鳴り響く。
相棒は真っ先にテーブルの下に隠れた。
主人公「梅雨の時期は、雨でお出かけの頻度が少ないはず」
ミス「雨が強くなるから今日は家で遊ぶと、さっき連絡がありました。これは妙ですね」
主人公「また、突然のお出掛けでしょうか」
ミス「とにかく確認します。ケツ、聞こえますかケツ」
人工知能ケツは沈黙している。
ミス「オペレーションルームで直接確認しましょう」
主人公「アニメイツ!」
一階のオペレーションルームへ急行する。
部屋は暗く、回転する警報灯の明かりが不気味に恐怖を煽る。
ミス「電気がついていない……どうして」
主人公「おいケツ!おーいケツ!ケツやーい!」
ミス「コンピューターも反応ありません」
主人公「電気系統がやられている?雷でしょうか」
ミス「まさかあり得ません。光も音もないし、二階は停電してませんでしょう」
主人公「そうだ。博士はまた徹夜して研究ですか」
ミス「訪ねてください。私はコンピュータを引き続き起動してみます」
主人公はオペレーションルームの左奥にある研究室の扉の前に立った。
ここは誰であろうと立ち入り禁止の場所である。
それを守って、ドアを叩いて呼びかけた。
主人公「博士!そこにいますか博士ー!」
五分、リズムよく続けても反応がない。
主人公はやむを得ず突撃することにした。
主人公「緊急時です!失礼します!」
もぬけの殻だった。
機材もほとんど残っていない。
慌てて夜逃げでもしたかのように、幾らかの機材や部品が散らかっているだけだった。
主人公「あれれ、おっかしいぞ」うーん
ミス「あら、誰もいませんね。それにこの部屋の有り様は何事でしょう」
主人公「誘拐……!」
ミス「だとしたら、なぜ機械までないのでしょうか」
主人公「ですよね」
ミス「この施設の異常からして、考えられるのは裏切りしかありません」
主人公「そこまで言い切らなくとも」
ミス「他に理由が思い当たりますか」
主人公「幼女がまた増えるのを恐れて夜逃げしたとか。この異常は、嫌がらせかな」
ミス「んー……ありよりのなしですね」
主人公「ありよりのなしですか……」
相棒「ミスリーダーのお言葉のまま。これは裏切りだ」
主人公「相棒!」びっくり
ミス「良かった。正気を取り戻したのですね」
相棒「良くないです。ミスリーダーのせいで、ここ二週間の記憶が曖昧です」
ミス「それは、あなたの根性が足りないせいです」
相棒「根性論なんて、おじさんでも時代遅れに思います。そもそも幼女の魅力に根性で耐えられるなら誰も苦労しません」
ミス「なら、根性以外で耐えられるようになってください。私はこれでも、あなたのためを思ってしたんです」
相棒「ああ言えばこう言う。申し訳ないですけど、ありがた迷惑ですそれ」
ミス「そう……ですか……ごめんなさい」しゅん…
相棒「え、あ、いやそこまで落ち込まなくても」
主人公「ちょっとこい」ぐいー
相棒「なんだ。俺を責める気か」おとと
主人公「いいか!ミスリーダーはここ二週間、ずっとお前の世話を甲斐甲斐しくしていたんだ!家事にトイレも風呂までだ!それに、公園を散歩したり、パチンコに連れて行ってみたり、寝るときには子守唄を歌ってあげたり、精神面もきちんと考えていた!」ひそひそ
相棒「夢じゃなかったのか……!」
主人公「責任感が強い人なんだ。本当に、お前と、これからの為を思ってしたことなんだ。どうか許してあげてくれ」かたぽん
相棒「いやダメだ」
主人公「馬鹿を言え!」
相棒「いてえ!洗濯バサミで腕を挟むな!それどこから出した!」
主人公「キュン死に対策に、いつもポケットに入れてあるんだ」
相棒「へえ、いい案だ」なるほど
主人公「だろう」どやっ
相棒「て、そんなことはどうでもいい」
相棒は部屋の隅っこで背中を向けて涙をこらえるミスリーダーのもとへズカズカと歩む。
そして、肩を思いっきり掴んで振り向かせた。
相棒「お世話かけました!!」
全力の最敬礼は頭突きという形で失敗した。
ミスリーダーのデコを撫でて謝罪に移る。
相棒「あなたのお心遣いを軽んじ、また、踏みにじってしまったことを男としても部下としても深くお詫びします」
ミス「そこまでかしこまらなくても結構です。あなたの言葉は正しい」
相棒「いえ、何であれ俺は男らしく応えるべきでした。遅れまして、今度こそ、あなたの誇れる部下になれるよう邁進することをここに誓います」
ミス「まあ……!」きらきら
主人公「ふっ、まったく見せつけてくれる。負けられないな」
主人公は好敵手に拍手を贈った。
相棒はそれにガッツポーズを返した。
相棒「さて、ミスリーダー。現在マジの緊急事態です」
ミス「そうでした!裏切りは間違いないと言うのですか!」
相棒「世界規模で、こんな動画がばらまかれました」
相棒は腕時計から立体映像を投影する。
動画はロケットのカウントダウンから始まった。
主人公「なんだこのキャラクターは」どきっ
カウントダウンが終わりロケットが宇宙へ到達すると、画面端からひょっこりと犬のようなキャラクターが顔を出した。
相棒「ケモ娘だ。この胸のトキメキからして、博士が犬に幼女を足して作ったんだろう。二次元でもこの魅力、さすがとしか言えない」
ケモナ「こんにちわん!はじめまして、私はケモナっていうの。ケモナは今日、博士に頼まれて、みんなに愛を届けるよ」
相棒はここで一時停止して、映像を最小にした。
主人公「おい、よく見えない」
相棒「これでいい。ここからは危険だ」
ミス「何が危険なんですか」
相棒「この動画にはサブリミナルが仕込まれています」
ミス「何でしたかそれ。聞いたことはあります」
相棒「チラッチラッと幼女が一瞬映るように仕込まれているんです。意識の最下層に直接届くので、普通に見るより魅力は印象的です。現に朧気だった俺の意識が生きようともがいたほどです」
ミス「では、この警報は」
相棒「博士からの宣戦布告。そして、世界中で幼女パンデミックが起こったことの報せです」
主人公「幼女パンデミック?」
相棒「世界中で幼女の画像が大流行。テレビで緊急速報が流れるくらいだ。どこもかしこもトキメキ地獄になっている」
主人公「すずりちゃんを利用するなんて許されない!これは人権と肖像権の侵害だ!」
相棒「サブリミナル幼女は、すずりちゃんじゃない」
主人公「なら、しあやちゃんか」
相棒「いや、白い髪の、すずりちゃんによく似た幼女だ」
相棒は動画をいったん避けて、一枚の画像を表示した。
もちろん小さくして。
主人公「トキメキする!」ときとき
相棒「ここまで真に似せてヨウジョを再現するとは、博士は邪神だ」ときとき
ミス「再現?」ときとき
相棒「彼女はきっとアンドロイドです。そうとしか考えられません」
主人公「つまり……」
ミス「メカヨウジョ」
メカヨウジョ「ガオー!」
咆哮、三人揃って反射的に振り向く。
間もなくためらいもなくドアを抜けてオペレーションルームへ飛び込むと、幼女の影を遠くに見つけた。
相棒「博士がわざわざ送り込んできたな」
主人公「何のために」
相棒「決まっているだろう。俺達が邪魔なんだ。彼女のモデルとなった、すずりちゃんをよく知る人間だから」
主人公「博士……どうしてだ!」
相棒「それは見つけ出して聞くしかない」
メカヨウジョ「ガオー」とたとた
ミス「二人とも、私に任せて装備を持って逃げなさい」
主人公「ミスリーダー、何を言います。ここで戦います」
ミス「勝ち目はあるの?」
主人公「自信は、ほどほどに」
ミス「相手の正体はよく分かりません。何が有効で撃退出来るのかさっぱりです」
主人公「しかし」
ミス「だからこそよく考えて下さい。命を賭けるときは、必ず勝てると信じた瞬間に賭けてください」
相棒「……行こう」
主人公「ミスリーダーも一緒に行きましょう」
ミス「ありがとう。そのお言葉で十分です」
ミスリーダーは笑って、影に向き直った。
それからクラウチングスタートで爆走。
チーターの如く距離を一瞬で縮めた。
影は目前に立ちはだかるミスリーダーを見上げても動じない。
対してミスリーダーはトキメキして悶えている。
主人公「見てられない」
そう言って助けに向かおうとする主人公の腕を、相棒は掴んで引き留める。
そのまま右奥のミーティングルームへと強引に連れて行った。
主人公「おい!」
相棒は主人公に壁ドンして、目を捉えて真面目に言う。
相棒「ミスリーダーのあの覚悟を見ただろう。次は俺達が覚悟を見せる番だ」
主人公「キュン死にするかも知れない!僕はもう目の前で誰かがキュン死にするのを見たくはない!」
相棒「俺もだ!」
相棒も過去に、幼女大行進の後に残されたキュン死にした人々の散らかるのをたくさん見ている。
そして今日もまた。
相棒「世間がいう児童を守るネット義賊組織、チャイルドシート。それが壊滅状態になった」
主人公「え?」
相棒「博士の狙いはそれもあったんだろう。まんまとやられた。俺は、大切な仲間を多く失った!」
相棒はそれきり黙って、二人はミーティングルームとトレーニングルームを抜けて、非常口から外へ出た。
雨の中走って、階段を駆け足で上がり、それぞれ自室でメカヨウジョが侵攻する前に準備を整える。
支給された戦闘服を着て、博士が作った装備品の入った重いリュックを背負った。
主人公「雨が強くなってきたな」
と、雨音の中にノイズがあるのを聞いた。
遅れてチャイムが鳴った。
主人公「早いな」
ピンポーン。
主人公「二階からなら飛び降りても平気だろうか」
ピンポーンピンポーン。
主人公「いや、腰が痛そうだ」
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。
主人公「うあああ!やめろおおおおお!!」
ドン!
主人公「ひっ」びくっ
ドンドンドン!
主人公「鍵は開いている!来るならこい!」
ピタリとドアノックが止んで、ドアノブがゆっくりと回転する。
主人公は息を飲んで、まぶたをこすってから目を凝らした。
ドアがゆっくりとゆっくりと開いていく。
隙間から弱々しい日光が玄関へと差し込んだ。
それを影が遮り、ドアに色白の小さな手が掛かった。
キィ……と音を立てて隙間が広がると、それに合わせて大きな雨音がまず部屋へ入ってきた、直後。
主人公「ふぇ……」
くりくりした目がキョロリとこちらを覗いた。
主人公「ああ……ああ……」どきどき!
恐怖がトキメキを助長する。
心臓は爆発寸前まで収縮を繰り返して肺は呼吸を忘れて萎縮する。
恐怖から逃れようと焦点もぶれてきた。
相棒「メカヨウジョちゃん!こっちだ!」
相棒の声をきっかけに主人公はハッと正気を取り戻して生き返る。
メカヨウジョが撤退するのが、ドアが閉まるまでの一瞬なんとなく確認できた。
相棒「大丈夫か!」
勢いよくドアを開けて、やたらとでかいサングラスをかけた相棒が姿を見せる。
ちょっと笑って気が楽になった。
相棒「このサングラスは博士が幼女視認によるトキメキを抑える効果があるって用意してくれたものだ。お前も持っているだろう」
主人公はリュックからやたらとでかいサングラスを取り出して装着した。
天気が悪いのもあって視界はより暗くなったが、これなら幼女を直視しても戦えそうだ。
主人公「しかし、どうやって撃退した」
相棒「これだ」
相棒が得意気に見せたのはピーマンの食品サンプルだった。
それは形から触り心地まで精巧に出来ていて、ヘタにあるスイッチを押せばピーマンの臭いが辺りに拡散する仕組みになっている。
主人公「ピーマン臭い。凄まじい威力だ」
相棒「これで分かった。メカヨウジョはヨウジョの弱点も完璧に再現している」
主人公「なぜ、わざわざ弱点を残した」
相棒「それも魅力だからだろう」
主人公「弱点があるのが魅力的?」
相棒「アニメキャラクターで例えると分かりやすい。アニメキャラクターは人気を得るために、完璧な設定にするんじゃなくて欠点を一つでも与えることが多いんだ。賢いのにドジだとか、運動が得意だけれど料理が苦手とかな」
主人公「なるほど。うちの妻がそうだ」
相棒「こんな時に自慢はよせ」
主人公「ごめん。別に自慢したわけじゃない」
相棒「いやいい。こっちも別に僻んだわけじゃない」
主人公「それより!ミスリーダー!」
思い出して、顔を見合わせた二人は慌てて階下に降りる。
その途中、メカヨウジョがウサギさんの雨合羽を着て退避しているのが見えた。
有難い好機にオペレーションルームへ急ぐ。
主人公「ミスリーダー!」
ミスリーダーは部屋の真ん中で、惚けた顔して横たわっていた。
とてもトキメキして意識がギリギリのところにあるのが、水溜まりとなったヨダレから分かった。
ミス「逃げなさいと言ったのに……」
主人公「メカヨウジョは相棒が撃退しました。もう平気です」
ミス「一体どうやって?」
相棒「メカヨウジョにも弱点がありました。それと、皮肉にも博士の装備が役に立ちました」
ミス「では、引き続きメカヨウジョと交戦して、博士の居所を探ってください」
相棒「アニメイツ」
主人公「あのう。この施設は、やっぱりもう使えないですよね」
ミス「ええ。ケモナちゃんに乗っ取られました。あのケモ娘のキャラクターです」
主人公「ケモナ……ちゃん!」
相棒「挟み撃ちにされたわけですね」
ミス「二人は私の周りを楽しそうに駆けっこしました」
相棒「ひどい仕打ちだ!そんなの可愛いに決まっている!博士の卑怯もの!見損なった!」
相棒は床を何度も叩いて悔しがった。
尊敬する博士が、ミスリーダーをこんなひどい目に合わせ、大好きな幼女と二次元を私的に利用したのが許せなかった。
主人公は隣で相棒の苦しみを理解して、歯を食い縛り拳を痛いほど握り締めた。
ミス「私は救急車を呼んで病院へ行きます。二人はまず、メカヨウジョを探してください」
主人公「どうかご無事で」
ミス「あなた達も。健闘を祈ります」
二人はミスリーダーを残して外出する。
雨が滝のように降っていて、ビニール傘をさすと自然によるドラム演奏が始まった。
相棒「気を紛らわそう」
相棒はドラムに合わせて口笛を吹き、ふざけて調子よく踊り出した。
相棒「憎しみじゃ何も変えられない」
主人公「当然だ」
相棒もおじさん。いい大人だった。
そこは、ちゃんと理解している。
相棒「こんな時だからこそ笑って世界を救ってやろう」
主人公「ああ」
相棒「博士に愛のムチを打ってやろう」
主人公「ああ!」
相棒「それで、どこ行く?」
主人公「ああ……」
相棒「この格好で町に出るのはよくないよな。一応、秘密裏に活動している身だから」
主人公「ああ」
相棒「よし、パチンコ行くか」
主人公「ああ?」
相棒「変なおっちゃんがたむろしてるだけだから問題ない」
主人公「嫌だ。僕は好かない」
相棒「文句言ってられる状況か」
主人公「しかしだ」
相棒「金は気にしなくていい。肩の力を抜くことを理由に少し遊ぼう」
主人公「ハマってしまったらどうなる。僕は家庭を持つ身だ」
相棒「それは自分で何とかしろ」
主人公「何よりタバコ臭いのが困る。これから幼女に会おうというのにマナー違反だ」
相棒「安心しろ。俺が買い取って禁煙にしたパチンコ店だから」
主人公「馬鹿じゃないか!」
相棒「買い取ってしまえば遊び放題。さらに金も入る。どうだ素晴らしいだろう」
主人公「あなたは変わり者だ」
相棒「変わり者はお前達の方だ。我慢したって窮屈なだけだ。人生は一日一日、今一瞬、心のままに行動しなきゃ楽しくない」
主人公「金持ちだから、そういう無責任なことが言えるんだ」
相棒「文句なら資本主義に言え」
主人公「やめておこう。世の中、金が全てじゃないと僕は思うから」
相棒「そうそう。金持ちだとかそうじゃないとか関係ない。大切なのはそれぞれの生き方だ」
主人公「現在の時代は資源主義でもある。心が生み出す愛という資源、その価値が全てに勝ることも必ずあるだろう」
相棒「いい歳して臭いこと言うな。そういうのは幼女みたいな若い世代が言うものだ」
主人公「別に大人が言ったって構わないと思うがな」
相棒「資源主義って確か、三十年以上前にオパンティヌス・ボーイとかいう天才が、革命的エコロジーを爆発的に世界に広めたのがきっかけだっけ」
主人公「そう。オパンティヌスのおかげで、人類は自然と向き合い、資源を大切にするように考え直したんだ」
相棒「オパンティヌスは偉人だな」
主人公「そうだな」
相棒「ん?オパンティヌス……?」
主人公「オパンティヌス」
相棒「オパンティヌス、て、どこかで聞いたことあるな」
主人公「愉快な名前だ」
相棒「それは、外国の名前だから感覚が違って仕方ない」
主人公「そう言えば、博士の名前もオパンティヌスだったな」
相棒「え?」
主人公「え?そうだろう」
相棒「偶然の同名だな」
主人公「ミニフォンでちょっと調べてみよう」
相棒「ハッキングされていないか」
主人公「大丈夫みたいだ。あ」
相棒「あーこれは同一人物だな」
主人公「へえ」
相棒「全部納得いった」
主人公「僕達は勝てるだろうか。相手は歴史的偉人だ」
相棒「勝つしかない」
主人公「そうだな……よし決めた。今回の戦いのテーマは愛だ」
相棒「作戦名、愛は池球を救う」
主人公「それでいこう」
相棒「アニメイツ」
いざ、決意新たに入店。
主人公は相棒に並んで席についた。
パチンコは簡単に見えて奥が深かった。
相棒「ミスリーダーからメールだ」
主人公「近況報告を下さい」
相棒「三万勝ってます」ぽち
主人公「あーあ。後で怒られる」
相棒「後のお楽しみだ。人生、楽しみは多い方がいい」
主人公「やっぱりあなたは変わっているよ」
相棒「お、ヨウジョとコスプレイヤの両親から連絡があったらしい」
主人公「なに!協力せよだと!」
相棒「きっと、しあやちゃんが言い出しっぺだな。世界の危機を知って魔法幼女の血が騒いだんだ」
主人公「待ち合わせるにしても、肝心のメカヨウジョの居所が分からないんじゃどうしようもない」
相棒「いや、その心配はなくなった」
主人公「どういうことだ」
相棒「招待するんだ」
主人公「どうやって」
作戦、愛は池球を救う。
そのプランはこうだ。
まず、支部にラブレターを送る。
メールを検閲したケモナがそれを博士へ届け、メカヨウジョへと渡る。
主人公「それで来るかな」
相棒「望むところだろう。なにせヨウジョは宿敵だ」
主人公「来たらどうする」
おままごと。
そのテリトリーに誘い込み情報を聞き出す。
主人公「幼女に交渉は難しそうだ」
相棒「だが、これしかない」
主人公「やるしかないならやろう」
相棒「そういうことだが、おっと、当たりだ」
主人公「おお!初めての当たりだ!」
相棒「最後まで頑張れ」かたぽん
主人公「は?」
相棒「今日は俺に任せて、お前は存分に楽しめ」
主人公「冗談だろう」
相棒「本気だ。俺に任せてほしい」
主人公「世界的危機なんだ。一人でカッコつけるな」
相棒「カッコつけてない。これは二週間迷惑をかけた俺のケジメだ」
相棒はそう言って颯爽と店を出た。
主人公は彼の背中を笑顔で見送った。
任せたいと心から思ったからだ。
主人公「まったくカッコつけやがって」
主人公はこちらも負けられないと気合いを入れてパチンコと向き直った。
右端まで球を飛ばせという指示が立体的に表示されている。
それに従ってハンドルを全力で捻ると、球は勢いよく盤面を左から右へと流れた。
その球が中央の特別な穴に落ちて派手な演出が視界いっぱいに飛び出す。
主人公は目をチカチカさせて興奮した。
その戦いは夜遅くまで続いた。
相棒「待ち合わせ場所は、因縁のあるあの公園か」
思い返す。あの日も雨だった。
傘を届けようとしたが、ヨウジョがあまりに魅力的で近付けず、届けることが出来なかった。
そんな彼を助けてくれたのが主人公だ。
主人公は自身がトキメキするのも省みず、揺るぎない勇気と覚悟と信念と愛でヨウジョに傘を届けた。
彼は残念なことに、その四つ、どれも持ち合わせていなかった。
幸いにも口が達者で二人を誤魔化すことには成功した。
誤魔化しただけで、まだ嘘はついていない。
相棒がこれから成すべきことは、有言実行あるのみ。
たった今日一日だけでもやり遂げねばならない。
それくらいの良識なら持ち合わせていた。
相棒「町まで遠いな。時間もないし走ろう」
ということで走って町へ向かう相棒。
その様子を、遠くからドローンを経由して監視している者達がいた。
オパンティヌス「ふむ……」
メカヨウジョが指先から投影する立体映像を見て、オパンティヌスが顔をしかめて唸る。
オパンティヌス「主人公はなぜパチンコ店に残った。何か意図があるのか」
メカヨウジョ「分かりません」
どうでもいい疑問はさておき、幼女を娘に持つ主人公がいないことはオパンティヌスにとって有利なことだ。
ほくそ笑んで、邪魔な男が一人キュン死にするのを楽しませてもらうことにした。
メカヨウジョ「博士。どうしますか」
オパンティヌス「行って楽しんで来い」
メカヨウジョ「アニメイツ。メカヨウジョ出撃します」
オパンティヌス「さて、ヨウジョをどう泣かせよう」
オパンティヌスはヨウジョを倒すのではなく、利用するのを企んでいた。
彼女を泣かせることで、ふぇぇぇん現象を誘発できるかも知れない。
それだけ強大な魅力を持つヨウジョに博士は期待していた。
メカヨウジョがヨウジョに冷たい態度をとって心を凍てつかせ砕く。
これが作戦名、アブソリュート・ゼロ、その真の全容である。
オパンティヌス「ふははははは!」
オパンティヌスは久しく忘れていた笑いを大声で上げた。
オパンティヌス「考えなくていいじゃないか。あとはメカヨウジョが完璧にやってくれる。あの子は決して燃え尽きぬ流れ星なのだから」
オパンティヌスはキューブ型の機械を起動した。
それは複雑に開いて、旧型のパーソナルコンピュータの形に落ち着いた。
オパンティヌス「さあ、願いを叶えてくれ。わしの流れ星」
その頃。
二人の幼女が公園の屋根つき休憩所の木製ベンチに座って待ちぼうけをくらっていた。
ヨウジョ「来ないね」
コスプレイヤ「うん」
ヨウジョ「遊ぼっか」
コスプレイヤ「だめよ!マヌーケをやっつける作戦があるでしょう!」
コスプレイヤは眉を谷折りにして気合い十分だ。
世界を救えるのは自分達だけだと自信満々だった。
友達という誇りもある。
彼女は負ける気がしなかった。
相棒「おまたー!」
そこへ遅れて、お茶目に相棒が走ってくる。
でかいサングラスを掛けた顔を見てコスプレイヤは不審者だと怯えた。
コスプレイヤ「知らないおじさんだ……」びくびく
相棒「俺だ。いつものおじさんです」
第三者が聞けば間違いなく通報されるだろう挨拶を済ませて、不審者は二人の背後にある茂みに隠れた。
相棒「うわっ、つめた。ひえー濡れた」
ヨウジョ「ねえねえ、どっちのおじさんなの。どうしてサングラスを掛けているの」
相棒は目を閉じてサングラスを外した。
相棒「こっちのおじさんだ。サングラスは、君達があまりにも可愛いから掛けているんだ」
不審者らしい文句を述べて、薄目でコスプレイヤを見てみる。
桃色のウィッグはしていたが、さすがに魔法少女の服は着ていなかった。
これなら幾らかトキメキを抑えることが出来そうだ。
しかし、お揃いの花模様の雨合羽は胸をキュンとさせる。
サングラスを外すことはやはり出来ない。
コスプレイヤ「私のことを見たら、おじさんも倒れちゃうんだよね」
ふと、コスプレイヤが呟く。
彼女は自身の魅力を理解していた。
そして、トラウマを思い出していた。
コスプレイヤ「ごめんなさい……」くすん
相棒「君が謝ることはない!」
相棒は目をカッと見開いてコスプレイヤを直視した。
瞬間、一目惚れ、彼女の潤んだ瞳から迸るキラキラが彼の目を焼いて脳を焦がした。
その危険の報せを受けてトキメキする胸に偽ることなく、堂々と彼女の魅力を受け入れる。
相棒「魔法少女マジカバカカ第十九話!覚えているか!」
コスプレイヤ「世界に一つだけの愛」
相棒「それは君だ!!」
コスプレイヤ「!」
魔法少女マジカバカカ第十九話、世界に一つだけの愛。
魔法少女しあやは、みんなを幸せにするはずの魔法で大切な友達を傷つけてしまう。
これは切ないけれど、優しい愛の物語。
その日は友達の誕生日だった。
しあやは友達が最も好きな歌をプレゼントと一緒に贈った。
ところが、友達はその歌の思い出を失って間もなかった。
歌の途中で我慢できずに泣いてしまう。
しあやは戸惑った。
友達はそれでも優しかった。
しあやを責めることなく訳を話す。
友達は数年前から、馴染みの美容院のお兄さんにうんと背伸びして恋心を抱いていた。
そのお兄さんはいつも同じ歌をうたいながら髪を切る。
友達はお兄さんの歌声が大好きで、美容院に通う日を、その歌を口ずさみながら楽しみにしていた。
それがつい先日のことである。
美容院のお兄さんは交通事故で亡くなってしまった。
その報せは友達のもとへすぐに届いた。
恋心を知っていた彼の仲間達が飛んで知らせてくれたのだ。
彼からの誕生日プレゼントを持って。
本当なら今日この日、友達からお兄さんへ、いつものお礼にと彼のお気に入りの音楽ディスクとオモチャのマイクが手渡しで届けられるはずだった。
でも、それはもう叶わない。
プツッと途切れるように話終えた友達は大泣きした。
しあやは彼女を抱き締めて一緒に泣いてあげることしか出来なかった。
時間がゆっくりと過ぎた。
落ち着いた友達がしあやに言う。
相棒「ありがとう」
それからおもむろに、ノートパソコンに音楽ディスクを入れて再生した。
何年か前に母親に聞いて、自分で調べて、そうして苦労して手に入れた彼のお気に入りの歌が流れ始めた。
アップテンポだけど優しい歌、曲名は、世界に一つだけの愛。
相棒「一緒に歌って」
コスプレイヤ「いいよ」
しあやは頷いて一緒に歌った。
友達は笑っていた。
悲しみの水面に浮いていた彼との思い出は、また楽しく羽ばたいて心を巡った。
その帰り、玄関の外で友達がしあやに感謝を告げる。
相棒「ありがとう」
コスプレイヤ「ううん。今日はごめんね」
相棒「いいの。あなたは何も知らなかっただけ。それより私は、あなたのおかげで気持ちが楽になりました」
コスプレイヤ「でも……」
相棒「世界に一つだけの愛。それは、ひとりひとり、特別」
コスプレイヤ「歌詞?」
相棒「うん。歌詞だけれど、本当のことだと思うんだ。あなたにはあなたの愛がある。私はそれが好きだよ。だから、ありがとう」
コスプレイヤ「……うん!」
しあやは涙を見せないよう、すぐに振り向いて走って帰った。
友達は大好きな歌を口ずさみながら、静かに玄関の扉を閉じた。
相棒「……ぐすっ。長くなったけれど、そういう話だ」
ヨウジョ「前に、しあやちゃんと見たよ」
相棒「なんだやっぱりか。二人はすっかり仲良しさんだね」
コスプレイヤ「うん!」にこっ
相棒「コスプレイヤちゃん」
コスプレイヤ「コスプレイヤちゃん?」
相棒「ああと、しあやちゃん」
コスプレイヤ「なに?」くびかしげ
相棒「君を見て倒れた人がたくさんいるのは事実だ。でも、その時、彼らは苦しそうな顔をしていたかな」
コスプレイヤ「うーん……笑ってた」
相棒「そうだろう、彼らは苦しんでなんかないんだ。だからもう思い悩まなくていい。彼らのことは、必ず俺が助けるから」
コスプレイヤ「おじさん、それ本当!」
相棒「約束する。おじさんは大人だから任せなさい」
コスプレイヤ「はい!お願いします!」ぺこ
世界に一つだけの愛が眩しく輝いた。
コスプレイヤの心に寄生する邪悪はその光に消え去った。
子供が気負うことはない。
大人がどうにかしてやればいい。
それが大人だからこそ、大人にしか果たせない使命だ。
愛と信念は持ち合わせた。
相棒「あとは勇気と覚悟だ」きっ!
相棒の鋭い視線の先に、ウサギさんの雨合羽を着た幼女が雨を気にせず立っている。
機械幼女、襲来。
ヨウジョ「がおー!」
ヨウジョが気付いて威嚇した。
自分に真に似たメカヨウジョを前にする彼女の心境はさぞ複雑なことだろう。
相棒は隠れるのをやめて、彼女達と同じ屋根の下に腕を組んで仁王立ちした。
メカヨウジョ「お話は終わりましたか」
ヨウジョ「がおー!!」
メカヨウジョ「ガオー!!」
さすがアンドロイドだ。
その咆哮は近所迷惑どころじゃ済まないほど大きく、もしかしたら島全体を揺らしたかも知れない。
ヨウジョ「ふぇ……」
さすがにたじろぐヨウジョ。
相棒は震える手を無理矢理抑え、彼女の背中を軽く叩いて安心させて自信を取り戻させてやる。
相棒「作戦はご両親から聞いたかな」
ヨウジョ「うん!」
相棒「力を合わせて頑張ろう!」
コスプレイヤ「おー!」
メカヨウジョは三人に構わず屋根の下に侵攻。
そして雨合羽を脱いで雨粒を払うとベンチに畳んで置いた。
露になる彼女の全貌。
肩までの白いセミロング、薄い琥珀色の瞳、中心にデフォルメされた怪獣の描かれた幼女とは色違いの。
ヨウジョ「あー!特別なお洋服!」
後に調べたら、メカヨウジョが装備しているのは海外限定販売の服だった。
メカヨウジョ「博士がくれました」
メカヨウジョは表情の変化も備えていた。
どや顔で胸を張り、怪獣のイラストを強調して自慢した。
ヨウジョ「いいなー」
ヨウジョは心を揺さぶられ、つい羨んだ。
そこですかさず、コスプレイヤがフォローしてくれた。
劇場販売限定の魔法少女しあやのレジャーシートを惜しみ無く広げて、風で飛ばないよう端に荷物を置いた。
彼女が靴を脱いでそこに落ち着くのを見て、二人もそれに倣った。
これでメカヨウジョがこちらのテリトリーに入った。
相棒はベンチに座って作戦の成り行きを見守る。
ヨウジョ「おままごとしましょう」
メカヨウジョ「いいですよ」
ヨウジョ「じゃあ、あなたお名前は?」
メカヨウジョ「ことほ」
ヨウジョ「ことほちゃんはお母さんね。私はお父さん」
コスプレイヤ「えっと……」
ヨウジョ「しあやちゃんは魔法少女ね」
コスプレイヤ「え?」
ヨウジョ「しー!ほら、昨日お話したでしょう」ひそ
コスプレイヤ「あ!私が考えた、魔法都会からやって来た見習い魔法少女だね!」
ヨウジョ「うん!」
メカヨウジョ「その設定は現実的にあり得ません。お断りします」
コスプレイヤ「で、でも」
メカヨウジョ「おままごとは家庭環境を真似て独自に再現するものです。当然に一定水準以上のリアリティーが求められます」
ヨウジョ「?」
容赦ないアンドロイドだ。
この蒸し暑い夏に大寒波を呼び込んだ。
ヨウジョも場もすっかり凍りついた。
だが、メカヨウジョの幼女らしさの欠けたこの冷徹な言動は、もしかしたら勝利の扉を開く鍵になるかも知れない。
それでも気は抜けない。
やはり凍りついたゆえ、こちらのペースがボロボロと崩れてしまう可能性がある。
コスプレイヤ「おままごとだから。好きにしちゃダメ?」
メカヨウジョ「どうしてもと言うならいいでしょう。こちらもアップデートします」
ヨウジョ「いいって。よかったね」
コスプレイヤ「うん」
何とか第一波を乗り越えた。
コスプレイヤの一言で凍りついたものが溶けていく。
メカヨウジョ「おままごとファンタジア起動」
幼女を越える順能力。
アンドロイドだからこその恐ろしいポテンシャルだ。
メカヨウジョは続けてシナリオの冒頭を勝手に語り始めた。
このままではストーリーを支配されかねない。
メカヨウジョ「私達夫婦は十年目の結婚記念日にマヌーケという怪物と遭遇。その時に助けてくれたのが彼女でした。彼女は、この世界で誰かを幸せにするという魔法少女の試験に合格するために、魔法都会から一人でやって来たことを明かしました。二人は疑うこともなく彼女を受け入れて」
コスプレイヤ「待って!難しくて、おままごとにならない!」
メカヨウジョ「では、良い代案があるなら言ってください」
コスプレイヤ「まだこの世界へ来る前のお話よ。私は魔法で小さくなって、お人形さんとこの世界で暮らす練習をするの」
危機一髪。
役に入ったコスプレイヤがメカヨウジョの主導権を塵も残さず粉砕した。
メカヨウジョ「いいでしょう」
ヨウジョ「どっちも難しい……」むむ
まずい、第二波の訪れ。
ヨウジョが困惑して置いてけぼりになっている。
もし彼女がおままごとに飽きてしまえば作戦は破綻し、世界が終わるかも知れない。
コスプレイヤ「気にしなくていいよ」
ヨウジョ「気にしなくていいの?」
コスプレイヤ「私は魔法少女だけど、あなた達の娘です」
ヨウジョ「しあやちゃんは魔法少女で、私達の子供なんだね」
コスプレイヤ「そう。だからお母さん、ご飯作って」
コスプレイヤによる不意討ち。
メカヨウジョがこの痺れるような攻撃にどう対応するか相棒は注目した。
メカヨウジョ「かしこまりました」
何かが駆動する音が鳴ってしばらく、チンという音の後に彼女の口から、綺麗に包装されたハンバーガーらしきものがスッーと出てきた。
ヨウジョ「ふぇ……?」びくっ
非常事態発生。
彼女がロボットだと知らない二人は完全に面食らっている。
その衝撃をイメージするなら、大都市の真ん中に忽然と現れた未確認飛行物体が街に一本の雷を落として街を焦土にしたようなものだ。
コスプレイヤ「手品だ!すごーい!」ぱちぱち
ありがとう。
コスプレイヤはそれを手品と受け止めた。
そして吸収した衝撃を倍にして返す。
コスプレイヤ「もっと見せて!」
アンドロイドとはいえ、あの小さな体ではこれ以上の芸当は出来まい。
という油断が瞬く間に致命傷となる。
メカヨウジョ「どうぞ」
なんと、口からチュロスがスルーンと生えた。
メカヨウジョは躊躇わずその切っ先をヨウジョに向ける。
湯気が立ってホカホカしている。
ヨウジョ「食べられるの?」
メカヨウジョは先ほど製造した包みを開けて、やっぱり出てきたハンバーガーを豪快に一口、パクリと食んでみせた。
とろけたチーズが溢れて口元をトロリと垂れる。
それを、小首を傾げ余裕に満ちた表情でペロリと舌なめずりした。
相棒はドキリとした。
ヨウジョ「ありがとう」
悔しいほど完璧なプレゼンテーションだ。
ヨウジョはメカヨウジョが口から出した丸裸のチュロスを受け取ってしまった。
おままごとというメカヨウジョを閉じ込めるフィールドバリアが粉々に砕けた瞬間である。
彼女はこんなにもあっさりと、難なく、こちらが綿密に練った作戦を台無しにした。
ヨウジョ「どうぞ」
そう言ってヨウジョがわざわざ半分に折ってくれたが、コスプレイヤはチュロスを受け取らなかった。
まだ戦いは終わっていなかった。
相棒は終わったつもりでいたが、魔法少女であるコスプレイヤは世界を救う目的を忘れずなお燃え上がっていた、と信じている。
コスプレイヤ「お母さん」
メカヨウジョ「何でしょうか」
コスプレイヤ「私はピーマンの肉詰めが食べたいな」
期待通り。
ここで秘密兵器の登場だ。
コスプレイヤは作戦に従って、可愛らしいリュックからおままごとセットを取り出す。
まな板に包丁、そしてプラスチックの数々の具材に混じって、艶のある本物のピーマンが取り出された。
メカヨウジョ「ピーマン……!」びくっ
ピーマンは本物。
これはヨウジョにとっても諸刃の剣。
ヨウジョ「ピーマン……!」ぐぬぬ
お互い正反対の反応で、ピーマンを挟んで向かい合った。
メカヨウジョ「お父さんはピーマンがお嫌いでしたね」
ヨウジョ「え。そんなこと……ないよ」
メカヨウジョ「では、どうぞこのままお食べください。今夜は主食が先ほどのチュロスで、おかずが栄養満点ピーマンサラダになります」
ヨウジョ「えー!」がーん
恐ろしい子だ。
相手の気持ちをまったく考えず、自分の安全を優先して、しかも生でピーマンを食べろと強引な理由で押し付けるのだ。
ヨウジョ「生は食べられないよ」あせあせ
メカヨウジョ「ピーマンは生でも食べられます」
ヨウジョは真顔になって答えなかった。
しばらく、二人は雨音に耳を傾けて心を癒した。
ヨウジョ「そうだ。これでお腹がいっぱいなの」
メカヨウジョ「食べ残したらモッタイナイオバケが来ますよ」
やられた。
見事なカウンターにノックアウト。
こちらが第二の秘密兵器として用意していたモッタイナイオバケをメカヨウジョに奪われてしまった。
ヨウジョはひきつった笑顔でまごつく。
ヨウジョ「でも……」
メカヨウジョ「ほら、残さずお食べ」ドスッ
メカヨウジョはこの機を逃がさない。
ヨウジョから目を離さずに、素早くオモチャの包丁をピーマンに突き立て、それをヨウジョの口にグイグイと押し付けた。
その暴挙にヨウジョは口をつぐんで嫌々する。
ヨウジョ「んー!んー!」
限界を感じたヨウジョが横目でコスプレイヤに助けを求める。
彼女は友達が一方的に乱暴されるこの状況にパニックを起こしていた。
相棒は見ていられず仲裁しようかと腰を上げた。
その時だった。
ヨウジョ「や!」
ヨウジョがピーマンをはたき落とした。
メカヨウジョは目をさらに丸くして驚いた。
メカヨウジョ「ピーマンに触れた……?」
ヨウジョ「ピーマン触れるよ」すっ
状況は一変。
ヨウジョが隙を与えぬ反撃に出る。
ヨウジョ「お母さんこそお食べ」ずいっ
メカヨウジョ「やあ……!」とてん
メカヨウジョは迫るピーマンに怯えて仰向けに倒れた。
すかさず、ヨウジョが覆い被さるように四つん這いになる。
ヨウジョ「お食べ」ぐい
メカヨウジョ「んー!んー!」
女の恨みは怖いとどこかの誰かが言った。
まさしく、しかしこんなに幼い頃からあるものとは思いもよらなかった。
相棒はベンチの陰に隠れてトキメキする胸を押さえた。
コスプレイヤを励まし自身を奮い立たせて、トキメキに負けない堅牢な精神を身に付けたつもりが、その魔法はさっぱり解けてしまった。
ヨウジョ「どうして食べないの」
メカヨウジョ「ピーマンやあです」
メカヨウジョには申し訳ないが、瞳を濡らした彼女の掠れて消えてしまいそうな否定を可愛く思った相棒は、ついに萌えて気を失った。
ケモナ「そこまでだわん!」
ヨウジョ「!」
ケモナ「わん!わんわん!」
メカヨウジョのピンチにオパンティヌスが助けを送った。
蝶か蛾か、小さく美しい昆虫型のドローンからケモナが立体的に映し出されている。
ケモナ「うぅー!」がるる
ケモナは吠えて威嚇した。
が、ヨウジョは動じない。
それどころか、犬でも人でもない、どちらかといえば犬っぽい幼女に見惚れて喜んでいる。
ヨウジョ「かわいい!あなたは誰!」
ケモナ「ケモナだわん!初めまして!」ぺこ
コスプレイヤ「わあ!おりこうさん!」ぱちぱち
コスプレイヤも落ち着きを取り戻した。
ケモナにすっかり夢中になっている。
メカヨウジョ「ピーマン残したのだあれ?」
と、いつの間にか二人の背後にゆらりと構えたメカヨウジョが不気味に囁く。
ゾッとして振り返ると彼女は笑顔だった。
それでホッとしたのも束の間。
二人がケモナヘ向き直ると、そこにはモッタイナイオバケがいた。
メカヨウジョは目を閉じ、勝利を確信してさらに微笑んだ。
ヨウジョ「きゃあ!オバケ!」
コスプレイヤ「怖いよ、すずりちゃん……!」
そのモッタイナイオバケはケモナが擬態したした姿だった。
モッタイナイケモナオバケは二人の目前、三㌢まで接近した。
二人は抱き合って恐怖に耐える。
コスプレイヤはもう涙を流していた。
メカヨウジョ「ピーマン食べる?」
ケモナ「モッタイナイわーん」
ミスリーダーを追い詰めたコンビネーション抜群の挟撃。
凍てついた心にヒビが入って、ぎゅっと閉じられたヨウジョのまぶたから涙が溢れそう。
オパンティヌスが彼方から画面越しに、計画の完遂の間もないことを確信して悦に入る。
メカヨウジョ「はっ!」
その時、メカヨウジョがあることに気付いた。
モッタイナイオバケがどうしてか二体に増えている。
目をゴシゴシしてから特級レンズを通して情報を細かに分析する。
一方は立体映像でケモナの擬態であることを確認した。
しかしもう一方はオバケなのに実態を持っている。
オパンティヌス「惑わされるな!それはわしが発明したモッタイナイオバケがドローンじゃ!」
メカヨウジョの脳裏に直接オパンティヌスの声が届く。
同時に、モッタイナイオバケがドローンの情報が送られてきた。
メカヨウジョ「モッタイナイオバケがドローン。デリケートな幼児に配慮して百㌫の綿で織られた純白の柔らかい布を使用。植物由来の成分によって、虫除けの効果を備え、また、抗菌性と撥水性と通気性にも優れている。それに目と口のワッペンを縫い付けてモッタイナイオバケを濃厚に表現。次に球形ドローンの上に被せればリモートコントロールによって自在に空中を漂うモッタイナイオバケがドローンが完成する」
オパンティヌス「つまり、ケモナと同じで本物ではない。安心なさい」
メカヨウジョ「はい」
オパンティヌス「オバケなんか嘘だ。オバケは怖くない」
メカヨウジョ「オバケなんか嘘だ。オバケは怖くない」
メカヨウジョが冷徹さを取り戻して奮い立つ。
メカヨウジョ「目標を破壊します」
メカヨウジョは破壊行動を決定して手を伸ばすも、はたと動きを止めて、反射的に手を引っ込めた。
オパンティヌス「どうした」
メカヨウジョ「足があります」じー
オパンティヌス「なに?」
メカヨウジョ「きゃあー!」とたとた
ふいに、モッタイナイオバケがメカヨウジョへ迫る。
彼女は靴も履かずに雨の中へ飛び出した。
オバケ「待て!」
メカヨウジョ「来ないでください!」とたとた
オバケ「待てー!」
メカヨウジョ「やーですー!」とたとた
メカヨウジョがモッタイナイオバケに追いかけ回される地獄絵図を見て、次は私達の番だと幼女二人は乳歯をカタカタと鳴らして絶望した。
ケモナ「ケモナも追いかけっこするわん!」
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三人は輪になってクルクル駆け回る。
メカヨウジョ「助けてくださいケモナ!」
ケモナ「どうしたの?」
メカヨウジョ「オバケをどうにかしてください!」
ケモナ「体温の検知からして、あれは人間!主人公の相棒が中に入ってる可能性が松だわん!」
メカヨウジョがそれを聞いてピタッと立ち止まる。
雨に濡れる彼女は独特な魅力を放っている。
オバケ「なまらめんこいべさ……」どきどき
オバケはトキメキして再度萌えたが、彼女に風邪をひかせてはいけないという保護と愛護の精神で何とか踏みとどまった。
メカヨウジョ「ねえ、おじさん。ことほ寒いです」
メカヨウジョは、わざとらしく上目使いで可愛い子ぶり、オバケのハートをアイアンクローよろしく鷲掴みにして、トドメに抱きつくことでベアハッグよろしく絞め上げようとした。
オバケ「ごめん。まさか飛び出すだなんて考えが足りなかった」ときとき
しかし、保護者みたいに達観したオバケにはこれっぽっちくらいしか通用しなかった。
オバケが正体を現して、布をメカヨウジョに被せてあげた。
それから屋根の下に誘導して頭を拭いてやる。
あの日、主人公がヨウジョにそうしたように、相棒はメカヨウジョを愛の限りに思いやった。
メカヨウジョ「ロボットだから平気です」
相棒「俺が平気じゃない。さ、次は足だ」
ベンチにちょこんとお座りしたメカヨウジョの足についた泥を綺麗に拭き取る。
相棒は、これでよし、と笑った。
不思議なことにメカヨウジョはトキメキはにかむ。
ヨウジョ「あなたはロボットなの?」
メカヨウジョ「はい」
メカヨウジョは隠すことなく正体を明かした。
その答えに興奮したのは、意外にもコスプレイヤの方だった。
コスプレイヤ「魔法少女と同じだ!正体を隠してみんなのために頑張っているんだね!」きらきら
メカヨウジョ「いいえ。私はみんなを傷つけました」
その言葉にコスプレイヤは事件を思い出して、しょんぼりした。
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いけないことをした彼女をやっつけて、世界を救うためにやって来たことを思い出した。
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コスプレイヤ「でも、それじゃあダメ。だってあなたが救われないから」
メカヨウジョ「私を救うお考えなのですか」
コスプレイヤ「誰かを幸せにするのが魔法少女。あなたも幸せにしなきゃ、私は魔法少女失格よ」
メカヨウジョ「しかし、私の行ったことは決して許されるようなことではなく、その罪は救われるべきものではありません。この体が朽ちるまで罰を受け続けなければなりません」
ケモナと人工知能を分かち合ったメカヨウジョは自身の犯した過ちの重さをちゃんと理解していた。
そのうえで認め、自分を厳しく律して罰を受けようと決めていた。
その健気な姿を痛ましく思った相棒は目を伏せた。
コスプレイヤ「大丈夫よ。このおじさんが、みんなを助けてくれる。だからもう泣かなくていいよ」
メカヨウジョはレンズを洗浄するための水を別の目的で流していた。
頬を過ぎてポタポタと落ちた。
メカヨウジョ「涙。悲しいときに流すもの」
コスプレイヤ「もう悲しくない。おじさんが助けてくれるもん」
ヨウジョがメカヨウジョの涙をハンカチで拭って、手を取った。
ヨウジョ「仲直りしましょう!」
メカヨウジョ「いいんですか」
ヨウジョ「いいよ!ケモナちゃんもこれからお友達ね」
ケモナ「わん!」しっぽふりふり
四人は輪になって手を繋いだ。
相棒は汚く咽び泣いてチンパンジーのオモチャ以上に激しく拍手を送った。
ヨウジョ「今日はもう帰ろう。ことほちゃん風邪をひいちゃうから」
メカヨウジョ「だから、私はロボットですので」
ヨウジョ「いいから!私の家でおままごとの続きをしよう!」
メカヨウジョは和やかに笑った。
メカヨウジョ「はい!」
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相棒「その一つが動画でケモナに語らせた、人類をトキメキで救う計画ですね」
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メカヨウジョ「朝は二人が食べやすいように、うどんを用意しました。ちゃんと食べてください」
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メカヨウジョ「ロボットですから!」えへん
主人公「いつか娘に教えてやってくれないか」
メカヨウジョ「いいですよ。それより、はやく部屋を移りましょう。せっかく作ったのに冷めて伸びてしまいます」
主人公「分かった。ところで、僕より相棒が大変じゃないかな」
メカヨウジョ「彼ならケモナが何とかしてくれています」
ケモナ「わんわんわんわんわん!」
主人公「…………」ちら
ケモナ「わんわんわんわんわん!」
主人公「道端で寝ている酔っぱらいが散歩中の犬に吠えられているようにしか見えない」
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主人公「離して!自分で行きまーす!」
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相棒「二人をけしかけたのミスリーダーでしょう」
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相棒「誇れる部下になるってやつか。それ来月から頑張りまーす」
ミス「まったくもう。主人公、あなたもだらしないです」
主人公「スパルタは勘弁してください。歳なんです」
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主人公「三十代だから、子供が可愛くて仕方ないんです」
ミス「いかなる言い訳も聞きません」
主人公「本当に厳しい人だ……」とほほ
相棒「ミスリーダー。気になるんですけど、ヨウジョのご両親はメカヨウジョのことをどう思っているんですか。もしかして、島を追い出されたりしないですよね」
ミス「ご両親は生まれた命に罪も何もないと言っています。それと、娘の友達は何人でも大歓迎だそうです」
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主人公「博士の処遇はどうなりました」
ミス「私が便宜を図って、引き続き幼女の研究を行ってもらうことになりました」
相棒「そう言えば、幼女の研究て結局なにを目的としているんですか」
ミス「ケモナちゃん。聞こえますか」
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ケモナがさっそく説明してくれる。
ケモナ「それは、覚醒遺伝子の完全な除去です。でも、様々な技術を用いても敵いませんでした」
主人公「ああ、遺伝子の研究だったのか」
相棒「博士は遺伝子の研究を行っていたってことか」
ケモナ「それは専門分野ではないので他にお任せしているわん!」
相棒「ん?つまりどういうことだ」
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メカヨウジョ「あ、そうだ。すずりちゃんの所へ遊びに行ってきます」ぷい
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ケモナ「もしかして。みんなと、おままごとがしたかったの?」
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ケモナ「うぅー!」がるる
メカヨウジョ「ごめんなさい」
ケモナ「見た目が犬だから仕方ないよ。はい、お手」
メカヨウジョ「ありがとう」
ケモナ「うん」しっぽふりふり
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【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】
遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。
クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。
対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。
道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。
『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』
シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、
光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……?
ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ──
三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける!
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※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。
※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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