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両想い
32 オーバーロード
しおりを挟む最高Aランクの双銃、ダブルイーグル
相手の防御を一定値、無視する貫通弾が強力な大型ハンドガン
その能力を戦闘前に確認しておく
彼は田中孝一の息子、誠清
ゲーム内でのユーザー名はオーバーロード
そろそろ行くか
彼は目の前に現れた警告を気にも留めず一歩踏み出した
オーバーコートと銀の長髪が強風になびく
ここは町外れの犬望埼砂丘
海に面して、白亜の砂が広がる素敵なところで、犬達が砂遊びにはしゃぐ姿がよく見られる
そこには赤煉瓦の立派な灯台がひとつ建っている
その上を大きな影が過ぎった
遅かったじゃないか
燻製チーズでも作っていたのかね
誠清はハードボイルドな装いの小鼠を砂丘から見下ろして鼻で笑う
無駄話はいい
かかって来いや
やれやれ
とんだやんちゃ坊主だ
小鼠は帽子を深く被って指笛を鳴らした
すると大きな影が彼の傍に降ってきた
鼻の長い天狗だ
その姿は一般的に想像するものとは違う
小鼠とは趣が違って豹柄のハードボイルドな装いで、イヌワシの翼を背に生やしている
サイズは電車の扉級
坊主と遊んでやれ
イーグルドッグ=ベロス
ベロスは帽子を深くかぶると翼をめいいっぱい広げて応えた
一方で小鼠は石板を脇に抱いてチョコチョコ去って行った
誠清は彼を追わない
追う必要がないからだ
強制的にバトルが始まり、ベロスが先に動いた
常に宙に浮いて、錫杖を柔らかく振り回して攻撃してくる
誠清は一度戦っているので相手の動きを熟知していた
相手が間近に迫るまで、とにかく連射する
ダブルイーグルの銃口が火を吹き、羽根を模した弾丸がベロスに直撃する
思ったよりも相手の体力が削れない
は?硬すぎだろ
ふざけんなよ
こいつ中ボスだぞ
ついイラッとして文句を独り言つ
下から振り上がる錫杖を飛び退いてかわして撃ち返し
突き出された錫杖は蹴っていなして、ゼロ距離で撃ってやる
これでもまだ三分の一も削れない
相手の錫杖を脇で押さえてせめぎ合う
ち、やっぱりバグってんなこれ
また小野田さんに連絡するか
後々、メインプログラマーの小野田から事の真相を聞いた誠清が怒るほど難易度は跳ね上がっている
普段の十倍はあるかも知れない
これはオンラインで親父とチームを組んだがための悪影響だ
小野田と彼の仲間達によるマグマのような情熱溢れる悪ノリは度を過ごしていた
それはソロプレイでの戦闘と比較した時の違和感が明確なほど
うおっ!ヤバっ!
錫杖を強引に振って、誠清の体が宙に浮いた
そこへ突きが容赦なく迫るが、なんとか紙一重でかわして蹴りで反撃する
ダメージは、ほぼない
プレイヤーの肉体を直接使った攻撃は全く効かない仕様になっているためだ
しかし、たまたま顔面に直撃したことで怯んだベロスが後ろへ退いた
誠清は着地すると同時に走って、その勢いのまま敵に突進した
そして素早く片膝を突くと、衝撃でやや高く浮いた敵に向けて斜め下方より弾丸をこれでもかと浴びせた
敵の体はどんどん昇っていく
対して、ベロスは翼を広げて盾にした
誠清が撃つのを止めると、緩やかなスピードで飛行する
ベロスの対地形態は厄介で、小さな竜巻を起こしてくる
しかしそれは反撃のチャンスでもある
ベロスが空中で急停止して、錫杖を回し始めた
誠清はこの機会を逃さず撃って攻める
小さな竜巻が起こった
それはガード不能の攻撃
これに捕われるとクルクル体が回って身動きが取れなくなり、持続ダメージを受ける
つまり消えるまで走るしかない
だが、誠清は対策を思い付いていた
Eランクの木の盾を召喚する
縦長の木の板で、特にこれといった能力はないが丁度いい
わざわざ砂丘のてっぺんに立っていたのには意味がある
自由度の高いフルダイブゲームだからこそ出来る荒技がある
いやっほーう!
板の上に乗り、サーフィンよろしく砂丘を滑り下りる
予定だったがバランスを崩して途中で転げ落ちてしまった
そこへ消えかけた竜巻が追いついてグルグル回された
まさか体力を半分も持っていかれるとは思いもしなかった
くっ、やってくれたな、、、
敵は下降して宙に浮いたまま陸戦形態に戻った
また錫杖を振って襲ってくる
と言っても子供向けゲームなので対処は容易い
誠清は親父がいつも手作りして限界99本まで補充してくれる回復薬を一本飲んで浜辺まで駆け下りた
いや転げ落ちた
親父と妹がいなくてよかった
こんな無様な姿は見られたくない
イーグルアイ!
叫んでスキルを発動する
これから五秒間、ダブルイーグルの攻撃は相手の弱点を見抜き防御を完全無視する
なお必殺技には適用されない
こちらへ、ゆっくりと迫り来るベロスに向けて五秒間ひたすらに撃ちまくる
っしゃあ!!
体力を半分以下に削ることに成功した
しかし、ここからが激戦になる
ベロスが懐から取り出した葉を五枚、ふわり上空に散らすと、それは横並びに広がってベロスの姿へ変化した
分身である
錫杖を持った本体を倒すもよし、先に邪魔な分身を倒すもよし
なお分身は自由に動き回り、方々から葉っぱを手裏剣らしく飛ばしてくるので先に倒すことがオススメされる
誠清は決めた
手裏剣など避ければいい
スピードも早くはなく、最小限の動きで回避は簡単だ
武器が虹色に光り必殺技はいつでも撃てる
準備万端
それならと適度な距離を保ちながら錫杖をかわし、小まめに撃って本体へ反撃する
これがベスト
とは言え甘くはない
背中といった死角からの被弾は避けられなかった
誠清は手裏剣の弾幕に徐々に追い詰められていく
ここで分身を先に倒すか迷いが生じる
いやダメだ
親父なら逃げずに真っ向勝負でいく
誠清はダブルイーグルを背中合わせに連結した
これから放つ必殺技は撃ち終わるまで身動きが取れない
不利になるので躊躇っていたが、それこそ間違いだったようだ
臆病風が凪ぐ
一か八かの賭けになるだろう
それでも、、、
桜桃の勇姿が青い稲妻となって駆け抜けた
その先で仕事帰りの親父の背中を朧気に見る
鼓動が高鳴り胸が熱くなった
超えるべき山はずっと高い
「負けてたまるかっ!!」
目をカッと見開いてトリガーを引く
瞬間、凄まじい風圧に巻き込まれ白亜の砂が吹き荒れる
ストームチェイサー!!
竜巻の長距離射撃
捕われた敵はボスであろうと、特別なスキルがない限り抜け出すことは出来ない
対地形態に移ろうと舞い上がったベロス本体を捕らえて引きずり落とす
背中に手裏剣が刺さっても構わない
そのまま体を回転して、ベロス本体を巻き込みながら振り回して、次々と分身を消し去ってゆく
体力は互いに残り僅かだ
重い、それに反動で体が痺れる
望むところだ
筋肉がはち切れんばかりに全力を出し尽くす
、、、静かな時が流れて
砂煙が晴れて、陽光に煌めく水平線が見えた
体力を確認するとゼロに見えるほどギリギリまで減っていた
やった、、、!
どっと疲れて、その場に仰向けになって倒れる
気が抜けて、つい一人で笑った
ばーか
こんなクソゲー二度とやんねえからな
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