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両想い
30 種族の壁
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妖狐と楽しく戯れた翌日
猫の怨念から解放され、晴れて自由の身となった彼女に誘われて狐の里を訪れた
里は一つの大きな神社になっており、湖の上に建てられていた
そこに暮らす狐達は、みな揃って首に注連縄を巻いている
入口となる鳥居で迎えてくれた代表狐に案内された部屋は綺麗な茶室だった
粗茶ですが
妖狐はびっくり、いまは二本足で立って巫女のような衣装を着ている
しかも狐の手で器用に茶を点て、もてなしてくれる
ほんのり甘味のあるお抹茶だった
続けてお菓子に手を伸ばす
餡子を練ってお座りしたキツネを象った練り切り
その出来栄えやまさしく見事で、でもやっぱり食べるのが惜しく、そっと手を引いた
さて、猫戯師さん
貴方に伝えておくべきことがあります
妖狐はプレイヤーによって救助されることを予見していた
さらに、王都で災難が起こることも予測しており、それが間も無くのことであると告げた
恐ろしい予言を受けてゴクリと喉を鳴らす
彼女は手早くお茶のお代わりを立ててくれた
貴方にはこれから、三つの石板を手に入れて貰います
へい
それは散歩の仁義と呼ばれます
人間と犬が共に暮らしていた大昔の時代の縁について書かれている遺物です
えにし?
人間と犬の繋がりのことです
絆、と言えば理解して頂けるでしょうか
ああー
へいへい
その三つを一つに集めた時
人間をこの世界から追い払った太古の怪物が蘇ります
それこそが元凶です
必ずネズミ達よりも先に手に入れて下さい
犬やネズミでは怪物を抑えることは出来ません
人間との縁が重要なのです
視える未来は二つに一つ
選択を誤れば、繰り返される災難は現実となるでしょう
静かに話し終えて、室内は適度な緊張感で満たされた
ゴクリと喉を鳴らす音だけが室内に響く
三回目のお茶は遠慮して茶室を後にする
桜桃は遥かな青空を仰いだ
よし、いっちょ頼んでみるか
犬小屋の形をした扉を潜り抜けてチュールチュール王国の都まで転移した
王都コトブキ
小さな都会の中心を大きな二級河川が流れている
土手に立って向こう岸の町を一望する
さきほどの神社とは打って変わって、全てがホログラムのように半透明で鮮やかで近未来的な景色に改めて感動する
次に一段低いところにある河川敷を見下ろすと、今日もたくさんの犬達が楽しそうに散歩していた
そこから少し離れて、つむじかぜ商店街までやって来た
周りにいるのは犬ばかりでプレイヤーの姿が見えないことに、すぐ気付いた
桜桃は商店街の入口を振り返り、今日ばかりは異常を察する
そう、ここは特別なエリアに指定されている
重要なクエストでは、プレイヤーはオンラインだろうと独立することになるのだ
妖狐から頂戴した巻物を開く
石板の一つはここにあるようだ
丁寧にマップに印が付いていたので、道に迷うことなくスムーズに到着した
豆柴寺と書いてトウサイジと読む
三方向に立派な寺院が建っていて、境内の中心には梵鐘がある
あ、ネズミ
あ、どうも
いつもお世話になっております
礼儀正しいネズミだな
初めまして
わたくし、ファンシーラットと申します
桜桃は名刺を手に入れた!
ファンシーラットは猫研究同好会の幹部格
この体の白さこそドブネズミとの格の違いを表しています
お前ドブネズミだろう
え?
桜桃は知っていた
ファンシーラットもドブネズミだということを
彼はドブネズミという名称では嫌われるためにファンシーラットと名を改めているのだ
噂によると、人懐っこく、芸達者で賢く、よく遊びよく笑うらしい、、、
お前もドブネズミだろう
え?
知ってるぞ
月刊モリネズミで特集を読んだからな
俺は怒ったぞー!
え!ごめん!
その名前で呼ぶなー!
小さい声でチーチー怒るファンシーラットさん
桜桃は申し訳ない気持ちになって肩をすぼめた
そうだよな
嫌だよな
俺が悪かった
いい子だ
素直に謝るなら仲直りしよう
こうして、桜桃とファンシーラットさんは握手して仲直りしました
数分後
その石板を返せ!
君達が扱うと、取り返しのつかないことになるらしいぞ!
何と言われようと譲れません
我らには我らの考えがあるのですよ
どうしてだ、、、!
せっかく仲直りしたのにどうして解ってくれないんだ!
あるいは
「此方はネズミで、其方はニンゲン」
だからかも知れませんね
今にも泣きそうな顔で無理に笑うファンシーラットさん
彼が揺らす鈴の音が物悲しく響いて、彼の背後で突然に梵鐘が落ちた
重く鈍く響いた大きな音に驚いて、桜桃は萎縮する
梵鐘は喧しく甲高い音を轟かせながら瞬く間に鎧武者へと変形していく
蒲牢の睨む竜頭が上がり厳つい顔が出た
乳の間は横に展開して肩になり中から腕が生えた
池の間は胴に、鐘を鳴らすため撞木を打つ撞座から下は腰となる
そして下端の駒の爪、そこと地面との僅かな隙間から虎の足が見える
時は鐘なり、、、出陣
ファンシーラットさんは何かにとり憑かれたように豹変して不敵な笑みを浮かべる
彼が投げた鈴のより紐は不思議に伸びて、梵鐘の草の間に巻き付いた
それを合図に鎧武者は鐘の音のような雄叫びを上げると、駒の爪内部から白煙を噴射して空高く消えてしまった
おい!
あいつどこへ行ったんだ!
わたくしにも、さっぱりわかりません
開き直るんじゃない
と、次の瞬間
桜桃の背後で悲鳴がギャンギャン上がる
まさか、、、!
クエストが更新されて、それに従うよりも早く足が動いて商店街へ飛び返ると
そこには阿鼻叫喚地獄が広がっていた
桜桃は立ち尽くして目を剥く
鎧武者が滑空して犬達を追いかけ回していた
こっちだ!こっちを見ろ!
桜桃がぴょんぴこ跳ねて挑発すると、鎧武者はそれに反応して急停止した
犬達は一目散に商店街の外へ逃げたようだ
ほっと一安心
これで気兼ねなくネコツキ退治ができる
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