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両想い
29 緑の火炎VS青い稲妻
しおりを挟む妖狐が鳴いて、退路を塞ぐように高い緑の炎が二人を包囲した
柿色の火の粉が紅葉となって降り注ぐ
当然に火傷はしないのでご安心ください
その中心に堂々と座して妖狐は動かない
彼女の攻撃手段は妖力となる
あどぅい!
いきなり親父が駆け出したかと思いきや、とてつもないスピードで妖狐の脇を走り抜けて炎の障壁にタックルした
これには息子もびっくり
親父は三十八度の熱に焼かれ、ジェルのような弾力に吹っ飛ばされ、妖狐のふわふわ尻尾に埋もれた
何やってんだよ!早く逃げろ!
攻撃がくるぞ!
息子が注意を叫ぶ
その声はシステムによって、どれだけ離れていても、どれだけ周囲が騒がしくてもパーティメンバーの耳へクリアに届くしかし時すでに遅し
妖狐が身を翻し尾を軽く振って親父を優しく投げた
実はこれ、中々レアな挙動である
息子の前で痛ましく横たわる美少女
恥ずかしいのか悔しいのか背を向けたまま微動だにしない
息子は仕方なく腰を屈めて手を伸ばす
寝転んでたってどうにもならないぜ
うるさい
いま立つから
ぼやいて、のろのろ立ち上がり小首を傾げる
今までよりも足が速かった
何でだ?
息子が親父のステータスをザッと確認して納得の声を漏らす
アクセサリーの影響だろう
俊敏がめっちゃ上がってるぜ
アクセサリー?
ああ、綾羽から父の日のプレゼントに貰ったやつか
ボスと戦うから付けてみたんだ
外せば?
ダメだ
二人は妖狐が八つの尾から放つ八つの猫の顔の形した鬼火から、軽いジョギングで逃げながら会話する
鬼火が消えるまで、ぐるぐる妖狐の周りを巡る
親父はスピードの調整に慣れず足元がおぼつかない
ちょっと転びそう
せっかく綾羽がくれたんだ
使いこなしゃいい
見てろよー
言って、親父がグンと加速する
速い速い速い
あっという間に息子を一周して追い抜いた
おおーやるじゃん
ははは!
どうだ慣れてきたぞ!
運動が苦手な親父も、そこの子供たちも、誰もが素晴らしいヒーローになれるのがこのゲームのいいところ
親父はザッと踵を返すと地を蹴って妖狐に飛びかかった
あどぅい!
親父は妖狐の体を擦り抜けて炎の障壁に激突して、、、
息子の前に飛んできて痛ましく横たわる
今度は素早く立ち上がった
何でだ
妖狐は霊体、、、えーと
オバケになれるんだ
攻撃のチャンスを待つしかない
ほら今だ!
え!
妖狐の体から飛び出したのは八体の管狐
あれは先程、妖狐の友達であるミアキスを容赦なくしばき返した攻撃
それはゆっくりと宙を泳いで、折を見て襲い来る
まず息子が手本を見せるように照準を管狐に切り替えて光線を撃ちまくった
すると、撃たれた管狐は点滅しながら妖狐の体へと戻り、妖狐はダメージを受けたような苦しい反応を示した
そういうことか!
分かった!
親父は頭脳が大人なので賢く理解が早い
えいえい頑張って警棒を振り回して管狐を叩き返していると、妖狐の尾の先に火が付いた
鬼火がくる
息子は一目見るや察してBランクの消防マンホールを盾にした
スキルに水流、必殺技に遠距離攻撃に対するカウンターを持つ
これで攻撃を防ぐ
一方で親父は管狐に気を取られて五つの鬼火の直撃を受けてしまった
まずい、体力が微量しか残っていない
親父が焦って回復薬を飲んでいる間にバーストチャンスがきた
息子は考えてすぐに諦めた
難易度が跳ね上がっているし、一人でバーストブレイクするのはどうやっても難しそうだ
親父!必殺技がくるぞ!
分かった!
息子は戦場の中心に陣取ると、盾に身を隠した
妖狐の必殺技は全身を炎に包んで戦場を駆け回る攻撃だ
なお厄介なことに、炎の障壁に飛び込んで、いつどこから襲い来るか分からない
図体が大きく、反応が遅れれば回避は難しい
それが八度も繰り返される
親父はその全てを信じられないほどの反射神経と瞬発力で回避してみせた
これには息子も瞳を輝かせて感動した
凄え!
親父カッコいいじゃん!
初めて息子に素直に認められた気がする
嬉しくて可愛いらしい照れ笑いで応える
親父、俺はリタイアして動けないから復活するまで頼んだぞ
おう!任せとけ!
親父は戦いの中、破竹の勢いで成長していく
いまの親父を誰も何も止められない
宙を泳ぐ管狐達を次から次へと追いかけて叩き返す
戦場を刹那に疾走する
その軌跡や、まさしく
「青い稲妻、、、!!」
ワクワクドキドキ
息子は思わず目を奪われた
親父の機敏な動きは、もはや瞬間移動の域にさえ見えた
復活した息子はまぶたを閉じる
甘んじて管狐にしばかれ鬼火の攻撃に焼かれて再度リタイアした
何やってんだ誠清!
真面目にやらないか!
もっと見たいんだよ
親父が戦うところ
え?そんなにカッコいいんか?
それはないけど
見てて楽しい
うーん、まあ
そう言うならそこで見てろ
俺が一人で何とかしてやる
と意気込んだのは良いが、さっそく二度目の必殺技の回避に失敗して一度ゲームオーバーになった
それは、もはや懐かしい完敗
それも中ボス相手に、、、
原則
ボスのレベルがプレイヤーに合わせて変化することはない
はじまりの舞台、猫月の世界を除いて
中ボスは25から35前後
ボスは35から45前後
と決まっている
プレイヤーレベルが四十を越えればゲームをクリアできるように優しく設計されている
なのでレベルは五十から上げることが難しくなっていく
そのレベル上げ要素がゲームクリア後のお楽しみの一つだ
親父のレベルは紆余曲折の寄り道を経て七十を超えている
負けは無いはずだった
ここで親父は、ふと思い出した
ああ、あの人が難しくしたせいだ
それならば一人で敵わないのも仕方ない
以前、彼は勝手に難易度を変更した理由についてこう答えた
家族で楽しんでほしい
共に苦労するのが楽しいんだ
微笑して親父は思い直す
息子の隣に腰を下ろして肩を組んだ
誠清
一人じゃ難しい
やっぱり二人で戦おうや
今度はちゃんと手伝うよ
ようし!
遊ぶぞー!!
ははは
なんだよ急に
楽しまなくっちゃな
これはゲームなんだから
今までゲームなんかやったことないだろう
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それ長くなるだろ!
ははは!
長くなってもいいじゃないか
よくねーよ
あ、ほらもう六時超えてる
一旦休憩な
晩飯食ってくるわ
あ、誠清、、、
親父はポツンと残されてしまった
時間が遡ったように周囲の炎は消えている
傷付いた犬達を置いて町に帰るのは気が引けるので、ここに留まることにした
犬達は疲れて臥せている
エーデルワイスはどっか行った
こちらを睨む妖狐と距離を置いて向き合って食べるブドウは気まずい味がする
お前も食うか?
返事はない
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