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両想い
27 狭間に光る牙
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この広大な空間には昔、マグマが溜まっていたんだよ
とミアキスが親切に雑学を教えてくれた
彼は発掘調査隊ホットドッグのメンバー四匹を手厚く介抱してくれていた
ただ、封印が解かれるのを止めるために警告したつもりだったと弁解する
なぜ止める必要があるんだ?
親父が当然の疑問を口にする
答えは明快だった
ミアキスは意外にも冷静に打ち明ける
妖狐が猫騙しにあってネコツキになってしまったからだ
しかし、それは正しくはない
彼女は私を庇ってネコツキになった
何があった?
初めに
君はもう知っているかもしれないけれど
昔々、この世界は妖狐が猫を騙して創った世界なんだ
だから、世界をちょうど半分にして犬と猫が喧嘩をしていたんだ
へえー
実は私は、犬と猫、二匹にとって共通の祖先に当たる動物でね
現在はオバケみたいなものだけど
あ、怖がらなくて大丈夫だからね
うん
俺は大人だから平気
話を戻そう
私は猫側のスパイとして活動して、一方では犬側のスパイとして活動していた
つまり両方でスパイ活動をしていたんだ
親父は小首を傾げる
視線を移すと妹も同じくそうしていた
犬を助けて、猫も助けて、バランスを取っていたんだ
喧嘩が激しくならないように、上手に嘘をつくんだよ
でも失敗した
疲れがかなり溜まっていてねえ
これが、ついうっかり、猫を温泉に誘ってしまったんだよ
彼らはお風呂が嫌いなのに
親父は右から左に小首を傾げた
妹も同じタイミングでそうした
親子だなあと息子はしみじみ思う
そうして私は「300000匹」の猫に追われることになった
え!三十万匹!?
いや多すぎでしょ
ここは父娘、真逆の反応を見せた
ミアキスは自嘲するように笑って話を続ける
そりゃずっと嘘をついていたんだからね
猫だって本気で怒るよ
温泉に誘った瞬間は凄かった
みんな尻尾がピーンと立って、その先まで毛が逆立っていたからね
牙も爪も剥き出しで怖かったなあ
それと、猫はネコ算式でどんどん増える動物だからそれもあって数が多い
覚えておいて
分かった
それでどうしたんだ?
その時に助けてくれたのが妖狐だよ
彼女はたった三千匹の犬と九十九匹の狐を連れて、彼らを見事に撃退してみせた
それはどうやって?
相手は三十万匹だぞ
一体どうしたら勝てるんだ
俺にはさっぱり分からん
教えてくれ
まずは、彼らをここ狐の樹海へ誘った
猫は木登りが得意だけど犬は苦手
猫達は、自分達にとって有利だから余裕で勝てる、犬は馬鹿だなあ、なんて甘く考えて、まんまとやって来た
それで犬はどうした?
狐は?
どうやって反撃する?
こちらは猫が嫌う水を利用した
狐達が雨乞いをして雨をわっと降らせて、彼らが慌てているところをワンッと驚かせたんだ
おっと、ズルいなんて言わないでくれよ
ほへー
そんなんで勝てるもんなんか
もちろんそれだけじゃあない
犬は集団で狩りをする動物だから
三十万匹で群れていた猫達をチームワークで散り散りにしてやった
一匹なら、そんなに強くはない
こちらには体の大きい犬もいる
縄張りを失った猫達は、さあ
みんなしてこの世界から飛んで逃げてったよ
面白い
でも、それで終わりという訳にはいかなかったんだろう
そう
猫の親玉ときちんと話し合いをすることを決めた
こちらから謝りたいから会ってくれと遠吠えしてお願いしたんだ
一応伝えておくが、私は猫のことを恨んじゃいないし、ましてや嫌いでもない
仲良くしたいからこそ、きちんと謝るんだ
猫の親玉はそれに応えてくれたけど、狐だって酷いとことをしたんだから、妖狐を連れて来いと言う
そこで妖狐に相談したところ、ここを動きたくないと言うから、猫の親玉がわざわざここへ来てくれることになった
夕方から出掛ける用事があるから帰っていい?
友達と夜ご飯食べる約束してんの
綾羽、お前いいところだぞ
猫の親玉はその時に手土産を持ってきた
それはそれは美味しそうな、お稲荷さんだった
甘い匂いと、まるで稲穂のような黄金色の油揚げを見て、ついヨダレが溢れたほど
あれ、ログアウトできないんだけど
怪しいな、と思っても疑うことは出来ない
妖狐は猫を騙して世界を創り、私もずっと猫に嘘をついていたわけだからね
それに可笑しな話だけど、謝るために、彼にわざわざ来てもらったんだから失礼ってもんだ
イベント中だからログアウトはできないぞ
お兄ちゃん
これスキップできないの?
無理
ええー
そんな風に睨み合って間は空いたけど
妖狐は全てを理解したうえで一つ食べたんだ
そうしたら、あっという間にネコツキになってしまってね
でも妖狐は賢くて、ちゃんと予想していた
ねえ、この変な犬さん
話マジで長いんだけど
仕方ないだろう
シナリオライターが一番、気合を入れたストーリーなんだから嫌でも聞いてやれや
ええー
お前ら、さっきからうるさいぞ
という成り行きで妖狐は自身を封印した
私は申し訳なくって、それ以来、狐達と共にここをずっと守っているんだ
今回、発掘調査隊が立ち入ることを敢えて許したのは警告するためだ
これで、どれだけ危険か分かって貰えたね
分かりました
帰りまーす
よろしい
綾羽が強引に会話を終わらせてやった
親父は眉をしかめて唇を尖らせて、やれやれ、という風に肩を上げた
息子は、どうしようもない、と頭を振って伝えた
とミアキスが親切に雑学を教えてくれた
彼は発掘調査隊ホットドッグのメンバー四匹を手厚く介抱してくれていた
ただ、封印が解かれるのを止めるために警告したつもりだったと弁解する
なぜ止める必要があるんだ?
親父が当然の疑問を口にする
答えは明快だった
ミアキスは意外にも冷静に打ち明ける
妖狐が猫騙しにあってネコツキになってしまったからだ
しかし、それは正しくはない
彼女は私を庇ってネコツキになった
何があった?
初めに
君はもう知っているかもしれないけれど
昔々、この世界は妖狐が猫を騙して創った世界なんだ
だから、世界をちょうど半分にして犬と猫が喧嘩をしていたんだ
へえー
実は私は、犬と猫、二匹にとって共通の祖先に当たる動物でね
現在はオバケみたいなものだけど
あ、怖がらなくて大丈夫だからね
うん
俺は大人だから平気
話を戻そう
私は猫側のスパイとして活動して、一方では犬側のスパイとして活動していた
つまり両方でスパイ活動をしていたんだ
親父は小首を傾げる
視線を移すと妹も同じくそうしていた
犬を助けて、猫も助けて、バランスを取っていたんだ
喧嘩が激しくならないように、上手に嘘をつくんだよ
でも失敗した
疲れがかなり溜まっていてねえ
これが、ついうっかり、猫を温泉に誘ってしまったんだよ
彼らはお風呂が嫌いなのに
親父は右から左に小首を傾げた
妹も同じタイミングでそうした
親子だなあと息子はしみじみ思う
そうして私は「300000匹」の猫に追われることになった
え!三十万匹!?
いや多すぎでしょ
ここは父娘、真逆の反応を見せた
ミアキスは自嘲するように笑って話を続ける
そりゃずっと嘘をついていたんだからね
猫だって本気で怒るよ
温泉に誘った瞬間は凄かった
みんな尻尾がピーンと立って、その先まで毛が逆立っていたからね
牙も爪も剥き出しで怖かったなあ
それと、猫はネコ算式でどんどん増える動物だからそれもあって数が多い
覚えておいて
分かった
それでどうしたんだ?
その時に助けてくれたのが妖狐だよ
彼女はたった三千匹の犬と九十九匹の狐を連れて、彼らを見事に撃退してみせた
それはどうやって?
相手は三十万匹だぞ
一体どうしたら勝てるんだ
俺にはさっぱり分からん
教えてくれ
まずは、彼らをここ狐の樹海へ誘った
猫は木登りが得意だけど犬は苦手
猫達は、自分達にとって有利だから余裕で勝てる、犬は馬鹿だなあ、なんて甘く考えて、まんまとやって来た
それで犬はどうした?
狐は?
どうやって反撃する?
こちらは猫が嫌う水を利用した
狐達が雨乞いをして雨をわっと降らせて、彼らが慌てているところをワンッと驚かせたんだ
おっと、ズルいなんて言わないでくれよ
ほへー
そんなんで勝てるもんなんか
もちろんそれだけじゃあない
犬は集団で狩りをする動物だから
三十万匹で群れていた猫達をチームワークで散り散りにしてやった
一匹なら、そんなに強くはない
こちらには体の大きい犬もいる
縄張りを失った猫達は、さあ
みんなしてこの世界から飛んで逃げてったよ
面白い
でも、それで終わりという訳にはいかなかったんだろう
そう
猫の親玉ときちんと話し合いをすることを決めた
こちらから謝りたいから会ってくれと遠吠えしてお願いしたんだ
一応伝えておくが、私は猫のことを恨んじゃいないし、ましてや嫌いでもない
仲良くしたいからこそ、きちんと謝るんだ
猫の親玉はそれに応えてくれたけど、狐だって酷いとことをしたんだから、妖狐を連れて来いと言う
そこで妖狐に相談したところ、ここを動きたくないと言うから、猫の親玉がわざわざここへ来てくれることになった
夕方から出掛ける用事があるから帰っていい?
友達と夜ご飯食べる約束してんの
綾羽、お前いいところだぞ
猫の親玉はその時に手土産を持ってきた
それはそれは美味しそうな、お稲荷さんだった
甘い匂いと、まるで稲穂のような黄金色の油揚げを見て、ついヨダレが溢れたほど
あれ、ログアウトできないんだけど
怪しいな、と思っても疑うことは出来ない
妖狐は猫を騙して世界を創り、私もずっと猫に嘘をついていたわけだからね
それに可笑しな話だけど、謝るために、彼にわざわざ来てもらったんだから失礼ってもんだ
イベント中だからログアウトはできないぞ
お兄ちゃん
これスキップできないの?
無理
ええー
そんな風に睨み合って間は空いたけど
妖狐は全てを理解したうえで一つ食べたんだ
そうしたら、あっという間にネコツキになってしまってね
でも妖狐は賢くて、ちゃんと予想していた
ねえ、この変な犬さん
話マジで長いんだけど
仕方ないだろう
シナリオライターが一番、気合を入れたストーリーなんだから嫌でも聞いてやれや
ええー
お前ら、さっきからうるさいぞ
という成り行きで妖狐は自身を封印した
私は申し訳なくって、それ以来、狐達と共にここをずっと守っているんだ
今回、発掘調査隊が立ち入ることを敢えて許したのは警告するためだ
これで、どれだけ危険か分かって貰えたね
分かりました
帰りまーす
よろしい
綾羽が強引に会話を終わらせてやった
親父は眉をしかめて唇を尖らせて、やれやれ、という風に肩を上げた
息子は、どうしようもない、と頭を振って伝えた
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