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両想い
26 狐の森
しおりを挟む一刻を争うな
四匹の安否が気になる
親父は柔らかすぎるソファから立ち上がろうと身を捩って悪戦苦闘しながら顔をしかめる
頼まれてくれる?
ケモナのうるうるした円な瞳から、彼女が耐え難い悲痛を、涙を堪えて、グッと抑えていることが窺えた
親父はソファから転げ落ちたあと素早く立ち上がると力強く頷いた
俺に
いや、俺達に任せとけ
ケモナの顔が、にぱあー、と晴れてゆく
ちらっと見える犬歯が可愛い
ありがとわん!
という訳である
三人を乗せた犬ゾリは高原を滑り抜けて、摩訶不思議な力の満ちる狐の樹海へ潜った
狐達が認めた者しか立ち入ることは許されず、ケモナから預かった稲荷寿司を象った稲荷のお守りが無ければ樹海の外へ戻される
また、狐村という秘境があるが、それも彼らが認めた者しか歓迎されない
まるでステンドグラスみたいに透明感のある造り物の植物が茂る珍妙な森は、中心へ向かってやや、なだらかな下り坂になっていて犬ゾリはスピードを落とす
静かに静かに深く深く
目的地へ向けて潜って行く
障害物となる木々も妨げにならず、まるで一本の道が目的地まで真っ直ぐに続いているようだ
それがこの樹海の摩訶不思議さを実感させる
森閑として一行の進む物音しか聞こえない
それさえ吸い込まれるようだ
木々を柔らかくすり抜ける日差しは神秘的な模様を地面に描く
澄んだ空気は薄気味悪さを払拭してくれる
と、それは突然に現れた
それだけは他と違って確かに生きた、注連縄の巻かれた厳かな大樹の根元に「犬鳴風穴」と呼ばれる大きな穴が口を開けていた
そこから冷たい空気が流れてきて頬をそよっと撫でた
グンッ、サァー
ここからは少しだけジェットコースターのよう
アラスカンマラミュート達は器用に氷柱を避けて洞窟の中を軽やかに滑り降りる
冷えるなあ
二人とも寒くないか?
親父が頭だけ振り返ると、後ろから娘が首にマフラーを巻いてくれた
綾羽達は厚着だから平気
息子はロングコートを羽織り
娘はローブを纏っている
忘れていた、というより気にしていなかった
ただ、子供達が寒くないか、それだけが心配だった
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そうだったな
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