いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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両想い

25 わんこだむ

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マリーも元気か?

元気だよ
今日も散歩に行ってきたー

マリーとは近所に暮らす、母方の祖父母の家で飼育されているパグのことだ
綾羽は小学生の頃より祖父母の家によく通い、マリーと散歩に出掛けている
マリーは芸達者なお利口さんで、散歩中に綾羽を見上げて歩速を合わせる思い遣りも兼ね備えている可愛い家族
というわけで綾羽は犬派だった

時間がない
もういい加減、犬を撫でてないで出発するぞ

はあーい

支度に十五分ほど掛かったが、これでようやく出発出来る
子供たちが少しだけ宙に浮いたソリに乗るのを待って、親父は先頭で手綱を握った
その先で七匹ものアラスカンマラミュートが縦に並んで力強く駆け抜ける
魔法のように現れた虹の吊り橋を渡り、お城の西門を抜けて高原へ飛び出した
さて、遡ること一時間ほど前

「おすわり!」

宰相という政治を執り仕切る偉い役職を任された賢い犬
チャイニーズクレステッドドッグに吠えられた親父は素直に正座した
息子は冷めた目で無視して娘は背を向け肩を震わせる

かしこまらなくてよいわん
人間さん、どうぞ楽にしてください
ほら早く、誰か椅子を持って参りなさい

そう命じたのは、チュールチュール王国の女王ケモナである
親父はクッキーで組まれたお城やキュートな王の間には動じなかったのに、彼女と対面するや面食らった
娘が女王を従えていたのを思い出して振り返ると驚いた顔の娘と目が合った
ちなみに王国と書いて、わんこだむ、と読む

それでは、お話を始めるわん
リラックスして聞いてね

何故それをチョイスしたのか、三匹のボルゾイがそれぞれ縄を咥えて運んできてくれたのは、少しだけ宙に浮く細かいビーズが詰め込まれた最高品質のソファだった
それに、めいめい楽な体勢で体を深く沈めてケモナの話に耳を傾ける

人間さんへお願いしたい要件は、発掘調査隊の救助になります
先ほど、その一匹が帰って来て助けを求めたのです

それは昨日
五匹のダックスフントで構成された発掘調査隊、ホットドッグがミステリースポットで有名な犬鳴風穴を調査して三日目のことだった
鼻を利かせて探しているのは過去に妖狐が封印されたという伝説の壺
妖狐とはこの世界を創造した神様で、狐達が半ば警告という形で予言する災難に備えての調査だった

そこへ、ダックスフント達と背丈の変わらぬ小さな犬が一匹、どこからともなくふらっと現れた
誰も見た事のない知らない犬だったという
ミアキスと名乗った犬は突然、短く威嚇すると飛び掛かってきた
鋭い牙で容赦なく噛みつくと、メチャクチャに振り回して、ズタボロに引きちぎった
大事な発掘調査道具を

ミアキスに追い立てられた五匹は洞窟をベロを振り回して必死に逃げ惑い、四匹もの仲間が次々と足を怪我してしまった
犬鳴風穴から命からがら脱出できたのは結局、一匹のダックスフントだけだった

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