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両想い
24 いぬ
しおりを挟む今日の桜桃は田舎町のドッグランに来たぞ
移動図書館ハナミズキ号に立ち寄り読書に勤しむ
はたと、モリネズミ今月号のクイズコーナーに目を留める
ネズミザメ、ネズミイルカ、ネズミフグ
ネズミではないけれど、ネズミと名の付く生き物達がいます
上の三匹のうち、本当にいるのはどれでしょう?
うーん
むつかしい問題だ
正解はみんなです!
三匹みんな実在するんですよ!
ほえー知らんかった
本を戻して辺りを見渡す
町にいるのはプレイヤーを除けば、相変わらず犬いぬイヌ戌ばかり
ここは犬好きの世界
建造物の全てがホログラムのようで美しい
まるで虹の雨を降らせて彩ったようにクリアでビューティーでワンダフルフューチャー
建造物には切子細工のような小洒落たデザインが採用されている
そこに暮らしているのは、それぞれに工夫を凝らした首輪やハーネスでお洒落した犬たち
その総数354種
ところで
この世界は妖狐が猫を騙して創造した
猫は狐を同じネコ科だと勘違いしたらしい
でもそれは間違い
狐は猫の仲間と思われがちだけど、本当は「犬の仲間」なんだ
ネコ目イヌ科で、ネコ目は食肉目のこと
では、なぜネコなのか
それは何やかんやで食肉目の代表として選ばれたからである
猫さん、干支にこそなれずとも、後に食肉目の代表にはなれたんだよ
よかったね(泣)
話を戻して町を案内する
ここはチャルキータウン
人間の町を模しているが一回り小さく、犬にとって便利な作りになっている
例えば扉はすべて自動ドアになっているし、ワンタッチ認証で放水される水飲み場もある
ところで、桜桃はサブクエストを受けるためにここを訪れた
その報酬は喉から手が出るほど欲しい物で、見つけた時は興奮のあまり遠吠えのように声を上げて恥をかいた
目的のINU警備会社は二階建ての小さなビルだった
目の前までやって来ると、中から可愛いキャバリアが一匹、しっぽを柔らかく振って迎えてくれた
桜桃はなるだけ腰を屈めて視線を低くする
こんにちは
私はキャンディ
君が仕事を引き受けてくれた人間さんね
はい、すみません遅くなりました
本日はよろしくお願いします
キャンディに案内されて中へ入ると、あれよあれよという間にここの警備服に着替えさせられ、気が付けば犬四匹を連れて散歩していた
レトリーバー、レトリーバー、レトリーバー、そしてレトリーバーである
四種とも種類の違うレトリーバーで桜桃にはどのレトリーバーが何レトリーバーなのかもうさっぱり見分けがつかない
ここが、コーギーマンモリ株式会社から警備を任されたササミジャーキーの工場だよ
お昼の十二時から夕方五時の間にネズミが現れてつまみ食いするから困っているんだって
レトリーバーが親切に事情を教えてくれた
桜桃が時刻を確認すると一時過ぎだった
本を読んで遅刻したのは言わないでおく
もう十二時を回っていますが
その辺りは適当でいい
一匹でも捕まえれば、後はどうとでもなるのさ
レトリーバーは鼻を高くして得意気にそう言った
レトリーバーがそう言うならこれでいいんだろう
どうやら反省しなくて済みそうだ
ちなみに、桜桃は理解していないが、このクエストは十二時から十七時の間ならいつ受けても構わないクエストであると補足しておく
それでは任せたよ
はい
任せてください
桜桃はマップを見ながら任された現場を目を光らせて巡回する
働き犬が走って動かすベルトコンベアーを流れる、ほかほかジャーキーを物珍しく眺めている余裕はない
いた
ネズミだ
こら!つまみ食いはやめなさい!
ちゅ!警備を雇ったのか!
お前は猫研究同好会のネズミだろう
だったら何だ
何だじゃない
商品をつまみ食いしちゃダメだろう!
ふん
腹が減っては戦はできぬと、よく言うだろう
ネズミはジャーキーを舌舐めずり言って、ネコツキを召喚した
名はウーキーブーギー
鵜という魚を飲んで捕らえる鵜呑みで有名な水鳥がモチーフのロボットで、サイズは郵便ポスト級
恐ろしいことに商品として出荷する予定のジャーキーを飲んでは、中に潜む子猫型ロボットが投げ返す、というより射出して抵抗する
対して桜桃は警棒で戦うことを余儀なくされる
あ!逃げるんじゃない!
惜しくもネズミは逃した
肩に備えた無線で連絡する
スイッチを押して話すだけなので子供でも簡単
ネズミを取り逃がしました!
至急追ってください!
居場所は、、、
工場長犬が監視カメラで見つけたど
連携して直ちに取り押さえる
ネズミはこっちに任せて、君はそのロボットを壊してくれ
頼んだど
無線の向こうでレトリーバーが吠えた
ネズミを発見したらしい
こちらも急ぎ対処せねば
と、敵の先制攻撃だ
勿体無いが放物線を描いて飛んでくるジャーキーを回避する
ちなみにこれを食べると体力が回復する小ネタがあるが、味が薄くて人気はない
警備員の親父がつまみ食いするなんてことはないので、そこは安心してほしい
くっ!近寄れん、、、!
桜桃は体を右へ左へ躍らせて回避に専念する
ただ放物線を描いて飛んでくるだけなのに反撃の隙を見出せない
となれば手段は一つ
うおおおん!!
レトリーバーに負けない勢いで吠えて真正面から突っ込む
これが親父の男らしい戦い方、いや美少女の戦術美学である
え!
でも、今回ばかりはうまくいかないんだ
ウーキーブーギーは突如としてロケット噴射すると高く飛び上がり、ベルトコンベアーを舐めるようになぞると、そうして拾ったジャーキーを丁寧に等間隔で空中から投下してきた
ひん、、、!
たかがジャーキーでも親父ならしっかり身を守るぞ
工場内では身の安全の確保
それを最優先にすることを遵守しなければならないのだ
咄嗟に屈んで膝を抱える
帽子にジャーキーが当たったらしい
痛くはない助かった
さて一安心、いざ立ち上がろうとしてジャーキーに足を滑らせ、反射的に体をベルトコンベアーに預けたせいで綺麗に並んでいたジャーキーが悲しくも床に散らばり、桜桃は図らずもベルトコンベアーに上半身を乗せて運ばれる形になった
うぅ、、、
無様だ
なんて恥晒しだ
桜桃は不甲斐ない自分を責める
しかし反省は後にしなくちゃ
許さんぞこいつ!
流れに逆らい、おぼつかない足取りでも何とか立ち直ることに成功
さっと振り向いて、着地したウーキーブーギーを睨む
嘲笑うかのように飛んでくるジャーキー一本を警棒で容赦なく叩き落としてやった
さっきいっぱい散らかして落としちゃったから、商品の安全はもう気にしない
跳躍、これも桜桃の得意技
たったひとっ飛びでウーキーブーギーに迫ると、脳天直下の一撃を振り下ろした
Cランクのユニーク武器、わんわん警棒の威力を思い知れ
やった!
ウーキーブーギーはバネで目を飛ばし口からは子猫ロボットを吐くと、全身のネジやら何やら部品を次々に飛ばしてバラバラに崩れ落ちた
猫っぽい黒煙が魂のように抜け出て成仏したようだ
安堵も束の間
散乱したもったいないジャーキーに視線を移して反省する
今度からもっとうまくやろう
切ない瞳で見詰めて溜め息を吐く
よくやった!
こちらもネズミを捕まえたぞ!
無線から歓喜の遠吠えがワンワン続々と重なって聞こえてきた
音量をゼロに調節した
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