いとしのチェリー

両想い

２３ ＳＦうみ物語

炎の明かりが壁に空いた穴から入り込んで船内の見通しは良い
壁に設置された船内マップを発見して、それをメニュー画面から映して一先ずは艦橋を目指す
そこは宇宙船の額に位置する
人間の目が第三の目となって宇宙船を操り導く要所だ

これは酷い荒れようだな

なんか怖いんだけど

娘が少し怯えて父の背に身を寄せる
鋼鉄の内部は何か物理的な影響を受けて蜂の巣状に破壊されていた
つまり穴ボコだらけなわけ
艦橋、その室内の中心には円柱の機械があって、真ん中に位置する透明なケースの中には、九つ六面にブロックが別れ、そこに54のシンハラ語が一つ一つ刻まれた綺麗なパズルキューブがあった
どうもこれは重要な役割を担うものらしい

クエストの案内に従って、続けて艦長室を目指す
電気が通っていないため重い扉を手動で開いて、ほっと一安心、骸骨はなかった
それに損傷もない
机の上に手記を発見する
水に浸っても平気な素材を使って残されていた
見たことのない文字が徐々に日本語へと変化していく
ふりがな付きで

冥王暦2000年　18の月、46の日

宇宙探訪船４号
シーチキンマヨコーン

時空超越装置、正常に起動
新たな時空座標は、、、

中略

バヤイ
危険度の高い宇宙生物の群と遭遇
姿はサメに近い、あるいは、ネコに近い
以後、サメネコと呼称する

中略

バヤイ
サメネコが船体を食い齧っている
珊瑚礁で構成された奇妙な小惑星を目指す
船員は直ちに居住区に避難するよう警告を発した
終わり次第、速やかに分離して脱出させる

中略

バヤイ
私とサメネコだけが残った
彼らは冷たい銀河の海を泳ぎ渡り、この宇宙船を卵を産むのに相応しい営巣地と判断したようだ
ドリル状の卵がエンジン部に集中しているのをモニターで確認した

中略

バヤイ
暖かいのがお望みならくれてやる
墜落地点は思ったより深く、この小惑星の中心に近いと判明した
幸いにも、船体が突き刺さった珊瑚礁が水中でも燃焼に足る多様な物質を豊富に含んでいることを認めた
レーザーで着火する
これでしばらくは彼らを封じ込めるはずだ
私もそろそろ脱出せねば

お父ちゃん見て！

娘の声で我に返る
手に持って見せる写真の中で、立派な船長服に身を包んだサインポール然とした細長いロボットが敬礼していた

ロボット達が乗る船だったのか
へえー面白いな

感心している場合ではない
すぐそこにサメネコが潜んでいるのだ
炎が消える瞬間を今かと今かと待ち、、、

ひひーん！

突然のいななき
それは警告を意味した
クエスト案内に宇宙船から脱出しようと表示される
部屋を出て、正面に空いた穴から外が見えた
炎が消えている
そして、フィンセントさんが襲われている

サメの大群だ、、、

親父ビビってんのか

お母さんと初めて海に泳ぎに行った時のことだ
サメが現れてな
デートは中止になった

いきなり何の話だよ

ほんと残念だった
泳ぎを教えてもらう約束だったのに
悔しかったなあ、、、

そんな話してる場合じゃないだろう

そうだな
二人とも、助けに行くぞ

サメネコ、その数なんと99
サイズはサーフボード級
体色は三毛、腹に猫の肉球があるのがチャームポイント
全国の子供たちに配慮して、目は細く閉じてアーチを描いたニコニコ模様になっている

彼らの攻撃は単純だ
雑兵が球体に編隊を組んでプレイヤーを囲み、ランダムに一匹が飛び出してきて撹乱する
一回り体の大きな女王鮫は音波を撃って攻撃してくる
徐々に輪が広がって薄く、やがて消滅する仕組みなので、中心を潜れば容易く回避可能

だが、それを知らなければ逃げようと泳いで、広がった音波に撃たれることになる
親父のように、それと娘のように
息子は実践して答えを見せつけるも両者どちらも見ていない
そこへ息子の後頭部に飛び出した雑兵サメネコが柔らかくヒット
苦戦は免れないか

息子はBランクの光線銃カウボーイショットを構える
トリガーを引くと闘牛の姿をしたエネルギーが放たれる
威力は高いが命中に難あり癖が強い
しかし物は使いよう
これで周りを泳ぐ雑兵サメネコを撃って、容赦のない一撃で動きを一時的に麻痺させる
システム上、雑兵を倒すことは不可能だぞ

親父！綾羽！
女王に集中しろ！

親父は珍しく光線銃を構えた
Aランクの宇宙戦艦砲アマテラス
名前の通りかっこいい宇宙戦艦そのままの形をしている男の子たちに人気の武器
クロコダイル級サイズの宇宙戦艦とガチンコで戦って入手するというユーモラスも好まれる
これも癖の強い武器で、ゆっくりトリガーを引くことで威力と照射時間を調整する
四段階、音と砲口の色で判断する
親父に避けようという考えはもうないらしい
わざわざ近距離で、相打ち覚悟で、音波の直撃に耐えながら全力のビームを撃つ
そして海中でも回復薬をガブガブ飲む

一方で娘も個性派だった
新たなペットの背に乗って共に挑む
サイズは綾羽二人分はあろう
今後お気に入りとなる巨大ミジンコのミーちゃんは口からシャボン玉を吐いて攻撃する
広範囲に命中する技だが、それゆえ一個体に対しては効果が薄い
それでもいい
これでいいのだ
好きなキャラクターや武器で好きなように遊ぶ
それこそが唯一無二の醍醐味なのだ

ここで突然変異、親父が学習した
たまたま距離が離れたことで、真正面にいたことで、音波の中心を潜ったのだ
これには驚いたようだ
何事だとキョロキョロして息子を振り返った
それでいいんだ、と息子は頷いた

親父は撃つのをやめた
気分を変えて、武器を師匠譲りのBランク、デコレーションブレイドに切り替えて縦横無尽に泳ぐ
息子の目には嫌でも本物の人魚のように映ってしまった
それほど泳ぎが美しく洗練されている、気がする

女王鮫は狙いを親父に決めたらしく翻弄されている
親父は上手に輪を潜っては攻撃に転じる
たまたまリズムに乗って、うまくヒットアンドアウェイになっている
娘のサポートも地味だが効果あり

ここで女王鮫がバーストチャージに入った
回避不能の大渦を起こす必殺技がくる
ここは仕方ない
息子がそれを阻止してやった
まあまあヌルゲーになるが敵の強さが増している以上あまり手を抜いていられない

娘も今回は援護に徹している
必殺技を一度も命じていない
勝利は親父に譲る
と、女王鮫の動きが不意に止まった
デコレーションブレイドのパッシブスキル、魅了が活きたのだ
機を逃さず親父が畳み掛ける
水中ならではの動き
四方八方から力の限り大剣を振るう
ミーちゃんが盾となって迫る雑兵サメネコから親父を守り、息子が援護射撃して彼らの動きを麻痺した
これで邪魔するものはない

そうして遂に女王鮫は力尽きた
雑兵サメネコも連鎖して弾けて成仏した

勝敗は決した
スキルと必殺技を使うまでもなかった
なぜなら、親父にとって「最も頼りになるのは子供たち」だから

振り返って二人にピースサインを送る