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両想い
19 変身
しおりを挟む町から少し離れた荒野にエリア72と呼ばれる場所がある
そこは開放された、UFOが離着陸する飛行場になっていて、それに乗って他の惑星へ渡ることが出来る
お馴染みの扉によるワープ機能を使えば一瞬だが、今回はあえて使わず、宇宙へ飛び立つワクワク体験をたっぷりと堪能した
そうしてやって来たのはイベント用の惑星エクスペリオン
岩石が剥き出しの寂しい砂の惑星だが、それを囲む巨大な彗星の輪は満天の星よりも煌めいて美しい
そこから一つ流れ星が落ちるのが窓から見えた
三人はUFO発着場から直結するイベントステーションを訪れた
広いイベント会場だけでなく、ショップエリアにホテルエリア、屋内プール付きの娯楽エリアまである
イベント会場の中央に、立方体の巨大モニターが宙に浮いていた
そこに、今はオンラインなので、プレイヤー達が競うポイントの現ランキングが載っている
これは一週間ごとに更新される
誠清
お前は一位を狙いたいと思うか?
一日中ゲームやってるガチ勢じゃないと無理
そもそも競ったところで報酬も何もない
ただのオマケで、自慢にしかならないよ
そうなんか、、、え!
師匠が三位!?
師匠とは噂の百キロババアのことだろう
老人ガチ勢でチームを組んだようだ
他の世界に出没するとは珍しい
それにしても偶然とは言え、よくまあ有名プレイヤーと友達になったもんだ
息子は続けてイベントについて説明をする
イベントは三つのタイプに分かれる
一つめはオンオフ両方でいつでも遊べるイベント
今回参加するイベントがこれ
二つめはオンオフ両方で遊べる季節限定のイベント
三つめはオンラインのみで不定期開催されるイベント
イベントクエスト最大の特徴はレベルと装備が固定されること
誰でもいつでも気軽に参加できるメリットがある
また、ポイント制の場合に、それで優劣が決まるわけでないのもギスギスせず優しい
まあ、こんなところか
それとゲームを始めたばっかの人間は、まずイベントをプレイすれば有利になる
報酬でBランクの装備が貰えるから
先に教えてくれや
その情報は俺に教えてくれなかっただろう
そりゃそうだよ
ゲームが苦手だったり、早くクリアしたかったり、楽したい人向けの手段だからな
なるほど
そういうことね
ちなみに、このイベントは最初にクリアするのをおススメされてる
移動手段が大幅に変わる、ほぼチートみたいな装備が貰えるんだ
俺も、前にこのゲームをクリアした時はそれを使ってショートカットした
ねーえーまだー?
ベンチで待つ妹が退屈に耐えかねて口を尖らす
そのふてぶてしい態度は親父に似ているなと兄は思った
待たせたな
始めようぜ
やっとか
話が長い
文句言ったって仕方ないだろ
イベントのエントリーはメニュー画面から行う
手のひら全体をエントリーシートにタッチすれば参加が認められる
この時、報酬の装備を前借り、もとい今回は試着する
親父はふっくらしたゾウ、息子はつるんとしたティーレックス、娘はまるいスズメのキグルミを選んだ
着ぐるみとは言え、そのものに「変身してなりきる」ことが出来るぞ
サイズは共通してオスのバイソン級となる
見て!ヤバーい!
ちょー凄くない!?
綾羽ガチで飛んでるよ!?
ほえー本当に飛んでるや
俺も鳥にすりゃ良かったかな
ポイント貯めれば追加で交換できるぜ
お、そうなんか
でも親父には、あんまりオススメしたくない
何で?
あれが例のチートみたいな装備なんだよ
高度は場所によって制限されるけど、素早く自由に移動できるから大幅に時間短縮できる
戦闘以外でしか着ぐるみは使えないけどな
それは良いじゃないか
早くクリア出来るし
たまにならいいけど
敵だけじゃなく、場所によっては障害物やダンジョンを無視して突破できるからな
ゲームとしてはつまらなくなる
ああ、そういうこと
そういうこと
後もう一つ訊きたい
何?
どうして急に動物だらけになったんだ
お父さん、ビックリしたぞ
着ぐるみを持ってる人にだけ見える仕組みだからだよ
あとは設定で見えなくすることも出来る
あんまり自由が過ぎると、場所によっては雰囲気が台無しになるからな
なーるほど
何より知らない人からすればモンスターと勘違いしやすい
確かにややこしい
まーた二人で長話してる
娘は親父の背中に乗ってさえずる
絵で説明すると、ゾウさんの背にでかいスズメさんが乗っている
お兄ちゃんうるさい
やめろ!
頭の上に乗るな!
絵で説明すると、ティーレックスさんの頭にでかいスズメさんが乗っている
別にいいじゃん
重いって!
うざ
ちょっと暴れないで
つっつくな!
降りろって言ってんだろ!
へへっ
おんぶしてー
うるせえ!
はっはっはっ!
二人とも、やーっと仲良くなったな
なってねーから!
親父からも言ってくれ!
鬱陶しくてイライラする!
お兄ちゃんの怒りんぼ
綾羽、おいで
お父さんが昔みたいにおんぶしてやろう
お前がせがむから、よく、おんぶしたり肩車したんだぞ
写真も残ってる
ああー懐かしいなあ
覚えてない
そんなストレートに言うなや
親父がまた落ち込むだろ
ほら見ろ
目がしょぼしょぼして鼻が垂れ下がってんじゃねーか
ごめんね、お父ちゃん
スズメさんは笑いを堪えてゾウさんの背に戻る
分かりやすくイメージすると、四つん這いのお父さんの背中に娘が跨っている
お父ちゃんの方が乗り心地いいよ
そうか
ありがとう
喜ぶなよ
都合良くアッシーにされてるんだぞ
おおっ!よくその言葉知ってるな!
それはお前が産まれる前の
もーいい加減にして
喋ってないで早く行こ
おっけー
それでいいのか親父
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軽い足取りで歩き出すゾウさん
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