いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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両想い

17 親父と娘

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うざい、マジで過保護なんだから

間一髪
素直じゃない娘の前に親父が飛び出して、頼もしく、ユニコーンの体当たりを盾で受け止めた

うざくて結構
「どうしても子供を守りたい」のが親ってもんだ
お前が、歳いくつになってもな

スキルを使ってお弁当箱の盾からオカズを飛ばしユニコーンを弾き返す
タイミングのいいカウンターが決まって、敵はややななめ上方高く吹っ飛んだ
親父と入れ替わりに娘が前へ
武器を突き出して先端を敵に向ける
白い息を吐いて、冷静に照準を合わせる

当たれー!

叫んで、斧の尻に付いているグリップに指を掛けて引く
火花を散らして勢いよく滑り出したバターは追尾機能のおかげもあってユニコーンの腹に直撃
炸裂して派手に爆発した
スキル、英国式バターグレネードが決まる

やった!

小さくガッツポーズ
でも喜びも束の間
爆煙の中から光の球が飛び出して、姿をユニコーンへ戻し、雪上へ着地した
それでもダメージは致命的で姿形が歪になっている

綾羽は後先考えず、まるで親父そっくりに、真正面から猛然と迫る
先ほどのバターの射出時の熱で刃の食パンがこんがり焼けている
これがこの武器の特徴で、スキルをトリガーに必殺技を温める
いい匂い

とおりゃあー!!

踏ん張って豪快に
不恰好なフルスイング
雪を巻き上げ、瞬間溶かして水蒸気が広がり、それを切り裂いて
高熱の一撃がユニコーンの胸へ突き刺さる
チン、という音がした
その刹那、食パン型の刃が柄を離れた
さながら一昔前のトースターから焼き上がったパンが飛び出したような勢い
必殺技、英国式トースト・テイク・アウェイ
敵は霧散した

よくやったぞ綾羽!

親父の、なでなで攻撃はするりと回避して、娘は拍手するケモナのもとへ一目散
ぎゅっと胸に抱き締めて勝利を分かち合う

ありがとー!
ケモナちゃんのおかげだよー
いい子だねー
よしよしー

俺は?

お父ちゃんもありがと

早口のお礼に親父の眉が八の字になる

次行こう
時間ないし

うん
そだな

ちょっぴり元気を落とした親父と上機嫌な娘は湖を迂回して先へ進む
都市と要塞の両面で機能していた古代遺跡ムーンメローンのほとんどは雪に埋もれていた
明かりが漏れている、いかにもな崩れた瓦礫の隙間を見つけて、そこから中へ入る
天井に設置された魔法のランプが点々と火を灯し続けていたので見通しは良い
綾羽がパパッと謎を解いて仕掛けを解いて、二人は順調に奥へ進んだ
実はここ、高難度ダンジョンで、、、

ネコティがいるの

は?なに?

ネコティていう名前のネコツキが住み着いてるんだけど、たまーに色違いのレアな奴がいるの

ああ、レアネコツキな
お父さん知ってるぞ
前に何度か会ったからな

そいつが超レアなアクセサリーを必ず落とすから
それを、お父ちゃんにプレゼントするね

アクセサリーなら、もう幾つもあるぞ

いいの
お父ちゃんにとって絶対に良い物だから
綾羽を信じて

分かったよ
お前がくれるプレゼントなら何でも喜んで貰おう

それでよし

ネコティーーー!!!

うるっさ

にわかに親父の絶叫が遺跡中に響き渡り娘とケモナは耳を塞ぐ
廊下に並ぶ小部屋からヌッと姿を現したのは雪男のような猫男
類人猿ぽいし類人猫ぽい
背丈と筋肉量はゴリラゴリラ級
手には茨を巻いた棍棒を握っている
レベルはなんと六十を超える
すっかり気圧された親父は指を差したまま固まってしまった

お父ちゃん、ほらやっつけて

え!俺ひとりで戦うのか!

今まで何回も、手を出すな、て言って
ひとりで戦ってたじゃん
それに仕掛けを全部解いたの綾羽だよ

そうだけども、、、

あ、レアネコティは綾羽が倒すからね

こいつも倒してくれや
お父さん疲れた

ええー
レベル上げは大事だよ

お前はズル賢いな
まったく

親父は仕方なく武器を手に取る
Aランクの槍、大黒柱
スキルも必殺技もないユニーク武器
ドールハウスの屋根裏に眠っていたお宝をアヒルのピータンと一緒に見つけた
浅黒い木の柱そのものを脇に抱えて持つ重量級の武器で(ケモナのバフも込みで)ネコティをたった二突きで成仏させるほどの威力を誇る

お父ちゃんやるじゃん!
この調子で頑張って!

小走りする娘の後を追ってネコティが飛び出してきた部屋に入ると、そこは昔は市場だったらしい広場になっていた
ズタボロの小店舗が幾つか残っている
娘とケモナはその物陰に素早く隠れて応援を続ける
ネコティはここによく集まる習性があり、親父は一時間以上もネコティを突くことになった

まるで除夜の鐘突きだ、、、

と、つまらない親父ギャグを口にするほどクタクタになった頃
時刻は九時を回った

綾羽
そろそろ帰りなさい

お父さんはもう戦い疲れたから
という本心は内に秘めて優しい口調で帰宅を促す

やだ!

プレゼントなら今度でいいよ

だめ!

スーパーでお菓子の袋を二つ抱えて無言で親を睨み頑なに譲らない、あの雨の日の、幼稚園児だった娘の姿が重なる
昔から、こうと決めたら曲げない性格だったんだなあ
俺よりも吉江に似たんだなあ
親父は諦めることにした

きた!

え!

起死回生チャンスオーライ
親父は嬉しさよりも、心が安らいだ

綾羽、約束だからな
お前がやっつけなさい

分かってるって
ケモナちゃん、またね

ケモナを退いて、新たなペットを呼び出す

パパティ!あいつをやっつけろ!

娘は奇抜なネーミングセンスを発揮して、ネコティを色違いのネコティにけしかけた
化物には化物をぶつけてやればよい
しかし油断は禁物
色違いネコティはレベルが八十を超える
体毛が赤く棍棒を両手に握る攻撃的な見た目をしており、それに違わず獰猛だ
しかも桁違いに身軽

二匹のネコティが棍棒で殴り合う目を覆いたくなるような夜の恐怖劇場
その幕が引き裂かれる

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