いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

文字の大きさ
上 下
72 / 96
両想い

15 ちょっと気になる人

しおりを挟む

田中誠清、高校二年生
ほぼ全校生徒より、巨大な体格から想像して鬼殺しの熊、略して鬼熊と恐れられている
身長百八十二もある親父の遺伝子を恨む

白山菊こちな、高校三年生
誠清とは別の学校、住所も離れている
平均的な身長と体重で元気に健康
だが、生まれつき声を発することがうまく出来ない

さて、今日は父の日
二人はお昼過ぎに駅で合流して、そこから直結したお洒落な橋を渡って大型ショッピングモールまでやって来た
こちなの父の日のプレゼント選びが目的

それなのに、こちなに服を摘んでグイグイと引っ張られた誠清は昔風のレトロな喫茶店に連れ込まれた
ここは最近出来たばかりの、いわゆるSNS映えする若者人気のお店だ

プレゼントはどうすんだよ
先それ見なきゃだろ

誠清は不機嫌になって愚痴る
待つことは苦手だった
人気なだけあって、店員から三十分ほど待つことになると伝えられた
対して、こちなは微笑むだけ

ったく
女ばっかりじゃねーか
マジで恥ずいわ

こちなは小首を傾げた

別にいいけど
変な目で見られるのが嫌なんだよ

こちなは首を振る

まあ妹みたいに愚痴ってても仕方ねーよな

こちなはムッとする

んだよ、その顔

こちなは誠清の拳に手を重ねる

馬鹿、やめろ
恥ずかしい

こちなは微笑む
誠清はため息を小さく吐いてスマホを取り出した
それから親父と妹の様子をモニタリングしていると、意外にも、あっという間に順番は回ってきた

何にする?

そんな風に、こちなはメニューを誠清の方へ滑らせて微笑む
こちなは誠清の前では、ほとんど筆談をしない
手話だって使わないし、彼が手話の基本を勉強しようとしたのを止めたこともある

先に選びな
俺は後でいいぜ

美少女になった親父が、数匹の雪だるまに襲われているところから今は目を離したくない
妹は手を出さずケラケラ笑っている
どうせ親父自ら喧嘩を売って、手を出すな、とか格好つけて無茶しているんだろう
雪だるまを倒したって無限に復活することも知らないはずだ
親父はとうとう追い詰められてパニックになってしまい、それを見てつい笑う
降る雪に紛れた、猫耳と猫尾の生えた霜の精霊が浮いているのに気付けば後は簡単なのに
こちながメニューをトントンと指で叩く音で意識が現実に返る

悪い悪い
そう怒んなや

男だろうと女だろうと目の前でスマホに集中されると、あまりいい気分はしない
あなたに興味を抱いているから

白山さんは何にしたんだ

誠清は彼女がその呼び方を嫌うのを分かっていてもそう呼ぶ

じゃあ俺もそれにするよ

こちなは首を振る

何でだよ
ああー分かった
一口欲しいんだろ
ははは
歳上なのに子供だなあ

こちなは顔を伏せて腕の中に隠してしまった
彼女なりの本気の怒りアピールである

拗ねんなや
ごめんて

ちょっとだけ顔を上げて睨む
誠清は、季節限定メニューを彼女が見やすいよう立てて差し出した

どれがいい?

こちなは指でグサリと刺す、そのまま押す

やめろ
謝っただろう

はいごめんなさい、で済めば、ごきげん警察はいらないぞ
悪態悪口はどんな時も人を不愉快にするので気を付けよう

あいつさ
ずっと親父に会いたかったんだと思う

待ち時間に何気なく話す

でも俺が邪魔だったんだな
俺がいるからフルダイブは躊躇ってたんだろう

こちなは首を振る

そんなことあんだよ
よく分からんけど、あいつ俺のこと「嫌い」なんだ
愛想悪いし、態度悪いし、口も悪いしで最悪だ

こちなは寂しそうな顔をする

親父が倒れてから、あんまり妹と話したり遊んだりしなくなって
あいつも大きくなって
なーんか余計に距離が空いたというか
ほんと何考えてんのか分かんね

こちなは、テーブルを指でトントンと叩く

何?
筆談してくれ
ほらスマホあんじゃん

こちなはテーブルに、ゆっくりとハートマークを一つ指で描いた
誠清に向けて

は?
だから、なに伝えたいか分かんねーて

こちなは微笑む
そこへ、クリームで作った紫陽花をメインに可愛くデコレーションされたクリームたっぷりロールケーキ
塩キャラメルアイスにナッツやココアクッキーなどをトッピングしたフォンダンショコラのパフェ
そして金魚を象ったゼリーの入った綺麗なソーダが二つ届いた
誠清はやっぱり恥ずかしくて、腰をソファに深く沈めて目を細める
一方で、こちなは熱心に写真を撮る

いま俺も写真に入っただろう

肩が跳ねそうになる
ちょっとだけ、こっそり、フレームに彼の顔を入れたのがバレてしまった
こちな最大のピンチ

邪魔してごめん、横にズレるわ
今のは消してくれよ

めいっぱいの笑顔で乗り切った
保存をタッチしてスマホをカバンに仕舞う

消した?

こちなは微笑む

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

傭兵アルバの放浪記

有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。 アルバはずーっと傭兵で生きてきました。 あんまり考えたこともありません。 でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。 ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。 そんな人生の一幕

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

美咲の初体験

廣瀬純一
ファンタジー
男女の体が入れ替わってしまった美咲と拓也のお話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...