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恩返し
9 世界観
しおりを挟む桜桃は、満腹の世界にある一流パフェホテルの一室で目覚めた
満腹の世界では町が地下に存在するのが特徴だが、当宿泊施設はグラス型で地上に突き出すほど巨大だ
その最上階にある苺の部屋からの眺めは最高で、眼下にはフルーツポンチの湖が、その背景にはソーダの川が流れる筍の里山が見える
ん?
桜桃は見慣れぬメッセージが届いているのに気付いた
それは、このゲームを作った会社から届いたものだった
雨、、、か
呼び出されたのはユニバースランドという大宇宙を舞台にした娯楽の世界
劇場の町ステラの映画館前で待ち合わせ
今日の天気は生憎の雨模様
桜桃は店舗用テントの下で雨宿りしている
プレイヤーが雨で濡れることはないが、気分で傘をさす人もいる
すぐそこで傘もささず歌って踊っている人までいる
桜桃さん
お待たせしました
ようやく声をかけてきたのは杖をついた老人のジェントルマン
名前はない、NPCだろうか、それにしても違和感がある
はじめまして、私は小野田と申します
間違いなく人間ですので安心してください
しかし、ここでは詳しく正体を明かせませんので後ほど
桜桃はジト目で相手を睨み訝しむ
今は信用して頂くほかありません
そもそも、このゲーム内で悪事を働こうなど、我々が決して許しませんよ
分かった
とりあえず話を聞こう
それで?
先に映画を観ましょう
え!
大事なことです
ジェントルマンにエスコートされ、桜桃はレッドカーペットをモデル気取りで歩いて入場
赤と金を基調とした豪奢な内装は洋画で見た覚えのあるもので、桜桃に高揚感を与えた
チケットだけでなく、お茶碗に盛られたポップコーンと湯呑みのリンゴジュースまで買って貰い着席
こうして型にハマれば興奮はピークに達する
すっかり、隣のジェントルマンに対する警戒は解いてしまった
間もなく照明が消え、幕が開いて真っ白なスクリーンが露わになる
そこへ古い映写機が秘められた物語を映し出す
「スタンドバイミーねこさん」
みんな知っているかにゃ
干支に入れなかったらしい動物がいるよ
それはね、、、
噂では、ネズミに騙されたとか、そもそも干支選抜試験にお呼ばれしていないとか、近代の動物だから含まれないとか、虎と被るやん、などなど諸説さまざま伝えられる
と、なんやかんやありまして
干支になれず仲間外れにされた猫は鳴いた
にゃーにゃー泣いた
森、原っぱ、港、屋根、塀、縁側、コタツ、お寺に神社、その辺、そして人の太腿で鳴いた
生きて死んで、また生まれては死んで、そうして流転を繰り返すうちに猫は妖怪になった
それも鬼を泣かせるほど厄介な
さて、ある日のこと
この世からあの世へと招かれた一匹の猫は、目の前に座る偉そうな大神様を見上げて思った
こいつとネズミだけは、いっぺんしばいたらなあかんなあ
大神様はそんな毛玉みたいなモヤモヤなど知らず
悪戯はほどほどにして、今一度、私の使いとなって働かないかと笑顔で勧めた
ほんま生意気なやっちゃなあ
と間違っても口には出さず
喉を鳴らして上機嫌に
いいですよ
と快く引き受けた
のは猫騙しのつまり嘘
ぺろり
それから猫は七福神をまんまと騙して一所に呼び出すと、またたびざけ、という特別なお酒をたらふく飲ませて酔わせ、彼らをあっという間に猫福神にしてしまった
さらに大神様をもっと困らせてやろうと顔を洗って企む
にゃんと地球を猫の惑星にしよう
初めに邪魔な生き物たちを鰹節に変えて、段ボール箱へ詰め込み蔵に仕舞った
続いて、万が一にも目覚めないよう彼らの意識は、仲間の猫の手を借りて作った七つの世界に追いやった
そこの支配は七匹の猫福神にめいめい任せてある
とは言え
猫の気まぐれで、邪魔者たちに対する意地悪はほどほどにしてやっている
対して、大神様は続々と押し寄せる猫に構いながら頭を悩ませていた
そして、とうとう十二支に選ばれた動物達の代表が緊急招集される
部屋パンパンの猫に囲まれ監視されながらも神の使いを送って世界を救うことを決めた
たちまちニャーニャー抗議が沸騰する
うるさくてたまらぬ
何とか隙を見て、七匹が神の使いで世界を救う旅に出た
お釈迦様に導かれ、それはそれは長く遠い道のりだった、、、
映画は十分ほどで幕を閉じた
桜桃が今まで出会った、そしてこれから出会うだろう干支の神様たちの繰り広げる活劇は大人でも満足に楽しめた
映画のクライマックスは手に汗握るお釈迦様と猫との直接対決
一方で、七匹の動物達は猫福神を自力で救うことは叶わないと悟る
物語はネズミの提案を受けた猫研究同好会の発足で締め括られた
終わり
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