いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

文字の大きさ
上 下
53 / 96
恩返し

6 にゃ

しおりを挟む

桜桃は桜咲く都の真裏へ、例えるなら日本からブラジル、山の麓にひっそり作られた雪の薄く積もる温泉街へとやって来ていた
もへじろうのキャラクタークエストはここでの待ち合わせになる

草津温泉で有名な湯畑を眺めて待つ
ほのかに磯臭い

桜桃は、それほど寒くないけれど防寒対策にモコモコで身を包み、髪型を息子が好きそうなボブにした
特別な意味はない
マフラーに口もとを埋める
三分待っても来ない

そこへ、慌てた様子で駆けてきたのは一匹のハダカデバネズミ
市松模様の浴衣がお似合い
桜桃と変わらぬ背丈であることから、彼が猫研究同好会のネズミだということを見抜いて身構える

ま、待ってくれい

君は猫研究同好会のネズミだろう
何の用だ

どこか疲れた様子で肩で息をしている
桜桃は段々と心配になってきた

どうした?

それが、仲間がネコツキに襲われて

何?
君たちはネコツキを操れるんじゃなかったのか

それが、とんでもないネコツキだったのさ

ふーん

あんたのお供が今、仲間達を助けてくれている

え!まさか、もへじろうのことか!

その人が、あんたを呼んで来てくれって

分かった!
すぐ案内してくれ

彼の後について街を離れた
雪化粧した森の中へ入ろうという時、ネコツキがそこまで迫って来ていた
ハダカデバネズミ達が固まって怯えている
彼らを守るように、こちらに背を向けて戦う男が一人

いた!
もへじろうだ!

飛脚のもへじろうが二本脚の高脚蟹っぽい奇妙なネコツキと武器も持たず戦っていた
足の高さはキリンさん級、腕の長さはゾウさんの鼻級、そして口からハチワレ猫の顔が覗いている
名をアシタカネコという
長い腕と鋭いハサミを振り回して暴れている

もへじろうー!

もへじろうの顔をハサミが襲った
辛うじて避けたようではあるが、覆面が破けたようだ
こんな非常時に何故だ、武器を召喚出来ずバトルを始めることが出来ない
ん?

もへじろう、、、お前

はらり、破けた覆面が落ちて、もへじろうの素顔が露わになる
背は向けているが、その異常は一目で分かった
頭に、猫耳、それが生えていた

「まさかネコツキなのか」

もへじろうは一度こちらを振り返った
美しい横顔が見えたが、ハサミの気配を感じて直ちに戦闘を再開した
アシタカネコの腕が飛んで消滅した
さらに脚も消し飛んだ
瞬く間に形勢が逆転する
もへじろうの手が妖気で構成された猫の手に覆われているのを見る
動きは一変して身軽だ
アシタカネコは手も足も鋏も出ず、とうとう胴体だけになった
すると、猫足が四本生えて、あっという間に森の奥へ走って逃げた
もへじろうはそれを追わなかった

待たせて悪いにゃ
猫騙氏にゃん

中性的な美形だ
長くて綺麗な髪、キリリとした吊り目、頭の猫耳、左右三本ずつ生えた猫髭が萌え
そして引き締まった肉体

俺の名前は源二にゃ
今まで訳あって口を開かず失礼したにゃ

お京と同じだな
さしずめ正体を隠したかったんだろう

ご明察にゃ
この耳と髭と、変な言葉遣いを隠すためにゃん

うーん、、、
一体何がどうなってる?

桜桃が小首を傾げると、もへじろうはクスリと微笑した

その訳は町に戻って話そうにゃ
少し休みたいにゃ

分かった

もへじろうはポケットから新しい覆面を取り出して被った
やっぱり顔は、へのへのもへじ、で構成されていた
どうして、それを選んだのかは聞かない

二人はハダカデバネズミ達を連れて町へ戻ると、彼らと円満に別れて、足湯に寄った
なんだか磯臭い
もへじろうの心遣いで傍らに建つ茶屋からお茶と黒糖饅頭が運ばれてきた

饅頭が、餡子が苦手なら他の団子に変えられるがどうするにゃ

頂くにゃ
饅頭は好きにゃ

にゃふふふ
真似しにゃくていいんだよ

君だけに恥はかかせないにゃ

優しいにゃ
あにゃたは

桜桃はついでに頭に猫耳を生やした
もう、とことん役に成り切るつもりだ
ゲームだし恥ずかしいことは、、、
見られてる!?
みんなに見られてる!?
笑われてる!?
家族の存在も忘れてた!?

すまん
やっぱり、やめておく

それでいいにゃ
気にしないでくれにゃ

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

絶望の箱庭~鳥籠の姫君~

神崎ライ
ファンタジー
「陰と陽が交わり、覚醒の時は訪れた。廻り始めた運命の歯車は止められない、たとえ創造主(ワイズマン)であろうとも……この世界に残された時間は少ない、誰も創造できない結末を君たちが導いてくれたまえ!」 世界の命運は少年と少女に託された。 彼らに待ち受けるのは希望か絶望か…… ある時を機に闇の魔力を発現した少年「天ヶ瀬 冬夜(あまがせ とうや)」 記憶を封じられ、謎の空間に幽閉されている少女「メイ」 きっかけは冬夜が六歳の時に起きた「事件」 少年と少女が出会ったことにより、世界の運命は大きく動き始めた…… やがて時は過ぎ、導かれたように衝撃的な再会を果たす二人。 そして舞台は整えられていく、何者によって用意されていたかのように…… 同じ時間軸に存在し、決して交わることがなかった二つの世界。 科学が発達した現実世界、魔法が発展した幻想世界。 そして……両世界の狭間に存在すると噂される『箱庭』 少しづつ明らかにされる箱庭の正体と隠された真実。 全てが明かされる時、世界は終焉を迎えるのか……それとも…… 少年と少女は創造主(ワイズマン)が描いた未来を変えることができるのか? 世界の命運をかけた物語は動き始めた、誰も予測できない未来へ……

恋情を乞う

乙人
ファンタジー
母とその再婚相手に幽閉され、不幸な青春時代を送り、故人となった榮氏。 怨念により、人の魂を喰らう化け物と化した彼女は- -血染めの舞姫が言った- 仮初の家族は皆、堕獄した。それを免れた己は、灼熱の舞台で舞い続けるのだ、と。 -喪服の令嬢が言った- 微かな“生きていた”余韻を感じ貪り、記憶の中の声を欲し、そうやって生きてきたつもりだ、と。 -異国の衣裳を召した皇女が言った- 夢を見るには、歳をとりすぎた。それでも、望んでも構わないなら、一時の、仮初の夢を乞う、と。 家族に疎まれ、身内殺しの罪を背負い、殺された、榮莉鸞。 最初で最後の想い人を父に殺され、心を喪った、圓寳闐。 存在を認められず、臣下に課された屈辱と破滅を数える秘め事を背負い続け、八歳年下の弟を愛してしまった女東宮、永寧大長公主。 心優しく、美しい主上、旲瑓。 三人の憐れな姫君と、一人の青年の、天上の国の後宮の物語。

まひびとがたり

パン治郎
歴史・時代
時は千年前――日ノ本の都の周辺には「鬼」と呼ばれる山賊たちが跋扈していた。 そこに「百鬼の王」と怖れ称された「鬼童丸」という名の一人の男――。 鬼童丸のそばにはいつも一人の少女セナがいた。 セナは黒衣をまとい、陰にひそみ、衣擦れの音すら立てない様子からこう呼ばれた。 「愛宕の黒猫」――。 そんな黒猫セナが、鬼童丸から受けた一つの密命。 それはのちの世に大妖怪とあだ名される時の帝の暗殺だった。 黒猫は天賦の舞の才能と冷酷な暗殺術をたずさえて、謡舞寮へと潜入する――。 ※コンセプトは「朝ドラ×大河ドラマ」の中高生向けの作品です。  平安時代末期、貴族の世から武士の世への転換期を舞台に、実在の歴史上の人物をモデルにしてファンタジー的な時代小説にしています。 ※※誤字指摘や感想などぜひともお寄せください!

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

暴走♡アイドル ~ヨアケノテンシ~

雪ノ瀬瞬
青春
アイドルになりたい高校1年生。暁愛羽が地元神奈川の小田原で友達と暴走族を結成。 神奈川は横浜、相模原、湘南、小田原の4大暴走族が敵対し合い、そんな中たった数人でチームを旗揚げする。 しかし4大暴走族がにらみ合う中、関東最大の超大型チーム、東京連合の魔の手が神奈川に忍びより、愛羽たちは狩りのターゲットにされてしまう。 そして仲間は1人、また1人と潰されていく。 総員1000人の東京連合に対し愛羽たちはどう戦うのか。 どうすれば大切な仲間を守れるのか。 暴走族とは何か。大切なものは何か。 少女たちが悩み、葛藤した答えは何なのか。 それは読んだ人にしか分からない。 前髪パッツンのポニーテールのチビが強い! そして飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ! 暴走アイドルは出てくるキャラがみんなカッコいいので、きっとアイドルたちがあなたの背中も押してくれると思います。

処理中です...