いとしのチェリー

恩返し

５ 「愛しか勝たん」

枝分かれした廊下が出城を囲んでおり、それが曲輪のような役割を果たしているようだ
桜桃とおたふく侍は狭い廊下に苦戦しながらも湧いてくる猫侍を蹴散らして前進する

ようやく辿り着いた出城は、以前お邪魔したミステリースポットの楼閣に似たデザインをしていた
地上を攻める際に利用していたのだろうか

門を押し開いて屈んで中へ入るとびっくり
部屋は一つしかなく温泉になっていた
床には丸い石が敷かれ、洗い場まである
真っ白なマーライオンの口からドバドバと温泉が掛け流しになっている

妙だな
猫は温泉が嫌いなはずだ

妙なのはアレです
あれは何でしょう

はっはっはっ、そうか知らんか
あれはマーライオンて言うんだ

異世界のものでしょうか

ん？そうだな
外国の物だ

ピタ、、、と湯が止まり、、、ゴト

え！動いた！

お気を付けて
奴こそ親玉のようです

名は魔無頼漢と少し強引
マーブライカンが大きく顎を開くと、中から猫武将が続々と這い出てきた
これまでのと違ってヌメヌメしているぞ
彼らは直ちに二人を敵と認めると杓子を持って襲い来る

ここは俺に任せろ！

おたふく侍と若様の御活躍に感化された桜桃は仁王立ち
カカシをぶん回して左右から迫る猫武将をバッタバッタとぶった斬る
も、数に押されて足を滑らせて温泉に背中から落ちた

紫式剣舞、恋

残る敵は、おたふく侍が解放されたスキルを使って片付けてくれた
桜桃は無言で温泉から這い出る
濡れたような感覚はあっても、実際には濡れていない
それでもドジを踏んで心はびしょびしょになった
マジへこむ
そこへ、おたふく侍が優しく手を差し伸べた

立てますか

ありがとう
君は良くやったよ

まだ敵はいます
頼りにしてますよ

にっこりですよ
すっかり機嫌を直した桜桃はマーブライカンを鋭く睨んだ
対してマーブライカンは悠々と巨体を宙に浮かせると温泉に飛び込んだ
姿は見えない

飛び出してくる気か！

と見せかけて熱湯を吹き上げる
視界を遮る猫だましに桜桃はまんまと引っかかってしまった
隙をついて温泉から上がったマーブライカンは容赦なくでも優しく桜桃の腰に噛みついた

ぎゃあー！

と大袈裟な悲鳴を上げるも痛くはない
多少の圧迫感を受けるだけだ
すかさず、おたふく侍が駆けつけてマーブライカンの尾を掴んだ
指圧の強さに顎の力が緩む

今です！
お逃げください

桜桃が脱したのを確認して、大きく振り回す
なんという馬鹿力
そのままぶん投げて向こうの壁に叩きつけてやった
桜桃が追って跳ぶ、力を込めてカカシを振り下ろした
畳み掛ける二人の攻撃を受けてマーブライカンの体にヒビが入る
それは彼の怒りを表すようだ

跳ね上がったマーブライカンは温泉をあっという間に吸い込むと体を肥大化させた
そして温泉を口から噴き出してコマのように回転、桜桃を追いかける

ここはお任せを

よし任せた

おたふく侍は音もなく刀を鞘へ収める
まぶたを閉じて、開いた
その刹那に刃が踊る

紫式剣舞、愛

解放された必殺技
目にも止まらぬ速業で一撃必殺
二つに分かれたマーブライカンは壁に当たってカラになった湯船に落ちると、たくさんの泡になって消えた
これで終わりではない
その瞬間、何かが高く飛び出していた
桜桃はそれを見逃していた

上です
トドメを

え、あ、お、うい

んーと背伸びして目を凝らす
四つ足の、、、小さな、、、
猫足の石けん入れかあるいはバスタブか何だアレは！
悩み、反応が遅れた
身軽に着地したソープディッシュのネコツキ、ネコバスが威嚇して桜桃へ襲いかかる

えんや

コツンとカカシで軽く叩くとクルンと回って、一つの泡に変わって、ふわーと高く飛んで、パンって弾けた
ちょっと可哀想

これで終わりか？

ええ
帰りましょう

おたふく侍は優しく微笑む
その後、再会した恋人はめでたく祝福を受けて結ばれた
それはそれとして、おたふく侍はこれからも桜桃に協力してくれることを約束した

義理堅い性格は武家の生まれゆえか

はたまた、彼女の愛かな