いとしのチェリー

恩返し

４ 決闘

海上に木製の廊下が枝分かれしながら沖へ続いていて、奥に小さな出城が建っていた
巨大な鬼瓦が屋根の上からこちらを睨んでいる
今まで海底に沈んでいたのか、藻やフジツボが目立つ
それよりもだ

え！ずるい！

当然、防衛の為のネコツキ兵隊が浜に配置されていた
クエストイベントの都合で、桜桃達は円陣を組んだ猫侍に囲まれた状態に追い込まれている
扉は無常にも消えたし召喚も不可能
と、その時

はーははは！

という高笑いが空から聞こえ
天を仰ぐと人影と鳥影が一つずつ見えた
間もなく一人の青年が浜に降って来た
体が頑丈なようで、砂を払いながら全く平気な顔で胸を張る

誰だ？

若様！

え！喋った！

おたふく侍の呼び掛けに彼はすぐ反応し、心で通じ合い理解さえした
脇に差していた二本の刀を目にも止まらぬ速さで抜くと同時に猫侍を複数体同時に斬り払った

あんたが噂の若様なのか

噂とは何のことか知らぬが、今はまず手を貸そう
共にネコツキを討ち倒すぞ

ははあ！

桜桃は素早く平伏した
そうするのが正しいような気がしたから
だって殿様の息子だし
そのうちに若様とおたふく侍が大立ち回りの大活躍
桜桃が浜でちょこんと女の子座りしている間に猫侍を全て討ってみせた
思わず見惚れるほどの連携であった

おおー

と呆けてパチパチと拍手を送る
そんな桜桃をよそに、おたふく侍は仮面を脱ぎ捨て、最愛の人と慈しむように抱き合った

それから、おたふく侍が仮面をしていたのは恥ずかしがりやな性格と正体を隠すためであることが明らかになった
お京であることを知られないために声さえ伏せていた

お京は歳上の武家の身
恋をしたお相手は歳下の若様
二人は辛い境遇に置かれているが、それでも歌で想いを届け、僅かな暇に逢瀬を重ねている
そのことを、お京、自ら告白してくれた
また、ネコツキ退治は武家の務めだと誇る

ほへー
そうだったの

お京が世話になった
礼を言う

ははあ
苦しゅうないです
どうか頭をお上げなされ

はーははは！
そう固くならずともよい
其方は私の友である

ひぇ、畏れ多い、、、

武蔵、前を

出城の方から同種の新たなネコツキが迫ってくる
剣豪さながらの風貌をした上半身パンパン猫影だ
間近に迫って、名が猫次郎と明らかになる
長い魚の骨を肩に乗せている

ここは私に任せて二人はお行きなさい

若様！

と声を上げたのは桜桃

ご無理をなさらずに
私が何とかしますから

猫騙師殿には出城に棲まう魔物を討って頂く
我々では太刀打ちできぬ事は知れている

それならば共に

私は卑しくも、この町に恩を売らねばならぬのだ
奴を討ち倒せば、お京を嫁に貰う許しがとうとう得られるかも知れぬ

きゅん、、、！

ときめいたのはお京

必ずや私達が魔物を討ち倒してみせましょう

え！ちょ待って！

どうかご無事で

桜桃はお京の馬鹿力に引かれて駆け出した
というかもう浮いて鯉のぼりみたいになっている
立ちはだかろうとする猫次郎を武蔵が鋭い声で制する
猫次郎はそれに応えて道をわざわざ譲ってくれた

猫次郎よ
この武蔵が直に決闘を申し込む

「にゃん」