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縁結び
13 コンパニオンバード
しおりを挟むふう、、、百キロババアの異名は伊達じゃなかった
卓越したテクニックで首位を譲らない
桜桃をすっかりレースの虜にしてしまった
彼女のように走ってみたい
拍手喝采を浴びたい
息子と競争したい
膨らむ想いに胸が爆発しそうだ
興奮覚めやらぬまま鳥籠を出て、露店で販売されているグッズやアクセサリーを吟味していると黄色い声が聞こえてきた
つまりはキャーキャー騒ぐ声が聞こえてきた
何事かと向かうと人だかりが出来ていた
なるほど
どうもこの向こうに百キロババアがいるらしい
さながらヒーローインタビューと言ったところか
ファンの声援に丁寧に応えている様子が優しい語調から窺える
桜桃は辛抱して接触するチャンスを待った
それからそれから
きた!今だ!人が散り散りになった!いく!いくぞ!いくの!
でも桜桃は一歩踏み出せずにいた!
自らプレイヤーに話しかけたことは一度もない
ましてや息子に、子供かも知れないから話しかけるな、と注意を受けている
こんにちは
もしかして、あなたも私のファン?
気付いてくれて助かった、拳を解く
桜桃のような美少女だと間近で見て改めて思う
優しい笑顔に緊張も警戒も一瞬でほぐれてしまう
すらすらと素直に事情を話すことが出来た
ひゃっひゃっ
え!
そーか
私にレースを教わりたいの
人形みたいな美少女のイメージが瞬く間に壊れてしまった
さっきの柔和な雰囲気はどこへやら、薄気味悪さを感じる
いいよ、何でも教えたげる
あなたは大人よね
ええ
ではやはりあなたも
ひっひっひっ
もう八十を過ぎたババアよ
八十!?
長いこと寝たきりで退屈だったの
けど、このゲームのおかげ様で見ての通り凄く元気
若くなって、ひひ、歯も生えたし、昔に戻ったみたいで楽しくってねえ
はあ、、、
桜桃は混乱して、なお圧倒されている
ババアはすこぶる元気だった
あなたのコンパニオンを選びに行きましょう
桜桃の返事を待たずしてお婆さんは早足で歩き出す
その背中についてバードショップまでやって来た
鳥籠とは反対方向の雀卓の端にそれはあった
広い柵の中でたくさんの鳥さん達が種の違いなどお構いなく仲良く共存している
いらっしゃいませ
お客様は初めてでございますね
テントの下から親切に声を掛けてきたのは、今度こそ本物の人形の少女だった
桜桃の驚いた反応を見てお婆さんがからかう
お人形さんは山積みの段ボールの天辺から背伸びしてカタログを取り出すと、機嫌を損ねた桜桃へそっと手渡した
どうぞご自由に
中へ入って実際にご覧ください
彼女が言うが早いか、桜桃はお婆さんに手を引かれて柵の中へ引っ張り込まれた
さ、選んで
うーん、、、
桜桃は腕を組み、カタログと鳥さんとを交互に見て悩み唸る
三十を超える鳥さんのなかで陸を走る種は四種しかいないようだ
ならばこの中から選ぼう
ニワトリ、アヒル、ダチョウ、そしてペンギン
あれ?アヒルは空を飛びますよね
このゲームじゃ飛ばないよ
よし君に決めた
桜桃は決心して購入の文字をタッチした
飛行する鳥さんの倍の一万ゴールドも支払った
お婆さんは口を挟まず微笑んで見守っている
名前を付けてあげてください
パパッと入力する
命名ぴーたん
子供の頃に飼っていたアヒルの名だ
夏祭でヒヨコを買ったのに育つとアヒルになった
ぴーたんは家族に何度と食べられそうになったが桜桃が生涯守り抜いて天寿を全うした
ことをお婆さんに語る
大切な家族だったのね
家族であり親友でした
お袋が俺に口煩く家族を大切にしろって言ってたんですが、そのお袋の勧めで、家族みんなが食べようとするんで大変でしたよ
偉い
あんたは偉いよ
お婆さんは優しく褒めてくれた
桜桃は急に恥ずかしくなってはにかんだ
メニュー画面の隣に鳥さん専用のメニューが追加された
チュートリアルに従って、順を追って確認していく
プロフィール、能力、、ごはん、、、
お待たせしました
うん
それじゃあトレーニングに行きましょうか
二人はレンガ造りの家の玄関へと転移した
鳥さんもちゃんとついてきた
そこは砂が積もって砂丘になっていた
素直に玄関砂丘と表示されている
暑さは感じない、家の中はどこも快適だ
ここで、まず走ることに慣れましょう
お婆さんは実演して鳥さんの乗り方を教えてくれた
桜桃がぴーたんの羽毛に触れると、ふわっと指が吸い込まれた
そうして触れたことを合図に足を畳んで伏せてくれた
ぴーたんに、正確にはぴーたんではないのだが、アヒルに乗って走る日がまさか来るとは夢にも思わなかった
ふわっ、もふもふっ、ふわわん
気持ちいい
座り心地は最高だ
しかもいい匂いがする
おひさまの匂いかな
足を羽と体の隙間に入れるとぬくぬくする
桜桃はまるで眠ってしまいそうな心地良さを感じてぴーたんを抱きしめた
背中に顔を埋めて至福を感じる
ぴい、、、
鳴いたのは桜桃の方だった
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