いとしのチェリー

旅立ち

２４ 最終話

鹿猿と書いてシシザルと読む
神輿を背負い両手に鹿の角を持った猿のネコツキだ
四肢の筋肉ははち切れんばかり
全身もパンパンに膨れ見るからに頑丈だ
その大きさは自動車級で子供達もさすがに怖がるか
サングラスに桜桃の及び腰が映る

行くぞ誠清！

勇気を奮い真っ向勝負といく
その時、桜桃は身体の違和感に気付いた
体がいつもより少しだけ軽い
それに足も速い
新しいアクセサリーのおかげだろうか

親父！危ない！

シシザルは太鼓を叩くように鹿の角を振るう
二本、揃って横薙ぎの攻撃がほどほどのスピードで空を切った
桜桃の姿がない
息子も一瞬見失った
瞬きの後仰ぎ見た
花吹雪に舞う桜桃の姿を、、、！

桜桃は大剣の重みに助けられて体を翻すと、悠々と神輿を飛び越えてシシザルの背後に着地した、つもりがドジを踏んで転んでしまう
その際、つい武器を手放してしまった

あえ！しまった！

シシザルの猫尾が毛を逆立ててピンと張る
ゆるりと頭が回って桜桃をみーつけた
ところへ息子の援護射撃が決まる
その隙に桃剣ヒナマツリを拾って態勢を整える

二人の息の合った挟撃はシシザルを惑わせた
それでもやはりラスボスは手強い
簡単に姿勢を崩され、桜桃は何度と打ちのめされた
しかも知恵が回り、息子の射撃を神輿で防ぐ学習行動をみせた
次第に形成が逆転してゆく

特殊行動
イナズマバチアタリ

シシザルは鹿の角を擦り合わせて電気を起こすと地面を激しく乱打した
ランダムな方向へ電気の波がゆっくり走る

なに簡単に避けられる
縄跳びみたいなものだ
しかし桜桃のように初見であれば、あんな風にジャンプのタイミングを間違えて着地と同時に痺れてしまうことがある
状態異常、麻痺
ピリピリして少しの間、動きが鈍くなる
そして運悪く連続で攻撃を受けるとリタイアしてしまう
回復は間に合わなかったようだ

ここから息子は必死に逃げ回った
桜桃がリタイアすると必ずこうなる
意地でも近距離武器は持たない
ゲームで遊ぶなら鉄砲こそ男のロマンだぜ

ヤバい！死ぬ！

誠清ー！！

二人揃ってリタイアすれば当然ゲームオーバーとなる
二度目のチャレンジこそ負けないぞ

シシザルがリーゼントを整えて必殺技を放つエネルギーを充填する
ここぞとばかりにバーストチャンスを狙ってガンガン攻める
桃剣ヒナマツリの必殺技、雛嵐が閃いた
緑、白、桃の花弁を散らして菱形を描く芸術的な斬撃
相手の防御力を下げることが出来る

ところがどうして
バーストゲージを削り切るのに威力が僅かに足りない
息子は焦った
難易度が上がってないか？
何かがおかしい
親父が相変わらず正面にこだわって攻めるのはおかしくない
そうだ、小学校低学年の子供でも倒せるようプログラムされているはずなのにここまで手強いのがおかしい
それはプレイヤーが大人でも変わらないはず
協力プレイで敵の強さが変わることもないはず
動作は優しく緩く、攻撃は避けようと思えば避けられる
レベルも武器も問題ない
相手はいまノーガード
なのに敵の攻撃力と耐久力が僅かにこちらを上回る
プレイヤーレベルに合わせて強くなるとかいやそんな
まさか、、、改悪アップデート！？

何でだ何でだ何でだ！

どうした誠清

こんなのクソゲーだあー！！

二人は揃って、シシザルの鋭い眼光、メンチビームに倒れた
三度目のチャレンジ

親父、頭使って戦ってくれや

はあ？

真正面から戦わないでくれ
もっと背中に回るとかあるだろう

難しい
お父さん必死なんだ

あーそう
ならいい

何だその態度
ゲームで負けてイライラするからって親に当たるな
母さんもいつも困ってただろう

いま関係ねえだろ！
八つ当たりなんかしてない！

してるじゃないか！

してないって！

分かった
もういい、今日はやめにしよう

いやだ
このまま倒す

何で

相手の動きに慣れてるから
今の方が都合いい

おーそれもそうだな

あ

何かいいアイディアが浮かんだか！

盾があんじゃん、、、

あんだって？

あいつの特殊攻撃と必殺技を、親父の盾で防いでくれ

防げるのか

余波みたいなんでダメージはちょっと食らうけど、状態異常にならないし回復する余裕も出来る

おお、やっぱりお前頭いいな

、、、はあ、、、疲れる

お父さんも気持ちが疲れた
これで終わりにしよう

今度こそ頼むぜ

お前も頑張れよ

二人は拳を突き合わせた
俺たちの戦いはこれからだ！！