いとしのチェリー

旅立ち

１９ オタケ

海老海賊団を退治したのはいいが、その隙に神輿を盗まれてしまう
桜桃は戦闘中に神輿が運ばれていくのを見つけて直ぐ追いかけようとしたのだが、鯛砲部隊に邪魔された

猫研究同好会はひいひい苦労して神輿を積むと、疾うに出航してしまった
これはゲームの仕様なのでどうしても仕様がないのだが、桜桃にはそんなこと分からないので、悔しくてヤキパラガスを握り締めた

辛くも戦闘に勝利すると町長がひょっこり戻ってきて、代表してお礼に武器をくれた
それは、神社の蔵に大事に仕舞われていた、過去に海を支配する妖怪を退治した仏器だという

あの連中はネズミだし、きっと妖怪を蘇らせて悪さするつもりだろう
どうか、旅のついでに力を貸してもらえないだろうか

もちろんです
僕に任せてください

サラリーマン時代からの習慣で、姿勢正しく腰を折り引き受けた
人助けは大好きだ
やってやるぞ

桜桃は最後のミステリースポットが海にあることに気付く
海は帯のようにぐるっと世界を一周している
ここから向こうの敵は手強いぞ、と警告しているようだ
ふと、ぶどう狩りに出掛けて凶暴なネコツキに返り討ちにされた忌々しい思い出がよみがえった
それを頭を振って払い、港へ引き返す
このまま最後のミステリースポットをクリアしてやるつもりだ
猫研究同好会も必ずそこにいるはず

と、そこへ息子からメッセージが届いた
一緒に行くから日曜日まで待ってと言う
うれしい

桜桃は町に釣り屋があったのを思い出して、今日は釣りでもするかと気持ちを切り替えた
釣りとキャンプが大好きなんよ

三日後

釣りを朝から晩まで楽しんでいると釣りスキルがたくさん身についた
経験値が増えたことでレベルも上がって23になった
合流した息子は親父が楽しんでいることを心の内で満足した

何だお前その格好

親父がいちいち気にする
息子は海に出ると言う事で、上半身はパーカーを羽織り自慢の筋肉をさらけ出す
下半身は水着をはいて自慢の筋肉をさらけ出す
もちろんサングラスは装着した
これに銀髪ロン毛である
親父はこの典型的なチャラチャラした海男が好ましくなかった
息子にこうはなってほしくなかったので、みっともないだの文句を浴びせてやった
すると女装してるくせに言うなと容赦ない反論が飛ぶ
こうしてやいのやいのと親子喧嘩が五分は続いた

その果て、桜桃も麦わら帽子を被り水着に着替えて似た格好になった
息子が前が開くパーカーを着ているのに対して、ちょっとサイズが大きめの前が開かないタイプのパーカーを羽織った
今更ながら女装を恥ずかしく感じる
だって水着なんだもん、、、

かくして、バカンスに行く格好で最後の戦いに赴く風変わりな親子があった
港で観光船に乗り、伝説の妖怪退治の聖地、貝島という小島へ向かう
船旅の途中でガイドさんが、貝島の伝説について語ってくれる


昔々、貝島に命知らずで勇敢だと有名な漁師、オタケがいました
彼は釣りもせず船など乗らず、身一つで海へ繰り出し自慢のモリで魚をモリモリ捕まえていました
大人よりもうんと大きく凶暴な魚も見事に討ち取ってみせ、村の漁師達を何度も驚かせました

さて、そんなある日のこと
海上に巨大で豪奢な楼閣が忽然と現れました
島の人達は蜃気楼という幻で、あれは災いの前兆だと恐れます
確かめようとオタケは泳いで向かってみましたが辿り着くどころか、不思議なことに近づくことさえ出来ませんでした

そんなある日のことです
海からヒラメとカレイが陸に上がってきました
モノノケたちは宙に浮いて人々を襲います
その時、オタケが颯爽と駆けつけて大暴れ
すっかりモノノケの大群を討ち取ってみせました
その夜は、みんなで祝杯を上げてとても盛り上がりました

その翌朝、真っ青な顔で飛んで帰って来た一人の漁師が、村中を駆け回って大声で危険を伝えました
蜃気楼が怒ったぞ、逃げろ、と大慌て
村人が山の上に避難するなか、オタケただ一人だけが浜へ向かいました
そこにいたのは巨大な楼閣を背負う貝の妖怪でした
こいつこそ蜃気楼で、オタケは三日三晩健闘しましたが勝つことが出来ません
そこへ神が遣わした七匹の動物が何処からともなく現れました
彼らは明王から託された仏器をオタケに譲り渡して、力を合わせて見事、妖怪を撃退したのでした


貝島は現在では素晴らしい観光地となっているので楽しみにしていてください、とガイドさんは話し終えた
桜桃は真面目に聞いていたが、息子は退屈そうに海を眺めていた

巨大な楼閣だ

それを見つけた時にはもう遅い
突然、辺り一体が陽炎に包まれた
異変に気付いた観光客達が次から次へと不安になって騒ぎ始めた

桜桃は息子にしがみつく
守ってやろうとしているのか、怖いからひっついているのか、どちらにせよ鬱陶しいので息子は力任せに引き剥がした

ご機嫌よろしいかね

そう言って背後から現れたのはスーツを着たリーゼントに金メガネという近寄り難い風貌の猿
アルバートだ
猫研究同好会のリーダー格である

あれがいま語られた伝説の妖怪
その正体は伝説級のネコツキだよ

また君か！
急に出てきて、顔も怖いしびっくりするじゃないか！

失礼な言葉を含んで桜桃は怒ったが、いまはそんなことどうだっていい
イベントが伸びないよう息子が巻きにかかる

アルバート
伝説級のネコツキって何だ

その答えは世界の要だ
ネコツキを生む根源、つまり親玉というのが正しい
気まぐれにネコツキを産む厄介な奴だ

これから俺達が渡る世界にもそれぞれいるのか

君には先見の明があるな
一先ずは、あれの相手をしてもらいたい

なぜ？

「世界を救うため」
そう言えばやる気が出るだろう

にわかに叫び声が上がった
びびった桜桃が素早く振り向くと、観光船よりも一回り大きな海賊船が徐に寄って来てスムーズに横付けした
そして鉄板を架けてズカズカと猫研究同好会のネズミ達が船上に乗り込んできた

文句を言ってやろうと向き直るともうアルバートの姿はなかった