いとしのチェリー

旅立ち

１８ 海老の鯛混じり

いまさらながら今日も仲間は連れていない
少し意地になってやしないだろうか
人との関わりを避けている気がする
何を恐れているのか自分では分からないが
子供とベイゴマで白熱した時はあんなに楽しくって平気だったのに

桜桃は習慣を失わないよう朝食をきちんと食べると、クエストに指定された船着場へ向かった
そこには漁船がたくさん並んでいて、その中に一際目立つ海賊船が一つあった
船頭に猫のドクロが付いてるのはこれしかない
嫌だなー怖いなーと思いながらも近付くと、猫研究同好会のネズミ達がチーチー喧嘩をしているのが背伸びしてやっと見えた

大人数が言い合いをしているようで、何を言っているのかはうまく聞き取れない
彼らを取り囲む見物人達は怒りから眉間に皺を寄せて迷惑そうな視線を送っている

と、一人の見物人が話しかけて来た
小柄なおじさんで、自分は漁師だと前置きしてから、町長を中心に町の人と彼らが揉めていることを説明してくれた
原因は彼らが神輿を盗んだことだった
何のためにそんな事をするのかと問うてみてもはぐらかす、ネズミだし見るからに怪しいと小柄なおじさんは彼らを睨んだ

ここで
町の人を助けましょうという指示が出た
よし、警備員という仕事柄見逃せない

やあやあ君達よさないか

言って桜桃は前へ進み出る
猫研究同好会の面々は桜桃の姿を認めると、懐から例の鈴を取り出した
ここでネコツキを召喚するつもりだ
桜桃は止めなさいと厳しく制止したが、聞く耳も貸す耳も彼らは持たない
空間の歪みから小さい海老に大きい鯛がうじゃうじゃ湧き出すと、そら逃げろと号令がかかったみたいに町の人達は一瞬で逃げ去った

仲間を連れてくるべきだったかな、、、

桜桃は今更ながらに仮面と覆面の二人を想う
おたふく侍と、飛脚のもへじろう
彼らには何度も助けられた

いや弱腰になってはいけない

桜桃は思い直すと気を引き締めた
レベルは桜桃の方が高い
バトルの文字をハイタッチしてカカシを召喚する

いくぞ！

と意気込んだ矢先ブレーキをかける
様子が変だ
海老が神輿を担ぐみたいに鯛を担いだ
何をするつもりだろうか
桜桃は警戒するわけでもなく、きょとんとした
その油断が良くなかった

えっ！

桜桃は港で撃たれてしまった

鯛砲だ

海老海賊団が鯛砲を撃ってきた！

桜桃は吹っ飛んでうつ伏せになった
生臭い大きな泡が飛んできて、しかしちゃんと避けたはずだった
でもそれが爆風してその爆発を横から受けて、、、

と、パニック状態のところへ追い討ちと海老戦闘部隊が木槌を持って迫ってきた
上体を持ち上げてもストーブ級の小さな海老が餅つく木槌を掲げて襲ってくる
桜桃はびっくりしちゃった

そんな細い腕で持てるんだ

驚いて呑気に寝そべっているままではいけない
桜桃は立ち上がるとカカシを拾って海老海賊団に背中を向けた
走っていると、赤く丸い印が石造りの道路に点々とあるのに気付いた
そこへ鯛砲部隊の放つ泡が飛んできた

なるほどなるほど
桜桃は進路を塞ぐ形で降って来た泡の爆風を受けて、後方へ引っ張られるように吹っ飛んだ
頭がプチプチに守られたような柔らかな感触を受ける
怪我はない
そこへ海老戦闘部隊が追いついて桜桃をズラリと取り囲んだ

やあ！餅つきにされちまう！

桜桃は女々しい悲鳴をあげて、頭隠して尻隠さず亀になるとボコボコにされた
凄くゆっくり優しく餅つきされた
参った見事なコンビネーションだ

さて、二度目のチャレンジ
態勢を整えてズラリと並ぶ海老海賊団を遠くから観察する
一定の距離まで近付かないとバトルが出来ないようだ
ちぇ、こっから槍投げてやろうと考えたのに

桜桃は渋々、こんがり焼いたアスパラガスの槍と豪勢なお弁当の盾に装備を切り替えると再チャレンジする
戦闘の途中、爆発を盾で防げると分かれば後は楽勝
泡に気を付けながら槍を振り回して海老戦闘部隊を蹴散らせばいい

、、、ふう

どれくらい時間が経っただろう
はたと、海老の数が減らないことに気付いた
ゲームは失敗と学習の連続で強くなるものである
ここでやっと、鯛砲をやっつけなきゃいけない事をふんわりと理解した
海老より鯛が偉いらしい

桜桃は気合を入れると、爆発を凌いだタイミングで盾のスキルを発動する
爆風を受けない海老戦闘部隊もお弁当のオカズ飛ばしは効くようだ
驚いた風にひっくり返った
進路を開いた桜桃は槍を構えて突撃する

「晩飯はパエリアだ！」