いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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旅立ち

17 わっしょい

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気になるクエストを見つけた
特別クエストと書かれており、これをクリアすると好きな武器を選んで一つ貰えるらしい
これはゲームクリアの為のサポートになるが、当然、桜桃は知るよしもない

特別クエストの内容は猫研究同好会が港町スカハマで暴れているので止めてほしいとのことだ
桜桃は都にある広場のベンチで、いまは美少女なのも忘れて大胆に、背もたれに片腕を乗せ片足は膝に乗せて、呑気に桜味のソフトクリームを舐めている

街を行き交う人々の中には確かに生きた人間、プレイヤーがたくさんいる
桜桃は寂しい虚な目で彼らを眺めていた
子供から大人まで各々が好きにゲームを楽しんでいる
現実は甘かない
だからこそ嫌なことは忘れてのびのびと遊んでいるのだろう
桜桃はそこへ帰れない
その機微が余計に他人との接触を嫌っていた
それでもオフラインにするのは、、、

桜桃はクエストを引き受けることに決めた
誠清が言うには、このゲームは本気を出せば二週間でクリア出来てしまうという
物語や設定が少し複雑であるが、簡素なのでササッと終えられる
ただし、そう焦らず無理せず楽しむことも大事だとも言った

歩いて向かうか

都を出て、平原を歩き、丘を超え、谷を抜け、山を超えた
こんなに遠かったんだ
朝に出発してスカハマに着いたのは夜だった
うさぎのたくさんいる干草町のチモシー横町に寄り道して子供達とベイゴマで遊んだのが良くなかったのか、ちょこちょこモンスターにちょっかいを出したのが良くなかったのか
しかし、威力の上がる指輪を手に入れたのは幸いだった
それは装備したけど見た目には反映していない

時刻はちょうど六時を迎えた
仰ぎ見る星空には大きくて欠けることのないまん丸な猫顔の月がある
おや、ネズミが餅つきしている

焼きそばかな、勝ち気な香ばしい匂いが潮風を負かして町に充満している
港町スカハマでは星が霞むほど煌びやかに祭が催されていた
これは翌朝に行われる漁の験担ぎだ
漁師の安全と大漁を祈る
これを毎晩繰り返しているというので桜桃は羨ましく思った
桜桃の育った田舎村での一番の楽しみと言えば祭だった
テレビも漫画も届かない山奥で暮らしていた
クリスマスなんてのもない
だから祭こそ最上級の娯楽と言っても過言ではなかった

わっしょい!わっしょい!

桜桃は我を忘れて祭に夢中になった
迫る神輿を見つけて、童心に戻って追いながらわっしょいを叫び続けた

わっしょい!わっしょい!

神輿は子供が担ぐものが二つと、それに挟まれて大人が担ぐものが一つ
それは町をぐるりと巡ると、崖に建つ神社の神輿庫の中へ仕舞われた
NPCにちと訊ねると、一時間に一回、夜五時から九時まで、つまり日に五回代わる代わる神輿を担ぐそうだ
参加するか、と聞かれたので桜桃は満面の笑みでお願いした

わっしょい!わっしょい!

四度目と五度目も神輿を担いだ
九時になるとどこも店仕舞いとなり、道路では人の波が逆巻いた

わっしょい!わっしょい!

桜桃は寝る前にもそれを独りごちて、クスクスと笑った
幼い頃の記憶が蘇って楽しかった
親と兄弟に友達だけでない
村が一体となって盛り上がった祭を懐かしむ
その後に続いて妻と子供達の顔がふわーと浮いてきた
最後に行った夏祭
幼い綾羽を連れた誠真とはぐれて妻と必死に探し回ったっけ
見つけた時には怒りなんかよりもむしろ嬉しさが勝って「わっしょーい!!」と叫んで二人を抱き上げたっけ

朝になった

ここはスカハマの宿
意識が緩かに遠ざかるや気付けば朝だ
夢も見ない
息子の誠清が言うには病院で働く誰かさんが朝の七時くらいに電源を入れて夜の十時くらいに落としてくれるそうだ
ありがたいのと苦労をかけて申し訳ない
早く目覚めなくては

ちなみに、この外部から電源を落とせるシステムは子供が遊び過ぎないよう、あるいは万が一の時を考えての備えになる
勝手に電源を落とされたら息子みたいにみんな怒るんだろうな

そういや特別クエストはどうなった?

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