いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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旅立ち

15 第二のミステリースポットへ

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廃墟となった村の向こうには雑木林が広がっていた
雑木林とは何か雑に調べたところ、役に立たない木がたくさん生えているところらしい
後に彼から聞いた話によると、ここに元々は雑木林などなく、広い草原にぽつんと、鉱山で働く人達の村があったのだという

去る日
村の人達が大切にしていた水源の一つである湖から巨大なマリモが転がってきて事態は一変した
マリモは村を瞬く間に緑で覆うと、そこに居を構えて、緑をどんどん広げた
それは現在、いよいよ関所に迫っている
緊急事態なのである

雑木林には植物を模したネコツキが多かった
桜桃はそれらに喧嘩を売って歩いた
息子が、わざわざ戦う必要はない、先を急ごう、と言うのに全く聞かない

アイテムがドロップするから

と、トレジャーハンターみたいに言う
いやもうこりゃ密猟者だ
クソ親父は最低だ
息子は心の内で鬱憤を晴らした
幸いにも雑木林にもマイナスイオンはあった
涼しい微風に当てられて辛うじて穏やかな気持ちでいられる

そうしてミステリースポットに到着したのは夕暮れ時だった
すっかり空は茜色
雑木林の中に村の跡など石碑しかなく、それを目印に先へ進み山道を少し上がったところに湖を見つけた

ここから世界を一望すると、ゲームの世界だと忘れるほど美しい景色に心を奪われる
眼下には銅に鈍く輝く雑木林、陽光辿って細い峡谷の先に視線を移すと黄金色に映えるあたらし団子町がある
そしてその向こうに、真っ白な夕日が揺らめいている

息子が振り返ると、桜桃がエーデルワイスという大きくて丸い犬と一緒に、それ以上に巨大で丸いマリモに追いかけられていた
息子はポケットに手を突っ込むと前に向き直り夕日に黄昏た

助けてくれや!

今日何度目だろう
また言ってる
自分から鬼ごっこに参加したくせに

あれは放っておけば永遠に追いかけ回される
ゲームなので可哀想にもプレイヤーがマリモに一撃を与えるまでマリモとエーデルワイスは走り続けるのだ
しかし、それにしても桜桃はどうやってあそこに参加したのか
プレイヤーが追いかけられるようなことは万に一つも無いはずである
子供が泣くから
うーんこれがミステリースポットか
息子はまた前に向き直り

誠清ー!

親父がこちらへ向かって来たのなら事情は変わる
息子は銃口をマリモに向けて引き金を引いた
ちなみにマリモを崖下に落としても意味はない、戻ってくる

さて、動きが止まってマリモが湖に逃げた
桜桃は肩で息をして息子を怒りを燃やした瞳で睨む
そこへエーデルワイスが寄って来た

わんだふぉー
助かったよ、ありがとう

千切れんばかりに尻尾を振っている
桜桃はその愛らしさに負けて、背伸びしてエーデルワイスを撫でた
寄りかかって体半分毛に埋もれている

助けて貰って何だけどさ
君たちにはもう一働きしてもらうよ

君たちの目的は何だ

桜桃は言いながらもエーデルワイスから離れない
もふもふにメロメロである

「猫の首に鈴を付けること」

エーデルワイスはそれだけ言って後ろへ高く飛び跳ねた
ゴムボールみたいによく跳ねる
軽やかに湖の畔へ着地して、一吠えしようと大きく口を開けたまさにその時である
湖から高く水柱が上がってエーデルワイスがずぶ濡れになった
驚くなかれ、綿飴だったエーデルワイスが直立するホワイトチョコレートのチュロスみたいになってしまった

その背後に現れたのはさっきのマリモだ
なんとビルドアップしている

こいつがボス、マリモッツォ

巨大なマリモに猫耳と極太の手足が付いているだけの、子供の落書きみたいなデザインだ
背の高さは、縦にしたガードレール級

エーデルワイスは振り向くや驚いて飛び上がると、後は任せたよ、と叫んで、二人の脇を突風の如き素早さですり抜けて下山した

何だったんだ、、、

桜桃はポカンとしている
急展開に混乱しているようだ

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