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旅立ち
10 猫研究同好会
しおりを挟む猫研究同好会の連中は半べそかいて散り散りに退散した
桜桃はシステムの指示に従って菩薩の裏から山道を登る
その先は山頂だった
平らに整備されていて、中央辺りに盛土がある
その周囲に朽ちた木片が転がり、手前には、こちらに背を向けて細長い影とまん丸な白い影が詫びしい雰囲気で立っていた
ご機嫌よろしいかね
ひえっ、猿だ
猿に烏帽子ならぬ猿に金縁眼鏡
しかもリーゼントにスーツを着こなした近寄り難いその風貌に、桜桃は思わずたじろいだ
隣に並ぶ丸い犬もよく見なくともバカデカイ
長身の猿にピッタリ並ぶ
それは桜桃よりも背が高いことを意味する
私の名前はアルバート
仮の名で失礼する
桜桃は、いえ、と一言断って、自分も仮の名だと前置きして自己紹介をした
君は今、猫研究同好会が何者か知りたいはずだ
いいだろう答えよう
猿は一方的に語り出す
猫研究同好会とは、ネコツキを研究して、猫の首に鈴をつけることを望む集団である
ほぼネズミで構成されている
では「ネコツキ」とは何か
モノノケ、バケモノ、モンスター
そんな風に思われるだろうがそうではない
彼らは猫の怨念だ
猫の怨念、、、!
猫を殺せば七代祟るという言い伝えがある
それほど猫は執念深い魔性の獣だ
君も気を付けたまえよ
続けてアルバートは猫と干支の逸話を聞かせてくれた
そして、長い年月を繰り返し生きて妖怪になった猫又が七福神を騙して支配下に置くと、地球から人間を追い出して七つの世界に閉じ込めたと訳の分からんことをキーキー説明した
人間は故郷を奪われたのだ
猫の手から取り返したくはないかね
それを聞いて桜桃はしょんぼりしちゃった
自分も今ゲームの世界に囚われている
目を覚まして現実に戻れる日は本当にあるだろうか
家族と再会したら、故郷へ旅行に行きたい
君には特別なネコツキの相手をしてもらう
嫌でも逃がさないぞ
ここで戦わなければネコツキはこの世界の村に町を次から次へと襲い、人類は今度こそ滅びるだろう
卑怯じゃないか!
悪いことはやめなさい!
アルバートは聞く耳持たず鼻を鳴らす
エーデルワイス
そう呼ばれたのは、美しい水晶が下がる首輪をした犬だ
そいつもビックリドッキリ可愛い声で言葉を話す
偶像には特別な力を持ったネコツキに抗う力はない
彼らを守れるのは、神と仏の御加護に与り怨念を祓える、そう君だけなんだよ
え!
本気でいくからね
本気で相手してね
え!え!?
桜桃は思わず後退した
あんなバガデカイ犬をけしかけられちゃたまったもんじゃない
ネコツキよりよっぽど怖い
どんなに丸っこくて可愛くても牙を剥かれるとなれば印象はひっくり返る
アルバートがエーデルワイスに耳打ちする
きっと、あいつを食ってしまえ、と命じたに違いない
桜桃は萎縮した
アルバートがこちらへ向き直る
偶像がまだ信仰心を強く持っていた頃
ここでは仏に祈りを捧げてネコツキを鎮める儀式が行われていた
それがない今では猫算式にネコツキの湧く猫の溜まり場になっている
アルバートが言い終わるや、背後の盛土からゾンビさながらに猫の影が這い出てきた
桜桃は無意識にもへじろうの背中に隠れていた
アルバートが猫の影に向かって金の鈴を投げる
すると、それに影達が引き寄せられて一つの大きな影にまとまった
それはみるみる膨らんだかと思うと、触手を伸ばして周囲に散らばる木片を飲み込んだ
そして、おもむろに姿を変化させて、頭に鈴を乗せた三匹の鳥が縦に並ぶ彩り豊かなトーテムポールになった
その大きさは自動販売機を超えるだろう
準備が出来たらかかってこい!
エーデルワイスが自信満々の顔でいう
対して桜桃は、犬の表情は意外と豊かなんだなあ、と気の抜けたことを考えた
片やアルバートは一度つまずいて膝を地面に打ちつけた後、何事もなかったように立ち上がると盛土を軽やかに登って消えた
桜桃は仲間の顔を仰ぎ見る
二人とも覆面をしていて表情は分からなかった
彼らが偶像だと言われて少し寂しい
偶像とは何かよく分かっていないが、どうも普通の人間ではないらしいのだ
でも、仲間だもんね
私は信じるよ
桜桃は恐れを誤魔化すために親父から少女になって言い切った。
おでこの向こうで、バトル、の文字が主張している
これをハイタッチして、地面にでも空間にでも手をかざして意識すれば、それに応えて紋章から武器が召喚される
逃げる選択肢はない
さあ来い!
やってやるぞ!
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