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旅立ち
9 はじめての中ボス
しおりを挟む苦難の末に廃村に辿り着いた
といっても、朽ちた民家が二軒あるばかり
村のほとんどは森に飲まれていた
ただ、桜が咲いて小花も咲き溢れて、悲壮感や恐怖は感じない
むしろ神秘的な雰囲気さえ感じる
村の奥へ進むと、小さな階段の上に苔生した菩薩を見つけた
膝に猫を乗せているようだ
それに近づこうとするとシステムより警告を受けた
この先へ進むと強敵と戦うことになります
桜桃は仲間を振り返り、力強く頷く
覚悟は出来ているな
行くぞ
一歩踏み出すと、御社の裏から三匹のネズミが現れた
どいつも桜桃と背丈は変わらず、奇妙にもビジネススーツを着ていた
ちゅちゅ、怪しいやつ
と突然に言われて
君たちの方が怪しいじゃないか
とネズミ相手でも真っ当に返した桜桃の中で本職の警備員の血が騒いできた
彼らは自らを「猫研究同好会」と名乗った
ちゅっちゅっちゅっ
邪魔をするなら子供だって容赦しませんよ
この一言に桜桃はムッとした
子供を傷つけるなど到底許されることではない
一応断っておくが、親父は今、自身が桜桃という美少女であることを忘れている
猫研究同好会を名乗る三匹は懐から「よりひも」で結んだ銀の鈴を取り出した
それを軽く揺らして凛々と鳴らすと、不思議な力が働いて空間が揺らぎ、そこからサイズがポメラニアン級のミカンのネコツキが浮き出た
皮が半分剥けてタコ足のようで、ふわふわと浮いている
三匹が一斉に鈴を投げると、よりひもが首輪となってネコツキに巻き付いた
桜桃はつい気が緩んで、怒りを忘れて和んだ
そして、とうとう吹き出す
くふふっ、、、はっはっはっ!
そんなの怖くないぞ
桜桃は胸を張って大笑い
が、二分後にこの言葉を後悔することになる
オバケミカンは名の通りオバケらしい挙動をする
体力が減ると突然に姿を消してしまうのだ
しかし、オバケというのは背後に現れるもの
この攻撃パターンには、ほとんどの子供が気付く
桜桃は気付けなかった
鈴の音が助けとなることも
おたふく侍は敵の攻撃を受けて返すカウンタースタイルで戦い
もへじろうは攻撃と防御をしっかり切り替えて戦っている
一方で桜桃は何度も背中から小突かれて前のめりに、つんのめる
その度に振り返っては、サブイベントで手に入れたDランクのスキルも必殺技もないユニーク武器のカカシを振り回すが、大剣は適度な重さがあって攻撃が間に合わないことがあった
「もう、だめえ、、、」
心が疲れちゃった、、、
悔しさもあって四つん這いになる
その背中にミカンが、ちょんと乗った
やあ鏡餅のようだ
傍から見ると微笑ましい光景だが、実はこれ、体力を少しずつ吸われている
ええい、鬱陶しい
と力任せに振り払って立ち上がる
こんなところで挫けない
五十余年生きてきた
家族が見ているかも知れない
情けない姿は見せられない
これならーどうだっ!
桜桃の得意技ぶん回し
回れば何とかなるもんだ
たまたま命中してミカンは吹っ飛んだ
すかさず追い討ちに走る
もへじろうがトドメを刺した
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