いとしのチェリー

旅立ち

６ NPC

このゲームはNPCを二人までお供にすることが出来る
都や町に村、それにサブクエストでもスカウト可能で、そのほとんどが子供を見守りサポートするという思いから大人のキャラクターである
桜桃もまた大人を仲間に選んだ

一人は、おたふくの面を被ったスラッとした長身の女、おたふく侍
一人は、へのへのもへじの覆面を被ったムキムキ飛脚の男、もへじろう

今日はサブクエストの、行商人の護衛を選んだ
メインクエストであるミステリースポットの調査を行うにはまだ自信がなかったが、ボディーガードとあれば警備員であるからして自信を持てた

都の市場で行商人と待ち合わせて、牛が引く荷車に乗せてもらう
桜桃は懐かしく感じて年甲斐なく少しウキウキした
その傍ら、おたふく侍は無言で腰を並べて、もへじろうは飛脚らしく並走する

都から街道へ出ると心地よい微風が吹いてきた
それにポニーテールを遊ばせていると、さっそく敵が立ちはだかった

丸いピーマンのネコツキ
マルピーだ

こんなものはお供の腕試しにうってつけだ
桜桃は二人に戦いを任せてみた
千切っては投げと、あっという間だった

それもそのはず
仲間のレベルはプレイヤーに依存するのだ

きみ強いね

と話し掛けてみたが、おたふく侍は応じなかった
桜桃はちょびっと寂しい思いをして俯いた

荷車はのんびりと進む
しばらくして川を跨ぐ橋に差し掛かった時、第二の襲撃が行手を阻む
以前、桜桃が散歩の途中に喧嘩を売って返り討ちにあったグンタイコメだ
そいつは仲間を次々と呼ぶ
始めたばかりの頃は倒しきれずにやられてしまうことが多い
しかし、今はレベルが9まで上がった
勝ち目はある

頭に猫耳らしく尖った二本の角を生やしただけと単純で、実に米と分かりやすい姿をしている
背丈は小学校低学年児童級
全てのネコツキに猫らしい特徴があったり、どこか愛嬌ある見た目だったりサイズが大人より小さいのが多いのは、子供が怖がりすぎないよう工夫した優しさである

ここは俺が行く

桜桃は荷車から颯爽と飛び降りるや歓迎の剣を構えた
未だ初期武器なのはチャームポイント

雄叫びを上げて威勢良く飛び出した桜桃は、たった一粒の米に切りかかった
まただ、刃が弾かれる
固いのだ仕様なのだ剣という武器は不利なのだ
それでもダメージが通るので倒せないことはないのだが、鈍臭い桜桃は大剣が弾かれた拍子に尻を打って、あろうことか重みに負けて、そのまま後ろへ一回転した

剣をとりあえず置けばいいのに置かないからもたもたして立ち上がる
視線を上げると米は二粒になっていた
桜桃は驚いて硬直した
六粒の米に突っつき回されたあの日がフラッシュバック後退り

だが逃げない
および腰で立ち上がり内股になる
まるで産まれたばかりのバンビのようだ
息子に頑張ると約束したし、経験値は大事だし、任された仕事を投げ出すわけにはいかない

ちなみに、万が一に負けそうになった場合は牛が手伝ってくれる
大人のプレイヤーの中には面白がって、わざと牛に任せる牛歩プレイを選ぶ意地悪もいる
しかしこれは序盤だけのサービス
この先々は容赦なくクエスト失敗となって町や村に戻されることになる

「やあ！そーれ！えーい！」

桜桃は中身が親父なのにたまに美少女になりきろうとする悪い癖がある
それが災いしたのか、なよなよした大振りの剣捌きでは攻撃がまともに当たらない
それでも仲間には待機を命じたまま孤独に頑張る

しかし奮闘虚しく、とうとう米はハ粒にまで増えてしまった
こうなっては仲間に頼るしか仕方ない
桜桃は、もへじろうに助けを乞うた

もへじろうは武闘派だ
自慢の筋肉を駆使して米を掌で打ち足で蹴る
相性がいい
米はポン菓子のように弾け飛んだ

桜桃の武器が虹色に光る
必殺技を外した

大丈夫もへじろうがいる
もへじろうも必殺技を使用する

仲間の攻撃力が上がった！

桜桃の攻撃は弾かれる
もへじろうが米をしばく

長い戦いだった、、、
十二分に及ぶ戦いは桜桃の突きで決着した
このゲームは自由が利くので大剣で突くことだって可能なのだ
それに気付いたのは十分が過ぎた頃だった

助かったよ
ありがとう、もへじろう

覆面のもへじろうは返事をしなかった
桜桃は落ち込んだ