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旅立ち
2 はじめてのたたかい
しおりを挟む都は明治浪漫を思わせる華やかな雰囲気で統一されていた
街路には満開の桜がずらっと並んでいる
この光景をぐるり見回して桜桃は満足を覚えた
萌黄色のお城で殿様と謁見した桜桃は困ったことを解決してくれと頼まれた
支度金を三千コインも頂戴した
その案内が目の前に表示されたが、桜桃は何も理解していない
メニュー画面を開いて確かめるのは、しばらく後になる
どうも生まれ変わるわけでは無いようだ
しかも、死後でものんびり休息させてくれるつもりはないらしい
殿様に「ねこだまし」といきなり呼ばれて全く意味不明だが、とにかく仕事を任された以上は頑張るしかない
桜桃はお城から出るや大声で叫んで周囲の人を驚かせた
「俺に任せとけ!」
チュートリアルに素直に従って、メニュー画面を操作して、目的地へ転移するための扉を召喚する
それは花が飾られて趣向の凝った木製の扉だった
ノブを回して押し開いてみると、驚くことに、その向こうには広大な草原が広がっていた
そこへ迷いなく飛び込むと、扉は背後で薄くなって消えてしまった
あの世は便利だなあ
桜桃は現状不透明不理解でも呑気に構えて、丘の上から世界を見渡す
森も川も桃色を帯びた山脈まである
気温はちょうどよい温かさで、そよ風に運ばれてくる若葉の匂いに、ふと和む
近くの木陰に寝そべって目を閉じて、遠い家族へ思いを馳せた
妻の吉江はサラリーマン時代に通っていた定食屋の娘だった
歳は五つ下で、二人が付き合うことになったキッカケは趣味の釣りになる、、、
息子の誠清は結婚して二年目に授かった
三人で釣りに出かけ、生まれて初めて魚を釣って、それを焼いて食べた時の息子の笑顔を忘れることはないだろう、、、
娘の綾羽は兄から四年後に産まれた
まだ小学生の娘とは思い出が少ない
今こそ可愛い盛りで、それこそ毎日、帰宅を楽しみに仕事に励んでいた、、、
なぜか涙は出ない
こんなに悔しくて悲しいのに、空はどこまでも青く透き通っている
まるで嘘つきに見えたほど
桜桃はわざわざ、よっこいせ、と唸って立ち上がった
体は年老いた頃より身軽だ
休憩は終わりにして、ナビに従いクエストに指定された場所を目指す
殿様は、はればれ街道沿いのピーマン退治を依頼してきた
戦ってお祓いしてくれとのこと
メニュー画面を開いて見たそいつの印象は猫耳みたいな尖った耳をもつ丸いピーマン
というよりパプリカのようであった
こいつを五体も仕留めろという
なぜ死んだ後に物怪退治をやらされるのか、と疑問はあったが右も左も分からない今は従う他ない
あの世の未知なる物怪を「ネコツキ」と呼ぶ
桜桃はもう忘れている
街道に沿って歩いていると奮闘する人々の姿が見えてきた
まるで生前の罪を清めるための罰を受けているみたいで、桜桃は何だかしょんぼりしちゃった
何か悪いことしたかなあ、、、
物怪の頭上にマルピーと表示されている
なるほど確かに丸いピーマンだ
しかし物怪といっても、大きさは一輪車級で、何より丸っこいのが愛らしい
そんなことを思いながら、おでこの上に見える「バトル!」の文字をハイタッチした
すると、陽気な音楽が流れてきた
びっくりして少し姿勢が低くなった
最近読んだ時代小説に「意気天を衝く」という表現があった
恐らくそんな調子だ
桜桃は地面から召喚された大剣を手に取ると猪突猛進の勢いでマルピーに迫る
歓迎の大剣
Eランクの初期武器になる
しかし、Eランクでは異例のスキルも必殺技も備えている
それらは武器が光ったのを合図に、決まった動作や呪文を唱えることで発動する
体がほぼ勝手に動いてくれるので子供でも楽しく技を撃てる
と、桜桃は敵に一撃を与える前に手痛い反撃を受けてしまった
実際は痛くない
マルピーはまるでゴムボールのようで、体当たりされても痛みはなかった
ちょっとピーマンの苦味が香った
視界の端で体力ゲージが減った
尻餅をつく
いったーい、と少女になりきってみた
親父は美少女に生まれ変わったつもりなのだ
すくっと立ち上がり、そーれ、やー、えい、と意地らしいほどのあざとさで斬りかかる
何とか一体を倒すことに成功した
報酬を得た案内は一瞥して、次のマルピーに挑む
なんと三体もまとめて狙ってきた
しかし桜桃は怯まない
しかし攻撃は当たらない
大剣は重さが気持ち物干し竿くらいはある気がして、上手に振るうことが出来ず、命中させるのに苦労する
その時に武器が淡く発光した
すかさず「スキルを発動してみましょう」という指示が聞こえた
目前に小さく、動き方が紹介される
桜桃は真似て回転した
思いきり、おりゃー、と雄叫びを上げて、大剣を、ぐるー、と振り回した
スキル回転斬りが発動した
うまいこと当たるもんだ
マルピーは三体揃って倒れた
桜桃がドヤ顔で、よしよし、と喜ぶのも束の間
最後の一匹が迫る
武器が虹色に光った
必殺技を発動してみましょう
よしきた!
元気衝天、という頭上から大剣を振り下ろす必殺技を繰り出す
マルピーは一瞬、潰れたようになって、後ろへ斬撃に乗って吹っ飛んだ
こうして、はじめてのたたかい、に勝利した桜桃は喜ぶ暇もなく、後ろからマルピーに体当たりを食らって前のめりに倒れたのであった
バトルを終了したい時はメニュー画面を開きましょう
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