1 / 96
0 未来へ一歩
しおりを挟むにゃー
物悲しい猫の一鳴きが胸を引っ掻く
ここは決戦の場としては相応しくないほど爽やかな丘の上
ラスボスは青空に浮かぶ大きな雲を裂いて、神々しい光を背負って顕現した
ビル級に巨大な招き猫の姿で立ちはだかる
美少女になった親父は堂々と息子と娘の前に出た
その背中は美少女になっても大きくて頼もしくて、、、ほっとする
彼が握る大きな刀は七つの世界に存在する裏ボスを各個撃破して手に入れる、神の祝福を受けた特別な仏器だ
息子も娘も、親父がなぜ、血の滲むような努力をしてそれを手に入れたか、その理由を知っている
家族のためだ
最上Aランク、極めてシンプルに強い
一定ダメージ無効と自動回復機能付きの優れもの
それは愛を望む七星天刀
人、故郷、動物、植物、海、大地、空
世界を守るに相応しい
でも、いま最も守りたいのは家族だ
親父は警備員
守ることが仕事
美少女になっても警備服を着ている
志す使命は忘れていなかった
彼はデパートの施設警備をしていた最中に階段で足を滑らせて頭を強かに打った
医者は家族に彼が植物状態になったことを告げた
あっという間に四年が過ぎた
深い暗黒に沈んだ親父を救い出してくれたのは誰でもない息子だった
人情が去来して目を瞑る
苦労をかける家族
お世話になっている人達
彼らの為に早く目覚めなければならない
その前提条件として、このゲームをクリアする
また、たといゲームの中でも、孤独に頑張った猫さんを救いたい気持ちがある
本心では、きっと神も仏も恨んじゃいない
長く人と暮らして苦悩を共有した猫さんは猫被りして人類を解放した
大悲から解放したのだった
でも楽しいことも辛いことも生きることも死んでしまうことも、何であれ誰かと分かち合うのは有り難い奇跡
それを嬉しいと感じて笑って喜べる人生こそ目指したいんだよ
親父は真愛しい思いを抱いて胸を張る
そして命の限り叫ぶ
「俺は何があっても家族と一緒に生き抜いてやるぞ!!」
子供達を振り返り強い眼差しで訴える
ラスボスの行動パターンは単純にみえた
一つは干支に選ばれた十二の動物達
その偶像に猫の分神が乗り、ネコツキとして使役する
二つめに近接攻撃を受ければそれに対応した、遠距離攻撃を受ければそれに対応した反撃を行う
決して自ら攻めてくることはない
十二支の偶像は一定のダメージを与えると砕けて、解放された霊力がラスボスに取り込まれダメージが伝わる仕組みになっている
本体を攻めるより、こちらを攻めることが正攻法となる
奮闘を重ねて、やっと七匹の偶像を倒すとラスボスの本体にヒビが入った
美少女に生まれ変わった親父がここで限界突破する
ゲームを始めた頃は初心者らしくドジっ子で弱かった
それがいまでは歴戦を魂に刻み、青い稲妻と息子が称賛するほど強くなった
Aランクのアクセサリーのおかげで親父は馬の偶像よりも速く加速できる
追い越して踵を返し、すれ違いざまに刀を振るって横腹を抉るように斬る
馬の偶像は攻撃を受けると立ち止まって、いななき、大地を激しく踏み鳴らした
その衝撃から生まれた岩の波がプレイヤー達を襲う
しかし、かわすのは容易い
親父の刀が閃く
一、ニ、、三、、、七!
連続して空間ごと七度と斬り裂くスキル七星閃光で馬の偶像を討ち取った
ここで後ろに下がる
次に羊の偶像が召喚された
息子が蒸気機関銃D51で狙いを定める
このゲームは子供向けのために実弾は扱わず、魔法やレーザー等が銃口から放たれる
D51はアチアチの炭が爆ぜるような弾を撃つ
一秒間に51発も火を吹く
羊の偶像は防御に徹した
受けたダメージを増して爆発放出する範囲技を持つ
対処は逃げるか足を止めるか倒し切るかになる
三人は倒し切ることを選んだ
親父が気を引いて息子がダメージを蓄積する
その間に妹の準備が整った
妹は本来は敵であるネコツキをお供にすることが出来た
お気に入りの巨大なミジンコのミーちゃんは体が虹色に発光するほど、十分過ぎるエネルギーを溜めている
妹は必殺技を命令した
ミーちゃんの口からミーちゃんの二倍の大きさのあるミーちゃんより丸い泡が一つ放たれた
それは徐に敵を追尾する
羊の偶像はチョコマカ動く親父に気を取られ、息子の射撃によって足止めされている
体色が赤みを帯びてきた、間もなくカウンターの爆発がくる
そこへミーちゃんバブルが到着して敵を内包すると、その内で激しい放電現象が起きた
そしてバブルが弾けると、そこに敵の姿はなかった
子供向けゲームと侮るなかれ
今まで何度も何度もリタイアしてきた
それでも諦めずリトライして成長した親父は、今、確実にラスボスを追い詰めている
圧倒して、ついに十二支の偶像をすべて倒し切ったのだった
ラスボスは今や無防備だ
親父は七星天刀をグッと握り締めた
刃が虹色に輝く、必殺技の合図だ
極夜七星月虹
煌めく虹の必中斬撃
それを受けてラスボスは遂に粉々に砕け散った
その欠片はシャボン玉に変わる
すーすー眠る一匹の猫を乗せて、次々と高く舞い上がる
それがエンドロールの役割を果たす
終わりに空は優しい虹色を帯びた
プレイヤーは、ここで強制ログアウトされる
ゲームを再起動すれば、独立して残った七つの世界で自由に遊ぶエンドコンテンツが解放される
親父は現在、植物状態である
現実で目を覚ます保証は全くない
やっぱりゲームの世界で目を覚ますかも知れない
眠りに落ちるように意識が薄れてゆくなか、息子が親父の肩に手を置いた
結果がどうあれ心配することはないよ
ただ、それだけを伝えた
それから娘が親父の手を柔らかく握った
心がふっと安らいだ
家に帰ると約束する
愛する子供達は嬉しそうに微笑んだ
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる