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旭ガ丘ひつじ

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26話 白猫のマスカレード

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Bonjour!

みなさんごきげんよう。
ご無沙汰しております。

改めまして自己紹介をさせて頂きますね。
わたくしの名前は秋初月。はづき、と読みます。
お嬢様に憧れて、名家の子供たちが通うフィナンシェ経済高等学校に通っております三年生です。
生まれと育ちは離島。
それを隠して通っております。

わたくしの秘密を知るのは、ただ一人。
彼は全校生徒よりCFA4と慕われる王子様であります。
そのメンバーは彼を含めて四人の男子生徒。
彼らは、わたくしの何気ない発言をきっかけにチームを組みまして、ねこバスケというシュルレアリスムなスポーツをたしなんでおります。
その県大会が先日ありましたが、惜しくも敗退。
しかし気が挫けることもなく、わたくしたちはバーベキューを楽しんだのでした。

ところで、その折りにわたくしは友人を得ました。
(強い圧で連絡先の交換を迫られて困ったけれど)
スマートフォンのメッセージアプリにて会話を交わすうちに不思議と仲良くなったのです。

そして、晩秋を迎える今日。
わたくしは彼女とデート?を楽しんでおります。

「涼浦灯台。なんていい景色なの。こんなに素敵なところがあったんだ。初月さんの故郷の山、まだ紅葉が残っていて綺麗だね」

「ええ。あちらは人気の観光名所でして、毎年、たくさんの観光客が訪れます。あちらから眺めるこちらの景色もまた特別、美しいのですよ」

「わあ、そうなんだ。いつか案内してくれる?」

「喜んで、ご案内致しますわ」

先に記したように、わたくしは離島生まれ離島育ち。
故郷の月桃山へは遠足や紅葉狩りでよく登りました。
(でも山登りは苦手……)
反対側に見晴らしのいい温泉旅館がございまして、家族と一度だけ宿泊した思い出があります。
とても素敵なところなので、いつの日か彼女を招待して再訪したいですね。

「初月さん。この涼浦灯台って、もしかしてカップルに人気のスポット?」

「ええ。そのようです」

「だよねえ。ここは愛の告白をするには、うってつけのベストプレイスだよ」

「あら。愛を伝えるお相手が、あなたにはいらして?」

わたくしは彼女のために、本日に限って、プライベートでもお嬢様を演じております。
それは彼女が少女漫画に想いを馳せ夢見る乙女ゆえ。
仕方なく……ね。付き合ってあげているの。

「はい。います」

即答。
ほんのりと桃色に染まった頬に手を当てて恋する乙女のポーズ。
まさしく少女漫画のヒロイン。
とても自然体。彼女は現実と理想。
そのどちらにも生きている。
わたくしが学校にて、お嬢様を演じるにあたり、よい学びになりそうです。

「逆に聞いていい?初月さんにはいる?」

「さて、どうかしら」

「おや?その言い方。どうも気になる人がいるみたいだね」

「気になると言うより、気に触るお人です」

「うざいの?」

「ええ。偉そうで馴れ馴れしい人。女性の頭を軽々しく撫でたりとデリカシーもありません」

「頭なでなで!?もうそんなステージにいるの!?大人じゃん!」

「いやだわ。大げさですよ」

「いいえ、一大事ですよそれは。私も……ううん。まだまだ」

「お相手が仲の良い人ならば、素直に甘えてごらんなさいな」

「んーだめ。彼の方こそ素直じゃなくて草食系男子だから。私は今ね。押しがほしいの。だから、こっちからは絶対に攻めない。それも告白なんてしてやるもんですか」

「あら、少し怒っていらっしゃるようね」

「そうだよ。あれだけ気持ちを伝えているのに、最後の一歩を踏み出してくれないんだもん」

「うふふ。でも楽しそう」

「うふふーわかる?ちょっかいかけて困らせてるの」

「あらあら。とても構ってほしいのね。猫ちゃんみたいで可愛いお人」

「誰がストーカー猫よ!ふしゃあー!」

「そこまでは言っておりませんわ……」

「本当のことを言うとね。私は自分がよく分からない。本気で気持ちを伝えているのに、その先を求めていない気がする。いつも告白しているのに、それは告白じゃないの。自分の気持ちがね、すごく矛盾しているんだ」

「恋とはそういうものですわ。きっと」

「そうなのかな。私自身こんなにふわふわしてるのに、彼には素直になれとか本気になれとか生意気言っちゃったりしてさ、私って実は凄いワガママなんだよ。嫌な奴で自己嫌悪しちゃう」

「ワガママでも愛されるのが猫ちゃんです」

「ふふ、だね。ありがとう初月ちゃん。もう一度しっかり、自分の気持ちと向き合ってみるね。私が何を一番に願っているのか。望んでいるのか。それを今一度よく考えてみる」

「うん。応援するね」

あなたは、恋にとても真面目な方なのですね。
(羨ましい)
わたくしには、この胸に灯る小さな熱が恋なのかどうかさえ分かりません。
人を好きになること。
人に恋すること。
その違いはあるのでしょうか。

さて、その翌日。
わたくしはCFA4の皆様と巨大スポーツクラブへやって参りました。
ここは最先端の設備が整えられている立派な施設で、主にプロ選手達が利用しております。
縁あって我々はここで練習を行っているのです。
県大会で敗退してからも思い出作りに利用して汗を流しております。

ところで、本日は特別な交流試合がございます。
それも春麗嵐さんがマネージャーを務める因縁のお相手、エバーマスカレードさんとの再戦です。
みなさんリベンジに熱く燃えているかと思いきや意外と楽観的で……リムジンでの移動中も和やかでした。
そして今も……。

「春ちゃん!初めましてー!」

「きゃあー!」

「ごめんごめん。驚かしてもーたなあ」

鳳凰がよく、わたくしにするように(最低最悪)いきなり麗嵐さんと肩を組みました。
立派なセクハラ行為です。
ご迷惑をお掛けしてすみません。
いつものように叱ってください、鈴虫さん。

「鳳凰。そろそろ警視庁騎馬隊を呼びましょうか」

「騎馬隊!?それは嫌や。なんやこわい」

「誠心誠意を込めて謝罪しなさい」

「ごめんな春ちゃん。俺は平等院鳳凰。よかったら仲良くしてほしいなあ」

「もう……仕方ないですね」

「照れてるんじゃねーよ」

「にゃ!?創様!これはちが、誤解です!」

「さっきの悲鳴は喜びの悲鳴だろー」

「あらそうなん?ワイうれしーわあ」

「そんなことありません!違います!」

「この人たち、俺たちと比べてイケメンだもんなー」

「いややわあ。そないに褒めてもアメちゃんしかあげへんよ?」

「ちょっと待て。僕たちを勝手に巻き込むな」

「クロ。お前は、あいつらにルックスで勝てるか?」

「そんなこと自分で言えるか」

「ほう。自信あり、と」

「ねーよ!」

「ないのか」

「だあーもう!黙ってろ!あんたも大人しくしろ!」

「この人こっわー。助けてー英世はーん」

「鳳凰が……迷惑をかけてすまねえ!!」

「土下座!?や、そこまで求めてねーから!」

「はは、相変わらず熱い人だなあ」

「創、呑気なこと言うな」

あらあら。
交流試合はいつになったら始まるのでしょう。
コーチ二人は友人らしく談笑を始めてしまったし、他の人たちは傍観していらっしゃる。
これどういう状況?

「はい!みなさんそこまで!今日は交流試合を目的に集まったんですよ!まさかお忘れですか!」

麗嵐さんがまとめた!
(決して意外だなんて思っていないよ?)
さすがお姉さん。頼りになります。

「オジサンとオジ様もしっかりしてください!」

「あ……僕はオジサンで、彼はオジ様呼びなんだ……」

「ふん。悪い気はしない」

「ちょっと君、勝った気にならないでよ。春ちゃんとは僕の方が親しいんだからね」

「オジサン何の勝負ですかそれ……。ちゃんと尊敬してるので安心してください」

「本当?じゃあ、これからは僕のことオジ様って呼んでくれる?」

「や。どっちがどっちか分からなくなるでしょう」

「ああ、確かに」

「そんなことよりもです。今は、先を見据えた試合が大事でしょう」

「そうだね。それじゃあ、まずは自己紹介を軽くしようか」

自己紹介を済ませたら一緒にウォーミングアップです。
まずは柔軟体操をエバーマスカレードさんと互いにペアを組んで行います。

「麗嵐さん、すごいね」

「え?何が?」

「私、麗嵐さんのこと見直しちゃった。みんなをビシッとまとめて、普段の朗らかな様子と違って、とてもカッコよかったよ」

「ありがとう。私ね、王子様たちの青春が、キラキラ輝くシャンパンシャワーみたいな汗が早く見たかったの。今だって最高じゃない?ライバルと柔軟体操してるんだよ?ほら、今いまいま、背中を押す姿が、まるでバックハグみたいでそそらない?お前、いい筋肉してるな?て耳元でささやかれて思わず照れちゃったりしてさ。妄想はかどるよねー。イケメンだいすき。あ、面食いって思われても仕方ないけど、でも全然そんなことなくて」

圧倒的(破壊力)
さっきの統率力は、乙女思考による衝動的な反応によって、とっさに生まれた力でしたのね。

「ストップストップ麗嵐さん。欲望がダダ漏れよ」

「はっ!私ってば人前ではしたない!ごめんね。嫌だよね。変態みたいだよね。でも嫌いにならないで」

「(変態でも)大丈夫!」

昨日、一日中みたので慣れました。

「良かったあ」

「ところで。あなたが慕う王子様は誰なの?」

「ふふん。もちろん創様」

「ふーん。あの人が、あなたの心寄せる王子様なのね」

「きゃあー!ひどいよ初月さん!」

「おほほ、ごめんあそばせ」

「初月さんも教えて。あなたが慕う王子様は誰?」

「んー。私も、創様かしら?」

「え!」

「改めて見るとイケメンで……なーんてね」

「まさかの三角関係!?ドロドロの愛憎劇が幕を開けてしまう……!」

「ないない!今のは」

「ううん。いいよ。どっちが創様の心をものにしても恨みっこなしね」

そんなふうに涙をたたえて言われると胸が痛いわ。
まるで恋に敗れる運命にある悲劇のヒロインみたいじゃない。

「安心して。今のは冗談」

「なーんだ。冗談かー。そんな冗談はよしてよもうー。で、本当は誰なの?」

「さ、さあ……?」

抜け目ない子。

「英世さん?」

鋭い子。

「どうしてそう思うの?」

「昨日、彼のことを恋する乙女の顔で楽しそうに話してたから。もしかして気付いてない?初月さん、彼の話ばっかりしてたよ?」

侮れない観察力と洞察力。
恋心を見抜く……これぞまさに女子力!
そしてその……差!
ふ、完敗だわ。

「好きなんでしょう?」

「知らない」

「ずるいよー私は打ち明けたのに」

「知らないったら知らないもん」

私は彼女が言うように英世さんのことが……好き?
て、そんなことよりも。

軽く練習して体を温めましたら、いよいよ交流試合が始まります。
今回は実戦形式でコーチからの指示はありません。
選手間で話し合い勝利を目指します。
けれど試合前に、コーチから激励のお言葉が贈られました。

「勝ちにこだわっていい。しかし、君たちらしいプレーを忘れてはいけない。私は君たちがつくる試合が好きだ。今日も観客を楽しませてくれ」

観客を楽しませてくれ。
それは、自分が楽しみたい、という気持ちの表れ。
コーチとしては珍しく、選手たちへ贈るには相応しくない、まるで自分勝手なお言葉に思えます。

けれど、決してそのようなことはございません。
あの日に、わたくしたちは知りました。
会場が一体となって盛り上がる楽しさを。

その気持ちこそ鼓動を早くして、全身に活力をみなぎらせ、たくましく身体を突き動かすのです。

「やあ、ヴァンピール。始まる前から楽しそうだね」

「そう言う君こそ。まるで、彼らにジェラシーを感じているようだ」

「え?そんな風に見える?」

「ああ、見える。またコートに立って、ねこバスケがしたいのだろう。あの日のように。彼らのように」

お相手のコーチはかつて、ねこバスケ日本代表に選ばれ、東京オリンピックで優勝を勝ち取った選手のひとりです。
彼が中心となって統率したチームはプレーが洗練されて澄んでいる(まるで凛とした美しい白猫のようだ)と世界的に評価されています。
ところが、直後に猫アレルギーを発症。
惜しまれて引退。
そんな彼が復帰?気になる話ですわ。

「そうだね」

「これはすまない。君を傷つけるような失言だった」

「ううん。そんなことはないよ。確かに僕は嫉妬している。心がうずいて仕方ない。たとえ猫がいなくても、バスケはできるんだから」

「それは……まさか」

借りた猫はターキッシュバンの男の子。
好んで水遊びをする珍しい猫さん。
全身が白く、頭と尾にだけ色が付いているのが特徴です。
長い毛は冬を迎えて、ふわふわ。

「密度があって油分を多く含むから、きっとよく手に馴染むと思うよ」

と、ここまでが麗嵐さんが教えてくれた知識。
お恥ずかしいことに、わたくし猫について学んだことが全くありません。
これまで目の前にいる彼らしか見ておりませんでした。

しかし、麗嵐さんは違います。
真っ直ぐ、ねこバスケと向き合っています。
時折、ペンを走らせる。
シールや落書きで飾られた可愛らしさが霞むほどボロボロになったノート。
とても勤勉な方なのね。
わたくし、心から尊敬いたします。

「すまねえ燕!ミスった!」

「英世、気にせず積極的にいこう」

「ああ!まだまだ試合はこれからだ!」

わたくしたちのチーム、ゴールデンシャークは猫さんの扱いに苦戦している様子。
対するエバーマスカレードさんは、さほど乱れた様子はなく落ち着いております。
きっと麗嵐さんの知識のおかげでしょう。
どんな猫さんを相手にしても即時に順応できるというわけです。

……悔しい。今になってすごく悔しい。
どうして今、この瞬間に本気になったんだろう。
もっと早く本気になって、みんなの力になれていたら、あの日もしかしたら……なんて。
私、真面目でも最低限の仕事しかしていないな。
マネージャーとして当たり前と思っていた仕事だけしていた。

「あかーん!やられてもうた!」

「へえ。ダンクシュートの姿勢がとても美しい。それに跳躍力も上がっている。君、また成長しましたね」

「ありがとうございます、鈴虫さん。苦労しましたよ。まるでカエルにでもなりそうでした」

「奏さんはカエルというよりカンガルーですね。鳳凰を押し返すフィジカルの強さ。それもまた成長しています」

「カンガルーとは面白いたとえですね。これは勉強になります」

「え?今のが何の学びに?」

「奏!また勝負や!今度はワイの攻撃やで!」

「やれやれ。鳳凰、君という人は」

「喜んで受けて立ちましょう」

「あかーん!やっぱフィジカル強い!届かへん!」

幸いにもファウルに助けられました。
優勝して、自信や勢いがついただけではない。
彼らは私たちより、いっそう本気なのです。

「鳳凰。あかん、あかん、じゃダメだよ」

「燕はん、すんまへん。反省しとります」

「生意気だけど言わせてもらうぜ。今のあんた、気持ちで負けてるよ」

「クロはん……もしかしてワイのこと好きなん?」

「違うわ!どうしてそうなんだよ!」

「めっちゃワイのこと見てくれてるやん」

「そりゃ見るわ。試合中だからな」

「まあ、彼の言う通りだよ。僕たちは彼らと違って勝利に対する気持ちが足りていないのだろう」

「燕に同意です。が、足りないからと言って、それが悪いように思いたくありません」

「鈴虫。それは、どう言う意味?」

「勝利に対する気持ちがたとえ劣ろうとも。ねこバスケを楽しむ気持ちだけは、彼らにだって負けません!」

「へえ、英世みたいに熱い。意地を張るなんて似合わないよ」

「ふん。たまにはいいじゃないですか」

「よう、鳳凰。悪いけど交代だ。俺が行く」

「しゃーない。分かった。頼んます英世はん」

「ああ、初心を思い出させてやる!そんで、てめえの魂をもう一度、熱く燃やしてやるぜ!」

初心。
わたくしたちが初めて、ねこバスケを遊んだあの日。
英世さんに誘われて彼らと初めて食事をした後に(ゲームセンターへ向かう道すがら)人工芝生を敷いたバスケのハーフコートを見つけて、ねこバスケに触れることになりました。

そのうち、みんな本気になって夢中になって、ねこが逃げるまでとことん遊んだのです。
勝ち負けも大事だけれど、それ以上に気の合う仲間と遊ぶ楽しい気持ちに情熱を注いでいた。

それこそが彼らのバスケ。
それこそが彼らの強さなのです。
さあ、反撃の時。本領を発揮しましょう。

「動きが変わったな」

「変わってない。これが僕たちの、らしさ、だよ」

「へっ、なんだか妬けるな」

「こちらこそ」

あっというドリブルで創さんを抜きました。
燕さん、とても楽しそうに舞っております。
嫉妬する気持ち、わたくしにも分かりますよ。
彼らも、わたくしたちに負けず劣らず仲が良いですものね。

「ちびっこ。この俺を倒せるか?」

「はあ……ちびっこて言わないでください。あと、正面から打ち破るだけが正攻法じゃないですよ」

「シュートでくる気か!」

「はい。フェイントを入れたシュートですけど」

「かあー!零、てめえやるじゃねえか!おもしれえ!」

「暑苦しいから離れてください」

「やはは!いいじゃねえか!可愛い奴だな!」

「ちょっと。肩を組むのはルール違反ですよ。オジサン、どうしてプレイを止めないの。ねえ、誰か助けて」

高橋零。麗嵐さんの弟。
まだ中学生だけれど、体格の大きい英世さんに物怖じせず冷静にシュートを決めました。
姉弟そろって、すごいな。

「て!麗嵐さん!?私が支えなかったら倒れるところだったよ!」

「ごめん、ありがとう。萌天しちゃった」

「萌天て何……ううん。聞かないでおく」

鳳凰さんが鈴虫さんに代わってコートへ戻りました。
(今度こそ大丈夫だよね?)
いよいよ試合はクライマックスを迎えます。
あなたの活躍を信じていますよ。

「できるできるできる!ワイはできる子や!初心を思い出したでーファイヤー!!」

「兄さん。相手したくないからお願い」

「え!俺!?ちょ零まて……」

「創はん!おまはんが相手かいな!お釣りが出るわあ!」

「どう言う意味だよ。うるせーよ」

「あかん、ちゃう、いけそうなんやけどドリブルきつい」

「そう簡単に抜かせるか。ショットクロックは短いぞ」

「ドリブルもシュートも難しい……せやったら!」

「だよな。仲間を頼るよな!」

「にひひ!ワイひとりのチームちゃうからな!」

楽しい。とても楽しい試合。
わくわくどきどき心踊る選手たちのプレイ。
熱く優雅に猫を取り合って舞う。
まるで舞踏会。
永遠に続いてほしいとさえ感じる尊い時間。
エバーマスカレード。
麗嵐さんが名付けたチーム名その意味を、やっと理解した気がします。

「分かってくれた?」

「え?心読まないで」

「今すごくいい顔してる。この絶景、萌天するでしょう」

「ああ、えーと。そうね。わたくしも、お嬢様ですので。トキメク気持ちは理解できますわ」

「でしょう!それでいいんだよ」

わたくしは(リッチで)優雅なお嬢様に憧れているのですが、彼女のように本気で王子様を求めるのも良いかも知れませんね。
いいえきっと。
王子様がいてくれるからこそ、真のお嬢様となれるのでしょう。
そしていずれ、素敵なお姫様に。うふふ。

「また試合できるといいね」

「麗嵐さん?あれ?ここはロビー?試合はいつ終わったの?」

「きゃ!上級者だ!萌天して記憶が飛んでる!」

「あ、ああそうでしたわね。おほほ。やだわ。わたくし萌天なんてしておりませんよ」

「本当?妄想はかどって止まらなくなってたんじゃないの?ダメだよ、試合中は集中しなきゃ」

「いや、お前にだけは言われたくねーだろう」

「きゅん!シャワー上がりの創様すき!」

「ばっ!そう言うこと人前で軽々しく言うなっての!」

「ごめんなさい。つい」

「まったく。お前はいつも」

「こほん。創さん。突き放してばかりいると、いずれ逃げちゃいますよ」

「そーだそーだ。麗嵐にげちゃうぞ」

「初月さん、だっけ。ごめん。何を言っているの」

「失礼。わたくしは二人の関係を存じております」

「ほう……麗嵐。なにか余計なことを言ったな?」

「いいえ」

「創さん。わたくしの友達を泣かせるようなことだけはしないと約束してください」

「するかよ。こいつを泣かせるなんて……いや……いずれ泣かせてやる!」

「ええー!ひどい!」

「ははは!お楽しみに!」

なるほど。
創さんの考えていること分かりますよ。
喜ばせて泣かせるおつもりですね。
つまり、その真意とは……。

「初月ーバスタオル忘れたー」

「うわ!びちょびちょじゃない!何やっているのよ!それでここまで来たの!?」

「おう」

「おう、じゃないわよ!タオルくらい売店に売っているでしょう!まったくもうー!」

「濡れたイケメンはかっこいい……濡れたネコはかわいい……」

「麗嵐さん、それマジ?意味はよく分かんねーけど照れるぜ」

「ダメだ。本気にするな英世。こいつはイケメンなら誰だっていいんだ」

「そんなことないですー」

「はい、英世さん。私のタオルを使って」

「さんきゅ。信じてたぜ」

「え?」

「初月は気遣い上手だからな。そのパンパンのカバン。みんなが忘れ物しても大丈夫なように、人数分のタオルとか色々と用意して持ってきてくれてんだろう。いつも助けてくれて、みんな頼りにしてるし感謝してるぜ」

「あんまり頼りにされても困るんだからね。もっとしっかりしてよね」

「ツンデレお嬢様だ……」

「麗嵐さん。勝手に変な設定つくらないで」

「ツンデレか。俺それ知ってる。可愛いらしくて似合ってるじゃねーか」

「やあー!頭なでないで!何度も言ったよね!髪くしゃくしゃになるからやめて!」

「やはは!悪い悪い。可愛いくて、ついな」

「可愛い可愛いて。きっと、誰に対してもそうやって口説いているのね」

「んなことねーよ。俺が本気で好きなのは初月だけだ」

は?え?ん?

「付き合ってる二人を見てると、俺もいつまでもウジウジしてらんねーな。男らしくねーなって思ってよ」

「は?え?ん?春麗嵐、大混乱」

「ばか!俺たちは付き合ってねーよ!」

「あ、そうなのか!それは悪い!て、じゃあ、えーと……今のは忘れてくれ初月」

忘れろ?なめてんの?

「忘れられるわけないでしょう!このバカヤンキー!素直じゃない、あなたなんて大嫌いよ!ふんだ!」

「機嫌直してくれ!悪かったって!後で、ちゃんとやり直させてくれー!頼むよー!」

「創様。いい勉強になりましたね」

「麗嵐、今日の笑顔こわい」
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