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25話 春告げる魚の親睦会
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「ヒラマサくん。こんにちは」
「めるるー」
おっす。私は春麗嵐。
そして彼はブリティッシュショートヘアのオス猫で名前はヒラマサくん。
まんまるのお顔がとってもキュート。
おはな、つんつん。
彼は福来家の一員で大切にされている。
あたま、なでなで。
さて、山粧う十一月のある日。
私と王子様たちは戦友のもとを訪れた。
今日は親善試合を兼ねた強化試合を行う。
と言ってもオジサンの引率はなくて、真面目な遊びって感じかな?
「やい!今日はリベンジさせてもらうぞ!」
「望むところだ。思いっきりかかって来い」
「おらー!」
「ぐえっ!待て待てレスリングかよ!勝負するのは、ねこバスケだろう!」
「うん。やっぱ高校生は力あるな」
「こんな試し方は二度としないでくれ」
創様を指して勝負を挑んだ彼は中学二年生で、福来家三男の呼秦くん。
ちょっと生意気なところが可愛い。
先輩に食ってかかる後輩。
そんな後輩でも可愛がる先輩。
素晴らしい設定だよね。
私の大好物。
「こんにちは!」
「こんにちは」
「俺たちのこと覚えていますか?」
「覚えているよ。また会えて嬉しいよ」
「俺は福来心悟といいます。名前はなんですか?」
「細川奏といいます」
「奏さん!奏さんは大きいね!どうやったら、そんなに大きくなれるんですか?」
「それは難しい質問ですね。あえて答えるなら、よく食べてよく寝ることです」
「じゃあ、今日からご飯をおかわりします!」
はあ……尊い。
背の高い奏くんに憧れてたわむれる彼はまだ中学一年生。
ということは、今年、卒業するまでランドセルを背負っていたんだよね。
はあ……そそる。
心悟くんは福来家のかわいい末っ子。
まるで二人は兄弟のようで夢が広がります。
本当にありがとうございます。
「此司郎。誘ってくれてありがとう」
「おお、ずいぶん素直になったものだ」
「うっせえわ。からかうなら僕は帰るぜ」
「それは困るな。このあと親睦会を用意しているんだ。仲直りしよう」
「やだね。気持ち悪い。絶対に握手なんかやんねー」
「冷たいなあ」
「握んな!ちょ放せって!」
「ははっ!照れるなよ!」
春麗嵐、萌えて、昇天。
ライバル同士が勝負のあと仲を深めて後日再会するやイチャコラする展開たまらん。
クロ様ってば照れ隠しにツンツンしちゃって可愛いなもう。
お相手は此司郎さん。
四兄弟の長兄で、かつてクロ様と「せっさたくま」したライバル。
彼こそがエリア大会に出場する友を想って協力を申し出てくれたのだ。
さわやかイケメンのライバルと再戦するシチュエーションも……いいね!
「なんだか騒がしくてごめん」
「ううん。うちと変わらない」
「みんな先輩だろう。気を遣ったりしない?」
「ないよ」
「へえ。仲いいんだな」
「うん。そっちはどうなの?」
「仲いいけど、ケンカもよくするかな。でも激しくはない」
「次男てどんな感じなの?上と下に挟まれて苦労する?」
「苦労だとは、あまり感じたことはないな。兄貴がしっかりているから」
「へえ。うらやましい」
「と言うと?弟はどうなんだ?」
「姉さんがしっかりしてないから大変だよ」
二人そろってこっち見ない。
絶対に目を合わせないようにしよう。
と言うか零ってば、ひどい。
聞こえるようにわざと大きな声で悪く言っているよ。
まあニヤニヤしちゃって。どうしてあの子には人をからかうクセがあるんだろう。
そんなイタズラな一面がまた愛くるしいんだけれどね。
でも良かった。
以前は少し、そっけなくてお姉ちゃん寂しかったから。
みんなのおかげかな。ありがとう。
ところで、落ち着いた雰囲気の彼は次男の和実くん。
彼も中学三年生にしては、しっかりしていると思う。
きっと家ではお兄様を助けて弟たちの面倒を見ているのだろう。
反対に、弟たちの味方になってお兄様と争うこともあるのだろう。
ふむ。実に最高じゃないか。次男という立場もそそる。
苦労しているところを想像すると支えたくなっちゃうな。えへへ。なーんてね。
「麗嵐、その顔。また変な妄想してるな」
創様ってばレディに対して失礼じゃない!
「また、とは何ですか。ヒラマサくんが可愛いくて胸きゅんしてるだけです」
「僕も気付いてたぜ。あんた、みんなのこと見て鼻の下伸ばしてただろう」
「ななっ!」
「変態」
「違いますよーだ」
クロ様まで失礼ね!
まったく二人そろってデリカシーのない王子様ですこと。
「へっ、少女漫画の読みすぎじゃねーの」
「あれー知らないの?読めば読むほど心の薬になるんですよ。創様にも処方してあげます。私がイチオシするスプリングセレクションの中から、雲雀きずきは告白しません、の全巻二十一冊を貸してあげます。なんと小学生から大人までヒロインの一途な恋愛人生が描かれた超大作なんですよ。どやっ」
「ああ、それ家にあったな。て、たしか昔の漫画だろう」
「完結したのは最近ですよ……ええっ!創様ご存じなんですか!あ、お姉様の英才教育か!うわー!知り合った頃に話題に出しておけば少女漫画沼に落とせてたかも!」
「ないない」
「不肖、春麗嵐、時すでに遅し一生の不覚は恥じ!くっ!」
「武士かよ。いっそ切腹でもするか?」
「みじん斬り!」
「いてっ!何するんだ!」
「ふっふっふっ。悪者は一人残らず成敗致すのだ」
「俺のどこが悪者なんだよ」
「おい、イチャイチャすんのもほどほどにな。そろそろ試合始めるぜ」
「イチャイチャしてねーよ!アイツらに誤解されるからやめろ!」
「はんっ、やなこった」
「クロ!お前ってやつは!」
わあ。犬さんが猿さんを追いかけ回してる。
喧嘩するほど仲がいいってことかな。
たまらんですな。ほっとしますな。
「試合前には、やっぱりこれだよね。落ち着く」
「俺は落ち着かないからやめてほしいなあ……」
「こら、二人ともそこまで。零と奏くんが呆れてるよ」
「はあ……はあ……無駄な体力使った」
「クロ。お前のせいだぞ」
「あ?人のせいにすんな」
「ケンカはおしまい!」
まったく。このチームは私がいないと締まらないんだから。
世話を焼かせてくれるな、このこの。
それでは私が審判を務めさせて頂いて、試合開始といきますよ。
どちらもファイティン!
「和実、決めろ!」
「言われなくてもやるさ」
呼秦くんから和実くんへスムーズにパスが通った。
さすが兄弟、息ぴったり。
それも県大会の日より連携を深めている。
まるで声をかけなくても通じ合うみたい。
呼秦くんが片手でも、しっかりと和実くんへ繋げた。
やや弧を描いた綺麗なパス。
一方で、空中で体を回転させてディフェンスをかわす難しいシュートを決めた和実くん。
技術もしっかり上達している。
此司郎様が今も指導しているって聞いたけれど、きっと、兄弟みんなが誰に負けないくらい本気で楽しんでいるんだ。
「創様。俺たちも負けられませんね」
「そうだな、奏。最高のチームワークを見せてやろう」
創様、ぐんぐんドリブルが上達しているね。
ドリブルしながら、ねこを左右に切り替えるフロントチェンジ。
強く、そして速い手首の切り返しが難しい技ですが、お見事。
素敵すぎませんか?ほれぼれしちゃう。
クロ様のライバルである此司郎さんを出し抜くなんて本当に凄い。
彼に褒められて創様も嬉しそう。
奏くんも成長したね。
あなたが他の誰よりも一所懸命に頑張っている姿は小学生の頃から見ているからホロリとくるよ。
たくさん頑張ってダンクシュートをしっかり決められるようになったんだね。
おめでとう。ぱちぱちぱんち。
真っ直ぐに伸びた筋肉質な体がそそる。
最高にかっこいいよ。
「よーし!俺も頑張るぞ!」
「威勢がいいな。僕をドリブルで抜いて」
「今だ!」
「あ」
「やった!」
クロ様ってば甘く見て隙だらけ。
対して心悟くんのチャンスを逃さない集中力と、クロ様の股の下に猫を通す判断力、そして度胸がすごい。
中学一年生でも侮れない。
彼も立派な選手だ。
輝いているね。
「ちっ、恥かいたまま終われるかよ!」
クロ様、反撃のドリブルで二人抜き。
舞う身のこなし、踊る動作、その一つ一つが細やかでキレッキレ。
努力は無駄じゃない。
クロ様を見ていると勇気がもらえる。
すごいなあ。諦めない気持ちと冷めない情熱。
「みんな勢いあるな。初っ端からハイペースだ」
「最初から最後までノンストップ。それが3x3ねこバスケでしょう」
「その通り。おお、ナイスシュート。この距離でよく決めた」
「そろそろ弟に猫を譲らないで。あなたの本気、見せてください」
「へえ、意外と熱いんだ」
「いいえ。俺はいつだって冷めてます」
此司郎様。
この度はお褒めの言葉を賜り深く感謝致します。
なのに、零ってば謙遜してかわいい。
めずらしく熱くなっちゃって。
楽しくて楽しくて仕方ないって感じ?
あんなに夢中になっている零を応援できる日がきて嬉しいな。
あなたは凄いよ。周りの先輩たちに負けないくらい上手。
胸を張って言える、私の自慢の弟だよ。
「リベンジマッチといくか」
「いいぜ。受けて、あ」
「悪いな」
「あんた話しかけといて卑怯だぞ!」
「ははっ、俺は至って真面目だよ」
此司郎様が股抜きでクロ様に圧勝。
心悟くんのマネかな?
お茶目な一面もあるんだ。そそるなあ。
対してクロ様は余裕があるのはいいけれど油断しちゃダメだよ。
まったくもう、むっとした顔が可愛いんだから。
此司郎様はドリブルだけじゃなくてシュートも綺麗。いえ華麗。
腕を伸ばし、ねこを下からすくいあげる。
ディフェンスの頭上、弧を描いてバックボードに当てリングへ入れる。
ふんわり優しいスクープショット。
まるでバレエみたいな美しい技で、うっとりしちゃう。
ねこにも優しくていいね。
「姉さん。手首をちょっと捻ったから手当てして」
「え!どうしよう。次の試合は休む?」
「大丈夫。そこまでひどくない」
うふふ。
零に頼られて、お姉ちゃん嬉しいな。
最近はあんまり頼りにしてくれないよね。
でもそれって、あなたが自分でなんでも出来るようになったってことなんだ。
あと数ヶ月、もうすぐで高校生。
すくすく成長して嬉しいけれど、なんだか遠くに行っちゃう気がして少し寂しいかも。
「どうしたの?」
「ううん。ねこバスケ、楽しい?」
「んー。まあまあ」
「ふふっ。よかった」
「何がいいの」
「あなたを誘って良かった。あの時、内心はね。嫌がるかなーて少し心配だったの」
「急な話だったけど、助っ人には慣れてるから」
「そう。でも零は、助っ人を引き受ける時、あんまり嬉しそうじゃないよね」
「だって面倒くさいし」
「そっか。じゃあ、今は?ねこバスケは面倒くさい?」
「もう、うるさいな」
「いいじゃん。答えてよー」
「やだ。と言うか早くして。恥ずかしい」
「私がお姉ちゃんだから?」
「そう。シスコンとか甘えん坊とか思われたら嫌だ」
弟かわよ。
「お姉ちゃん的にはシスコンになって、もーっと甘えてほしいなあ」
「気持ち悪い」
「ふーん」
「痛い!テープしめすぎ!」
「はい、おしまい。頑張っておいで」
「言われなくても頑張るよ」
今日の親睦会は、とても有意義でした。
美味しいお菓子と、美味しい青春をありがとうございました。
ヒラマサくんバイバイ。
名残惜しいけれど、日もすっかり暮れたし帰らないとね。
みんな駅まで見送ってくれるって、嬉しい。
「創さん!また勝負しような!」
「うん。またやろう!」
創様と呼秦くんに男の友情が芽生えたみたい。
こんなに外の風は冷たいのに、ぽかぽかする。
男の友情が乙女のカイロです。
「弟が迷惑かけて、すみませんでした」
「なんだよ和実、その言い方は」
「迷惑なんてあるもんか。むしろ逆だよ。呼秦からも、和実からも学ぶことはたくさんあった」
「俺からも?あなたには負けますよ」
「勝ち負けじゃない。たとえば、複雑な動きで打つシュートがマジで上手かった。俺は胸が熱くなったよ。お前とも、また勝負がしたい」
「そうですか。ありがとうございます。では、また」
和実くんの笑顔ってこんなに可愛いんだ。
そして学生の本分は学び。
互いに学び互いを成長させる。
これもまた青春ですな。
「奏さんも、また遊びにきてね!」
「はい。またバスケもゲームもやりましょう」
「今日は心悟が色々と世話になった。ありがとう」
「此司郎さん、礼には及びません。とても楽しい時間でした」
「そっか。なら良かった」
「すっごく楽しかったね!」
「ははは、奏。すっかり懐かれたな」
「はい。喜ばしい限りです」
「クロさんもまたゲームしようね!」
「あんた強いからやだ」
「ええー!」
「バスケもゲームも侮れん。まったく将来が楽しみだよ。きっといい選手になれるぜ。あんたの兄貴みたいにな」
「らしくない。急に褒めるなよ」
「俺、兄ちゃんみたいになれる?」
「此司郎。ちゃんと答えてやれ」
「もちろんなれるさ」
「やった!奏さんみたいに大きくなって兄ちゃんみたいに上手くなれるよう、俺、俺もっと頑張るよ!」
きゃわわ。
純粋でいいな。私もその頃に戻りたい。
まだ高校生の子供だけれど。
「麗嵐さん」
「ふぇ!私!?どうしました此司郎様」
「君にもまた遊びに来てほしいな」
「いいんですか!?」
このイケメンパラダイスにまた飛び込んでもよろしいとおっしゃるのですか!?
「大歓迎だよ。クロは一人じゃ遊んでくれなさそうだし」
「んなことねーよ。今度二人でどっか遊びに行こうぜ」
「マジ?よっしゃ!」
「そんな喜ぶことじゃねーだろ」
「二人きりで!?それって……!きゃ!萌天しちゃう……!」
「大丈夫?」
「くっ……!ご心配には及びません此司郎様」
「いや苦しそうで、とても大丈夫そうには見えないけれど……」
「ほっとけ。いつもの発作だ」
「発作!?」
「や、病気は病気なんだけど、真面目な方じゃなくて不真面目な方と言うか。頭の中がお花畑なんだよ」
「失礼な!またそれを言いますか!」
「良かった」
「良かないですよ!」
「君は、ずっとみんなと距離を置いているから。実を言うと、無理していないかなって心配だったんだ」
此司郎様ってば紳士。お優しいこと。
思いやりに溢れたその胸に飛び込みたい気持ちでいっぱいですが、あいにく私には運命を約束した王子様がいるの。
それがまだ誰かは分からないけれど。
「安心してください。私は少し離れたところで陰ながら王子様を見守ることに尊さを感じるのです」
「クロが王子様かあ……」
「んだよその目!その反応!あのな!別に僕は……」
わいわいにぎやか。
駅が近付くのがさみしい。
この時間がもっともっともーっと長く続いたらいいのにな。
「姉さん、うるさいでしょう」
「でも、嫌いじゃないんだろう」
「かもね」
「零、こんど家に遊びに行っていいかな」
「うん。和実なら歓迎するよ」
歓迎なんて言葉使って。あら珍しいこともあるもんだ。
あなたが友達を家に招くことなんて中々ないのに。
最低限の付き合いはしているみたいだけれど、お姉ちゃん少し気にしてたの。
今、ほっとしたよ。
「和実だけずるい。俺も行く」
「呼秦は歳下だろう。俺は零と同い年だから」
「そう言や、お前が友達の家に遊びに行くって珍しいな」
「な!そんなことないだろう」
「気が合うんだよ。ね」
「そ、そう。零の言う通りだ」
「ちぇ。俺は仲間外れかよ」
「呼秦も遊びに来ていいよ」
「マジ?いいの!なら行く!」
「じゃあ俺も!」
「心悟はダメだ」
「えー!こは兄ちゃんこそズルいよ!」
「だって人数が増えたら迷惑だろう」
「構わない。来たらいい」
「やったー!」
あらー。零ってば積極的。
私の知らないあなたが今ここに。
こんなに友好的な子になってお姉ちゃん嬉しいよ。
学校では意外とボッチでは?て心配で心配で。
「うるさい姉さんがいるかもだけど、そこは我慢してね」
心配取り下げ。
「うるさくても気にしないから平気!」
「こらっ!呼秦くん!」
「うわっ!びっくりした……」
「悪い子はすぐ追い出すからね」
「ごめんなさい……」
クッキー焼いてみようかな。
ホットケーキにしようかな。
てせっかく色々と悩んでいたのに。
「お前の姉さん、怖いけど美人だな」
「は?」
呼秦くんは、いい子。
ホールケーキに挑戦しちゃう。
フルーツたっぷりのやつね。
「あ、もう駅に着いたか」
「創兄ちゃん。バイバイだね……」
「落ち込んでくれるのか、心悟」
「うん。今日は楽しかったから。先輩たち、みんないい人だった」
「かわよ……」
「麗嵐お姉ちゃんも絶対また来てね!」
「絶対くるよ!それまで元気でね!」
春麗嵐、弟が増えました。
次に会う日が楽しみ。
どれだけ成長するのかな。
みんなの大学デビューが楽しみだなあ。
心悟くんは意外と髪染めてイケイケキャラになったりして……ぐへへ……。
「めるるー」
おっす。私は春麗嵐。
そして彼はブリティッシュショートヘアのオス猫で名前はヒラマサくん。
まんまるのお顔がとってもキュート。
おはな、つんつん。
彼は福来家の一員で大切にされている。
あたま、なでなで。
さて、山粧う十一月のある日。
私と王子様たちは戦友のもとを訪れた。
今日は親善試合を兼ねた強化試合を行う。
と言ってもオジサンの引率はなくて、真面目な遊びって感じかな?
「やい!今日はリベンジさせてもらうぞ!」
「望むところだ。思いっきりかかって来い」
「おらー!」
「ぐえっ!待て待てレスリングかよ!勝負するのは、ねこバスケだろう!」
「うん。やっぱ高校生は力あるな」
「こんな試し方は二度としないでくれ」
創様を指して勝負を挑んだ彼は中学二年生で、福来家三男の呼秦くん。
ちょっと生意気なところが可愛い。
先輩に食ってかかる後輩。
そんな後輩でも可愛がる先輩。
素晴らしい設定だよね。
私の大好物。
「こんにちは!」
「こんにちは」
「俺たちのこと覚えていますか?」
「覚えているよ。また会えて嬉しいよ」
「俺は福来心悟といいます。名前はなんですか?」
「細川奏といいます」
「奏さん!奏さんは大きいね!どうやったら、そんなに大きくなれるんですか?」
「それは難しい質問ですね。あえて答えるなら、よく食べてよく寝ることです」
「じゃあ、今日からご飯をおかわりします!」
はあ……尊い。
背の高い奏くんに憧れてたわむれる彼はまだ中学一年生。
ということは、今年、卒業するまでランドセルを背負っていたんだよね。
はあ……そそる。
心悟くんは福来家のかわいい末っ子。
まるで二人は兄弟のようで夢が広がります。
本当にありがとうございます。
「此司郎。誘ってくれてありがとう」
「おお、ずいぶん素直になったものだ」
「うっせえわ。からかうなら僕は帰るぜ」
「それは困るな。このあと親睦会を用意しているんだ。仲直りしよう」
「やだね。気持ち悪い。絶対に握手なんかやんねー」
「冷たいなあ」
「握んな!ちょ放せって!」
「ははっ!照れるなよ!」
春麗嵐、萌えて、昇天。
ライバル同士が勝負のあと仲を深めて後日再会するやイチャコラする展開たまらん。
クロ様ってば照れ隠しにツンツンしちゃって可愛いなもう。
お相手は此司郎さん。
四兄弟の長兄で、かつてクロ様と「せっさたくま」したライバル。
彼こそがエリア大会に出場する友を想って協力を申し出てくれたのだ。
さわやかイケメンのライバルと再戦するシチュエーションも……いいね!
「なんだか騒がしくてごめん」
「ううん。うちと変わらない」
「みんな先輩だろう。気を遣ったりしない?」
「ないよ」
「へえ。仲いいんだな」
「うん。そっちはどうなの?」
「仲いいけど、ケンカもよくするかな。でも激しくはない」
「次男てどんな感じなの?上と下に挟まれて苦労する?」
「苦労だとは、あまり感じたことはないな。兄貴がしっかりているから」
「へえ。うらやましい」
「と言うと?弟はどうなんだ?」
「姉さんがしっかりしてないから大変だよ」
二人そろってこっち見ない。
絶対に目を合わせないようにしよう。
と言うか零ってば、ひどい。
聞こえるようにわざと大きな声で悪く言っているよ。
まあニヤニヤしちゃって。どうしてあの子には人をからかうクセがあるんだろう。
そんなイタズラな一面がまた愛くるしいんだけれどね。
でも良かった。
以前は少し、そっけなくてお姉ちゃん寂しかったから。
みんなのおかげかな。ありがとう。
ところで、落ち着いた雰囲気の彼は次男の和実くん。
彼も中学三年生にしては、しっかりしていると思う。
きっと家ではお兄様を助けて弟たちの面倒を見ているのだろう。
反対に、弟たちの味方になってお兄様と争うこともあるのだろう。
ふむ。実に最高じゃないか。次男という立場もそそる。
苦労しているところを想像すると支えたくなっちゃうな。えへへ。なーんてね。
「麗嵐、その顔。また変な妄想してるな」
創様ってばレディに対して失礼じゃない!
「また、とは何ですか。ヒラマサくんが可愛いくて胸きゅんしてるだけです」
「僕も気付いてたぜ。あんた、みんなのこと見て鼻の下伸ばしてただろう」
「ななっ!」
「変態」
「違いますよーだ」
クロ様まで失礼ね!
まったく二人そろってデリカシーのない王子様ですこと。
「へっ、少女漫画の読みすぎじゃねーの」
「あれー知らないの?読めば読むほど心の薬になるんですよ。創様にも処方してあげます。私がイチオシするスプリングセレクションの中から、雲雀きずきは告白しません、の全巻二十一冊を貸してあげます。なんと小学生から大人までヒロインの一途な恋愛人生が描かれた超大作なんですよ。どやっ」
「ああ、それ家にあったな。て、たしか昔の漫画だろう」
「完結したのは最近ですよ……ええっ!創様ご存じなんですか!あ、お姉様の英才教育か!うわー!知り合った頃に話題に出しておけば少女漫画沼に落とせてたかも!」
「ないない」
「不肖、春麗嵐、時すでに遅し一生の不覚は恥じ!くっ!」
「武士かよ。いっそ切腹でもするか?」
「みじん斬り!」
「いてっ!何するんだ!」
「ふっふっふっ。悪者は一人残らず成敗致すのだ」
「俺のどこが悪者なんだよ」
「おい、イチャイチャすんのもほどほどにな。そろそろ試合始めるぜ」
「イチャイチャしてねーよ!アイツらに誤解されるからやめろ!」
「はんっ、やなこった」
「クロ!お前ってやつは!」
わあ。犬さんが猿さんを追いかけ回してる。
喧嘩するほど仲がいいってことかな。
たまらんですな。ほっとしますな。
「試合前には、やっぱりこれだよね。落ち着く」
「俺は落ち着かないからやめてほしいなあ……」
「こら、二人ともそこまで。零と奏くんが呆れてるよ」
「はあ……はあ……無駄な体力使った」
「クロ。お前のせいだぞ」
「あ?人のせいにすんな」
「ケンカはおしまい!」
まったく。このチームは私がいないと締まらないんだから。
世話を焼かせてくれるな、このこの。
それでは私が審判を務めさせて頂いて、試合開始といきますよ。
どちらもファイティン!
「和実、決めろ!」
「言われなくてもやるさ」
呼秦くんから和実くんへスムーズにパスが通った。
さすが兄弟、息ぴったり。
それも県大会の日より連携を深めている。
まるで声をかけなくても通じ合うみたい。
呼秦くんが片手でも、しっかりと和実くんへ繋げた。
やや弧を描いた綺麗なパス。
一方で、空中で体を回転させてディフェンスをかわす難しいシュートを決めた和実くん。
技術もしっかり上達している。
此司郎様が今も指導しているって聞いたけれど、きっと、兄弟みんなが誰に負けないくらい本気で楽しんでいるんだ。
「創様。俺たちも負けられませんね」
「そうだな、奏。最高のチームワークを見せてやろう」
創様、ぐんぐんドリブルが上達しているね。
ドリブルしながら、ねこを左右に切り替えるフロントチェンジ。
強く、そして速い手首の切り返しが難しい技ですが、お見事。
素敵すぎませんか?ほれぼれしちゃう。
クロ様のライバルである此司郎さんを出し抜くなんて本当に凄い。
彼に褒められて創様も嬉しそう。
奏くんも成長したね。
あなたが他の誰よりも一所懸命に頑張っている姿は小学生の頃から見ているからホロリとくるよ。
たくさん頑張ってダンクシュートをしっかり決められるようになったんだね。
おめでとう。ぱちぱちぱんち。
真っ直ぐに伸びた筋肉質な体がそそる。
最高にかっこいいよ。
「よーし!俺も頑張るぞ!」
「威勢がいいな。僕をドリブルで抜いて」
「今だ!」
「あ」
「やった!」
クロ様ってば甘く見て隙だらけ。
対して心悟くんのチャンスを逃さない集中力と、クロ様の股の下に猫を通す判断力、そして度胸がすごい。
中学一年生でも侮れない。
彼も立派な選手だ。
輝いているね。
「ちっ、恥かいたまま終われるかよ!」
クロ様、反撃のドリブルで二人抜き。
舞う身のこなし、踊る動作、その一つ一つが細やかでキレッキレ。
努力は無駄じゃない。
クロ様を見ていると勇気がもらえる。
すごいなあ。諦めない気持ちと冷めない情熱。
「みんな勢いあるな。初っ端からハイペースだ」
「最初から最後までノンストップ。それが3x3ねこバスケでしょう」
「その通り。おお、ナイスシュート。この距離でよく決めた」
「そろそろ弟に猫を譲らないで。あなたの本気、見せてください」
「へえ、意外と熱いんだ」
「いいえ。俺はいつだって冷めてます」
此司郎様。
この度はお褒めの言葉を賜り深く感謝致します。
なのに、零ってば謙遜してかわいい。
めずらしく熱くなっちゃって。
楽しくて楽しくて仕方ないって感じ?
あんなに夢中になっている零を応援できる日がきて嬉しいな。
あなたは凄いよ。周りの先輩たちに負けないくらい上手。
胸を張って言える、私の自慢の弟だよ。
「リベンジマッチといくか」
「いいぜ。受けて、あ」
「悪いな」
「あんた話しかけといて卑怯だぞ!」
「ははっ、俺は至って真面目だよ」
此司郎様が股抜きでクロ様に圧勝。
心悟くんのマネかな?
お茶目な一面もあるんだ。そそるなあ。
対してクロ様は余裕があるのはいいけれど油断しちゃダメだよ。
まったくもう、むっとした顔が可愛いんだから。
此司郎様はドリブルだけじゃなくてシュートも綺麗。いえ華麗。
腕を伸ばし、ねこを下からすくいあげる。
ディフェンスの頭上、弧を描いてバックボードに当てリングへ入れる。
ふんわり優しいスクープショット。
まるでバレエみたいな美しい技で、うっとりしちゃう。
ねこにも優しくていいね。
「姉さん。手首をちょっと捻ったから手当てして」
「え!どうしよう。次の試合は休む?」
「大丈夫。そこまでひどくない」
うふふ。
零に頼られて、お姉ちゃん嬉しいな。
最近はあんまり頼りにしてくれないよね。
でもそれって、あなたが自分でなんでも出来るようになったってことなんだ。
あと数ヶ月、もうすぐで高校生。
すくすく成長して嬉しいけれど、なんだか遠くに行っちゃう気がして少し寂しいかも。
「どうしたの?」
「ううん。ねこバスケ、楽しい?」
「んー。まあまあ」
「ふふっ。よかった」
「何がいいの」
「あなたを誘って良かった。あの時、内心はね。嫌がるかなーて少し心配だったの」
「急な話だったけど、助っ人には慣れてるから」
「そう。でも零は、助っ人を引き受ける時、あんまり嬉しそうじゃないよね」
「だって面倒くさいし」
「そっか。じゃあ、今は?ねこバスケは面倒くさい?」
「もう、うるさいな」
「いいじゃん。答えてよー」
「やだ。と言うか早くして。恥ずかしい」
「私がお姉ちゃんだから?」
「そう。シスコンとか甘えん坊とか思われたら嫌だ」
弟かわよ。
「お姉ちゃん的にはシスコンになって、もーっと甘えてほしいなあ」
「気持ち悪い」
「ふーん」
「痛い!テープしめすぎ!」
「はい、おしまい。頑張っておいで」
「言われなくても頑張るよ」
今日の親睦会は、とても有意義でした。
美味しいお菓子と、美味しい青春をありがとうございました。
ヒラマサくんバイバイ。
名残惜しいけれど、日もすっかり暮れたし帰らないとね。
みんな駅まで見送ってくれるって、嬉しい。
「創さん!また勝負しような!」
「うん。またやろう!」
創様と呼秦くんに男の友情が芽生えたみたい。
こんなに外の風は冷たいのに、ぽかぽかする。
男の友情が乙女のカイロです。
「弟が迷惑かけて、すみませんでした」
「なんだよ和実、その言い方は」
「迷惑なんてあるもんか。むしろ逆だよ。呼秦からも、和実からも学ぶことはたくさんあった」
「俺からも?あなたには負けますよ」
「勝ち負けじゃない。たとえば、複雑な動きで打つシュートがマジで上手かった。俺は胸が熱くなったよ。お前とも、また勝負がしたい」
「そうですか。ありがとうございます。では、また」
和実くんの笑顔ってこんなに可愛いんだ。
そして学生の本分は学び。
互いに学び互いを成長させる。
これもまた青春ですな。
「奏さんも、また遊びにきてね!」
「はい。またバスケもゲームもやりましょう」
「今日は心悟が色々と世話になった。ありがとう」
「此司郎さん、礼には及びません。とても楽しい時間でした」
「そっか。なら良かった」
「すっごく楽しかったね!」
「ははは、奏。すっかり懐かれたな」
「はい。喜ばしい限りです」
「クロさんもまたゲームしようね!」
「あんた強いからやだ」
「ええー!」
「バスケもゲームも侮れん。まったく将来が楽しみだよ。きっといい選手になれるぜ。あんたの兄貴みたいにな」
「らしくない。急に褒めるなよ」
「俺、兄ちゃんみたいになれる?」
「此司郎。ちゃんと答えてやれ」
「もちろんなれるさ」
「やった!奏さんみたいに大きくなって兄ちゃんみたいに上手くなれるよう、俺、俺もっと頑張るよ!」
きゃわわ。
純粋でいいな。私もその頃に戻りたい。
まだ高校生の子供だけれど。
「麗嵐さん」
「ふぇ!私!?どうしました此司郎様」
「君にもまた遊びに来てほしいな」
「いいんですか!?」
このイケメンパラダイスにまた飛び込んでもよろしいとおっしゃるのですか!?
「大歓迎だよ。クロは一人じゃ遊んでくれなさそうだし」
「んなことねーよ。今度二人でどっか遊びに行こうぜ」
「マジ?よっしゃ!」
「そんな喜ぶことじゃねーだろ」
「二人きりで!?それって……!きゃ!萌天しちゃう……!」
「大丈夫?」
「くっ……!ご心配には及びません此司郎様」
「いや苦しそうで、とても大丈夫そうには見えないけれど……」
「ほっとけ。いつもの発作だ」
「発作!?」
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「失礼な!またそれを言いますか!」
「良かった」
「良かないですよ!」
「君は、ずっとみんなと距離を置いているから。実を言うと、無理していないかなって心配だったんだ」
此司郎様ってば紳士。お優しいこと。
思いやりに溢れたその胸に飛び込みたい気持ちでいっぱいですが、あいにく私には運命を約束した王子様がいるの。
それがまだ誰かは分からないけれど。
「安心してください。私は少し離れたところで陰ながら王子様を見守ることに尊さを感じるのです」
「クロが王子様かあ……」
「んだよその目!その反応!あのな!別に僕は……」
わいわいにぎやか。
駅が近付くのがさみしい。
この時間がもっともっともーっと長く続いたらいいのにな。
「姉さん、うるさいでしょう」
「でも、嫌いじゃないんだろう」
「かもね」
「零、こんど家に遊びに行っていいかな」
「うん。和実なら歓迎するよ」
歓迎なんて言葉使って。あら珍しいこともあるもんだ。
あなたが友達を家に招くことなんて中々ないのに。
最低限の付き合いはしているみたいだけれど、お姉ちゃん少し気にしてたの。
今、ほっとしたよ。
「和実だけずるい。俺も行く」
「呼秦は歳下だろう。俺は零と同い年だから」
「そう言や、お前が友達の家に遊びに行くって珍しいな」
「な!そんなことないだろう」
「気が合うんだよ。ね」
「そ、そう。零の言う通りだ」
「ちぇ。俺は仲間外れかよ」
「呼秦も遊びに来ていいよ」
「マジ?いいの!なら行く!」
「じゃあ俺も!」
「心悟はダメだ」
「えー!こは兄ちゃんこそズルいよ!」
「だって人数が増えたら迷惑だろう」
「構わない。来たらいい」
「やったー!」
あらー。零ってば積極的。
私の知らないあなたが今ここに。
こんなに友好的な子になってお姉ちゃん嬉しいよ。
学校では意外とボッチでは?て心配で心配で。
「うるさい姉さんがいるかもだけど、そこは我慢してね」
心配取り下げ。
「うるさくても気にしないから平気!」
「こらっ!呼秦くん!」
「うわっ!びっくりした……」
「悪い子はすぐ追い出すからね」
「ごめんなさい……」
クッキー焼いてみようかな。
ホットケーキにしようかな。
てせっかく色々と悩んでいたのに。
「お前の姉さん、怖いけど美人だな」
「は?」
呼秦くんは、いい子。
ホールケーキに挑戦しちゃう。
フルーツたっぷりのやつね。
「あ、もう駅に着いたか」
「創兄ちゃん。バイバイだね……」
「落ち込んでくれるのか、心悟」
「うん。今日は楽しかったから。先輩たち、みんないい人だった」
「かわよ……」
「麗嵐お姉ちゃんも絶対また来てね!」
「絶対くるよ!それまで元気でね!」
春麗嵐、弟が増えました。
次に会う日が楽しみ。
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みんなの大学デビューが楽しみだなあ。
心悟くんは意外と髪染めてイケイケキャラになったりして……ぐへへ……。
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