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旭ガ丘ひつじ

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19話 星月夜祭

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それは夏の星を招いて労い、秋の訪れを喜び歓迎する。
現代にうまれた新しいお祭りです。

最新のレーザーマッピングとプロジェクションマッピングの芸術的な融合で街を彩り、星月夜の奇跡を再現しました。
また、夏の実りを祝い秋の実りを願って、さまざまな極上グルメをお楽しみ頂けます。

とパンフレットに説明書きがある。
それと、広大な森林公園と神社の境内をぐるっと囲むマップに、大型アートと屋台の配置が示されている。
春麗嵐、おめめチカチカ、こころキラキラ、おなかペコペコ。

「何を食べるか。何を観るか。何を食べるか。とても迷いますねえ……」

「そんなのジッと見てるから余計に腹が減るんだよ」

創様、私は見つけてしまったのです。
道路を挟んだ向かいの建物の壁に、レーザーで描かれた可愛いソフトクリームのキャラクターが手を振っているのを。

こんな風にして外壁の多くにキャラクターや模様が描かれていて、レーザーマッピングはイラスト、プロジェクションマッピングはアニメーションと違いがある。
さらに細かく違いを説明すると、レーザーマッピングはとても明度が高く、プロジェクションマッピングは表現が多様。

その二つが組み合わされば……それは実際に観てのお楽しみ。
とパンフレットが焦らしてくる。
なので早く大型アートを観に行きたいけれど。

「創様だって、練習後でお腹ぺこぺこでしょう」

「おやつ食べたし、そこまで」

「とにかく歩こうぜ」

言って歩き出したクロ様の腕を掴んで止める。
あんたは猫か。めっ。

「迷子になるから、勝手に行かないで下さい」

「言ってもよ。ジッとしてたって仕方ねーだろ」

「まずは目的地を決めましょう。春、君は一番にどこに行きたい?」

奏くんにきかれてパンフレットへ目を落とす。
紹介されているどれもが素晴らしい。

立体模型を使った大型アートは、私たちが合宿している施設の隣にある自然豊かな森林公園に集まっている。
それに隣接する天皇様と皇太后様をお祀りする神社でもイルミネーションをやっている。
若者が集まることで有名な商店街ではレーザーマッピングが盛んのようだ。
グルメは商店街や幾つかの駅近くに集中している。

むむむ。
移動が大変だし電車やバスを使わなきゃかも。

「うん!やっぱり隣の公園だね!ご飯より綺麗なものをたくさん見たい!」

「近いし、いいと思います」

「俺は姉さんが行きたいところについて行くから。姉さんが予定決めていいよ」

「え?私が行きたいところ選んでいいの?」

「僕もいいぜ」

クロ様に続いて創様も同意してくれる。

「じゃあじゃあ。その後は、この駅を目指してグルメを食べて、次は電車に乗ってここへ行きたい」

「げっ。そこかよ」

「創様。まさかビビっていらっしゃいます?」

「は?俺が何にビビんだよ」

「だって若者が集まるところだし、ヤンキーやギャルがたくさんいそうでしょう」

後ろで静かに私たちを見守っていたオジサンが創様の背中を撫でてあげる。

「今日は、僕がいるから安心して」

「いやビビってねーし。ただ、人が多いのちょっと嫌だなって」

「今日はお祭りだから、どこもそうですよ」

「だな……あきらめよう」

「最後は神社ね。それではレッツゴー!」

初めに隣の森林公園へ。
敷地は広大で、園内のおよそ三分の一が樹木に覆われている。
青々と茂る緑に灯った星を辿って中央広場を目指す。
遠くイベント広場から音楽が流れてきて、お腹は減っても期待は膨らんだ。

そして出会いは突然。
ふわっと幻想的な景色が広がった。

華やかな妖精さんや蝶々さんという可愛いものから、龍にオニといった怖いもの、そして有名な建造物まで様々なテーマを扱った立体模型がきらびやかに展示されている。
特に夏の星座をモチーフにしたものが多くあって。

そのなかでも目立って心ひかれるのが、織姫様と彦星様をモチーフにした七夕の大型アート。
ミストに投影したプロジェクションマッピングによる天の川の繊細な表現には、うっとり。
そして身体は、ひんやり。

「織姫様の愛の深さに少し憧れちゃうなあ」

「でも、好きな人に一年に一度しか会えないのは寂しいね」

オジサン直球。
私のハートのミットが弾けました。

「そう、なんですよね……一年に一度か……」

「あ、春ちゃんごめん!余計なこと言って本当にごめんね!」

「オジサン気にしないで。姉さんにとっては、よくあることだから」

「零くん。ここは助けてよ」

「仕方ないなあ。姉さん」

「何よ」

「姉さんの方が愛が深いし、いつも側にいるんだから幸せ者だよ」

「そう!そうだよね!」

「良いこと言った!ありがとう!」

(ふっ。姉さんの愛は深いというより重いけどね)

「零。また意地悪なこと考えてない?」

「考えてないよ!」

まあ可愛い笑顔。
でも、その裏に小さなトゲがあること、お姉ちゃんはちゃんと見抜いているんだからね。

「わ、もう七時だ。ご飯にしよう」

ゆっくり見て回っていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
私たちは足早に駅を目指した。

「美味しそうな匂い!みんな、もうすぐだよ!」

「まるで犬だな」

「それは創様でしょう」

駅前に魅惑のグルメがたくさん登場。
光の装飾に照らされてより美味しそうに見える。
ここでグルメを食べるか、商店街で食べるか悩むことになってしまった。
困ったことに、座るところが全くない。
しかし、どのグルメも食べ歩きしやすいように工夫されている。
例えば、紙コップに入った焼きそばをすすっている子供を見かけた。
私は焼きそばが食べたくなった。

「春、置いていかれるよ」

「奏くん。みんなは?」

「向こうで食べようって。先に駅に」

「ふえー焼きそばー……」

「待とうか?」

「ううん。向こうにもあるかも知れないし。待たせちゃ悪いから」

さようなら、焼きそばさん。
まるであなたは彦星様ね。
線路は天の川。
私は月の船に揺られて、もう一度、愛するあなたに逢いに参ります。

「わあ、凄い混んでるね。みんなはぐれないように気をつけよう。もし、はぐれたら、すぐ、連絡……しようね……」

オジサンが人波に流されていく!

「大丈夫ですか!力いっぱい引きますよ!」

「ありがとう奏くん。助かったよ。いい筋肉してるね」

「ははは。これもオジサンの指導のおかげですよ」

ふう。良かった。
ここからは気をつけて進もうね。
て用心したのに、予想通り商店街は若者天国で人は多いしアートは特別きれいだしグルメは美味しそうだしで足がついつい止まっちゃって。

「あーあ。はぐれちゃいましたね」

「何で、ちょっと嬉しそうなんだよ」

「うふ。創様と二人きりになれましたので」

私たちは、シャッターの下りたお店の前で待機しています。
周りの人たちと同じようにグルメを楽しみながら。
ああー愛しの焼きそば、おいちい。
たこ焼き二つのおまけ付きで、こっちで買ってよかった。

「スパイス効いてるけど。牛串、一つ食べる?」

「いただきます!あむ!」

「はや。遠慮ないのな」

「……もぐ。私たちの関係に、今さら遠慮なんていります?」

「いる。それと、人前で恥ずかしくないのかよ」

「恥ずかしくないですよ。だって、ほら、周りにカップルがたくさんいて……」

はうっ!これは!まるで私たち恋人では!?
くっ!乙女の夢のひとつ牛串あーんを何も意識せずに体験してしまった!
もっと焦らしてほしかったし、それに対して私が怒って、口をふさぐように牛串を入れられて、モグモグしているときに感想をきかれて、ぷいと照れたかった!
うわー!大事なイベントをあっさり終わらせてしまった!

「春麗嵐……一生の不覚!」

「ポテトも食べる?」

「ぜひ……て。話聞いてました?周りはカップルだらけなんですよ。勘違いされますよ」

「ポテトは口じゃなくて、手で食えるから平気だろ。それに、周りが俺たちをカップルだと勘違いするなら恥ずかしいことも……」

「ことも?」

「やっぱ恥ずかしいから、やらね!あと離れる」

「そこまでしなくていいじゃないですか!」

「いや、だってさ」

「もし。創様は、私が恋人だと不満ですか?」

「また大胆なことを言う。お前は俺のこと、マジ……で……好き、なの?」

「好きですよ」

「ポテトみたいにあっさり言うのな」

「うん。おいし。このポテトみたいに、あっさりホクホクですよ」

そして、ちょっぴり甘塩っぱい。

「今日は特別に、私の創様に対する好きを教えてあげます。それはね……。ずっと応援していたい、て気持ちです」

「ん?そうなんだ」

「でもね。素直じゃないあなたは、大嫌い」

「ええっ!?」

「ふふふ。困ってる困ってる。かわい」

「さっきの、どう言う意味だよ」

「自分の胸に聞いてみ?」

「ええー。うーん。わっかんね」

「まだまだ。ダメ男ですね。それじゃあ恋人なんて一生できませんよ」

ショックを受けて落ち込む創様もかわいい。
可哀想だけれど女子は甘くないんだからね。
あなたが本気で恋をして、真っ直ぐに向き合って、勇気を出して想いを伝えてくれることを信じています。
その日まで私は意地悪にちょっかい出しちゃいますよ。
猫さんみたいに。

「あ!おーい奏!こっちこっち!」

「合流できて良かった」

「背が高くて見つけやすかったよ」

「こちらもよく見えましたよ。創様が春に」

「わあー!ちょー!」

みんなと無事に合流できましたが、創様の慌てぶりに注目を浴びてしまいました。

さて、気を取り直して。
ここからグルメ探訪再開です。
私の目当ては、女の子たちがこぞって写真を撮る、冷え冷えのフローズンポップコーン。
色とりどり味さまざまで若者に大人気のスイーツです。
これは女子力を上げるために必ず食べなくては。

「食べ過ぎたかな……ちょっと歩くの辛い……」

「姉さんは食いしん坊だね」

「ふん、成長期なのよ」

「俺は疲れが限界で歩くの辛い。明日の練習に響かなきゃいいけど」

「ん?それなら久しぶりに、お姉ちゃんが、おんぶしてあげよっか」

「何言ってんの。やだよ。というか絶対に無理でしょ」

「昔はできたよー」

「昔はね」

なんて話しているうちに最終目的地の神社へ到着。
ここから本殿までがまた遠くて、イルミネーションが美しいけれど残酷な道のりだった。
しかも参拝者数日本一とあって、人波にもまれて歩くことに。
オジサンは、これもトレーニングだと鼓舞するけれど、奏くんを除いてみんな暗い顔。
境内はイルミネーションでこんなにも明るいのに。

「みんなが怪我なく、元気いっぱいに運動できますように」

「優しいな。ありがとう、麗嵐」

「創様は何をお願いしましたか?」

「俺は、もっとバスケが上手くなりますように」

「必勝祈願ではないんですね」

「勝利は、みんなで掴むものだからな!」

「ですね!」

「もちろん応援してくれるよな?」

「はい!これからもずっと」

あなたの側で。
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