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17話 合宿だー!
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「えっ!寝癖かわいっ!」
「うるせー」
創様は時々(きっと私のために)かわいい寝癖姿を披露してくれる。
まったく朝から私をドキドキさせてどうしたいのかな、このこの。
「ちゃんとしろよ。みっともないぜ」
「そう言う、お前も寝癖ついてるぞ」
「ふざけんな。出る前にも鏡みたわ」
「はは、ナルシストだなあ」
「んだと?誰だって身だしなみは気にすんだろ」
「頭の後ろはちゃんと見たか?」
あ、かわい。
「オジサン。車出すの待って」
「ええー!別に気にしなくていいじゃない。行こう」
「オジサンも創もだらしねーぞ!」
「ははは。ゲームばかりしてる君に言われたくないなあ」
「とにかく待ってて!」
クロ様の言う通り。
身だしなみは、ちゃんとしないとね。
お出かけ前に細かくチェックして正しましょう。
「姉さんやめて。なに?」
「シャツがたゆんでる」
「それくらい、いいよ。直しても、またそうなるって」
「春はしっかりしているな」
「いやいや。奏くんには負けるよ」
「いやいや春には敵わないよ」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
「暑いし先に乗ってよう」
創様に続いて私たちも車に乗る。
オジサンが借りてきてくれた白いワンボックスカー。
運転席と助手席、後ろはニ、ニ、三と九人も乗れちゃう。
私は一番うしろ、みんなの荷物を奥に置いて落ち着いた。
「姉さんの前は嫌だから、兄さんと先輩が後ろに座って」
「やだよ。俺だって、麗嵐がすぐ後ろにいると落ち着かないし、クロの隣なんて絶対に断る」
「移動して」
「強情だな。俺は兄さんだぞ」
「なら弟に譲ってよ」
「零……お前やるな」
「あの。暑いです」
外に取り残された奏くん暑そう。
今日も快晴のカンカン照りです。
きっと屋根の瓦で目玉焼きができるでしょう。
今日の天気は目玉焼き、時々、パンケーキ。
「みんな、待たせてごめん」
「時間かかったな」
「創、悪いんだけど」
「分かってる。酔いやすいから窓側がいいんだろう。遠くの景色を見たらマシになるって、よく分からない理屈だけど」
「さんきゅ」
こんなに間近で二人の友情をハスハスしてもよろしいのでしょうか。
いいんです。仕方ないのです。
すぐ目の前にいるんだもの。
創様のキレイな、つむじ、すき。
「麗嵐!いま変なこと考えただろ!首筋がゾクっとしたぞ!」
「言いがかりはやめてください!私は、はしたない乙女じゃございません」
「嘘ばっかし」
「本当だもん」
さあ、出発進行。
目指すは隣の県、都会にあっても緑豊かな都市型青少年教育施設。
体育館、各種コート、プールにホールなどなど。
運動から芸術まで多様な活動と交流の行えるとても教育的意義のある巨大複合施設となっている。
しかも何とびっくり仰天。
宿泊施設も食堂も喫茶店もコンビニまであって。
オジサンが、ねこバスケ日本代表として東京オリンピックに出場した時には選手村として活用された神聖な場所なのだ。
ワクワクドキドキルンルン。
夜にはサプライズがあるんだって。
オジサンから調べないように念を押されたから、ぐっと我慢して我慢して、もう待ちきれない。
でも、合宿の方が大事だからちゃんと気を引き締めている。
えへへ……楽しみだなあ。
「もう限界か?練習はこれからだぞ」
創に言われて言い返せないのが悔しい。
持久力にはあまり自信がなくて、グルグル走り回っているうちに、へばってしまった。
扇風機があるとは言え、真夏に動き続けるのは体温が上がってキツい。
この小体育館は主に3x3の練習を目的したもので、一つの建物の中に独立して三つある。
ずっと猫を扱うわけにはいかないので、猫に大きさと重さの近いバスケットボールを使って練習を行う。
ここが、ねこバスケの難しいところの一つだ。
生体を扱うので、ずっと猫の手を借りて練習するわけにはいかない。
だから、どれだけ技術を磨いても、本番で猫に順応できなければ実力を発揮するのは難しい。
また、猫に好かれなければ負けることもある。
オジサンから口すっぱく注意された。
「朝、一緒に走らないか。平日だけでも」
「や、ごめんだね。試合をするには十分な体力はある」
「そっか。実は奏にも零にも断られたんだよ」
そりゃそうだろ。
人目もはばからずイチャイチャしてる、めでたいお二人さんに遠慮してんだよ。
気付けバーカ。いや気付かないから創はバカなんだな。
ついでにアホ。
「クロ様!キンキンのスポーツドリンクをどうぞ」
「……凍って出てこねーよ」
「あれ。まだ溶けてないの」
「他に用意は?」
「…………」
「みんな死ぬぞ」
コイツ意外と、おっちょこちょいなとこあんだな。
使い走りにして悪いけれど、春にはコンビニまでお使いに行ってもらった。
オジサンも一緒だし苦労はないだろう。
その間はゆっくり休める。
「はい!お待たせしました!」
「さんきゅ」
「今度は凍ってませんので、グイッとどうぞ」
かあー!しみるぜ!!
キンキンのスポーツドリンクのために練習していると言っても過言ではないくらい運動中のキンキンのスポーツドリンクはうまい。
「クロ様ご存じですか?運動中は水分補給に適したハイポトニック飲料を飲むといいんですよ」
「へえ。何それ」
「ハイポトニック飲料は浸透圧の低い飲料水のことで、運動中に飲むのが良いとされています。一方で運動前に飲むと良いものがアイソトニック飲料です。こちらは人間の体液と同じくらいの浸透圧になっています」
「ふーん。違いは浸透圧だけ?」
「その違いは、体に吸収される速さです。アイストニャックは汗で失われるミネラルや糖分を事前に補給するためにあり、運動中に失ったものを素早く補給するのがハイポテニャックです」
「名前変わってない?」
「この二つの見分け方はですね。ズバリ糖質です。多いものがアイごにゃごにゃで、少ないものがハイごにゃごにゃでございます」
「あきらめてんじゃねーよ!それでよくドヤ顔できんな」
「十分だよ。よく勉強したね。春ちゃん偉い!」
「オジサンありがとう!」
まあ、確かに偉い。
僕は気にしたこともなかった。
もしプロになるなら、こういうことも知っておかなきゃならないんだろうな。
別にプロを目指してはいないけれど覚えておいて損はない。
「指先に意識を集中して最後までしっかり狙っていこう。回転をかける角度にも気をつけて」
食堂で昼飯を食ったあと、オジサンの指導でフィンガーロールの基礎練習をやっている。
ゴール付近でシュートを打つときに指先で回転をかけて軌道を変化させるスキルで、コントロールも習得も難しい。
これにはメリットが二つある。
一つめは、ディフェンスのブロックのタイミングをズラせる。
二つめは、難しい角度からでもシュートが打てる。
ゴール下や、レイアップという下からすくうようにアンダーハンドで打つシュートでよく使われる。
バックボードを狙うことで難しい角度からのシュートの精度を上げられるし。
指先をうまく使うことで飛距離を伸ばすこともできる。
「ふうーお疲れ様です。クロ様、指先が器用でお上手ですね」
「僕は身長がそんなに高くないから、これはよく練習したんだ。奏は背が高いからダンクした方が良さそうだな」
「いえ難しいです。俺は跳躍力が微妙なんですよ。あと、猫をうんと掲げてゴールに叩き込むというのも遠慮してしまうので」
「ああー。失敗してリングにかかったら痛そうだもんな」
「そう。そうなんです。だからもっと縄跳びしてジャンプ力を上げて、シュートの精度も上げていくつもりです」
「ストイックだな。根性あっていいと思うぜ」
「ははは。勉強癖がなかなか抜けないだけですよ」
「僕も見習って、もう少し真面目になるか」
「へえ。今まで先輩、サボってたの」
「零、あんた意外と嫌な奴だな」
「怒らないで。冗談だよ。先輩がたくさん努力してきたのは、ちゃんと知ってる」
「おい待て。誰から聞いた」
「まあいいじゃない」
「よくねーわ小っ恥ずかしい。言っておくけど、僕は少年漫画の主人公みたいな熱いキャラじゃないからな」
「ふっ」
「その笑いはなんの笑いだ?」
「頼もしいよ。先輩」
「まったく。調子狂うな」
時刻は四時を迎えた。
そろそろやってくる頃だ。
みんな驚くだろうな。
いや、知らなくてガッカリするかな。
どちらにせよ楽しんでくれることを願う。
僕はコーチとして最大限努力すると自身に誓った。
彼らの心に残る素晴らしい経験をさせたい。
「おーい。これからが本番だってのに気を抜くなよ」
来た!
ブリティッシュショートヘアのオスを抱えた身長が二メートルもある五十代の男の突然の乱入に、みんな呆気に取られている。
僕は慌ててみんなを立たせると、真っ先に挨拶をして歓迎した。
それから、みんなにきちんと挨拶をさせて、屈強な男四人衆と自己紹介を交わす。
アメリカ代表、ベイカー
スペイン代表、マーカス
オーストラリア代表、オスカー
アルゼンチン代表、レアンドロ
みな五十代で、若い頃に各国でプロバスケットプレーヤーとして活躍した経歴を持つそうだ。
そして猫が好きだと口を揃える。
また、その一人ベイカーこそは。
かの東京オリンピック、ねこバスケ日本代表、その監督で恩人である。
て、彼のことは、みんな知っていたみたい。
だから呆気に取られたというより驚愕。
一生関わりないだろうと気にも留めなかった凄いお方が、まさかいきなり目の前に現れたら驚くのも無理ないよね。
ひとつサプライズ成功で嬉しいな。
ねこカフェで特大おにゃんこパフェをご馳走して頭を深く下げた甲斐あったよ。
しかし、こんなに凄いメンバーを招集するとは夢にも思わなかったけれど。
相変わらず本気度が想像を超えてくる御方だ。
「すげえ……日本語ペラペラだ」
クロくん。その呟きは聞こえているよ。
失礼だよ。そんなところに驚いていたの。
彼はアメリカ人だけれど長いこと日本に住んでいるからね。
家でキジトラ飼っているからね。
そう言えば、日本代表の監督は猫好きが高じて自ら引き受けたようなものだったっけ。
「野郎ども。これから二試合やるぞ。用意はいいな。よし」
気が早い。よし、じゃありません。
まだ、ねこバスケ用の人工芝生を敷いていませんよ。
「さっさと準備しろやい。ほら働いた働いた」
僕より監督している。
若者よりずっと元気。
恐れ入ります。
「うるせー」
創様は時々(きっと私のために)かわいい寝癖姿を披露してくれる。
まったく朝から私をドキドキさせてどうしたいのかな、このこの。
「ちゃんとしろよ。みっともないぜ」
「そう言う、お前も寝癖ついてるぞ」
「ふざけんな。出る前にも鏡みたわ」
「はは、ナルシストだなあ」
「んだと?誰だって身だしなみは気にすんだろ」
「頭の後ろはちゃんと見たか?」
あ、かわい。
「オジサン。車出すの待って」
「ええー!別に気にしなくていいじゃない。行こう」
「オジサンも創もだらしねーぞ!」
「ははは。ゲームばかりしてる君に言われたくないなあ」
「とにかく待ってて!」
クロ様の言う通り。
身だしなみは、ちゃんとしないとね。
お出かけ前に細かくチェックして正しましょう。
「姉さんやめて。なに?」
「シャツがたゆんでる」
「それくらい、いいよ。直しても、またそうなるって」
「春はしっかりしているな」
「いやいや。奏くんには負けるよ」
「いやいや春には敵わないよ」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
「暑いし先に乗ってよう」
創様に続いて私たちも車に乗る。
オジサンが借りてきてくれた白いワンボックスカー。
運転席と助手席、後ろはニ、ニ、三と九人も乗れちゃう。
私は一番うしろ、みんなの荷物を奥に置いて落ち着いた。
「姉さんの前は嫌だから、兄さんと先輩が後ろに座って」
「やだよ。俺だって、麗嵐がすぐ後ろにいると落ち着かないし、クロの隣なんて絶対に断る」
「移動して」
「強情だな。俺は兄さんだぞ」
「なら弟に譲ってよ」
「零……お前やるな」
「あの。暑いです」
外に取り残された奏くん暑そう。
今日も快晴のカンカン照りです。
きっと屋根の瓦で目玉焼きができるでしょう。
今日の天気は目玉焼き、時々、パンケーキ。
「みんな、待たせてごめん」
「時間かかったな」
「創、悪いんだけど」
「分かってる。酔いやすいから窓側がいいんだろう。遠くの景色を見たらマシになるって、よく分からない理屈だけど」
「さんきゅ」
こんなに間近で二人の友情をハスハスしてもよろしいのでしょうか。
いいんです。仕方ないのです。
すぐ目の前にいるんだもの。
創様のキレイな、つむじ、すき。
「麗嵐!いま変なこと考えただろ!首筋がゾクっとしたぞ!」
「言いがかりはやめてください!私は、はしたない乙女じゃございません」
「嘘ばっかし」
「本当だもん」
さあ、出発進行。
目指すは隣の県、都会にあっても緑豊かな都市型青少年教育施設。
体育館、各種コート、プールにホールなどなど。
運動から芸術まで多様な活動と交流の行えるとても教育的意義のある巨大複合施設となっている。
しかも何とびっくり仰天。
宿泊施設も食堂も喫茶店もコンビニまであって。
オジサンが、ねこバスケ日本代表として東京オリンピックに出場した時には選手村として活用された神聖な場所なのだ。
ワクワクドキドキルンルン。
夜にはサプライズがあるんだって。
オジサンから調べないように念を押されたから、ぐっと我慢して我慢して、もう待ちきれない。
でも、合宿の方が大事だからちゃんと気を引き締めている。
えへへ……楽しみだなあ。
「もう限界か?練習はこれからだぞ」
創に言われて言い返せないのが悔しい。
持久力にはあまり自信がなくて、グルグル走り回っているうちに、へばってしまった。
扇風機があるとは言え、真夏に動き続けるのは体温が上がってキツい。
この小体育館は主に3x3の練習を目的したもので、一つの建物の中に独立して三つある。
ずっと猫を扱うわけにはいかないので、猫に大きさと重さの近いバスケットボールを使って練習を行う。
ここが、ねこバスケの難しいところの一つだ。
生体を扱うので、ずっと猫の手を借りて練習するわけにはいかない。
だから、どれだけ技術を磨いても、本番で猫に順応できなければ実力を発揮するのは難しい。
また、猫に好かれなければ負けることもある。
オジサンから口すっぱく注意された。
「朝、一緒に走らないか。平日だけでも」
「や、ごめんだね。試合をするには十分な体力はある」
「そっか。実は奏にも零にも断られたんだよ」
そりゃそうだろ。
人目もはばからずイチャイチャしてる、めでたいお二人さんに遠慮してんだよ。
気付けバーカ。いや気付かないから創はバカなんだな。
ついでにアホ。
「クロ様!キンキンのスポーツドリンクをどうぞ」
「……凍って出てこねーよ」
「あれ。まだ溶けてないの」
「他に用意は?」
「…………」
「みんな死ぬぞ」
コイツ意外と、おっちょこちょいなとこあんだな。
使い走りにして悪いけれど、春にはコンビニまでお使いに行ってもらった。
オジサンも一緒だし苦労はないだろう。
その間はゆっくり休める。
「はい!お待たせしました!」
「さんきゅ」
「今度は凍ってませんので、グイッとどうぞ」
かあー!しみるぜ!!
キンキンのスポーツドリンクのために練習していると言っても過言ではないくらい運動中のキンキンのスポーツドリンクはうまい。
「クロ様ご存じですか?運動中は水分補給に適したハイポトニック飲料を飲むといいんですよ」
「へえ。何それ」
「ハイポトニック飲料は浸透圧の低い飲料水のことで、運動中に飲むのが良いとされています。一方で運動前に飲むと良いものがアイソトニック飲料です。こちらは人間の体液と同じくらいの浸透圧になっています」
「ふーん。違いは浸透圧だけ?」
「その違いは、体に吸収される速さです。アイストニャックは汗で失われるミネラルや糖分を事前に補給するためにあり、運動中に失ったものを素早く補給するのがハイポテニャックです」
「名前変わってない?」
「この二つの見分け方はですね。ズバリ糖質です。多いものがアイごにゃごにゃで、少ないものがハイごにゃごにゃでございます」
「あきらめてんじゃねーよ!それでよくドヤ顔できんな」
「十分だよ。よく勉強したね。春ちゃん偉い!」
「オジサンありがとう!」
まあ、確かに偉い。
僕は気にしたこともなかった。
もしプロになるなら、こういうことも知っておかなきゃならないんだろうな。
別にプロを目指してはいないけれど覚えておいて損はない。
「指先に意識を集中して最後までしっかり狙っていこう。回転をかける角度にも気をつけて」
食堂で昼飯を食ったあと、オジサンの指導でフィンガーロールの基礎練習をやっている。
ゴール付近でシュートを打つときに指先で回転をかけて軌道を変化させるスキルで、コントロールも習得も難しい。
これにはメリットが二つある。
一つめは、ディフェンスのブロックのタイミングをズラせる。
二つめは、難しい角度からでもシュートが打てる。
ゴール下や、レイアップという下からすくうようにアンダーハンドで打つシュートでよく使われる。
バックボードを狙うことで難しい角度からのシュートの精度を上げられるし。
指先をうまく使うことで飛距離を伸ばすこともできる。
「ふうーお疲れ様です。クロ様、指先が器用でお上手ですね」
「僕は身長がそんなに高くないから、これはよく練習したんだ。奏は背が高いからダンクした方が良さそうだな」
「いえ難しいです。俺は跳躍力が微妙なんですよ。あと、猫をうんと掲げてゴールに叩き込むというのも遠慮してしまうので」
「ああー。失敗してリングにかかったら痛そうだもんな」
「そう。そうなんです。だからもっと縄跳びしてジャンプ力を上げて、シュートの精度も上げていくつもりです」
「ストイックだな。根性あっていいと思うぜ」
「ははは。勉強癖がなかなか抜けないだけですよ」
「僕も見習って、もう少し真面目になるか」
「へえ。今まで先輩、サボってたの」
「零、あんた意外と嫌な奴だな」
「怒らないで。冗談だよ。先輩がたくさん努力してきたのは、ちゃんと知ってる」
「おい待て。誰から聞いた」
「まあいいじゃない」
「よくねーわ小っ恥ずかしい。言っておくけど、僕は少年漫画の主人公みたいな熱いキャラじゃないからな」
「ふっ」
「その笑いはなんの笑いだ?」
「頼もしいよ。先輩」
「まったく。調子狂うな」
時刻は四時を迎えた。
そろそろやってくる頃だ。
みんな驚くだろうな。
いや、知らなくてガッカリするかな。
どちらにせよ楽しんでくれることを願う。
僕はコーチとして最大限努力すると自身に誓った。
彼らの心に残る素晴らしい経験をさせたい。
「おーい。これからが本番だってのに気を抜くなよ」
来た!
ブリティッシュショートヘアのオスを抱えた身長が二メートルもある五十代の男の突然の乱入に、みんな呆気に取られている。
僕は慌ててみんなを立たせると、真っ先に挨拶をして歓迎した。
それから、みんなにきちんと挨拶をさせて、屈強な男四人衆と自己紹介を交わす。
アメリカ代表、ベイカー
スペイン代表、マーカス
オーストラリア代表、オスカー
アルゼンチン代表、レアンドロ
みな五十代で、若い頃に各国でプロバスケットプレーヤーとして活躍した経歴を持つそうだ。
そして猫が好きだと口を揃える。
また、その一人ベイカーこそは。
かの東京オリンピック、ねこバスケ日本代表、その監督で恩人である。
て、彼のことは、みんな知っていたみたい。
だから呆気に取られたというより驚愕。
一生関わりないだろうと気にも留めなかった凄いお方が、まさかいきなり目の前に現れたら驚くのも無理ないよね。
ひとつサプライズ成功で嬉しいな。
ねこカフェで特大おにゃんこパフェをご馳走して頭を深く下げた甲斐あったよ。
しかし、こんなに凄いメンバーを招集するとは夢にも思わなかったけれど。
相変わらず本気度が想像を超えてくる御方だ。
「すげえ……日本語ペラペラだ」
クロくん。その呟きは聞こえているよ。
失礼だよ。そんなところに驚いていたの。
彼はアメリカ人だけれど長いこと日本に住んでいるからね。
家でキジトラ飼っているからね。
そう言えば、日本代表の監督は猫好きが高じて自ら引き受けたようなものだったっけ。
「野郎ども。これから二試合やるぞ。用意はいいな。よし」
気が早い。よし、じゃありません。
まだ、ねこバスケ用の人工芝生を敷いていませんよ。
「さっさと準備しろやい。ほら働いた働いた」
僕より監督している。
若者よりずっと元気。
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