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9話 高橋零、いたずらな子猫
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ヤバいめっちゃ緊張する。
日曜日、俺たちは春の家に招待された。
その道すがら、奏とクロは和気あいあいと少女漫画の話で盛り上がっている。
「なあ、俺にも貸して」
「やだね」
「何でだよ」
「借りたきゃ春に借りろ」
「そんなことできるかよ」
「創様は会話に参加できず寂しい思いをされているんです」
「あーそういうことー」
「奏。でたらめ言うな」
「いや奏の言う通りだろ。ちったあ素直になれよ。寂しいなら寂しいって言やいいんだぜ?」
「寂しかねーし!ちょっと気になっただけだし!」
「あの……!」
私、思わず大声を上げてしまいました。
近所の人に聞かれていたら恥ずかしい。
「お元気なのはとてもよろしいのですが、ひとのお家の前で喧嘩しないでもらえますか?」
俺はクロと顔を見合わせて、またそっぽを向いた。
どうも不思議とコイツとはすぐ喧嘩になる。
奏はそれをニコニコ見て楽しんでいるし。
変わった奴らと友達になってしまった。
「小さくて狭いお家ですが、どうぞ」
はわわわわわ!?
とうとう王子様たちを城へお招きしてしまった!?
これはもう退学するしかないのでは!?
だって、こんなズルして、いい思いして、愛を独り占めなんて、みんなに合わせる顔がないじゃん……。
「ようこそ。上がって」
「おはようございます。いつも春にお世話になっています。犬飼創です」
「はい、おはよう。麗嵐の父です」
春の父親が迎えてくれた。
無表情で物静かだけれど雰囲気は柔らかい。
着物が似合う透明感のある人だ。
春が書家だと紹介してくれた。
「ゆっくりしていって」
お父さんよして!
ゆっくりしたら私のぼせちゃう!
ゆでだこになっちゃうよ!
残念だけれど王子様たちには早く帰ってもらわなきゃ。
シンデレラだって零時には帰るのよ。
だから、お昼の十二時までには帰ってね。
「春。いつまで、くねくねしてんだ」
「はっ!私ってば!」
「お前、家でもそれかよ」
「こっちは、いきなり王子様たちがお家に押しかけて来るからパニックなんですよ!」
「いや、そっちが誘ったんだろ!」
「そうだった。待たせているので案内しますね」
春の部屋に入れる。
と、ちょっと期待してしまった。
が、案内されたのは春の弟の部屋だった。
スッキリと片付いた部屋で、物が少ない。
彼は下のスペースに机を置いたベッドの上から、こちらを見下ろしていた。
お父さんによく似て透明感がある。
「レイ。そこから下りて自己紹介して」
「はじめまして。高橋零です」
「もう!下りなさいってば!」
「分かった。でも部屋、狭いよ」
「いいの。見下ろすのだけは失礼だから絶対にダメ」
私のかわいい弟、零は中学二年生。
四月に三年生になる。
大人しくて静かな子。
小さい頃は、よく私にひっついて興味をひこうと、からかってきたりして可愛かったんだけれど、最近はそっけなく感じる。
思春期だからかな?
「ごめん、悪いとは思うけど聞いていい?」
「クロ様のききたいこと分かります。苗字の違いですね」
「姉さん、どうして敬語なの?」
「気にしなくていいの!」
「だって変でしょう」
「ぐぬ……!」
笑ったらダメだ。
と俺はガマンしたのにクロは平気で腹抱えて笑う。
ところで俺も失礼ながら気になる。
春麗嵐。
高橋零。
二人は実の兄弟か、そうで無いのか。
春が話を再開したので耳をそばだてる。
「私と零はお母さんが違うの。私を産んでくれたお母さんは、私が小学生になる前、お星様に……。それから私が寂しい思いをしないようにって、お父さんが婚活を頑張って、めでたく結ばれたステキな人との間に産まれた子供が零なんだよ」
「聞いて悪かったな」
「いいのよクロ様。聞いておいた方がスッキリするでしょう。聞かれなくても私からお話するつもりでした。だって、もし私たちが血の繋がりのない姉と弟だと想像して、王子様たちは嫉妬でモンモンしちゃうでしょ?」
「うん」
あら創様ってば!
「あ、や、違う」
しまった油断した。
言い訳を考えないと。
そこの男二人、ニヤニヤするな。
「お前はやっぱりヤバい奴だって、うなずいたんだ」
「ひどい!けど今のは反論できない!」
私も今のはキモすぎたかもと思う。
ぺこたん反省。
「こほん。それで私の苗字、春はお母さんの苗字なんです。お母さんがいつも側にいるよ、という想いで、お父さんが残してくれたんです」
「じゃあ俺、今日から麗嵐て呼ぶよ」
「にゃっ!?」
コイツは何かと気を失いそうになる。
ひっくり返りそうになったので、とっさに体が動いて、偶然にもお姫様だっこのような形になってしまった。
でも恥ずかしさはない。
ずっとこうしてみたかった気さえする。
「春だと、お母さんのことを呼んでいるみたいになるだろう。だから、これからは、ちゃんと名前を呼ぶよ」
「そこまで気にしなくていいのに」
「そうしたいんだ。さ、起こすぞ」
「うん。ありがとう」
私の名前は両親が、二人がそれぞれ付けてくれた大切な名前。
春麗、その言葉の意味するように明るく穏やかに。
春嵐、荒天と掛けて破天荒な勇気あれ。
合わせて麗嵐。
二人が楽しそうに赤ん坊の私に語りかける姿を映像で何度でも観た。
思い出しても胸が温かくなる。
いま、創様に名前を呼ばれて同じ思いを感じている。
私のこの気持ちに、きっと嘘はないんだ。
「それで姉さん、俺は奏さんのチームに入ったらいいの?」
「あ、うん。そう。みんなはどうですか?」
「零くんは、いま中学二年生だよね?」
「ん」
「大きくなったなあ。会うのは中学校の卒業式以来だね。あの時はまだ小学生で、もっと小さかった」
「中学生になって、急にグンと背が伸びてきたの。不思議だよね」
「男の子ってそういうもんだよ」
「奏くんは小学生の時から、ずっと大きかったよ」
「ははは。俺は特別だ」
また幼馴染トークで盛り上がっている……。
それにしても奏と零に面識があったんだな。
それもそうか。
きっと小学校が一緒だったんだろう。
奏がいてくれて良かった。
零がチームに入ったとして孤立することはないし、俺とクロも彼と接しやすくなる。
「二人は俺がチームに入ることに反対しないんですか?」
「僕はいいぜ。あんたこそいいのか?歳上しかいないぞ」
「気にしません。姉さんの友達だし」
「そっか。創も反対しないよな?」
「ああ、しないよ。ところで、零はバスケの経験はあるの?」
「創様!私の弟は凄いんですよ!」
「へえーどう凄いんだ?」
「あらゆる運動部から助っ人を頼まれるほど運動神経が抜群なんです!センス大爆発なんですよ!」
「マジ!?すげーかっけえな!リアルでそんな奴いるんだ!」
「ふっふっふっ。いるんですよ。ここにね」
「どうして姉さんが偉そうにするの」
「自慢の弟だから!」
零は小さくため息を吐く。
どれだけウザがられても可愛い可愛い自慢の弟。
スポーツ万能で、勉強もちゃんとする。
家事手伝いだって進んでやる。
よくできた子。
だからこそお姉ちゃん、ちょっと寂しいな。
「零。困ったことがあれば、お姉ちゃんをいつでも頼ってね」
「別に困ることはないよ」
「むうー。あっそ」
長居するつもりはなく、顔合わせを済ませたので今日のところは帰ろうとした、その時、ちょうど麗嵐のお母さんが帰ってきた。
穏やかだけれど、その笑顔からは内に秘める眩い元気があふれている。
玄関で出くわした俺たちは押し戻されるようにリビングへ通された。
その奥に畳のしかれた居間があって立派な仏壇を見つけた。
俺たちは、みんなで手を合わせて挨拶することにした。
眠る女の子を抱いた綺麗な女性がほほえんでいる。
「お母さん、今日は王子様たちが三人も来てくれたよ」
「変わった紹介はやめてくれ」
お母さん。
私、変なこと言っていないよね。
みんな私にとって王子様みたいな人達だもん。
だからね。今とっても幸せなんだよ。
「間に合って良かったわ。これから、みんなでお昼ごはんにしましょうね」
「母さん。お昼、なに?」
「零の好きなお好み焼き。みんなで分けて食べてちょうだいね。お父さーん、ホットプレートを出してー」
「お母さん、私が出すよ」
「ありがとう麗嵐。そうだ。あなたの好きな初恋の味がするイチゴミルクプリンを買ってきたわよ」
「わーわー!みんなの前で言わないでー!」
「うふふ」
やっぱり麗嵐の日常はメルヘンだった。
イチゴミルクプリンは初恋の味がするなんて、俺は一度も聞いたことがない。
ほんと面白くて飽きない。
「あんたの姉ちゃん、昔からこんな感じ?」
「ちょっとクロ様!私のプライベートについては聞かないでください!」
「姉さんは昔からこんなだよ。俺が小さい時、絵本じゃなくて少女漫画をよく読み聞かせてくれたんだけど、こうなりたいとか、こうなりなさいとか、途中途中あーだこーだ言ってうるさいんだ」
「零!うるさいは傷つくよ!」
「でも良かった」
「何が?」
「夢、ほとんど叶ったでしょう」
いい子!
なんて可愛い笑顔!
胸キュンポイント急上昇!
自慢の弟よ、学校ではさぞかしモテるんだろう。
お姉ちゃん少し妬いちゃうかも。
「で、誰が姉さんの彼氏?」
「ややややややめなさいってば!いませんよ!」
「なんだ。つまんないの」
「つまんないて何よ、もー」
「創さんが彼氏かと思った」
「ちちちちちちがうって!ねーよ!」
「創さんのこと、兄さんて呼んでいいですか?」
わっ!素晴らしい後輩だ!
兄さん、それはなんて可愛い響きなんだ!
「ぜひ呼んで。俺、姉ちゃんが二人いてさ、ずっと弟が欲しかったんだ。あ、でも本当に弟扱いとかしないから心配しないで」
「弟みたいに接してくれていいですよ。俺も兄さんが欲しいと思っていました」
「ちょっと待て!創だけズルいぞ!」
「クロさんのことは先輩と呼んでいいですか?」
「え?なんで?僕も兄さんじゃダメなの?」
「ダメってことはないけど。先輩って感じでしょう」
「距離が遠く感じるんだけどそれ」
「やだな。そんなことないですよ」
「まず敬語使うな。禁止だ」
「えーでも」
「いいから。気にすんな」
「へえー珍しいなクロ。今日はやけに積極的だな」
「うっせ。創、あんたにだけは言われたかないね」
「奏さん、奏さん」
「どうした?声をひそめて」
「この二人はライバルなの?」
「うん。正解」
「このチームに入れてもらえて良かった」
「どうして?」
「すっごく楽しそう」
「ははは……零くんちょっと変わってるね」
「そうかな?そうかも」
「ところで春、そろそろ気を確かに」
「奏様。私これからハネムーンへ行って参ります」
「もう結婚式を済ませたのか!?しっかりするんだ!春!春ー!!」
私、春麗嵐、はっぴーえんど。
日曜日、俺たちは春の家に招待された。
その道すがら、奏とクロは和気あいあいと少女漫画の話で盛り上がっている。
「なあ、俺にも貸して」
「やだね」
「何でだよ」
「借りたきゃ春に借りろ」
「そんなことできるかよ」
「創様は会話に参加できず寂しい思いをされているんです」
「あーそういうことー」
「奏。でたらめ言うな」
「いや奏の言う通りだろ。ちったあ素直になれよ。寂しいなら寂しいって言やいいんだぜ?」
「寂しかねーし!ちょっと気になっただけだし!」
「あの……!」
私、思わず大声を上げてしまいました。
近所の人に聞かれていたら恥ずかしい。
「お元気なのはとてもよろしいのですが、ひとのお家の前で喧嘩しないでもらえますか?」
俺はクロと顔を見合わせて、またそっぽを向いた。
どうも不思議とコイツとはすぐ喧嘩になる。
奏はそれをニコニコ見て楽しんでいるし。
変わった奴らと友達になってしまった。
「小さくて狭いお家ですが、どうぞ」
はわわわわわ!?
とうとう王子様たちを城へお招きしてしまった!?
これはもう退学するしかないのでは!?
だって、こんなズルして、いい思いして、愛を独り占めなんて、みんなに合わせる顔がないじゃん……。
「ようこそ。上がって」
「おはようございます。いつも春にお世話になっています。犬飼創です」
「はい、おはよう。麗嵐の父です」
春の父親が迎えてくれた。
無表情で物静かだけれど雰囲気は柔らかい。
着物が似合う透明感のある人だ。
春が書家だと紹介してくれた。
「ゆっくりしていって」
お父さんよして!
ゆっくりしたら私のぼせちゃう!
ゆでだこになっちゃうよ!
残念だけれど王子様たちには早く帰ってもらわなきゃ。
シンデレラだって零時には帰るのよ。
だから、お昼の十二時までには帰ってね。
「春。いつまで、くねくねしてんだ」
「はっ!私ってば!」
「お前、家でもそれかよ」
「こっちは、いきなり王子様たちがお家に押しかけて来るからパニックなんですよ!」
「いや、そっちが誘ったんだろ!」
「そうだった。待たせているので案内しますね」
春の部屋に入れる。
と、ちょっと期待してしまった。
が、案内されたのは春の弟の部屋だった。
スッキリと片付いた部屋で、物が少ない。
彼は下のスペースに机を置いたベッドの上から、こちらを見下ろしていた。
お父さんによく似て透明感がある。
「レイ。そこから下りて自己紹介して」
「はじめまして。高橋零です」
「もう!下りなさいってば!」
「分かった。でも部屋、狭いよ」
「いいの。見下ろすのだけは失礼だから絶対にダメ」
私のかわいい弟、零は中学二年生。
四月に三年生になる。
大人しくて静かな子。
小さい頃は、よく私にひっついて興味をひこうと、からかってきたりして可愛かったんだけれど、最近はそっけなく感じる。
思春期だからかな?
「ごめん、悪いとは思うけど聞いていい?」
「クロ様のききたいこと分かります。苗字の違いですね」
「姉さん、どうして敬語なの?」
「気にしなくていいの!」
「だって変でしょう」
「ぐぬ……!」
笑ったらダメだ。
と俺はガマンしたのにクロは平気で腹抱えて笑う。
ところで俺も失礼ながら気になる。
春麗嵐。
高橋零。
二人は実の兄弟か、そうで無いのか。
春が話を再開したので耳をそばだてる。
「私と零はお母さんが違うの。私を産んでくれたお母さんは、私が小学生になる前、お星様に……。それから私が寂しい思いをしないようにって、お父さんが婚活を頑張って、めでたく結ばれたステキな人との間に産まれた子供が零なんだよ」
「聞いて悪かったな」
「いいのよクロ様。聞いておいた方がスッキリするでしょう。聞かれなくても私からお話するつもりでした。だって、もし私たちが血の繋がりのない姉と弟だと想像して、王子様たちは嫉妬でモンモンしちゃうでしょ?」
「うん」
あら創様ってば!
「あ、や、違う」
しまった油断した。
言い訳を考えないと。
そこの男二人、ニヤニヤするな。
「お前はやっぱりヤバい奴だって、うなずいたんだ」
「ひどい!けど今のは反論できない!」
私も今のはキモすぎたかもと思う。
ぺこたん反省。
「こほん。それで私の苗字、春はお母さんの苗字なんです。お母さんがいつも側にいるよ、という想いで、お父さんが残してくれたんです」
「じゃあ俺、今日から麗嵐て呼ぶよ」
「にゃっ!?」
コイツは何かと気を失いそうになる。
ひっくり返りそうになったので、とっさに体が動いて、偶然にもお姫様だっこのような形になってしまった。
でも恥ずかしさはない。
ずっとこうしてみたかった気さえする。
「春だと、お母さんのことを呼んでいるみたいになるだろう。だから、これからは、ちゃんと名前を呼ぶよ」
「そこまで気にしなくていいのに」
「そうしたいんだ。さ、起こすぞ」
「うん。ありがとう」
私の名前は両親が、二人がそれぞれ付けてくれた大切な名前。
春麗、その言葉の意味するように明るく穏やかに。
春嵐、荒天と掛けて破天荒な勇気あれ。
合わせて麗嵐。
二人が楽しそうに赤ん坊の私に語りかける姿を映像で何度でも観た。
思い出しても胸が温かくなる。
いま、創様に名前を呼ばれて同じ思いを感じている。
私のこの気持ちに、きっと嘘はないんだ。
「それで姉さん、俺は奏さんのチームに入ったらいいの?」
「あ、うん。そう。みんなはどうですか?」
「零くんは、いま中学二年生だよね?」
「ん」
「大きくなったなあ。会うのは中学校の卒業式以来だね。あの時はまだ小学生で、もっと小さかった」
「中学生になって、急にグンと背が伸びてきたの。不思議だよね」
「男の子ってそういうもんだよ」
「奏くんは小学生の時から、ずっと大きかったよ」
「ははは。俺は特別だ」
また幼馴染トークで盛り上がっている……。
それにしても奏と零に面識があったんだな。
それもそうか。
きっと小学校が一緒だったんだろう。
奏がいてくれて良かった。
零がチームに入ったとして孤立することはないし、俺とクロも彼と接しやすくなる。
「二人は俺がチームに入ることに反対しないんですか?」
「僕はいいぜ。あんたこそいいのか?歳上しかいないぞ」
「気にしません。姉さんの友達だし」
「そっか。創も反対しないよな?」
「ああ、しないよ。ところで、零はバスケの経験はあるの?」
「創様!私の弟は凄いんですよ!」
「へえーどう凄いんだ?」
「あらゆる運動部から助っ人を頼まれるほど運動神経が抜群なんです!センス大爆発なんですよ!」
「マジ!?すげーかっけえな!リアルでそんな奴いるんだ!」
「ふっふっふっ。いるんですよ。ここにね」
「どうして姉さんが偉そうにするの」
「自慢の弟だから!」
零は小さくため息を吐く。
どれだけウザがられても可愛い可愛い自慢の弟。
スポーツ万能で、勉強もちゃんとする。
家事手伝いだって進んでやる。
よくできた子。
だからこそお姉ちゃん、ちょっと寂しいな。
「零。困ったことがあれば、お姉ちゃんをいつでも頼ってね」
「別に困ることはないよ」
「むうー。あっそ」
長居するつもりはなく、顔合わせを済ませたので今日のところは帰ろうとした、その時、ちょうど麗嵐のお母さんが帰ってきた。
穏やかだけれど、その笑顔からは内に秘める眩い元気があふれている。
玄関で出くわした俺たちは押し戻されるようにリビングへ通された。
その奥に畳のしかれた居間があって立派な仏壇を見つけた。
俺たちは、みんなで手を合わせて挨拶することにした。
眠る女の子を抱いた綺麗な女性がほほえんでいる。
「お母さん、今日は王子様たちが三人も来てくれたよ」
「変わった紹介はやめてくれ」
お母さん。
私、変なこと言っていないよね。
みんな私にとって王子様みたいな人達だもん。
だからね。今とっても幸せなんだよ。
「間に合って良かったわ。これから、みんなでお昼ごはんにしましょうね」
「母さん。お昼、なに?」
「零の好きなお好み焼き。みんなで分けて食べてちょうだいね。お父さーん、ホットプレートを出してー」
「お母さん、私が出すよ」
「ありがとう麗嵐。そうだ。あなたの好きな初恋の味がするイチゴミルクプリンを買ってきたわよ」
「わーわー!みんなの前で言わないでー!」
「うふふ」
やっぱり麗嵐の日常はメルヘンだった。
イチゴミルクプリンは初恋の味がするなんて、俺は一度も聞いたことがない。
ほんと面白くて飽きない。
「あんたの姉ちゃん、昔からこんな感じ?」
「ちょっとクロ様!私のプライベートについては聞かないでください!」
「姉さんは昔からこんなだよ。俺が小さい時、絵本じゃなくて少女漫画をよく読み聞かせてくれたんだけど、こうなりたいとか、こうなりなさいとか、途中途中あーだこーだ言ってうるさいんだ」
「零!うるさいは傷つくよ!」
「でも良かった」
「何が?」
「夢、ほとんど叶ったでしょう」
いい子!
なんて可愛い笑顔!
胸キュンポイント急上昇!
自慢の弟よ、学校ではさぞかしモテるんだろう。
お姉ちゃん少し妬いちゃうかも。
「で、誰が姉さんの彼氏?」
「ややややややめなさいってば!いませんよ!」
「なんだ。つまんないの」
「つまんないて何よ、もー」
「創さんが彼氏かと思った」
「ちちちちちちがうって!ねーよ!」
「創さんのこと、兄さんて呼んでいいですか?」
わっ!素晴らしい後輩だ!
兄さん、それはなんて可愛い響きなんだ!
「ぜひ呼んで。俺、姉ちゃんが二人いてさ、ずっと弟が欲しかったんだ。あ、でも本当に弟扱いとかしないから心配しないで」
「弟みたいに接してくれていいですよ。俺も兄さんが欲しいと思っていました」
「ちょっと待て!創だけズルいぞ!」
「クロさんのことは先輩と呼んでいいですか?」
「え?なんで?僕も兄さんじゃダメなの?」
「ダメってことはないけど。先輩って感じでしょう」
「距離が遠く感じるんだけどそれ」
「やだな。そんなことないですよ」
「まず敬語使うな。禁止だ」
「えーでも」
「いいから。気にすんな」
「へえー珍しいなクロ。今日はやけに積極的だな」
「うっせ。創、あんたにだけは言われたかないね」
「奏さん、奏さん」
「どうした?声をひそめて」
「この二人はライバルなの?」
「うん。正解」
「このチームに入れてもらえて良かった」
「どうして?」
「すっごく楽しそう」
「ははは……零くんちょっと変わってるね」
「そうかな?そうかも」
「ところで春、そろそろ気を確かに」
「奏様。私これからハネムーンへ行って参ります」
「もう結婚式を済ませたのか!?しっかりするんだ!春!春ー!!」
私、春麗嵐、はっぴーえんど。
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