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旭ガ丘ひつじ

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6話 聖夜の猫会議

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私、春麗嵐。
花も恥じらう高校二年生の乙女。
今日もまたオジサンのお宅にお邪魔している。
家主であるオジ様とオバ様はラブラブ旅行へお出かけ。
なので王子様たちはお泊まりするそう。
悔しい!私がオスだったら一緒にお泊まりできたのに!
ああ私ってば可哀想な子。
自分さえもトゲで傷付ける一輪の青いバラなのよ。

「まだ落ち込んでるのか。せっかく、あんたが大喜びしそうなクリスマスパーティーなのによ」

「クロ様。私、サンタになって夜中に忍び込んでもよろしいでしょうか?」

「いいわけねーだろ!やっぱ、あんた変態だな!」

「違いますー。クロ様ってば何をスケベな想像されているんですか?やだー」

「は!?考えてねーわ!」

「いーやーらーしーやー」

「口じゃなく手を動かせよ」

「はいはーい」

私は今、ツンツンのクロ様とディナーを用意している。
はっ!つまり初めての共同作業ってこと!?
がーん!
まるで私ってば……浮気なことして最低だわ!

「サラダ盛り終わったから運ぶぜ」

「あ……うん」

「どした?疲れたなら無理せず休め」

「や、だめ。そんな近くに来ないで」

「テーブルを挟んでるんですけど」

「よく考えたら今、二人きりじゃない?クロ様はドキドキしないの?」

「ねーわ」

「しなさいよ!」

「何でだよ!頭お花畑の女とか嫌だわ!」

「私だって口の悪い不良は嫌いですー。ドキドキした私がバカだった。ふんだ」

「なんだよ?あいつよりも僕のことが気になるのか?」

いやいやそんなこと……て!
クロ様が突然の急接近!
なんですかその悪戯な顔は何をする気ですか!
何かを期待するほど私は軽い女ではございませんよ!

「顔は可愛いんだけどな」

「え!顔は可愛いですか!?」

「いやチョロすぎだろ。ちったあ気をつけろよ。創が泣くぜ」

「どういう意味ですか」

「からあげ、焦げてない?」

と油断させて突然のバックハグ!?
お父さんにしかされたことないのに!小さい時だけど!

「ククククククロ様!?」

「ごめん。なんでもない」

急に甘えるなんて、かわい。
でもズルいよ。そんなに積極的なことするなんて。
でもでも、ここで萌天したら自分を裏切ることになるぞ私。

「萌天て何?」

「萌えて昇天の略です。て、口に出てました!?」

「出てた。それより怒らないのか。いきなり後ろから抱きつかれたんだぜ」

「言われなくても怒ってますよ!セクハラです!変態です!ぜんぜん嬉しくなんかないんだからね!」

「いや、その言い方だと喜んでるみたいだぞ」

「マジギレです!」

「ごめんなさい。もう二度としません」

「ちょっと残念だけど。そうしてください」

「また本音が漏れてる」

「うう……私ってば、はしたない子」

「サラダ運ぶわ」

「お願いします」

ちっ、僕としたことが。
少しだけ胸が苦しくなったのは嘘だ。
創のことを思い出すとムカムカするし。
二人きりになったせいで、おかしくなったんだ。
そうだ思春期が悪い。
あと少女漫画の読み過ぎだな。

「ねえ。クロ様はどこの学校に通っていらっしゃるんですか?」

「辞めてやった。不登校」

「カッコいい!」

「感性メチャクチャだな!」

「もう通いたくないほど学校が嫌いなのですか?」

「ズケズケと聞くんじゃねーよ」

「ですよね」

「……まあ。通いたい理由はない」

「良ければ、うちの学校へ来ませんか?」

「はんっ、冗談言うなって」

「きっと楽しいですよ!私たちはいつでもウェルカムですからね!」

「編入したってクラスで浮くだろ」

「創様が、ほぼボッチみたいなものだし、気にしなくて大丈夫ですよ」

「それ本人の前で言うなよ?」

「てへ。話題を変えましょうか」

「なら創と奏のこと教えてくれよ。まだちょっと疎外感を感じてるから」

「仲間はずれで寂しいんだ」

「うっせー。ニヤニヤすんな」

俺と奏でスーパーに買い出しに来たのはいいけれど……。
あいつら仲良くやっているかな。
いくら惚れっぽい春だからってまさかイチャイチャしていないよな。
まだクロのことよく分からないし、オジサンの甥だからってあっさり信用してもいいだろうか。
いやダメだ。あいつは友達だ。
これから一緒に、本格的にねこバスケをやっていくのに疑ってどうする。
最低だぞ俺。

「創様。二人のことが気になりますか?」

「うん……ううん」

「ははは。分かりやすいですね」

「別に気にしてねーし。アイツらが何してようが知ったこっちゃねーよ」

「心配しなくても大丈夫でしょう」

「何でそう言い切れるんだ?」

「春は一途だからです」

「どこがだよ」

「幼馴染とは言え、俺は彼女の全てを知っているわけではありません。特別に仲が良かったわけでもありません。けれど、今それだけはハッキリ分かります」

「だからどこが?何で分かるの?」

創には彼女の熱い視線のことは、あえて黙っておこう。
あまり勝手を言い過ぎても春に悪い。
少し嫉妬してしまうくらい彼女は彼のことを真っ直ぐに見ている。
それも、とても穏やかな瞳で。

「なんとなくです」

「なんとなくかよ」

こいつ肝心なところ隠しやがって。
特別に仲が良かったわけじゃないって、それどれくらいだよ。
気にしたくないのに気になる。
奏と春は小中(学校)一緒で運動会とか学芸会とか遠足とか修学旅行も一緒に参加したんだよな。
て、どうでもいい。
なにを気にしているんだか。

「あ、お菓子の好み聞いてなかったな」

「何でもいいのでは?」

「とは言っても。やっぱ聞くだけ聞いといた方がいいだろ」

「なら電話しないとね」

「だな。クロに電話しよう」

「ええー」

「て何だよ。女にかける方がキモいだろ」

「そんなことはございません」

「てか、どっちだっていいだろう」

「春にかけろ!」

「こわっ!びっくりした!」

「お願いします」

「ったく。お前が言うから仕方なくかけるんだからな。後で説明してくれよ」

春も創も消極的。
それなら俺が二人の仲を取り持たなければ。
たとえそれがお節介でも、やらない後悔よりやる後悔の方がマシだ。
そう。
何かを成そうという勇気こそ必要だ。
それが誰かの為であっても。

「あ、もしもし?」

「もしもし?どうした?」

「あれ?クロ?」

「おう。春はいま手が離せなくってな」

「手が離せないってどういう状況だよ!」

「うっせーな!急に大声出すんじゃねー!」

「悪い」

「いきなりロールキャベツつくるとか無茶言い出して、僕にレシピを調べさせて、いま茹でたキャベツ巻いてんだよ。冷蔵庫からっぽにするつもりらしいぜ」

「あいつ……よその家で何やってんだ」

「まあ良いよ。叔母さんから許可もらったし」

「そっか」

「で、何?」

「ああ。お菓子の好みを聞こうと思って」

「ちょっと待って」

よく聞こえない。春の声を聞かせろ。
こいつ、わざわざ聞こえないようにしているのか?
やっぱなんか変なことやってんじゃねーだろうな?

「おいクロ」

「ん?」

「春に、その、あれだ。ちょっかい出すなよ」

「ぷっ……」

「おい」

「あっはっはっはっ!こいつぜってー好きじゃん!めっちゃウケるわ!」

「勘違いしてんじゃねーよ!」

「はあ?勘違いしてんのは、あんたの方だろ?」

「んだと」

「あ?喧嘩売ってんのか?」

「そんなつもりねーよ」

「はいはい二人ともそこまで」

「奏、俺はいまクロと話してんだ。邪魔するな」

「喧嘩するなら俺に代わってください」

「してない」

「ならどうぞ」

「クロ」

「なに?」

「お菓子の好みは?」

「春は、たまごボーロが食いたいってさ」

「わかった。お前は?」

「何でもいい。あんたに任せる」

「わかった。じゃな」

「おう。ゆっくり帰って来いよ」

「あ!?てめえこの野郎!」

けっさくだ。腹が痛いくらい面白い。
創は、とんでもなく単純で素直な奴だ。
ちょっと見りゃすぐ分かる。
あんた分かりやすいんだよ。
だから先輩に絡まれたり敵をつくることになるんだ。

「クロ様?最後の聞き捨てならぬセリフは何ですか?」

「何って。からかってやったんだよ」

「どうして、そういう意地悪するんですか」

「あいつ、あんたのこと好きみたいだぜ」

「そう」

「あれ?喜ばねーの」

「そういうのは本人から直接、思いを伝えてほしいので」

「……だな。ごめん、野暮なこと言った」

「むふ、もしかして嫉妬してます?」

「ねーよ」

クロ様けっこー分かりやすい。
すぐ態度に出るから。
あわわ、しかし、とんでもないことに、なっちまったぜ。
まさか王子様、それも二人から好意を向けられるなんて。
もうこれ以上、罪を重ねたくないよ。
二人の気持ちを思うと胸が痛いよ。
ああ、いつか私はどちらか一人を選ばなくてはいけないのね。
それが運命。
そして選ばれた彼が運命の王子様。
ぱちぱちめでたしぱんち。

「はうう……」

「おい。肉ダネがハート型になってんぞ」

「はっ!私ってばつい自惚れていました!」

「うぬぼれてるって、まさか私モテてるとか思ってる?」

「そりゃもう間違いなくモテモテじゃないっすかー。だってクロ様も私のことラブなんでしょー。やだー困っちゃうー」

「僕は浮気な女は好きじゃない」

「むかっ!浮気じゃありません!人から好意を向けられて喜んではいけないのですか!」

「マジで嫌じゃないのか?キモいとか思ってない?」

「キュンです」

「ふっ。あっそ。あんたは幸せ者だな」

「バカにしてますね」

「褒めてんだよ」

創様と奏様が帰宅して、お菓子とケーキが届いた。
待ちに待ったパーティーの始まりだー!

「からあげは、クロが味付けしたんだろ?」

「冷めてるからそんなに、うまくねーだろ」

「そんなことないよ。うまい」

二人が無事に仲直りしてくれて、私も美味しい思い。
ピザの上に男子の友情をトッピングしてご馳走様。
万福です。

「僕よりも春を褒めたら?この料理のほとんど、春がつくったんだぜ」

「いえいえ。クロ様のお力添えのおかげです」

「春、うまい!最高!」

「はう……!創様、私にはもったいない御言葉ですう」

「泣くほどのことかよ」

「このロールキャベツは優しい味がする。春が真心込めて料理してくれたことがよく分かるよ」

「奏様まで!私、感激のあまり、その賞賛だけでもうお腹いっぱいです」

「へっ、何言ってんだ。お前、いちばん食ってるからな」

「ふしゃあー!誰がデブネコですか!」

「そんなこと言ってねーよ!」

創様は隙あらば私のことを悪く言うから困っちゃう。
でも今日は特別な日だから許してあげるね。
さてさて、ご飯を食べたら待ちに待ったケーキのお時間だよ。

「チーム結成のお祝いも兼ねたケーキです。一番、大きいものを注文しました」

「お!奏、チョコケーキを選んだのか!」

「クロ様は苦手ですか?」

「いや大好き!ラッキー!ありがとう!」

はうっ。
いたいけな一面もまた魅力。
あの無邪気な笑顔はまるでツリーのてっぺんで輝くお星様のよう。

「はっ!」

「どうした春」

「創様!まだチーム名を決めていないじゃないですか!」

「うん、だな」

「決めずしてお祝いになりますか!」

「じゃ、春に任せる」

「えーこいつのセンス、ぜってーヤベェだろ」

「ぱちぱちぱんち」

「ほらなー」

「文句がおありならクロ様どうぞ」

「僕はいい」

「ずるい」

「んだと!わーったよ!ちょっと待ってろ」

みんなの注目がクロ様へ集まる。
ミルクティーをゴクリ。

「アサヒスーパーダンク」

「はは、ほぼビールじゃん」

「あ?創テメェ」

「あさひちゃんが入ってるのは可愛い」

「センスが壊滅的ですね」

「奏このっ!ちっ、次は創、言え!」

「えー俺はパス」

「バカ!そんなの許されっか!」

「バカじゃねーし!バシッと決めてやるからよく聞けよ」

みんなの注目は創様へ。
ポテチパリパリごっくん。

「スプリングウルフ」

「ねこバスケなのに犬科じゃねーか」

「いいだろ別に。春も入れたし完璧だろ」

「嬉しいけどダサい」

「は!?」

「では次は俺の番ですね」

「なんか感想くれよ!」

奏様へ注目。
たまごボーロさっくさく。

「ブザービーター」

「バスケ用語じゃん。無難なとこに逃げんな」

「奏、悪い。期待はずれ」

「クロ様……創様……俺悔しいです……」

長い沈黙。
まるで反省会。
クリスマスパーティーだよ?
エンジョイしよ?
あ、ピーナッツ美味しい。

「お前ずっと食ってるな」

「いいじゃないですか別に。はい、創様もピーナッツどうぞ」

「やっぱり春に決めてほしい。三人が納得するのは、お前が決めた名前しかないと思う」

「そう言われましても……」

スマホを使って、ネットでちょいと調べてみる。

「あ、みなさん。どうぞ気にせず召し上がってくださいね」

もくもくとして黙食。
ううー気まずい。
何かいいアイディアは……これだ!

「発表します!」

王子様たちの熱い視線が私に注がれる。
ケーキのロウソクみたいに、ああ、溶けてしまいそうだわ。

「エバーマスカレード」

「なんだ、それ?どう言う意味?」

「エバーじゃなくてネヴァな。ネヴァマスカレードは、サイベリアンのカラーの一種だよ」

「クロ様ご名答。創様、これならいかがでしょうか?」

「まあまあいいんじゃね」

「奏様はどう思う?」

「ふっふっふ。さすが春。意識的にエバーとネヴァを掛けたね?」

「どきっ……!」

「エバーは、いつも、マスカレードは、仮面舞踏会をそれぞれ意味する。王子様たちとの楽しい仮面舞踏会がいつまでも続きますように。という純情可憐な乙女の願いが込められているんだ!そうだろう!」

「ああ、おっしゃる通りです奏様!どうして私が胸の奥にそっと秘めた乙女の恋心に気付かれるなんて……!」

「へーーーよく分かったな」

「俺は幼馴染ですので。この以心伝心が羨ましいですか、創様?」

「いやまったく思わない」

創様の顔が雪だるまみたいにカチコチ。
ちょっと残念ですが。
こんな風にして、ふわっと、チーム名が決定。
そして食べたり遊んだり、楽しいクリスマスパーティーは、あっという間に終わって……。

なんと最後にサプライズプレゼントが!

王子様たちにお家までエスコートして頂いて、うふ、お姫様気分の夢心地なのでした。

めでたしめでたし。
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