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ギルドマスターの責任
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ランド伯爵領、冒険者ギルド支部2階。ギルドマスター室。
「難しいお願いではないのです。ただ、ギルドから凄腕を10人ほど紹介してくださればいいだけなのですから」
人払いされた部屋。商人然とした男、ゲダンが初老のギルドマスターに詰め寄っている。
「いやあ、ゲダンさん。規則上、紹介だけというのはできないのですよ。目的をお伺いしないと」
困ったように答える支部長。
「では…、『ゴミ掃除』をおねがいするということで…」
「はあ。掃除でしたら、凄腕でなくともいいのでは?」
「いやあ、掃除する場所にごろつきがいるものでしてねぇ」
忌々しそうに吐き捨てるゲダン。
「場所はどちらですか?」
「ゴミが移動するものですから。どことは」
答えをはぐらかす商人に困惑するギルマス。
「うーん、曖昧ですなあ。それではギルドとしては紹介できないのです。ご依頼の武闘派冒険者にしても、先のスラム一斉検挙で人数が少なくなっていましてね」
「……ふむ。その貴重な冒険者を紹介していただけたら、相場の3倍お出ししましょう。その他にギルドマスターに謝礼として同額を…」
「い、いえ!決してお金の問題では…。規則を守れるかどうかなのでして…」
相場の3倍、自らへも謝礼ということで気持ちは揺らぎつつも、なんとか倫理観を優先させるギルマス。
脈があると踏んだ商人が畳みかける。
「そうしましたら、我々の依頼が不確定要素が強いということで、保証料を含めて依頼金額を5倍にさせていただくというのは…?もちろん、ギルドマスターへの謝礼も同額をお渡しします」
怪しく目を光らせる商人に、ついに決断するギルドマスター。
「…ごほん。仕方ありませんね…。普段からお世話になっている王国工房さんのお願いですから。お受けしましょう。…くれぐれも問題を起こさないように」
「私は問題を起こしませんよ。…しかし、紹介された冒険者が『個人で』問題を起こした場合の責任まで私のせいにはならないですよね?」
「それはそうですが…。ただし冒険者への依頼内容によっては…」
マスターが念を押そうとすると、商人が話をさえぎる。
「10倍…出します。こちら小切手です。更に万が一、事故や事件が起こった場合に備えて『対応への手間賃』として同額をお渡ししましょう。了承していただければ、すべて今、お渡しします」
冒険者の紹介料分の小切手。ギルドマスターへの謝礼の小切手。更に問題が起こった場合の手間賃としての小切手がテーブルに広げられる。
ここまで金を出すということは、ただ事ではない。ロクでもない案件であることは間違いないだろう。
だが、目の前にあるのは、ざっと王都で大豪邸が買えるほどの額。この金さえあれば、ギルドマスターをやめても一生、遊んで暮らすことができる。ギルドに問題が起きたとしても、自分には金が残る。
それに、一応、相手は王都三大デザイナーの商人である。そこまで危ないことはしまい。
「……わかりました。では、冒険者を集めておきますので、16時頃、こちらにおいでください。…その際は裏の職員入り口からお入りください。また、今後のお帰りは裏口からで…」
「わかりました。頼みましたぞ」
部屋を出て、扉の外で待っていた付き人の男と合流する商人。
「…ゲダンの旦那、首尾はどうでしたかい?」
鋭い目つき、長剣を背負う痩せた長身の男が主人に声をかける。
「目的は達した。…しかし、冒険者ギルドを介さないとごろつきも集められんとは不便な時代になったものだ」
「政権が変わってから俺らのような者はツテがなくなりましたからな。暗殺系ギルドや盗賊系ギルド、非合法組織も解体されてしまいました」
「汚れ仕事を任せるのも一苦労だ。ここでの依頼は身分を偽ることすらできんし、口止め料まで含めて余計な金がかかった」
「今の政権、息苦しいったらありゃしません。犯罪者の居場所がなくなってますぜ」
「ああ…。我ら王国工房が一矢報いてやる。手始めに、忌々しいラメンダのやつを」
……。
………。
3日後の午後。同場所。
「おらよっ!」
銀髪の騎士がドアを蹴破る。
彼と彼の配下の警備兵たちが一斉に室内に飛び込んでいく。
「な、なんだ!お前たちは!」
室内にはギルドマスターの男と、40代半ばほどの女性サブマスター。
「おう!ランド騎士団、副団長ヒュンケだ!犯罪者をとっつかまえに来たぜ!」
「お前、狂犬ヒュンケか!犯罪者などここにはいない!騎士団とはいえ、証拠もなく狼藉は許されないぞ!」
武闘派と名高いヒュンケの登場に気色ばむギルドマスター。ギルドは地方権力とは別の独立組織。領主直属の騎士団といえど証拠もなく突入など許されることではない。
「ほれ、証拠だ!お前ら、投げ込め」
ラメンダ夫人邸を襲った者のうち、ヒュンケに即刻処刑された4人の首が投げ込まれる。
「うわああっ!」
「ぎゃあああっ!」
ギルドマスターとサブマスターが腰を抜かす。
「こいつら、お前らのギルド斡旋だろ?ラメンダ夫人邸に武装襲撃しやがった。目的は夫人の殺害だったそうだ。素直に答えねえと、お前らもこうなる。俺は気が短いからな!」
「わ、私は何も知らん!!ただ、紹介を依頼されただけだっ!」
「いーや!悪いんだな!お前の斡旋した冒険者がラメンダ邸を襲撃したんだ。お前も一枚噛んでるってことになる」
「そんな!そんなことになるとは知らなかった!」
事の重大さに青ざめるギルドマスター。
「ギルドマスターが知らなかったで済まねえぞ。サブマスの姐さん、あんたは何か知ってか?隠すと同罪になるぜ?」
「ひ、人払いされたマスター室に、この冒険者たちが入っていくのを見ました。それに金庫にあり得ない額の高額小切手が収められています!」
ギルマスの怪しい動きに不信感を持っていたサブマスが全てを暴露する。
「こ、こら!余計なことを!」
「よし、姐さん、あんたは執行猶予をやる。後で任意で取り調べだ。マスターは即逮捕。お前、金に目が眩んでとんでもないことしてくれたな」
「ぐ…。引き受けるんじゃなかった…」
「ったく!犯罪者を捕えるべき立場のギルマスが何やってんだ。判断が甘い、人を見る目がねえ、仕事を舐めてる。全財産取上げの上、強制労働ってとこだな」
ヒュンケの容赦ないダメ出しと、今後の絶望的な処遇の見通しに、うなだれるばかりで声も出ないギルマス。
「よし、証拠品の小切手よこせ。片付けたら、すぐ次行くぞ」
サブマスによって金庫が開けられ、小切手が渡される。ギルマスに手錠をかける警備兵たち。
「おい、サブマスの姐さん。王国工房関連の書類をまとめといてくれ!マスターの不始末も全部だ。それであんたの監督不行き届きを幾らか軽減できるはずだ」
「はっ、はい!肝に銘じます!」
次は王国工房ランド支店に向かう一行。部下に引き出されるギルマスに再度、言い含めるヒュンケ。
「隠し事すればするほど不利になるからな!移動中、全部吐いてもらうぞ!」
銀の狂犬に睨まれたギルドマスターはただ、ガタガタと震えるしかできなかった。
「難しいお願いではないのです。ただ、ギルドから凄腕を10人ほど紹介してくださればいいだけなのですから」
人払いされた部屋。商人然とした男、ゲダンが初老のギルドマスターに詰め寄っている。
「いやあ、ゲダンさん。規則上、紹介だけというのはできないのですよ。目的をお伺いしないと」
困ったように答える支部長。
「では…、『ゴミ掃除』をおねがいするということで…」
「はあ。掃除でしたら、凄腕でなくともいいのでは?」
「いやあ、掃除する場所にごろつきがいるものでしてねぇ」
忌々しそうに吐き捨てるゲダン。
「場所はどちらですか?」
「ゴミが移動するものですから。どことは」
答えをはぐらかす商人に困惑するギルマス。
「うーん、曖昧ですなあ。それではギルドとしては紹介できないのです。ご依頼の武闘派冒険者にしても、先のスラム一斉検挙で人数が少なくなっていましてね」
「……ふむ。その貴重な冒険者を紹介していただけたら、相場の3倍お出ししましょう。その他にギルドマスターに謝礼として同額を…」
「い、いえ!決してお金の問題では…。規則を守れるかどうかなのでして…」
相場の3倍、自らへも謝礼ということで気持ちは揺らぎつつも、なんとか倫理観を優先させるギルマス。
脈があると踏んだ商人が畳みかける。
「そうしましたら、我々の依頼が不確定要素が強いということで、保証料を含めて依頼金額を5倍にさせていただくというのは…?もちろん、ギルドマスターへの謝礼も同額をお渡しします」
怪しく目を光らせる商人に、ついに決断するギルドマスター。
「…ごほん。仕方ありませんね…。普段からお世話になっている王国工房さんのお願いですから。お受けしましょう。…くれぐれも問題を起こさないように」
「私は問題を起こしませんよ。…しかし、紹介された冒険者が『個人で』問題を起こした場合の責任まで私のせいにはならないですよね?」
「それはそうですが…。ただし冒険者への依頼内容によっては…」
マスターが念を押そうとすると、商人が話をさえぎる。
「10倍…出します。こちら小切手です。更に万が一、事故や事件が起こった場合に備えて『対応への手間賃』として同額をお渡ししましょう。了承していただければ、すべて今、お渡しします」
冒険者の紹介料分の小切手。ギルドマスターへの謝礼の小切手。更に問題が起こった場合の手間賃としての小切手がテーブルに広げられる。
ここまで金を出すということは、ただ事ではない。ロクでもない案件であることは間違いないだろう。
だが、目の前にあるのは、ざっと王都で大豪邸が買えるほどの額。この金さえあれば、ギルドマスターをやめても一生、遊んで暮らすことができる。ギルドに問題が起きたとしても、自分には金が残る。
それに、一応、相手は王都三大デザイナーの商人である。そこまで危ないことはしまい。
「……わかりました。では、冒険者を集めておきますので、16時頃、こちらにおいでください。…その際は裏の職員入り口からお入りください。また、今後のお帰りは裏口からで…」
「わかりました。頼みましたぞ」
部屋を出て、扉の外で待っていた付き人の男と合流する商人。
「…ゲダンの旦那、首尾はどうでしたかい?」
鋭い目つき、長剣を背負う痩せた長身の男が主人に声をかける。
「目的は達した。…しかし、冒険者ギルドを介さないとごろつきも集められんとは不便な時代になったものだ」
「政権が変わってから俺らのような者はツテがなくなりましたからな。暗殺系ギルドや盗賊系ギルド、非合法組織も解体されてしまいました」
「汚れ仕事を任せるのも一苦労だ。ここでの依頼は身分を偽ることすらできんし、口止め料まで含めて余計な金がかかった」
「今の政権、息苦しいったらありゃしません。犯罪者の居場所がなくなってますぜ」
「ああ…。我ら王国工房が一矢報いてやる。手始めに、忌々しいラメンダのやつを」
……。
………。
3日後の午後。同場所。
「おらよっ!」
銀髪の騎士がドアを蹴破る。
彼と彼の配下の警備兵たちが一斉に室内に飛び込んでいく。
「な、なんだ!お前たちは!」
室内にはギルドマスターの男と、40代半ばほどの女性サブマスター。
「おう!ランド騎士団、副団長ヒュンケだ!犯罪者をとっつかまえに来たぜ!」
「お前、狂犬ヒュンケか!犯罪者などここにはいない!騎士団とはいえ、証拠もなく狼藉は許されないぞ!」
武闘派と名高いヒュンケの登場に気色ばむギルドマスター。ギルドは地方権力とは別の独立組織。領主直属の騎士団といえど証拠もなく突入など許されることではない。
「ほれ、証拠だ!お前ら、投げ込め」
ラメンダ夫人邸を襲った者のうち、ヒュンケに即刻処刑された4人の首が投げ込まれる。
「うわああっ!」
「ぎゃあああっ!」
ギルドマスターとサブマスターが腰を抜かす。
「こいつら、お前らのギルド斡旋だろ?ラメンダ夫人邸に武装襲撃しやがった。目的は夫人の殺害だったそうだ。素直に答えねえと、お前らもこうなる。俺は気が短いからな!」
「わ、私は何も知らん!!ただ、紹介を依頼されただけだっ!」
「いーや!悪いんだな!お前の斡旋した冒険者がラメンダ邸を襲撃したんだ。お前も一枚噛んでるってことになる」
「そんな!そんなことになるとは知らなかった!」
事の重大さに青ざめるギルドマスター。
「ギルドマスターが知らなかったで済まねえぞ。サブマスの姐さん、あんたは何か知ってか?隠すと同罪になるぜ?」
「ひ、人払いされたマスター室に、この冒険者たちが入っていくのを見ました。それに金庫にあり得ない額の高額小切手が収められています!」
ギルマスの怪しい動きに不信感を持っていたサブマスが全てを暴露する。
「こ、こら!余計なことを!」
「よし、姐さん、あんたは執行猶予をやる。後で任意で取り調べだ。マスターは即逮捕。お前、金に目が眩んでとんでもないことしてくれたな」
「ぐ…。引き受けるんじゃなかった…」
「ったく!犯罪者を捕えるべき立場のギルマスが何やってんだ。判断が甘い、人を見る目がねえ、仕事を舐めてる。全財産取上げの上、強制労働ってとこだな」
ヒュンケの容赦ないダメ出しと、今後の絶望的な処遇の見通しに、うなだれるばかりで声も出ないギルマス。
「よし、証拠品の小切手よこせ。片付けたら、すぐ次行くぞ」
サブマスによって金庫が開けられ、小切手が渡される。ギルマスに手錠をかける警備兵たち。
「おい、サブマスの姐さん。王国工房関連の書類をまとめといてくれ!マスターの不始末も全部だ。それであんたの監督不行き届きを幾らか軽減できるはずだ」
「はっ、はい!肝に銘じます!」
次は王国工房ランド支店に向かう一行。部下に引き出されるギルマスに再度、言い含めるヒュンケ。
「隠し事すればするほど不利になるからな!移動中、全部吐いてもらうぞ!」
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