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第十章
第一話
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鬼平が校舎の外れでゴミを拾っている間、智香は悩みを抱えていた。
それはもちろん、主に三國修司と百川千花とのトラブルで、そのためになるべく二人と学校で会わないように目を光らせていたのだが、彼女には、それ以外のことで明らかに悩みがあった。
だがそれはいつまで経っても、どれだけ考えても、わからなかったのだ。それも、ふとした瞬間にそれを思い出してしまうので、不機嫌だった。
それは……鬼平のこと? と、ある時、智香は遠くを眺め、自信なく首筋を撫でて思った。だが、鬼平のことだとして、それは何なのだろう?
智香は、鬼平のことを、まだどうしたらいいかわかっていなかった。彼女はあの日鬼平と話をすることができた……と思い込んでいたが、その後、鬼平と別れた後しばらく経って、こちらが質問ばかりして、相手が何も答えていなかったことに気付いた。
どうしてそれを、あの時すぐに気づかなかったのか、よくわからない。他にはまだ、何もわからない。智香の中では、鬼平はまだ謎の存在であり続けていた。
智香は、自分が彼に聞きたいことがあるのかもしれない、と思い出した。それから実際に聞こうとする内容も考えようとした。が、今では、鬼平の姿をしっかり思い浮かべないと、いや思い浮かべて見ても、……わからない。
それは、いくつもあるようで、一つしかないような気もした。でもそれは何? 彼はそれに対して、なんて言うんだろう……? 智香は自分でもよくわかっていない質問に、彼がどう答えるかばかり心配している自分が変で、嫌だった。
それから、まだ悩みがあった。ここ最近、また一つ増えたのだ。麻由里が学校に来なくなった。理由は、わからない。
ただ彼女が休む前、智香がノートを貸してほしい、と麻由里に頼んで、快く貸してくれた後、彼女は大量のプリントを見て不審に思い、智香に事情を聴いたことがあった。
そのことがあってから、麻由里はずっと学校を休んでいる。
いったい何が麻由里の身にあったのか、智香にはわからない。
最初、風邪を引いた、と彼女は連絡をしてくれたし、返事もあったのに、今ではちょっとした挨拶すらも返ってこない。
智香は一人になり、ため息と一緒に考え事ばかりしていた。学校にいると、空席になった麻由里の席が目に入り、彼女に対して何もできない自分を見せつけられるようだった。どうして麻由里は自分に話してくれないんだろうと思い、ひょっとして自分のせいではないかと恐れた。
そしてその度に、自分をずるい人間のように感じた。結局自分は自分の心配をしているのだ、と。
麻由里のことがどうでもいいわけじゃないし、三國修司と百川千花、鬼平柊のことが気にならないわけじゃなかった。
でも、それ以外のことで、やっぱり、智香には悩みがあった。それは今の自分には見えないけど、絶対にある、と智香は感じていた。
その言葉を手にするために智香は、一人になれる場所を探していた。誰にも会わないで済むところ、たとえ誰かが遠くから自分を見つけても、何かを察して、そっとしておいてくれるような、特別な雰囲気のあるところでじっくり考えれば、その言葉が見つかるような気がしたのだ。
その場所を探す途中で、彼女は風に揺れるキンシバイ、湿ったところで人知れず咲いていたアジサイ、枯れた花を落としたツツジを見た。
が、花たちは智香の心を和ませてくれたが、言葉を与えてくれはなかった。そして、そこに座って考えても、やっぱり何もわからないことを察すると、悩みは誰かに言うべきだし、一人で抱え込むのはよくない、と思った。
――でも、その相手が、麻由里は今も音信不通のままだ。
智香はそう思い、また一つ、ため息を増やした。
それはもちろん、主に三國修司と百川千花とのトラブルで、そのためになるべく二人と学校で会わないように目を光らせていたのだが、彼女には、それ以外のことで明らかに悩みがあった。
だがそれはいつまで経っても、どれだけ考えても、わからなかったのだ。それも、ふとした瞬間にそれを思い出してしまうので、不機嫌だった。
それは……鬼平のこと? と、ある時、智香は遠くを眺め、自信なく首筋を撫でて思った。だが、鬼平のことだとして、それは何なのだろう?
智香は、鬼平のことを、まだどうしたらいいかわかっていなかった。彼女はあの日鬼平と話をすることができた……と思い込んでいたが、その後、鬼平と別れた後しばらく経って、こちらが質問ばかりして、相手が何も答えていなかったことに気付いた。
どうしてそれを、あの時すぐに気づかなかったのか、よくわからない。他にはまだ、何もわからない。智香の中では、鬼平はまだ謎の存在であり続けていた。
智香は、自分が彼に聞きたいことがあるのかもしれない、と思い出した。それから実際に聞こうとする内容も考えようとした。が、今では、鬼平の姿をしっかり思い浮かべないと、いや思い浮かべて見ても、……わからない。
それは、いくつもあるようで、一つしかないような気もした。でもそれは何? 彼はそれに対して、なんて言うんだろう……? 智香は自分でもよくわかっていない質問に、彼がどう答えるかばかり心配している自分が変で、嫌だった。
それから、まだ悩みがあった。ここ最近、また一つ増えたのだ。麻由里が学校に来なくなった。理由は、わからない。
ただ彼女が休む前、智香がノートを貸してほしい、と麻由里に頼んで、快く貸してくれた後、彼女は大量のプリントを見て不審に思い、智香に事情を聴いたことがあった。
そのことがあってから、麻由里はずっと学校を休んでいる。
いったい何が麻由里の身にあったのか、智香にはわからない。
最初、風邪を引いた、と彼女は連絡をしてくれたし、返事もあったのに、今ではちょっとした挨拶すらも返ってこない。
智香は一人になり、ため息と一緒に考え事ばかりしていた。学校にいると、空席になった麻由里の席が目に入り、彼女に対して何もできない自分を見せつけられるようだった。どうして麻由里は自分に話してくれないんだろうと思い、ひょっとして自分のせいではないかと恐れた。
そしてその度に、自分をずるい人間のように感じた。結局自分は自分の心配をしているのだ、と。
麻由里のことがどうでもいいわけじゃないし、三國修司と百川千花、鬼平柊のことが気にならないわけじゃなかった。
でも、それ以外のことで、やっぱり、智香には悩みがあった。それは今の自分には見えないけど、絶対にある、と智香は感じていた。
その言葉を手にするために智香は、一人になれる場所を探していた。誰にも会わないで済むところ、たとえ誰かが遠くから自分を見つけても、何かを察して、そっとしておいてくれるような、特別な雰囲気のあるところでじっくり考えれば、その言葉が見つかるような気がしたのだ。
その場所を探す途中で、彼女は風に揺れるキンシバイ、湿ったところで人知れず咲いていたアジサイ、枯れた花を落としたツツジを見た。
が、花たちは智香の心を和ませてくれたが、言葉を与えてくれはなかった。そして、そこに座って考えても、やっぱり何もわからないことを察すると、悩みは誰かに言うべきだし、一人で抱え込むのはよくない、と思った。
――でも、その相手が、麻由里は今も音信不通のままだ。
智香はそう思い、また一つ、ため息を増やした。
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