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第十七話④
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「だから、ゲートなんてないって言ったろ。作るんだ。この鍵は、そういう機能だよ。無理やりこじ開ける」
シュガーが追って説明をしてくれる。僕は苦笑いして、納得したんだかわからない顔をした。
「よし、いい加減もう行こう」ピンと背を伸ばし、鍵を手に持ってシュガーが言った。そして、そのまま固まった。
「どうした?」
「……一つ、言い忘れてたことを思い出した。さっき、〝Galatia〟の文字はあそこにしかなかった、って言ったよな」
「ああ」
「だけどそれは、最近までの話なんだ。この間、それを見に行ったら消えていた。他の書き込みは変化がなかったのに」
「君人が消したんじゃないの?」
僕は少し考えてから答えた。シュガーは首を横に振った。
「そう思って、さっき本人に聞いてみた。でも消してないってさ。そもそも消し方を知らないって言ってた。どう思う?」
僕は首を傾げた。
「わからない」正直に答える。
「だよな」シュガーもそう言った。それから、「もう何が起きているんだか!」と苛立たしそうに声を出した。そして、
「よし、確かめに行くぞ! それも、わかるかもしれない」と自らを奮い立たせるように言った。
手を伸ばす。鍵がきらりと光った。その先に鍵穴が広がった。差し込むと、空間が一部、割れたようになった。見えている世界の裏側が露わになる。
現実でもオブスキュラでもない、真っ黒な、闇の世界。第十三宇宙がこっちを覗いていた。
「手を離すなよ! あの時みたいに、吹っ飛ばされたくなければな!」
興奮した様子でシュガーが叫んだ。僕は頷き、シュガーに連れられて、その世界に足を踏み入れた。
何もない真っ暗な世界だった。後ろで扉が閉まるようにエントランスを映していた部分が消えた。シュガーがいつかのライブで使ったペンライトを取り出して掲げた。おかげでぼんやりと、ピンク色に染まった僕たちの姿が浮かび上がった。
「どうするの?」何も起こらず不安になって聞いた。
「ちょっと待ってろ。直に立ち上がるはずだ」
シュガーは意に介せず答えた。僕は困った顔で前を向き、闇を見つめようとしたが、見るっていうのは、何かがある時に初めて成立するのだとわからされた。文字通り何もないこんな状態では、雲を掴もうとするのと同じだった。
そのうち、パッと、小さな壁ができた。白い無機質な壁だった。それに目を奪われていると、続いて床に廊下ができた。瞬く暇もなく天井ができ、明かりが等間隔に並び、廊下を照らした。向こうには簡素な両開きドアが、口を閉ざしていた。
「どうもこの奥らしいな」シュガーはそこまで歩いて行ってドアを開けようとした。
「開かないか」舌打ちをしてそう言った。
「鍵は?」シュガーは首を横に振った。
「あれはこっちに来るためだけのものだ。おい、聞いているだろ? ここを開けてくれ」
シュガーは突然叫んだ。視界を共有している友達に向けて言っているのだと理解するのに少し時間がかかった。色々な小道具を出して、扉を開けようとしていたシュガーだったが、どれも無駄に終わった。扉は固く口を閉ざしたまま動かない。
「くそっ、さすがに厳重だな」
シュガーは扉から手を離して、通話が繋がっている友達と話していた。僕はというと、家に入れてほしくてねだる犬みたいに、扉の表面を撫でることしかできなかった。
「だからそんな時間なんてないって、お前だってそんなことくらいわかってるだろ? 解析したところで、次があるかなんてわからないって、お前が言ったんだぞ?」
どうやら立て込んでいるようだ。僕は扉を注意深く見た。微かにだが隙間があった。どういうことだろう。
「ちょっといいか」
シュガーが僕に声をかけた。振り向くと、氷の剣を抜いて扉に刃を向けていた。
「物理的に壊そうっていうのか、仮想現実なのに」
僕はシュガーがやけくそになったのだと思って言った。
「まさか。違うよ。野々宮くん。君にこの剣を持ってほしいんだよ」
シュガーは剣を床と平行にし、僕に差し出した。僕は剣を受け取った。いつものことだが、モーションが用意されていないので、口にくわえる形になる。
「よし、じゃあ今から指示する操作をしてくれ。成功したら言うから」
シュガーが言った。何をする気なのか、と思いながら、コントローラーを使ってシュガーの言った通りに入力をしていく。
「ダメだ。もう一回。気をつけて。最後の操作をするところは猶予十五フレームだから」
何を言っているのかよくわからない。呪文でも唱えろっていうのか? が、どうも早く正確にやれ、というのだけは伝わった。何度か失敗を繰り返し、ようやく成功したようだった。くわえた氷の剣が、妙な挙動を見せ始めた。剣の周りが白く光り、残像が残って見えた。
「よし、上手くいったようだな」シュガーは満足そうにその剣を見て言った。
シュガーが追って説明をしてくれる。僕は苦笑いして、納得したんだかわからない顔をした。
「よし、いい加減もう行こう」ピンと背を伸ばし、鍵を手に持ってシュガーが言った。そして、そのまま固まった。
「どうした?」
「……一つ、言い忘れてたことを思い出した。さっき、〝Galatia〟の文字はあそこにしかなかった、って言ったよな」
「ああ」
「だけどそれは、最近までの話なんだ。この間、それを見に行ったら消えていた。他の書き込みは変化がなかったのに」
「君人が消したんじゃないの?」
僕は少し考えてから答えた。シュガーは首を横に振った。
「そう思って、さっき本人に聞いてみた。でも消してないってさ。そもそも消し方を知らないって言ってた。どう思う?」
僕は首を傾げた。
「わからない」正直に答える。
「だよな」シュガーもそう言った。それから、「もう何が起きているんだか!」と苛立たしそうに声を出した。そして、
「よし、確かめに行くぞ! それも、わかるかもしれない」と自らを奮い立たせるように言った。
手を伸ばす。鍵がきらりと光った。その先に鍵穴が広がった。差し込むと、空間が一部、割れたようになった。見えている世界の裏側が露わになる。
現実でもオブスキュラでもない、真っ黒な、闇の世界。第十三宇宙がこっちを覗いていた。
「手を離すなよ! あの時みたいに、吹っ飛ばされたくなければな!」
興奮した様子でシュガーが叫んだ。僕は頷き、シュガーに連れられて、その世界に足を踏み入れた。
何もない真っ暗な世界だった。後ろで扉が閉まるようにエントランスを映していた部分が消えた。シュガーがいつかのライブで使ったペンライトを取り出して掲げた。おかげでぼんやりと、ピンク色に染まった僕たちの姿が浮かび上がった。
「どうするの?」何も起こらず不安になって聞いた。
「ちょっと待ってろ。直に立ち上がるはずだ」
シュガーは意に介せず答えた。僕は困った顔で前を向き、闇を見つめようとしたが、見るっていうのは、何かがある時に初めて成立するのだとわからされた。文字通り何もないこんな状態では、雲を掴もうとするのと同じだった。
そのうち、パッと、小さな壁ができた。白い無機質な壁だった。それに目を奪われていると、続いて床に廊下ができた。瞬く暇もなく天井ができ、明かりが等間隔に並び、廊下を照らした。向こうには簡素な両開きドアが、口を閉ざしていた。
「どうもこの奥らしいな」シュガーはそこまで歩いて行ってドアを開けようとした。
「開かないか」舌打ちをしてそう言った。
「鍵は?」シュガーは首を横に振った。
「あれはこっちに来るためだけのものだ。おい、聞いているだろ? ここを開けてくれ」
シュガーは突然叫んだ。視界を共有している友達に向けて言っているのだと理解するのに少し時間がかかった。色々な小道具を出して、扉を開けようとしていたシュガーだったが、どれも無駄に終わった。扉は固く口を閉ざしたまま動かない。
「くそっ、さすがに厳重だな」
シュガーは扉から手を離して、通話が繋がっている友達と話していた。僕はというと、家に入れてほしくてねだる犬みたいに、扉の表面を撫でることしかできなかった。
「だからそんな時間なんてないって、お前だってそんなことくらいわかってるだろ? 解析したところで、次があるかなんてわからないって、お前が言ったんだぞ?」
どうやら立て込んでいるようだ。僕は扉を注意深く見た。微かにだが隙間があった。どういうことだろう。
「ちょっといいか」
シュガーが僕に声をかけた。振り向くと、氷の剣を抜いて扉に刃を向けていた。
「物理的に壊そうっていうのか、仮想現実なのに」
僕はシュガーがやけくそになったのだと思って言った。
「まさか。違うよ。野々宮くん。君にこの剣を持ってほしいんだよ」
シュガーは剣を床と平行にし、僕に差し出した。僕は剣を受け取った。いつものことだが、モーションが用意されていないので、口にくわえる形になる。
「よし、じゃあ今から指示する操作をしてくれ。成功したら言うから」
シュガーが言った。何をする気なのか、と思いながら、コントローラーを使ってシュガーの言った通りに入力をしていく。
「ダメだ。もう一回。気をつけて。最後の操作をするところは猶予十五フレームだから」
何を言っているのかよくわからない。呪文でも唱えろっていうのか? が、どうも早く正確にやれ、というのだけは伝わった。何度か失敗を繰り返し、ようやく成功したようだった。くわえた氷の剣が、妙な挙動を見せ始めた。剣の周りが白く光り、残像が残って見えた。
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