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第七話⑥

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「あーあ、またやっちゃった。ももちゃんのせいだよ」抜け殻になった君人の身体に重なって、天使が責めた。

「あたし? みんなだって面白がってたじゃない」ももちゃんと呼ばれた猫耳はぷいと顔を背けた。

「喧嘩しないの!……ねえ、あなた、お友達が帰ってくるまで、暇でしょ? 何か飲む?」それから、サキュバスが残された僕を見て、聞いた。

「え、ああ……」僕は、パススルーをオンにして君岡が戻ってくる気配がないのを確認すると答えた。

「そうします」僕は円形のカウンター席に座った(正確には四つ足で席の上に立った後、自動的にそこへ座り込んだのだが)。

「ミルクでいい?」サキュバスは、打って変って、落ち着いた雰囲気で僕に尋ねた。

「え、ああ、まあ、何でもいいです」残念ながら、まだ味を再現するところまで、技術は進歩していない。
「オーケー。ももちゃん、ミルク!」「はーい!」「僕もミルク!」横で、固まったままの君人の身体を弄びながら、天使が言った。

「あんたはいらないでしょ」ももちゃんが、ぴしゃりとそう言いながら、店の奥に消えていった。

「ごめんなさいね、あなたが今日初めてのお客さんで、みんなまだ、元気なの」

 申し訳なさそうにサキュバスが言った。近づくと、その巨大な胸が嫌でも目に入る。

「いえ」僕はなるべく、遠くを見ながら答えた。

「あたし、夢乃愛莉。こっちじゃ、サキュバス見習いってことでやらせてもらっているわ。ゆめのん、って呼んでいいわよ」

 そう言って夢乃は頭を下げた。

「どうも、……夢乃さん、僕の名前は、野々宮です」僕は簡潔に答えた。

「野々宮くん。うん覚えた」夢乃はふふっと笑みをこぼした。
「どうして、その姿なの?」それから聞いた。

 僕はどうしようか迷ったが、一連のことを、手短に話した。その間に、銀のジョッキにいっぱいになったミルクが僕の席に配られた(「本当は、サービスがあるんだけど、未成年には、ちょっとね」と渡す時、夢乃は悪戯っぽく言った)。

「へえ、そうだったの。それは気の毒に。でも、変なバグも多いからね」すべてを話し終えると、夢乃が言った。
「僕も、歩くとき、タコみたいにぐにゃぐにゃになっちゃったことあるよ」暇になった天使が割り込む。
「僕、がぶりーる。よろしく」がぶりーるに握手を求められたが、どうしたらいいかわからず、僕は頭を下げた。

 がぶりーるがそのまま、僕の頭をなでた。いつも、自分の頭じゃないのに、本当に撫でられているような気がする。「ふふ、かわいいな。あー、犬、飼いたい。ねえ、なんて犬?」
「野々宮くんっていうらしいよ」「違うよ、犬種だよ」がぶりーるは、呆れたように言った。

「ラブラドールじゃない?」夢乃が首を傾げながら言った。「そうでしょ?」僕は頷いた。確かそうだったはずだ。
「ほらね」夢乃は得意げにがぶりーるにウインクしてみせた。ずいぶん色んなことができるんだな、と感心する。

「今日はどうして来てくれたの?」それから、答えづらいことを聞かれた。直接、〝ANNE〟のことを聞いてもいいかもしれないとも思ったが、シュガーの態度を思い出し、やめておいた。かわりに、
「あいつと、色んな所を周ろうって話をしていて。ここを思い出して」と、無難な返しをした。

「あら、そうなの」幸いなことに、夢乃はまったく疑っていないようだった。
「それじゃ運がよかったね。ちょうど僕たちが集まって、あんまり忙しくない時に来られたから」がぶりーるが言った。

「そうですか」僕は答えた。

「あなたは、お友達と違って落ち着いているのね」唐突に、夢乃が言った。

「そう思いますか?」僕は、何と言ったらいいかわからず、適当に返す。

「ええ、ちょっと大人っぽい。必要なこと以外は話さないって感じ。それって、なんだか、セクシーよね」そして、期待もしていなかったことを言われてたじろいだ。

「なに? ゆめのん、この子のこと狙っているの?」がぶりーるが横で呆れながら言った。

「狙ってるだなんて、言い方が悪いわ」夢乃が抗議する。

「そういえば、お友達、遅いわね」ももちゃんが君人の目の前で手を振って言った。

「帰ってこないかもね」がぶりーるが言うと、ももちゃんは、「あたしのせいじゃないわよ」と、声を大きくして反論した。

 僕はどうしようかと思った。確かに君人が帰ってくる気配はなかった。だがこのまま帰るのは不自然なので、君人が帰ってくることに賭けながら、どうにかして情報を集めたいと思った。

 それでとりあえず「皆さんは、」と声を出した。三人の視線が僕の方を吸い付けられるように集まる。一瞬戸惑ったが、そのまま続ける。

「全員、現実世界では男なんですよね」
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