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第十五話④
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「シュガー、そっちは何かわかった?」
三つ目のワールド「haruranman」(多種多様な花で溢れたワールドだった)での捜索も不発に終わり、スペースシップに乗って惑星についたばかりのシュガーに聞いた。
辺りには緑とピンク色の岩や植物が、アイスみたいにのっぺりとした表面をして転がっていた。シュガーは、僕から砂川のワールドで見たプラネタリウムの話を聞いて宇宙に出たくなったのだという。
「ごめん。何もわかってない。接触させないようにしているけど、君人くんは二人の時は絶対にアンのことは話さないんだ」
シュガーはレーザー銃で鉱石を削りながら答えた。
「まあ話されても困るけど」
僕はウサギとゴリラを混ぜたみたいな造形をしている動物が荒野をひょこひょこ歩いている様子を見ながら言った。
「あいつは今どこ行ってるの」
「ああ、洞窟に素材を取りに行った」手を止めてシュガーが言う。
「そうか」僕はぺたんと、近くの岩の上に座り込んだ。
「お疲れか?」システム音を響かせながらシュガーが言った。
「まあね」肩の力を抜いた。ぼんやりと、地平線を眺めた。
「時々、思うんだよ、こんなに必死になって何を探しているんだって。というか思ったんだけど、万が一あいつが描いたものがわかってもどうしようもなくないか? シュガー、あいつは何をしようとしたんだと思う?」
「そんなの、俺だって知りたいよ。俺たちは、ただそれがわかるかもしれないから探しているだけで」
「でも、それって絶望的じゃないか?」
僕はため息をついた。
「あいつ、もう〝ANNE〟に飽きてたりしない?」それから間をおいて聞く。
「いや、そうは見えないな。というか、それは俺よりも、君の方が知っているんじゃないか?」
「……相変わらずあいつは不登校だよ。出席日数はまだ平気みたいだけど、いつまで休む気なんだろうな」
僕はうんざりしながら答えた。
「じゃあ、彼の中にはまだ〝ANNE〟がいるんだろう」
シュガーはちょっと他人行儀な言い方をした。また、ため息が出る。最近、すごく歳をとったような気がしていた。
「もう放っておこうかなって思ってるんだが。小学生じゃあるまいし、自己責任じゃないか? あいつがどんな道を選ぼうが、僕には関係ないよ」
「でも、彼のお兄さんに頼まれたんだろ?」はっきりそう言われ、僕はシュガーを見つめた。
「シュガーにもな。なんで僕なんかに頼んだんだか」
「適任だと思ったのさ」
シュガーは作業の手を止めて言った。僕は黙った。何か言葉を吐き出せば楽になると思ったのに、何を言ってもスッキリしなかった。
「……何してんの」考えるのが面倒になって、とりあえず聞いてみる。「採掘。取れたレア鉱石を売るんだよ」
「……あっそ」売ってどうするの、とかを聞く気にもならなかった。
しばらくは、その岩の上に座って、荒野を見渡し、奇妙な動物たちや鉱石の紫色の結晶などを眺めて過ごしていた。何もない。手がかりも、進展も。まるでこの広い惑星に隠されたたった一つのダイヤモンドでも探しているような気分だった。
「シュガー」おもむろに口を開いた。
「なんだ」
「どうして、あいつは、誰かの言いなりになったりするんだと思う? わかんないんだよ。あいつ、自分のやっていること、本当にわかってんのかな」
「俺に聞くか、それを」
シュガーはそう言って黙り込んだ。どういう意味かよくわからない。何を考えているのかも。しばらくしてシュガーが言った。
「根本的なところは、前に言った通りだと思うが、一つ言えるのは、誰もが君みたいじゃないってことだと思う」
「……どういう意味だよ」
僕はシュガーを睨んだ。犬の僕はいつも通りに見つめたようだったが。
「そんな風に、噛みつける奴ばかりじゃないってことだ。世の中の大半の人間は、人の言うことを聞きながら大人になっていくものだよ。自分が何者かになるために、わざわざ未踏の地を行こうとはしない。そんなリスクを冒さなくても、既に開拓されて、安全に豊かになれる方法があるんだもの」
「それがなんだって言うんだよ」僕は、ため息交じりにそう言った。
「君はそれまで喋ったこともないのに突然君人くんに話しかけて、余っていたゴーグルを使ってこっちに来るようになったんだって? そんなこと、普通はできないんだぞ」
「あれは、たまたま運がよくて、成り行きで……」
「成り行きだとしても、実行に移すのは大変なんだ。砂川の件もだけど、わるぷるぎすでも君が大人と言葉を交わしたって聞いたよ。君人くんが怖気づいて、トイレに引きこもっている間にさ」
「わからないな。持ち上げても何も出ないぞ」シュガーは笑った。
「本当に、そういうところだよ。正直さ、俺は最近、君人くんよりは君の方に興味が湧いてきたんだよ。その歳頃って、なんだかんだ言って大人たちの言うことを聞いているようなものだよ。形はちょっと変だけど君人くんもそうだ。でも君は違う。君はなんていうか、そういうものから敢えて背を向けているような気がする。それも、気まぐれとか、逸脱とかじゃなくて、必要からそうしているような感じを受ける」
いきなり何を聞かされているんだろう。君人のことを相談しに来たのに、自分の精神分析を聞かされるとは思わなかった。
「何なんだよ。それが何の関係があるんだよ」僕は胸の奥がざわざわとしているのを感じながら言い返した。
「君人くんがああなったのは、君にも原因があるんじゃないかって思ったのさ」シュガーは僕を見てそう答えた。そしてすぐに「ごめん。言い過ぎた。それでも行動したのは彼の方だよな」と訂正した。僕は、
「いいよ。それより、どういうことか説明してよ」と先を促した。シュガーは喉を鳴らして続けた。
「俺が思うに、おそらく君人くんはそんな君と一緒に過ごすうちに劣等感を覚えたんじゃないかな。せっかく憧れのオブスキュラに来て、新しい自分になれると思ったのに、君といると、自分が小さく見えて仕方ない。それで、どうにかして自分を大きくする方法を探した結果、アンに弟子入りみたいなことをした」
「……そう、あいつが言ったのか?」
三つ目のワールド「haruranman」(多種多様な花で溢れたワールドだった)での捜索も不発に終わり、スペースシップに乗って惑星についたばかりのシュガーに聞いた。
辺りには緑とピンク色の岩や植物が、アイスみたいにのっぺりとした表面をして転がっていた。シュガーは、僕から砂川のワールドで見たプラネタリウムの話を聞いて宇宙に出たくなったのだという。
「ごめん。何もわかってない。接触させないようにしているけど、君人くんは二人の時は絶対にアンのことは話さないんだ」
シュガーはレーザー銃で鉱石を削りながら答えた。
「まあ話されても困るけど」
僕はウサギとゴリラを混ぜたみたいな造形をしている動物が荒野をひょこひょこ歩いている様子を見ながら言った。
「あいつは今どこ行ってるの」
「ああ、洞窟に素材を取りに行った」手を止めてシュガーが言う。
「そうか」僕はぺたんと、近くの岩の上に座り込んだ。
「お疲れか?」システム音を響かせながらシュガーが言った。
「まあね」肩の力を抜いた。ぼんやりと、地平線を眺めた。
「時々、思うんだよ、こんなに必死になって何を探しているんだって。というか思ったんだけど、万が一あいつが描いたものがわかってもどうしようもなくないか? シュガー、あいつは何をしようとしたんだと思う?」
「そんなの、俺だって知りたいよ。俺たちは、ただそれがわかるかもしれないから探しているだけで」
「でも、それって絶望的じゃないか?」
僕はため息をついた。
「あいつ、もう〝ANNE〟に飽きてたりしない?」それから間をおいて聞く。
「いや、そうは見えないな。というか、それは俺よりも、君の方が知っているんじゃないか?」
「……相変わらずあいつは不登校だよ。出席日数はまだ平気みたいだけど、いつまで休む気なんだろうな」
僕はうんざりしながら答えた。
「じゃあ、彼の中にはまだ〝ANNE〟がいるんだろう」
シュガーはちょっと他人行儀な言い方をした。また、ため息が出る。最近、すごく歳をとったような気がしていた。
「もう放っておこうかなって思ってるんだが。小学生じゃあるまいし、自己責任じゃないか? あいつがどんな道を選ぼうが、僕には関係ないよ」
「でも、彼のお兄さんに頼まれたんだろ?」はっきりそう言われ、僕はシュガーを見つめた。
「シュガーにもな。なんで僕なんかに頼んだんだか」
「適任だと思ったのさ」
シュガーは作業の手を止めて言った。僕は黙った。何か言葉を吐き出せば楽になると思ったのに、何を言ってもスッキリしなかった。
「……何してんの」考えるのが面倒になって、とりあえず聞いてみる。「採掘。取れたレア鉱石を売るんだよ」
「……あっそ」売ってどうするの、とかを聞く気にもならなかった。
しばらくは、その岩の上に座って、荒野を見渡し、奇妙な動物たちや鉱石の紫色の結晶などを眺めて過ごしていた。何もない。手がかりも、進展も。まるでこの広い惑星に隠されたたった一つのダイヤモンドでも探しているような気分だった。
「シュガー」おもむろに口を開いた。
「なんだ」
「どうして、あいつは、誰かの言いなりになったりするんだと思う? わかんないんだよ。あいつ、自分のやっていること、本当にわかってんのかな」
「俺に聞くか、それを」
シュガーはそう言って黙り込んだ。どういう意味かよくわからない。何を考えているのかも。しばらくしてシュガーが言った。
「根本的なところは、前に言った通りだと思うが、一つ言えるのは、誰もが君みたいじゃないってことだと思う」
「……どういう意味だよ」
僕はシュガーを睨んだ。犬の僕はいつも通りに見つめたようだったが。
「そんな風に、噛みつける奴ばかりじゃないってことだ。世の中の大半の人間は、人の言うことを聞きながら大人になっていくものだよ。自分が何者かになるために、わざわざ未踏の地を行こうとはしない。そんなリスクを冒さなくても、既に開拓されて、安全に豊かになれる方法があるんだもの」
「それがなんだって言うんだよ」僕は、ため息交じりにそう言った。
「君はそれまで喋ったこともないのに突然君人くんに話しかけて、余っていたゴーグルを使ってこっちに来るようになったんだって? そんなこと、普通はできないんだぞ」
「あれは、たまたま運がよくて、成り行きで……」
「成り行きだとしても、実行に移すのは大変なんだ。砂川の件もだけど、わるぷるぎすでも君が大人と言葉を交わしたって聞いたよ。君人くんが怖気づいて、トイレに引きこもっている間にさ」
「わからないな。持ち上げても何も出ないぞ」シュガーは笑った。
「本当に、そういうところだよ。正直さ、俺は最近、君人くんよりは君の方に興味が湧いてきたんだよ。その歳頃って、なんだかんだ言って大人たちの言うことを聞いているようなものだよ。形はちょっと変だけど君人くんもそうだ。でも君は違う。君はなんていうか、そういうものから敢えて背を向けているような気がする。それも、気まぐれとか、逸脱とかじゃなくて、必要からそうしているような感じを受ける」
いきなり何を聞かされているんだろう。君人のことを相談しに来たのに、自分の精神分析を聞かされるとは思わなかった。
「何なんだよ。それが何の関係があるんだよ」僕は胸の奥がざわざわとしているのを感じながら言い返した。
「君人くんがああなったのは、君にも原因があるんじゃないかって思ったのさ」シュガーは僕を見てそう答えた。そしてすぐに「ごめん。言い過ぎた。それでも行動したのは彼の方だよな」と訂正した。僕は、
「いいよ。それより、どういうことか説明してよ」と先を促した。シュガーは喉を鳴らして続けた。
「俺が思うに、おそらく君人くんはそんな君と一緒に過ごすうちに劣等感を覚えたんじゃないかな。せっかく憧れのオブスキュラに来て、新しい自分になれると思ったのに、君といると、自分が小さく見えて仕方ない。それで、どうにかして自分を大きくする方法を探した結果、アンに弟子入りみたいなことをした」
「……そう、あいつが言ったのか?」
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