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第十四話④

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「さっきのはどういうことなんですか」

 長い廊下を歩いている間にランゲルハンスが聞いた。廊下の中は、現実世界の奇妙な形の建築の写真がびっしりと飾られていた。

「驚いてくれましたか?」悪戯っぽく笑い、砂川が言った。

「息ができなくなるかと思いましたよ」ランゲルハンスが答えると、砂川は穏やかに笑った。

「それは、喜んでいいんですよね? こちらとしても、あんなことをしておいて驚いてくれないと、ちょっと恥ずかしいですからね。さっきの演出ですが、あれは私がこちらの素材を使ってあの日本庭園を造った時の作業記録を保存していて、逆再生させたのです。元々はこちらの家を先に造ったので」

「なるほど、そうだったんですか。とても、なんというか、不思議な体験でしたよ」

「そう言ってもらえると、嬉しいですね、さあこちらです」

 砂川が廊下の先に突然現れた木の球体を示した。僕が入り口はどこだろうと、のっぺりとしたその表面を探していると、彼は手でその球体を触った。すると、球全体が光り、まるで寄せ木細工が動くときのように、人が通れるだけの穴が空いた。

「すみません。私、こういうのがとても好きなものですから」

 彼は中に入る時、なぜか弁明するように僕たちに言った。

 中は、外から見た時よりもずっと広かった。球体の部屋には、キッチンにソファ、テレビ、スピーカー、観葉植物と言ったゆったりとできるスペースもあれば、その向こうには、仕事用と思われる大きなデスクと、製図板、資料がたくさん詰め込まれていると思われる本棚がある。天井からはシーリングファンが伸びて回っていた。

「ここは普段私が作業しているスペースです。最近ではほとんどの時間をここで過ごしていますね。この球体の部屋は、〝デンドロスフィア〟と言って木の球体、という意味です」

 僕は説明を聞きながら窓の側まで歩いて、そこから外を見渡した。窓の外には球体に沿って木で出来たベランダがあり、上の方には、連なっている家の一部が見えた。遠くを眺めると、僕たちがバスでやって来た田舎道が見える。僕はその部屋に入ってようやく、砂川のイメージと本人が繋がった気がした。

「〝なぜ球体なんですか〟」蝶野が文字で聞いた。

「そうですね、構造的に美しいとか、現実で実現するのが難しいからとか、子供の頃、スノードームの中に住んでみたいと思ったから、とか理由は色々あるんですが、ひとえに、好きだからですね。四角い部屋よりも丸い部屋の方が、なぜだか落ち着くんです。どうしてでしょうかね? 自分でも不思議ですよ」

 彼はそう答えると、新緑の色をしたソファに近寄って、「どうぞ、座ってください」と促した。それであちこち散らばっていた僕たちもソファに座った。ソファは三人が座っても十分に余裕があるくらい大きかった。

「本当に中に入ってみると、思ったよりずっと広いですね」ランゲルハンスが上を見上げながら言った。

「そうですね。大きさを色々試してみた結果、このような広さになりました」

「〝何メートルですか?〟」

「直径十五メートル。五十坪くらいですかね。当然ながら完全な球で、建ぺい率などもないので、計算すればそのまま床面積になります」

「〝大きいですね〟」

「そうですね。現実では一人だと大きすぎるくらいです。こちらでは歩くときの手間がないので、これだけ広くても気にならないのです」

「なるほどねえ」ランゲルハンスが感心したように言い、蝶野もまた同意したように頷いた。

 それからいくつか、他愛もない会話を交わした。

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